18歳の女子児童2

第4章 初めてのお買い物


「おはよう、お兄ちゃん・・じゃ無かったわね、おはよう虹歩」
寝坊して、遅い朝食をとりにリビングにやって来た虹歩の目に入ったのは一昨日とはうって変わって明るい表情をした律月だった。そして、表情以上に変化していたのは髪だった。昨日まで腰まであった綺麗な黒髪は、少年の様に短く切られていた。
「ああ、これ?今朝早くに切ってきたの。割と似合ってるでしょ?」
確かに元の顔立ちがいいだけに、背の高さもありその姿はどこから見ても美少年にしか見えなかった。
「おはよう虹歩ちゃん、今日は仕方ないけど明日からは朝食作るの手伝うのよ。女の子は料理ぐらいできなくちゃね。それから、その格好・・・女の子は身だしなみに気を使わないとだめよ。」
虹歩が起きて来た事に気付き、理音が卵をフライパンに割りながらそう言った。女の子女の子と連呼され、虹歩は昨日の出来事が悪夢でない事を実感する。よく見ると律月は昨日までのロングスカートと違いボーイッシュなトレーナーとジーパン姿だ。虹歩の前にハムエッグとパンを置き、理音が二人に言う。
「朝食を食べたら出かけるけど、今日の虹歩ちゃんの服どうしようかしら?」
「そうね、私の服じゃあちょっと大きすぎるから・・・昔の服出してきましょうか?」
律月が答える。
「ちょ、ちょっと。まさか普段から服装まで女の子の服を着ないといけないんですか?」
「当たり前でしょ。今日からは完璧に女の子になってもらわないと困るのよ。」
虹歩が悲鳴を上げる。
「そ、そんな〜。」
やがて律月がクローゼットから古い洋服を出してきて、理音と二人で虹歩に着せる服の洗濯が始まった。
「まず、下着は新品のがあるからこれね、グンゼの純白ショーツと胸にワンポイントのタンクトップ。初めてだからこれぐらいが丁度いいわね。それから、上着は・・・いきなりスカートはかわいそうだからパンツにしてあげようね、でも男女共用のはダメ。自分が女の子だって自覚しないといけないからね。上着も同じ、じゃあこのトレーナーにしようか。」
二人は実に楽しそうに洋服を選んでいる。律月は一人戦々恐々としていた。
「じゃあ、虹歩ちゃん。これに着替えて来なさい。」
虹歩が渡されたのは、おへその下に小さなリボンのあるグンゼのショーツ。胸に少しだけレースの入ったタンクトップに、水玉の暖かそうなハイソックス。足元に花模様の刺繍が入ったピンク色のパンツ、可愛いウサギのアップリケ付きの白いトレーナーだった。
「う、うん、でも・・・笑わないでね。」
戸惑う虹歩だったが、今さら「嫌だ」というわけにもいかない。覚悟を決めて自室で着替えを始めた。初めて身に着ける女の子用の下着の感触に虹歩はどきりとし、着たことの無い装飾のついたパンツやトレーナーに戸惑いながら一枚づつ身に着けていく。鏡を見る勇気は無かった。虹歩は深呼吸をしてリビングに向かった。
「まぁ・・・」
リビングに戻った虹歩を見て理音と律月は絶句した。どこから見ても可愛い少女になった虹歩がそこに立っていた。
「ねぇ、自分で鏡見てみたの?」
首を振る虹歩の肩を抱き、理音は姿見の前に虹歩を連れて行った。恐る恐る鏡を覗いた虹歩の前に立っていたのは自分でも信じられない程の美少女だった。と、同時に虹歩の頬が赤く染まる。
「まさかここまでハマるとは思わなかったわ。あっ、ちょっと待っててね。」
理音はどこからかゴム止めを持ってきて虹歩の頭に結わえる。今時の子供が付けている様なキューブ形の透明な飾りの付いたゴム止めだ。髪の毛をくくられる始めての感触、密着している理音の女性の匂いに虹歩はどきどきした。
「さっ、できたわよ。」
手早く男の子にしては長い後ろ髪を二つに括った理音は、虹歩の頭をつかみ正面を向かせる。そこには服装なんか問題でなく、どう見ても小学生の女の子が出来上がっていた。
「わー、少し焼いちゃうなー」
いつのまにか後ろに立っていた律月が感嘆した。そい言われても虹歩はちっとも嬉しくない。
「じゃあ出かけるわよ。」
理音の一言に虹歩は我に帰った。この格好で外出しなければならないのだ。
「あのー本当にこの格好で外に行くんですか・・・。」
「当たり前じゃない。わざわざボーイッシュな服にしてあげたのに、わがまま言わないの。」
『うー、これでボーイッシュていうなら、これからはどんな格好をさせられるんだろう。・・・』
玄関にはご丁寧に靴までピンクの女の子用のスニーカーが準備してあった。玄関から出れずに躊躇する虹歩は理音に抱きかかえられるようにして無理やり車に乗せられた。
連れて行かれたのは車で30分ほどかかる郊外の大きなショッピングモールだった。土曜日の午後でありたくさんの人で溢れている。こんな中、小さな女の子の格好で歩かないといけないと思うと虹歩は頭がくらくらした。
「さて、まずは日用品から買いに行くわよ。」
理音は容赦なく、ぐずる虹歩の手を掴み車の外に連れ出した。
「律月ちゃん、いや呼び捨てでいいかな?・・・律月、虹歩ちゃんが迷子にならない様に手をつないであげてね。」
男の子用のキャップをかぶり、すっかりお兄ちゃん気取りの虹歩が軽やかに答える。
「うん♪」
「えっ?えっ?・・・」
戸惑う虹歩の右腕を律月の左手がしっかりと握った。頭ひとつ分違う二人の身長差は仲の良い兄妹を演出するのにぴったりだった。
「いいよ、こんなの・・・はぐれなんかしないよ。」
手を振り解こうとする虹歩に理音が耳元で言う。
「これも訓練のうちよ。それに、本当は18歳の男の子だってしれたら恥ずかしいのは虹歩ちゃんでしょ。」
確かに、変な兄妹と怪しまれて目立つのは虹歩が一番困るのだ。渋々歩き出した虹歩はスカートやキュロットでないにしても、女の子用の下着を着けている恥ずかしさで、すれ違う人が皆自分を見て笑っている様に感じた。なるべく下を向いて歩いている虹歩は知らぬ間に本当の妹のように律月の手を強く握り締めていた。
「まずは家具からね。虹歩ちゃんどれがいい?」
家具売り場につれて来られた虹歩が頭を上げると、そこには沢山の学習机が並んでいた。それも、これから小学校へ入学する子供が選ぶようなアニメのキャラクターがあしらった可愛い机ばかりだった。
「いいですよ、机なんて・・今あるやつで・・・。」
「何度言ったらわかるのかしらこの子は。今日から完全に女の子になり切ってもらわないと困るんだからね!」
理音の大きな声に虹歩は慌てる。
「ちょ、ちょっとそんなに大きな声で・・・」
「なら大人しく選びなさい。」
脅迫するような理音の態度に律月がおかしそうに笑った。
「まあまあ理音さん。虹歩ちゃんも自分では選びにくいわよ・・・うーんと、これなんかどうかな?」
律月はひとつの机を指差す。それは今人気の女の子向けヒロインアニメをあしらった学習机だった。全体がピンク色で、卓上には一面アニメの絵が描かれている。
「あら、いいわね。これなら虹歩ちゃんも楽しく勉強できるんじゃない?」
理音と律月はどうやらこの状況を楽しんでいる様だった。結局、もっとシンプルな机がいいという虹歩の意見は無視され、アニメキャラの学習机、淡い黄色の子供用タンスが二人に選ばれ配送手続きがとられた。
「次は文房具類ね。ランドセルはやっぱりシンプルな赤がいいかしら?」
『そうだった、小学校という事はまさかランドセルを!?』
「あら、どしたの変な顔して?さてはランドセルのこと忘れていたな。」
律月が意地悪く虹歩の鼻の頭をつついた。
「そうですね、最近はピンクとか色々あるみたいですけど、低学年の子なら赤いのが一番だと思うわ。」
低学年という言葉に虹歩は真っ赤になる。
「虹歩ちゃん華奢だから軽いのがいいわね、これなんかどうかしら?」
理音が手に取ったランドセルを虹歩の背中にあてがう。
「ちょ、ちょっと、やめて下さいよ。こんなところで!」
「何恥ずかしがってんのよ、4月から毎日背負っていかないといけないのよ。気に入ったのを自分で選びなさい。」
『ああ、本当に僕は小学生にされてしまうんだ・・・』
虹歩が戸惑っている間に理音が無理に手を掴み、赤いランドセルを背負わせてしまう。何年振りかの感触に虹歩は又赤くなる。
「ほら、両手で背負い紐を持ってみなさい。」
理音が面白がって両脇の部分を虹歩につかませる。小学校の入学式なんかでよくあるポーズだ。
「うふふ、虹歩ちゃんったら、全然ランドセルが小さくないのね。ぴったりよ」
「そうね、今は5年生ぐらいになるとランドセルなんて似合わない子が多いのに、よかったわね、これなら全然おかしくないわよ。」
二人がおかしそうにからかった。虹歩は反論する事もできず、ランドセルを背負ったまま立ち尽くしていた。


第5章 迷子の虹歩ちゃん


結局、理音のお見立てのランドセルと、給食袋等・文房具など通学に必要な物を買い揃え3人は一度車に戻った。
「どう虹歩ちゃん?意外と大丈夫だったでしょ。」
「ううん・・・僕もう恥ずかしくて恥ずかしくて・・・ねぇ今日はもう帰ろうよ。」
「だめよ、これからが本番なんだから。さぁお洋服を買いに行くわよ。」
買い物をトランクに押し込むと理音は虹歩の手を引き、女児服売り場に向かった。
「さて、まずは下着からかな。虹歩ちゃんどれがいい?」
「そ、そんなのどれでもいいよ。」
目の前に並んでいる色とりどりの女児用下着を見せられ、虹歩は目のやりばに困ってしまう。
「ふうん、じゃあ私と律月で選んじゃおうかな。後で困っても知らないからね。」
そういうと二人は相談しながら下着を選び出した。律月は男の子の格好をしているが、ボーイッシュな男の子にも見えるので平気な様だった。実に楽しそうにしているが、見ていると可愛らしい柄のものや子供っぽい柄の物を選んでいる様だ。
「ちょ、ちょっと・・もうちょっと地味なのを・・・」
そんな下着を着けさされてはたまらない。虹歩が口を挟む。
「あら、さっきはどれでもいいって言ったじゃない。それとも試着して見る?」
理音は手に取った赤い水玉の子供用ブラを虹歩の胸にあてがった。
「わっ!わっ!」
驚いた虹歩は慌てて後ずさりする。
「んふふ、大丈夫よ。虹歩ちゃんにはまだブラは早いからね。おとなしく待ってなさい。」
こうなっては二人に近づく事もできず、虹歩は遠くで呆然と見ているしかなかった。
「さぁ次はアウターだけど、虹歩ちゃんどんなのが着たい?」
虹歩はふくれっ面で答える。
「もう、どうせ理音さん達が勝手に選んじゃうんでしょ!」
「あらあら、すっかり拗ねちゃって・・ちょっと律月。」
なにやら律月に耳打ちした理音は、そのあと虹歩の方を向いてわざとらしく言った。
「律月ちゃん。どうやら虹歩ちゃん買い物に飽きちゃったみたいね。この階にキッズコーナーがあったでしょ。買い物は私がしておくから虹歩ちゃんをあそこに連れて行ってあげる?」
キッズコーナーとは、子供用の遊び場やゲーム等が置いてあるモール内の施設である。
「ちょっと、僕はそんなとこ行きたくなんか・・・」
全部言い終わる内に律月が虹歩の手を引っ張る。二人にかかってすっかり子供扱いの虹歩だった。
「さあ虹歩ちゃん、何してあそぶ?」
すっかりお兄ちゃんになりきった虹歩が優しく尋ねた。
「いい加減にしようよ律月、こんなとこいたく無いってば・・・」
「あら、お兄ちゃんを呼び捨てなんて悪い子ね。」
「理音さんがいないからいいじゃないか。普通に戻ろうよ・・・」
「分かってないのね。いったでしょ、私覚悟を決めたって。そんな悪い妹はこうしちゃうぞ。」
律月は、細い腕のどこにそんな力があるのか、虹歩を軽く抱き上げると側にあった、幼児用の乗り物にひょいと座らせる。それは女の子に人気のファンシーなキャラクターがモチーフになった可愛らしいバス型の乗り物だった。
「わっ!やめてよ下ろしてよ!。」
狭い椅子にお尻から急に深く座らせられた為に虹歩は身動きできない。
「はい、今動かしてあげるからね。」
律月は財布から効果を取り出して投入する。しばらくすると、虹歩を乗せた乗り物は大きな音で音楽を奏でながらゆっくりと前後に動き出した。
「と、止めてよ。恥ずかしいよ!」
だが、止めるボタンなど付いていないし、律月が降ろしてくれるはずも無かった。その内に音楽につられ子供達が集まってきた。
「ほら、大きな声出すと益々目立つわよ。」
律月がそっと耳打ちする。ようやく体制を立て直した虹歩だったが、動いている乗り物からは降りられず、なるべく目立たない様に俯くしかなかった。その内音楽が次第に小さくなり、乗り物の動きが止まった。虹歩は急いで飛び降りる。
「なんてことするんだよ!恥ずかしいじゃ・・・あれ?」
そこには律月の姿は無かった。
「お、おい・・・律月?・・・・どこ行っちゃったんだよ・・・」
虹歩はキッズコーナーをくまなく歩いてみたが律月は見つからなかった。
「どこ行っちゃたんだよー・・・」
虹歩は急に不安になった。何しろ、女の子の格好をしてこんな人ごみにいるのだ。それに虹歩は入院して以来、街中に出たのは5年ぶりなのだ。
仕方なく虹歩は先ほどの女児服売り場に向かった。しかし、そこにも律月はおろか理音さえもいなかった。
「二人とも。僕を置いてどこいっちゃったの・・・。」
こんな所に置いてけぼりにされてはたまらない。帰り方もわからないし、お金だって1円も持っていないのだ。すっかり弱気になった虹歩の目には涙が浮かんでいた。
『無理やりこんな格好させて・・・置いていくなんてひどいよ・・・律月・・・理音さん・・・』
ぼろぼろと涙を流し虹歩は二人を探し続けた。
「どうしたの?大丈夫?」
虹歩に声を掛けてきたのは理音でも律月でもなく、見知らぬ若い女性だった。
「迷子?お母さんとはぐれちゃったのね。」
急に優しい言葉をかけられた虹歩は、冷静になる事が出来ずに堰がきれたように泣き出してしまった。女性はそれを見て虹歩を胸に抱き寄せる。
「よしよし、もう大丈夫だからね。お姉さんと一緒に探しましょうね。」
藁にでもすがりたい虹歩はこくりと頷いた。
「あのー、この子迷子みたいなんですけどー」
虹歩が連れて行かれたのはモールのインフォメーションセンターだった。
「ありがとうございます。お嬢ちゃん、もう大丈夫だからね。自分のお名前言えるかな?」
受付け用のカラフルな制服を着た女性が、膝を屈めて話しかけてきた。幼児の話すかの様な言葉にさすがに虹歩は少し恥ずかしくなった。
「どうしたの?それなら、お年は言えるかな?」
女性は、ずいぶん大きな迷子ねと不思議がりながらも精一杯の優しい声で話しかけた。
「に・・・にじ・・・にじな・・・。」
虹歩はぽつりと答える。本名で答えるのはあまりにも恥ずかしかった。
「にじなちゃんね、可愛い名前ね。じゃあ、お母さん・・・かな?呼んであげるからちょっと待ってね。」
女性が隣の部屋に入ると、しばらくして全館に放送が流れる。
「迷子のお知らせを申し上げます。ただ今「にじなちゃん」と言われる、白いトレーナーにピンク色のパンツの10歳ぐらいのお嬢様をお預かり致しております・・・」
連れてきてくれた若い女性に肩を抱かれていた虹歩は、自分の恥ずかしい格好を全館に放送されている様に感じ女性の腕に顔をうずめる。やがて15分もして理音と律月がやってきた。虹歩はたまらず理音に駆け寄り子供の様に泣きじゃくった。
「もう、どこに行ってたんだよう!」
しかし、その時虹歩は後ろで笑っている律月に気が付いて我に帰った。どうやら、これが仕組まれた計画だった事に虹歩はようやく気が付いたのだ。そうなると幼児の様に迷子扱いされた事が急激に恥ずかしくなった。
「ほら、『にじな』ちゃん。お姉ちゃんにお礼をいうのよ。」
律月がおかしそうにいうと、虹歩の頭を後ろから抑えた。

「んふふ、虹歩ったらサイコーね。本当に理音さんの言った通りになっちゃうんだから。」
律月はすっかりとSっ気に目覚めた様だ。
「ひどいよ二人とも・・・」
恥ずかしい姿を見られたあとで、強い抗議をする事もできず虹歩は憔悴していた。
「さて、虹歩ちゃんが迷子になっている間に服は全部揃えたからね。車に戻るわよ。」
『ようやく帰れるんだ・・・』
虹歩は心底ほっとする。
「あっ、でも帰る前にもう1ヶ所寄って行くわよ。」
「ええーっ!もう全部買ったっていったじゃないか。」
虹歩が抗議の声をあげる。
「確かに生活用品、通学用品、普段着は揃ったわね。でも何か忘れていない?」
「あっ、僕わかったよ。あれだね!去年変わったから、僕のお古はもう着れないもんね。」
虹歩は何の事かわからず不思議な顔で車に乗り込んだ。


第6章 恥辱の女児制服


理音が車を止めて立ち寄った場所は、一見おしゃれなブティック風の店だった。
「いらっしゃいませ。」
上品な感じの店員が3人を見てにこやかに挨拶する。店内は落ち着いた雰囲気で高級そうな婦人服が並んでいた。
『自分の服でも買いにきたのかな?』
虹歩は不思議に思い少し安心して店内を見回した。しかし次の瞬間虹歩の視線が凍りついた。

《桃鳳学園制服特約店》

「桃鳳の初等部の制服が欲しいんですけど」
間髪を置かずに理音が店員に話しかけた。虹歩は慌てて理音の服を引っ張り、小さな声で話しかける。
「も、もしかして、それって僕のじゃないよね?」
「何言ってるの?虹歩ちゃん以外に誰が小学校の制服なんて必要なの?まさか忘れてたんじゃないでしょうね?」
「う、うう・・・」
桃鳳の初等部に通うなら初等部の制服を着なければならない。確かに理音の言う事はもっともだった。しかし、虹歩は理音の言う通り本当に忘れていたのだ・・・自分が初等部女児の制服を着なければいけないという事を。
「はい、そちらのお嬢様ですね。どうぞ奥の方へ。」
店員は律月には目もくれず虹歩の方を見てにっこりと笑った。
『僕の方が年上で・・・しかも男なのに・・・』
もちろん事実を訴える訳にもいかず、虹歩は理音に押されて奥のほうへ連れて行かれた。
「初めてのお買い求めですか?」
「はい、4月から転入する事になってますの。」
こころなしか理音は上品な言葉遣いになっている。上流家庭が多い桃鳳の保護者層を演じている様だ。店員はにっこり笑う。
「では、大体合うサイズをお持ちしますので一度試着して下さいますか?」
「し、試着!む、無理だよ、こんなとこで・・・!」
虹歩は慌てた。こんなところで見ず知らずの店員の前で女の子の制服なんて恥ずかしすぎる。しかし理音が冷たく言い返す。
「だーめ。毎日着るものなんだから合ってないと大変でしょ。店員さん、早く持ってきて下さい。」
「はい。」
店員は隣の倉庫らしい部屋に入り、合うサイズを探しながら話しかける。
「でも、お嬢さん珍しいですね・・・桃鳳の制服って可愛くって女の子の憧れみたいですから、大抵の子は『早く着たい』っておっしゃられるんですよ。」
律月がクスクスと笑う。
「この子、可愛い服とか苦手なんですよ。」
律月は心の中で膨れっ面になる。しかしすぐにおかしな事に思い当たった。
『可愛い服?』
虹歩の知っている、いや虹歩の通っていた頃の桃鳳初等部の制服はごく普通の紺色のセーラー服、それも伝統ある学校の為、少し古臭いデザインの制服だった。そんなに可愛らしいデザインではない。
「では、こちらに用意しましたので。どうぞお着替え下さい。」
「あっ!」
店員が持ってきたハンガーに吊るされた制服を見て虹歩は悲鳴の様な声を上げた。それは虹歩の知っているものでは無かった。薄いクリーム色のセーラー襟のジャケットには胸元にスカーフでは無く大きなリボンのタイ。左胸のポケットには名門校らしく大きなエンブレムが付いている。ボトムは当然スカート、それも虹歩の知っている紺色の襞スカートではなく、赤と紺色のチェックだった。小学校用らしく吊り紐が付いているが、驚いた事に既製品である筈なのに、その丈はミニスカートといって良いほどの短さだった。
「こ、これが桃鳳学園の制服・・・?」
「そうですよ、2年前に新しく変わったんです。お嬢様きっとお似合いですわ。」
店員がにっこり笑ってハンガーを差し出した。突っ立ている訳にもいかず虹歩はそれを受け取った。
「さぁ、着て見なさい虹歩。」
『こ、これを僕が着るの、女の子の制服を・・・』
虹歩の膝ががくがくと震えた。
「何してるんだよ、早く着替えろよ。」
律月が虹歩の肩を叩き、ちいさな声で呟く。
「あんまりまごまごしてるとばれちゃうぞ」
その虹歩はビクリとする。
「こ、ここで着替えるんですか?」
「あちらに更衣室もありますが・・・どうでしょう?保護者の方・・・お姉さまでしょうか?・・お姉さまもご一緒の方がいいと思うのですが?」
店員は理音の方を向いて尋ねた。
「ええ、そうですね。それに、虹歩ちゃん一人でお着替えできないでしょ。」
馬鹿にされた様に感じた虹歩だったが、それも事実だった。確かに虹歩には初めて見る、その女の子用の制服の着方など分からなかった。
「ほら、小学生の癖に一丁前に恥ずかしがるなよ。」
律月がニヤニヤと笑う。虹歩は腹を立てたが、今は恥ずかしさでそれどころでは無い。
「少しの間だけだよ」
あきらめた虹歩はそう言うと、皆に背を向けて上着を脱ぎだした。
「じゃあ上着から着ましょうね。さ、手を伸ばして。」
理音がまるで幼児にするかの様に虹歩の着替えを手伝う。初めて着る女の子の用の可愛いブラウスは、いかにも子供用というような大きな丸襟に桃鳳のマークが刺繍されている。初めての左ボタンに四苦八苦する虹歩に、たまらず理音が手を差し出した。店員は割と大きな子なのに・・・と不思議そうな顔をした。
「じゃあ次はスカートよ。ズボンの上からでいいわよ。」
理音は履きやすい様に脇のチャックを下ろすと、虹歩にスカートを手渡した。両手でそれを受け取り虹歩は硬直してしまう。なにしろ虹歩にとっては生まれて始めてのスカートなのだ。それも可愛らしいミニ丈のそれに、戸惑ってしまうのも無理はなかった。
「どうしたの?スカートぐらい一人で穿けるでしょ?」
虹歩は覚悟を決めてスカートを穿き出した。内側には「桃鳳小学校 年 組」という名前を書くタグが付いている。それは小学生用ならあたりまえの事なのだが虹歩の羞恥心をさらに辱しめた。それでも心臓をバクバクいわせながら腰の位置まで引き上げ、理音に手伝われながら吊り紐を背中で交差させると肩に掛けホックを留めるが、吊り紐のせいでスカートのウェストが高い位置になり、ますますミニ丈になってしまった。
「あら、ウェストが少しきついかと思いましたけど全然大丈夫ですね。最近の子はスタイルが良くて羨ましいですわ。」
店員がにっこりと笑うが、虹歩は少しも嬉しくない。
「じゃあ、ズボンを脱いで。」
「えっ!このままじゃだめなの!」
「それじゃあ、本当に合っているかわからないでしょ?脱がしてあげましょうか?」
そんな事をされてはたまらない。虹歩はあきらめてスカートの中に手を入れると、中に穿いているズボンを脱ぎだした。短いスカートが捲れないようにズボンを脱ぐのは意外と大変な作業だった。虹歩は理音に肩をかされながらやっとの思いでズボンを脱ぎ終えた。
「やっぱり、ズボン穿いたままじゃわかんないわね。似合ってるわよ。」
初めてのスカートに虹歩はなんともいえない恥辱を感じた。下半身がスースーする。プリーツたっぷりの膝上丈なので直立していると太ももにスカートを感じず、まるで何も穿いていない様だった。
「じゃあ上着も着ましょうね。」
ジャケットはボレロ風の短い丈にセーラー襟が付いた、本当に可愛らしいものだった。小さい女の子が憧れるのも無理はなかったが、男の子なのにその上着を着せられた虹歩はそれだけで、死にたいほどの恥ずかしさに襲われた。
「はい、リボンはこう結ぶのよ。低学年の子は一人で結べない子も多いのでお姉さまも覚えて下さるようにしてください。」
店員がやってきて胸元の黄色いリボンを器用に結び始めた。一人で着替えも出来ない虹歩を低学年と決め付けている様だった。話し方も子供に話す口調になっている。
「さっ、完成ね。これならどこからみても立派な桃鳳学園の児童よ。」
理音が笑いを噛みころし言うが、妙な言い回しに店員は首を傾げた。
「袖とかきつくない?ちょっと動いてみてくれるかな?」
店員は仕方なく手を上げ下げする虹歩の手を掴むと、袖の長さを確かめる。
「うん・・・大丈夫・・・もう脱いでいい?」
虹歩が恥ずかしさに耐えかね音をあげた。
「では、このサイズでよろしいですね。しかし、本当にめずらしいお子様ですね。こんなに可愛い制服ですから「このまま着て帰るっ!」て言う子も多いんですよ。」
「今から慣れとかないと大変だぞ。四月からは毎日着る事になるんだからな」
律月は虹歩の背中を叩くと、意地悪くニヤリと笑って言った。
『毎日・・・こんな恥ずかしい制服を毎日着ないといけないの?そんなの恥ずかしすぎるよ・・・』
絶望感を感じる虹歩だったが、それが虹歩自身の選んだ現実だった。


第7章 女の子の躾


体操着の試着は必死に断ったものの、指定の靴や靴下・帽子や名札等を買い揃え3人が家路についたのはもう夜といってもいい時間だった。
「ああ腹へったよー」
今日一日ですっかり男の子の様な話し方になった律月が、後部座席で伸びをしながら大きな声で言う。一方の虹歩は助手席で俯いて考え込んでしまっていた。
「何悩んでるんだよ。もう始ってしまったから楽しまないと損だぞ。」
律月が後ろから虹歩をこづいた。
「う、うん・・・それは分かってるけどさ・・。」
「そうよ、虹歩ちゃん。私も応援するから・・・さて、新しいお兄ちゃんとお嬢ちゃん、お家に着いたわよ。」
理音の言葉に虹歩はようやく顔を上げる。今日はとにかく疲れた。少しでも早く他人の目のない家に入りたい気分だった。
「ただいまー!」
元気よく律月が玄関を開けると、そこには出て行った時にはなかったダンボールが積まれてあった。
「あ、あれ?なんだろう?今日買った物にしては早すぎるよね。」
律月が理音に尋ねた。理音は明快に答える。
「ああ、留守中に部屋の改装とか知り合いの業者さんに頼んどいたの。さすが仕事が早いわね。」
「改装?どの部屋の?・・・このダンボールは?」
「ああ、これは改装でいらなくなったゴミよ。明日の朝引き取りに着て貰う手筈になっているから。改装したのはもちろん・・・」
虹歩に嫌な予感が走る。今日一日履きつぶした女児用の靴を荒々しく脱ぎ捨てると、虹歩は先日与えられたばかりの自分の部屋に一目散に向かった。
「ああーっ!」
そこは今朝までの自分の部屋ではなかった。壁紙は動物柄の薄いピンク色のものに変えられ、窓にはレースのカーテン。ベッドシーツや枕は少女向けキャラクターでまとめられ、本棚に並べておいた男の子向けの漫画や小説は、少女マンガやぬいぐるみにとって変わっていた。
「どう素敵でしょ?いかにも小学生の女の子の部屋って感じで。」
遅れてやってきた理音が満足そうに笑って言った。
「ちょ、ちょっと・・・僕の服や本とかはどこにやっちゃたんだよ!」
青ざめた顔で虹歩が問う。
「うん?玄関に積んであるダンボールの中よ。さっき、明日の朝ゴミに出すって言ったでしょ?」
「そ・・・そんな、勝手にしないでよ!」
虹歩は必死に抗議を続けた。
「もー、聞き分けのない子ね。これからの女の子としての生活に必要で無い物は処分しないといけないでしょ。例えば新しく出来たお友達とかが遊びに来て、男の子の服とか見たら変だと思うじゃない。身も心も女の子になりきらないと恥ずかしいのは虹歩ちゃんなのよ。」
「そんなこと言っても・・・」
虹歩はうなだれてしまった。
「おおっ!すげぇな。可愛い部屋になったじゃないか。よかったな虹歩。」
ようやくやってきた律月が、部屋の入り口で立ちふさがっている二人の間からのぞき込む様にして言った。
「と、とにかく僕の持ち物は捨てないでよ!」
「だーめ。私には虹歩ちゃんを女の子らしくする義務があるんですからね。あきらめて従いなさい!」
一喝されてさすがに虹歩は返す言葉が無くなってしまった。
「そんなことより・・・そこに正座なさい。」
「えっ?な・・・なんで?」
急に厳しい顔になった理音に、虹歩は嫌な予感を感じた。
「早くなさい!!」
「あっ!はっ、はい!」
虹歩は慌てて部屋の中央に正座する。もともと、他人に逆らうことが出来る性格では無いのだ。理音はゆっくりとベッドの片隅に座り、長い足を組んだ。タイトスカートから伸びた綺麗な足に虹歩はドキリとした。
「これで、今日から完全に女の子として暮らす準備ができたから初めに言っておくわね。」
「は、はい!」
今まで聞いたことのない厳しい声に虹歩は裏返った声で返事をする。律月はおもしろい見世物が始まった、とでも言うように入り口近くの壁にもたれ、微笑を浮かべながら二人を眺めていた。
「さっきもいったけど、ご両親に対しても、虹歩ちゃん・・・あなたに対しても私は虹歩ちゃんを立派な女の子として躾ける義務があるの。わかるわね?」
『躾ける』という言葉がひっかかったが、虹歩は神妙にうなづく。
「だからその為には妥協は許さないの。その為に我が家のルールを決めようと思うの。いいわね?」
こんな状況で『いいえ』いえる筈が無い。虹歩は先ほどと同じようにうなづいた。
「じゃあ、まず一つ目は当然だけど・・・家の中でも外出する時でも女の子の服を着ること。下着から靴まで全てよ。まぁこれは男の子の服は全部捨てちゃうから着ようとしても無理でしょうけど。」
覚悟していた虹歩だったが、こう目の前で断言されると涙が出そうになる。
「二つ目も初歩だけど、女の子の言葉遣い・振る舞いをする事。自分を『僕』なんてとんでもないし、座る時は足を広げたりしない、当然トイレも座ってするのよ。」
「う、うん・・・」
「3つ目は、律月君あなたも聞いておいてね。」
理音は律月の方に振り返る。律月は相変わらず微笑んだまま、丁度虹歩の正座している後ろの壁に移動した。
「虹歩ちゃんは律月君をお兄ちゃんとして敬う事。律月君は虹歩ちゃんを妹として可愛がる事。二人とも今までの立場が逆になる訳だから、最初は戸惑うと思うけど頑張る様にね。まぁ今日の様子を見てると律月君の方は大丈夫だと思うけど・・・心配なのは虹歩ちゃんね。律月君、虹歩ちゃんが女の子らしくなれる様にあなたも協力してね。」
「うん。もちろんだよ、俺の可愛い妹にしてやるからな。」
律月は舌なめずりをする様な顔で虹歩の肩に手を掛ける。
「ご返事はどうしたの?」
「えっ、えっ?!」
「お兄ちゃんが虹歩ちゃんの為に協力してくれるって言ってるのよ。妹としてお礼を言わないといけないでしょ?」
もう女の子としての躾は始まっているのだ。微笑んではいるが、その厳しい理音の言い方に虹歩は背筋が凍った。
「あ・・・ありがとう。」
「『ありがとうございます。律月お兄ちゃん』でしょ。言い直しなさい。」
「あ・・・ありがとうございます・・り・・・律月・・・・」
「ほら、どうしたの?」
「律月・・・・・・お・にいちゃん・・・。」
ついこの間まで妹だった律月に「お兄ちゃん」と言わされる事は酷く屈辱的だった。しかしそんな虹歩の心を見透かす様に律月が追い討ちをかける。
「ん?何に対してありがとうなんだ?『きちんとした女の子になれる様躾けて下さい』じゃないのか?虹歩ももう3年生になるんだから自分で言えるだろ?」
「そ・・そんな・・・これ以上・・許してよ・・・」
「だめだ。虹歩がきちんと言えるまで許してやらないぞ。ほら、もう一度最初から言ってみな。」
「ありがとうございます。律月・・・お、お兄ちゃん・・・。」
「ほら、続きは?」
「虹歩が、ちゃんとした、お・・女の子になれる様・・・し・躾けて下さい・・・。」
「よし、よく言えたなえらいぞ虹歩」
律月が幼い子供にする様に虹歩の頭をなでた。その下で屈辱に涙を流す虹歩を見て律月は、その立場の逆転に言い知れぬ満足感を覚えていた。
しかし虹歩に泣いている暇は与えられなかった。次の瞬間、理音がとんでもない事を言ったからだ。
「さて、虹歩ちゃんも理解してくれたみたいだし、早速今日の分のお仕置きを始めるわよ。」


第8章 お仕置きはお尻に


「ど、どういうこと!?」
「いい事、虹歩ちゃん?ルールあるって事は、それを破った時の罰も当然存在する訳よ。」
「ば・・・罰って?」
虹歩が恐る恐る聞き返す。
「そうね、破ったルールの内容にもよるけど・・・虹歩ちゃんみたいなお子様には体に教えてあげるのが一番ね・・・じゃあとりあえずズボンを膝まで下ろしなさい。」
「ちょ、ちょっと!僕が何をしたっていうんだよ!・・・あっ!」
「うふふ、はい3回目ね。家に帰ってから『僕』って言ったのは。」
「そ、そんなー。今聞いたばかりで無理だよー。」
「『無理だわ』でしょ!まっ、いまのは小学3年生としてはおかしくないから許してあげるわ。とにかく半月後には新学期が始まるのよ・・・それまでに体で覚えさせておげるわ。早くズボンを下ろしなさいっ!」
「・・・」
不満そうな顔で下をむいたままの虹歩に、理音が業を煮やした。
「仕方ないわね・・・お兄ちゃんちょっと手伝ってくれる。」
「うん、まかせといてよ!」
意を得たりとばかりに律月は虹歩を後ろから片手で抱きかかえると、もう片方の手でズボンのボタンをまさぐる。
「や、やめろよ律月!」
「あれ?女の子がそんな言葉使っていいのかな?ますますお仕置きが増えちゃうぞ。」
そう言われても実の妹にズボンを脱がされようとしているのだ、虹歩が抵抗しない訳は無い。しかし、その心とは裏腹に華奢な虹歩がいくら抵抗しても律月はビクともしなかった。やがて律月の手は虹歩の穿いているのピンク色のズボンのチャックを下ろし、そのまま膝まで下ろしてしまった。今朝から穿かされていた純白の女児用ショーツがあらわになる。
「あはは、いい格好だぞ虹歩。」
律月は抵抗できないように両手首を背中で掴みつつ、虹歩を無理やり立たせた。しかし、既に虹歩はその屈辱感から放心状態ですっかり抵抗する気力を失っていた。
「はい、お兄ちゃんごくろうさん。」
理音が満足げに声を掛ける。
「じゃあお仕置きを始めるわよ・・・まずは虹歩ちゃん、自分でなぜお仕置きされるのか言ってごらんなさい

容赦ない理音の声が虹歩を責め立てる。
「・・・・・・・わ・・・私が・・・・自分の事を『僕』って・・言ったからです。」
「それだけ?」
「・・・り・・・律月・・・・・・・お兄ちゃんに・・乱暴な言葉を言いました。」
「うん、よく分かったわ。さすがの虹歩ちゃんも自分の立場が分かった様ね。」
既に両手を開放されてはいるが、ズボンを直す気力も無い虹歩は両手で涙を拭きながら呆然と立ち尽くしていた。
「じゃあ、自分からお願いしなさい。『お仕置き下さい』ってね。」
「そ、そんな・・・。」
「虹歩ちゃん、お仕置きっていうのはね、私が無理矢理するのでは意味が無いのよ。さぁ、心を込めてお願いするのよ。」」
「わ・・わたしに・・・お・・・お仕置きして・・下さい。」
「声が小さいわね、全然聞こえないわ。」
「わっ!わたしに・・お仕置きして・・下さい。」
「なんだ、理音さんの言った言葉そのまんまじゃないか。本当に反省してるならもっと色々言えるだろ?」
律月が後ろから虹歩の頭をこづいた。
「で・・・でも何ていえば・・・」
律月が耳打ちすると虹歩の顔が真っ赤になる。
「ほらっ、言ってみろよ!」
「・・・に・・・虹歩は・・・お・・・女の子なのに・・・『僕』なんて・・男の子みたいな言葉を・・・つ・・・使ってしまいました。に・・虹歩が・・・早く一人前の・・・おっ・・・女の子になれる様に・・・お、お仕置きを・・・お願いします」
理音が再び満足げに頷く。
「うん、よくできました。やっぱり小学3年生だから自分のことは『私』より『虹歩』の方が可愛らしいわね。お兄ちゃんやるわね。」
「俺だって、一応元女の子だからな」
律月が苦笑する。
「じゃあ始めましょうか、虹歩ちゃんここにうつ伏せになりなさい。」
理音は自分の膝を右手で叩きながら言った。
「ま・・・まさか・・」
たじたじとする虹歩の背中を律月が押す。
「ほらっ、さっさと行けよ。」
あきらめて虹歩は理音の前にかがむと、そのタイトスカートの部分に胸を乗せた。理音は左手で虹歩の背中を押さえると、右手でショーツを膝まで下ろす。
「ひっ!」
虹歩は思わず女の子の様な声で悲鳴をあげてしまった。
「じゃあ始めるわね。『僕』って言ったのは3回だから30回ね。自分で数を数えるのよ。」
「や、やっぱり嫌だ!やめてよ!」
逃げようとする虹歩を意にも介さずに、理音が右手をその少女の様な白い尻に振り下ろした。ピシャーン!という大きな音が部屋に響き渡った。
「あ・・・あひーっ!!」
虹歩が声にもならない悲鳴をあげる。
「ほら、数を数えないといつまでも終らないわよ。」
理音はそういいながら、再び右手を振り下ろした。
「ひ・・・ひぎゃーーっ!!痛い!痛いよーっ!」
「数を数えなさいと言ってるでしょ!」
理音の手が更に振り下ろされる。
「あ!・・・ひーっ・・・・・い・・・1回!」
「『悪い虹歩にお尻叩きありがとうございます』って付け足しなさい」
あまりの苦痛に虹歩は理音の言葉に逆らえなかった。
「あっ!は、はい!・・・悪い虹歩にお尻叩きありがとうございます。」
言い終わるが早いか、理音の手が虹歩のお尻に直撃する。
「ひーっ!・・・2回・・・悪い虹歩にお尻叩きありがとうございます!」
その時、虹歩の目に腹を抱えて笑っている律月が飛び込んできた。実の妹の前で女児服を着せられて子供の様にお尻叩きをされている虹歩。それはあまりにも屈辱的な状況だった。しかし、理音の手は休むことはない。
「ひっ!・・・り・・・理音さん・・・せめて律月のいないところで・・・」
「『律月お兄ちゃん』でしょ!まだまだ自分の立場が分かってない様ね。今の虹歩ちゃんは高校生のお兄ちゃんの前でお尻を叩かれている小学生のちっちゃな妹なのよ!恥ずかしがるなんて10年早いわよ!」
理音は更に力を込めて腕を振り下ろした。
「ひーっつ!!痛い!!痛いよーっ!!」
こうなると虹歩はこの恥ずかしい懲罰が一刻も早く終るようにするしかなかった。
「さ・・・四回・・・悪い虹歩にお尻叩きありがとうございます!」
「何ごまかしてるの!三回目は数えていないでしょ!!もう一回初めからよ!!」
「そ・・・そんな・・・・うぎゃーーっ!」
容赦ない理音のお尻叩きは虹歩が30回数え終わるまで続けられた。


第9章 新生活はおしとやかに


「はい、よくがんばったわね。虹歩ちゃん」
理音が虹歩の背中を優しく撫でながら言った。虹歩は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、うわごとの様に「ありがとうございます」と繰り返した。
計40発は叩かれただろうか、虹歩の可愛らしいお尻は左右とも真っ赤に腫れ上がり蒸気を発していた。
「どうだ反省できたか?」
顔を覗き込む様に言う律月に、虹歩は黙って顔を激しく縦に振った。
「休んでいる暇は無いわよ。虹歩ちゃん、夕食作るから手伝いなさい。」
理音は自分の膝でぐったりとなっている虹歩を抱き起こした。
「あっ、いやっ!」
下げたままのショーツから、まだ子供の様なおちんちんをさらけ出してしまい、虹歩は慌てて両手で前を抑えた。
「なんだよ、隠すほどのもんじゃないだろ。」
律月が意地悪く笑う。
「そうね、本当はそんなの無いほうがいいんだけど、それだけ小さいと目立たなくて安心だわね。」
理音が嘲笑気味にそう言いながら、タンスの中から洋服を取り出した。
「じゃあ、これに着替えなさい。着替えたら台所に来るのよ。」
用意された服は長袖の黄色いワンピースだった。大きな丸襟にはお花の刺繍、肩は大きく膨らんだパフスリープになっており、スカートの裾にはチューリップが並んでプリントされている可愛いデザインの女児服だった。
「どうしんたんだよ?早く着てみろよ。」
理音が台所に向かった為、二人きりになった部屋で律月がニヤニヤと笑いながら言った。実は律月はその服に見覚えがあった。自分が小学生・・・そう、それはいまの虹歩と同じ立場の3年生だった時に買い与えられたが、デザインが可愛らしすぎて一度も着なかったものだったのだ。
「どうした?一人で着れないのか?」
虹歩にしてみれば、今日一日女児服で過ごしたとはいえ基本的にはパンツスタイル・・・恥ずかしい制服の試着もしたが・・・だったのだ。日常着として、こんな可愛らしいデザインの服を着させられる事に抵抗があるのも仕方なかった。しかし、わがままを言ってみてもどうにもならない事を、なによりもお尻の痛みが雄弁に語っていた。
「き・・・着れるよ。」
ようやくショーツを穿き直すと、今日一日着ていたトレーナーを脱ぎ、虹歩はそのワンピースを頭からかぶった。不器用に両腕に袖を通すのを律月が手伝う。
「ふふ、着替えぐらい一人で出来ないと学校で恥かいちゃうぞ。」
「・・・こんな服、着慣れてないからだよ!」
ぶすっとした顔をして真剣に言い返す虹歩に、律月は本当の妹の様な錯覚を感じた。
背中のチャックを上げることができずに四苦八苦している虹歩を手助けし、ホックを止めて腰のリボンを後ろで可愛く結んでやると、以前から・・・自分たちが幼い頃から私が兄でこの子は妹だったのではないか・・・そんな感覚に律月は落ちいった。
「ほら、可愛くなったぞ虹歩」
律月が部屋の隅に設置された、可愛らしい姿身の前に虹歩を連れて行く。鏡の中には恥かしげに俯く美少女が立っていた。虹歩は初めて着る、その少女用の衣装に体全体で不思議な感覚を感じていた。昼間穿いたスカートより腰の位置が高い為、おへそのあたりから下半身にかけて布の感覚を感じず、妙な恥かしさがよぎる。
「虹歩ちゃん何してるの!早く手伝いなさい!」
階下から理音の呼び声がした。慌てて振り返る虹歩のスカートがヒラリと捲れ上がり、律月が男の子のような笑いを浮かべた。短くはないスカート丈だが、さすがに虹歩が着ると膝上丈になってしまい、自然に動きがおしとやかになってしまう。虹歩は両手でスカートを押さえる様にして階段を駆け降りた。
「遅いわよ。何してたの?」
理音は虹歩の姿に対して、まるで無反応だった。その様子が虹歩には『あなたは女の子なんだから、そういう可愛い格好をしているのが当たり前なのよ』とでも言われている様でますます恥辱をかき立てる。
「ほら、早くそこのエプロンを付けなさい。」
台所に置かれていたのは、純白の真新しいエプロンだった。しかしそれは調理実習に使う様なシンプルな物ではなく、フリルのたっぷりと付いたハート型の胸当てに、同じくフリルたっぷりの前あて、肩紐までふりふりのまるでメイドさんの様なエプロンだった。
『ここまでしなくても』と思ったが口にも出せず、虹歩は顔を赤めながらそれを身に着ける。可愛らしいワンピースとマッチしたその姿はまるでエプロンドレスを身にまとった幼女のようだった。
「虹歩ちゃんが以前通っていた頃とは違うから知らないと思うけど・・・」
理音が玉葱を刻みながらゆっくりと虹歩に言い聞かすように話し始めた。
「桃鳳の女子児童にとって、家庭科は国語や算数よりも遥かに大事な教科なのよ。お料理やお裁縫が上手く出来ない子は退学処分になる事もあるぐらいなんだからしっかり頑張らないとだめよ。まあ、かわりに女の子は体育の方が随分と甘いんだけど・・・あっそれは知ってるわね。そのおかげで虹歩ちゃん入学できたんだもんね。じゃあ、そこの人参剥いてくれる?」
施設にいた頃は料理など作る機会はほとんどなく、虹歩は不器用な手つきで包丁を動かし始めた。理音の話によると、自分のいた頃の桃鳳とは随分教育方針が変わっている様だ。虹歩は今更ながら自身の学園生活に大きな不安を覚えざるを得なかった。
「おっ、又可愛い格好しちゃって。」
すばらくして、待ちきれずに降りてきた律月が台所を覗きにやってきた。律月がニコリと笑ってたしなめる。
「だめじゃない、律月。男の子がこんなところ来るもんじゃないわ。」
「ごめん、ごめん。以前の生活の癖が出ちゃったかな。」
律月は頭をかきながら食卓に戻って行った。
「あのー・・・理音さん。」
そのやりとりを見て虹歩が疑問を投げかけた。
「いくらなんでも、男の子が台所に入いっちゃいけないとか・・・時代錯誤じゃないですか?」
「うん。私もそう思うわ。」
虹歩はますます首を傾げる。
「これはね、水野家や私の考えじゃなくて、桃鳳の方針なのよ。」
「なっ!・・・」
「『男の子は堂々として強くあれ。女の子はおしとやかに優しくあれ。』って感じかな。あそこでは男の子は家事なんて細かいことをしちゃいけないって考えなのよ。まっ、虹歩ちゃんも通うようになれば分かるから・・・・さて、お腹を空かしたお兄様に食事をお運びして。」
両手に皿を渡されて、仕方なく虹歩は配膳を始めた。それ以上詳しく聞くのも怖い気がして、虹歩は『大丈夫。一度通った学校なんだから』と自分に言い聞かせた。

次の日から、本格的に女の子としての生活が始まった。朝は学校に行く時に合わせて7時起床。『子供は早く寝るように』といわれて夜は10時には寝さされているので辛くは無かった。朝起きると枕元には、今日着るべき服が一式置いてある。夜中に理音が用意したものだ。『女の子は身だしなみを大切に』という事で、まずは顔を洗い髪を整える。髪の毛は丁寧にブラシでといた後、結わえたりしてアレンジする事を義務付けられていた。洋服は理音と律月がモールで選んだ可愛いデザインの服ばかりである。フリルの付いた大きな丸襟のブラウス、裾がスカラップのフレアースカート、胸に大きなリボンのついたワンピース・・・どれも恥かしさで死んでしまいたくなる様な衣装だった。
その衣装を身にまとい朝食を作るのも与えられた義務だった。トースト・ベーコンエッグ等の簡単な物で許されていたが、虹歩にとっては大変な作業だった。ましてや、ふりふりのエプロン姿で律月に給仕するのは屈辱感に溢れた事だった。
午前中は転入に向けての予習を命じられていた。買い物に行った翌日には机やタンスが届いた為、今の虹歩の部屋は小学生女子の部屋にしか見えない。可愛らしいアニメキャラの学習机に春から使う小学生3年生向けの教科書を並べ、理音が用意したドリルを解く。本来は高校生になる自分がこんな事をしてるなんて・・・と考えると涙が出そうになる時もあった。しかし、おそらくは桃鳳独自であろう教科書の内容は、とても小学3年生用のものとは思えず、油断すると虹歩も間違ってしまいそうなレベルだった。
昼食と夕食は理音に料理を教えてもらいながら一緒に作る。しかし、食事の際に使用する食器や箸までもが虹歩の為に用意された可愛らしいデザインのもので、一時も自分が女の子である事を忘れることはできなかった。
午後は強制的に女の子向けのアニメを見たり、漫画を読むことを指示された。学校に行って皆と話が合う様にという配慮らしい。その合間にも掃除や洗濯を手伝う。洗濯は虹歩にとって嫌な仕事だった。否応無しに自分の身に着けている物を実感するからである。律月の身に着けていた大きなトランクスと、自分用の可愛いらしい小さなショーツを比べて、溜め息をつく事もしばしばだった。

その様な生活が2週間続いた。女の子にはまだまだ成りきれない虹歩だったが、新学期は待ってはくれない。初登校の日はいよいよ明日に迫っていた。