18歳の女子児童1

第一章 驚きの帰宅


サナトリウムを退院するのに5年が必要だった。

 中二の時に重い気管支の病気になり、水野虹歩(にじほ)は空気の綺麗な郊外の療養所に入院した。幸い家庭が裕福だったので、衣食住はもとより教育から娯楽施設まで完備したその療養所で他の子供たちと共に虹歩は小学校・中学校を卒業した。大抵の子供は中学校卒業までに病気が感知して退院するのだが、虹歩の場合は元来の体の弱さもあり18歳、高校二年の冬になって、ようやく退院する事が許可されたのだ。
 虹菜は入院した時から家族にはほとんど会っていない。3度ほど母親が面会に来ただけだが、もともと仕事で海外を飛び回っている両親だったので、虹歩はそれほど寂しくなかった。それよりも2つ年下の可愛がっていた妹の律月(りつき)に会えないのが寂しかった。律月は虹菜によくなついており、いつも「お兄ちゃん、お兄ちゃん」といっては虹歩にくっついて歩いていた。その虹菜が一度も面会に来てくれなかったのが虹歩には不思議だった。
 出所当日、虹菜を迎えにきたのは佐久間理音(りお)と名乗る若い女性だった。話によると彼女は虹菜の入院後、更に忙しくなった母親が律月の世話と教育の為に住み込みで雇った女性らしかった。20台半ばだろうか、教育係にしては若すぎる気もしたが、虹歩より遥かに高い長身、切れ長で知的な顔立ちは「厳しい教育係」としてはありあまる貫禄だった。少し緊張した虹歩だったが、理音の「これからよろしくね虹歩ちゃん」という、優しげな口調に一気に打ち解けてしまった。高二にもなる男の子に対して「虹歩ちゃん」というのは少し失礼だなとも感じた虹歩だったが、中二の時からほとんど成長していない150センチ足らずの小柄な体に、少女のような可愛らしい顔立ちの虹歩にしてみれば仕方なかったかもしれない。虹歩は理音の運転する車で懐かしい家に帰ることとなった。

「おかえりお兄ちゃん。」
理音の後について、まるで他人の家に来た様に恐る恐る玄関を開けた虹歩を出迎えたのは驚くほどの美少女だった。スタイルの良い長身に腰まである艶々とした長い黒髪。整った眉の下の大きな瞳が虹歩を見下ろしている。
「り・・律月?」
その少女が律月だと気づくのに虹歩は数秒を要した。
「み、見違えたね。」
「当たり前よ、私だってもう16歳になるんだからね。」
「う、うん・・・そうだね。」
しかし虹歩がすぐに律月だと気づかなかったのはそんな事ではなかった。律月の体が成長して大人びた顔立ちになっているのはもちろんだが、虹歩は律月のその表情から昔の様な無邪気で素直な感じ・・・が失われていると感じたのだ。
「早速だけど、二人とも話があるからリビングに来てくれる?」
二人の間の微妙な緊張感を解く様に理音が割って入った。
「少し言いにくい話なんだけどね・・・」
大きなリビングの来客用の椅子に二人を座らせ、紅茶を注ぎながら理音が話し始めた。
「虹歩ちゃんの通う学校の事なんだけど・・・」
「えっ?僕は、転向前に通っていた桃鳳の高等部に通えるつもりだったんですけど。」
桃鳳学院というの幼稚部から大学まで同じ敷地内に備えた名門の学校である。地元の名士である水野家の子供は代々この学園に通うのが習わしの様になっており、虹歩も療養所に行くまではこの学園の中等部に通っていたのである。
「それがね、一ヶ月前に療養所で編入試験を受けてもらったでしょ?あの成績があまり良くなくて、高等部への編入は無理ということなの。」
虹歩は青ざめた。
「で、でも僕は前の高校では成績も悪くなかったし、この間のテストもわりと出来た気がするんですけど・・・」
理音がカップを置き、一息つくと決心した様に言った。
「田舎の学校と桃鳳ではレベルが違うのよ。実はね、あのテスト・・・中等部用のだったのよ。」
「ええーっ!どうしてそんな事っ!」
「元々、高校への編入は無理とご両親も思ってらっしゃったみたいね。そこで中等部レベルならと思ったんだけど、それでもあの点数ではねぇ・・・」
虹歩は思わず椅子から立ち上がった。
「そ、そんなはずないですよ!ほとんど通っていないけど、これでも僕は桃鳳の中等部には合格したんですよ。」
理音はため息をついた。
「・・・うーん・・・知らないほうがいいと思ったんだけど、どうせその内耳に入るだろうし・・・聞いておいた方がすっきりするわね。実はね、虹歩ちゃんが桃鳳の中等部に入学できたのは、お父様の力添えが大きかったのよ。」
「ど、どういうことですか?」
そういいながら虹歩には大体の想像はついていた。地元の名士であり資産家である父が、なんらかの形で多額の寄付をしたのであろう。
「そういうことよ。ショックだろうけど現実として受け止めなきゃいけないわ。虹歩ちゃんが入院してから理事長が変わってね、そのことも問題にあがったの。今の理事長は実直な人だから、虹歩ちゃんが帰って来るからといって、自動的に高等部に編入というわけにはいかないのよ。」
「そ、それじゃあどうなるんですか!?今さら他の高校に通う事になるんですか!?僕は両親に言われて必死に頑張って桃鳳に入って、向こうでも桃鳳に戻れる様に一生懸命勉強してきたんですよ!」
「虹歩ちゃん、落ち着いて・・・他の学校に通わせる事はできないわ。これはご両親からの厳命です。水野家の子供は絶対に桃鳳大学の卒業生でなくてはならないそうよ。」
「じゃあ、どうすれば・・・。」
虹歩の目には涙が溢れていた。
「ひとつだけ方法があるの・・・虹歩ちゃんが桃鳳に入る方法がね・・・。」
「だって、今お金では無理だって!」
「虹歩ちゃん落ち着いて。これから言う事をよく聞いてね」
理音は姿勢を正すと、一言一言区切るように言った。
「虹歩ちゃん、あなたには明日、桃鳳学園初等部の編入試験を受けてもらいます。」
理音の言葉に虹歩は口をあけたまま硬直してしまった。その時、律月が小さくクスリと笑った様な気がした。


第二章 恥ずかしい面接


「そんな・・・僕はもうすぐ高三ですよ!小学校に編入だなんて・・・」
「もちろん虹歩ちゃんの気持ちは分かるわ。18歳にもなって小学校だなんて恥ずかしいでしょう・・・。でも、ご両親から、虹歩ちゃんがどれほど抵抗しても受けさせる様にって私も言われてるの・・・そうそう、明日の試験で良い点を取れば高校にだって入れるかもしれないわよ、」
そう言いながら、理音は虹歩の成績ではとても桃鳳の高等部に入れないことを分かっていた。
「う、うん・・・でも・・・。」
「もうそれしか方法は無いのよ。さっき言ったようにご両親も了解されてるし。今回は事情が事情だから、来年は飛び級で高等部に行けるかもしれないわよ。」
「う、うん・・・」
「ねっ、少しの間だけ頑張りましょう。他の学校なんかに行ったら二度と桃鳳には戻れないし、なによりご両親ががっかりされるわよ。」
「ちょっと考えさせて欲しいんですけど・・・」
虹歩の心が少し動いた隙を理音は見逃さなかった。
「じゃあ、とりあえず明日は受けにいこうね。もう明日受けないと新学期には間に合わないそうよ。よし!じゃあ、決定ね。明日は早いから今日は早く寝なさい。」
理音は話を打ち切ってしまった。生来気が弱く、他人の言葉に逆らえない性格の虹歩は納得いかない内に試験を受ける事を承諾させられてしまっていた。
「じゃあ、私先に寝るから。」
律月は感情の無い声でそういうと、立ち上がった。
「ちょ、ちょっと律月・・・」
虹歩は呼び止めたが、律月は黙って出て行ってしまった。
「今晩はゆっくりと話したかったのに・・・」
律月の冷たい態度が気になった虹歩だったが、今の自分の立場を考えるとそれどころではなかった。

「さっ、これに着替えて」
翌朝用意された衣服を見て虹歩は絶句した。そこには本当に小学生が着る様な半ズボンのスーツが用意されていたのだ。
「こんな・・・格好で行かないといけないんですか!?」
「今日は面接もあるのよ。虹歩ちゃんが18歳だってことは一部の職員しか知らないからね。ばれないように小学生らしく振舞うのよ。」
「そ、そんなー・・・」
渋々おめかし服に着替えた虹歩は再び理音の車に乗せられ、隣町にある桃鳳学園に連れてこられた。虹歩は車から降りるのがためらわれた。ここは自分が5年前通っていた学校なのだ。あの頃の同級生は高等部に通っているはずだ。こんな小学生の様な姿を見られるのは耐え難い屈辱だった。
幸い平日でもあり、誰にも会わずに虹歩は初等部の敷地内にある面接場まで来ることができた。虹歩は理音に教えられた通り
「水野虹歩11歳です!」
と恥ずかしがりながら挨拶し、面接が始まった。3人いる職員の質問はありきたりの簡単な事ばかりだったが、途中、真ん中に座っていた校長と思われる女性が他の二人の職員に席を外す様に命じ、虹歩に緊張が走った。
「さて、水野虹歩くん。わたしはあなたの事は全て聞いています。」
40代前半だろうか、校長にしては若いその女性は落ち着いた声で話し出した。
「実は私はあなたのお母さんとは古い付き合いで、その事もあって今回はこのような無茶な事を許しているのです。本来ならば、18歳の子をこの初等部に編入させるなんてとんでもありません。」
校長は少し強い眼で虹歩を見つめた。それだけで虹歩はすくみあがってしまう。
「虹歩くん、あなたに尋ねます。あなたは18歳の身でありながら本当に本校に入学する覚悟があるのですね?」
当初は理音にいいくるめられて、とりあえず試験だけでもと思ってやってきた虹歩だったが、目の前で校長に「特別なはからいで」などという様に言われては虹歩の性格ではとても「いいえ」とか「自信が無い」とは言えなかった。代わりに口から出たのは
「はい、みんなにうちとけるように頑張ります」
という言葉だった。虹歩はすぐに後悔したが、もちろんそれをとりけす度胸も無かった。
「では、別室で筆記試験を受けてもらいます。合格すれば4月からの6年生への編入を認めましょう」
『ああ、どうしよう・・このままじゃあ本当に小学生にさせられてしまうよ・・・』
心で焦る虹歩だったが、動き出した流れはとめられなかった。
「良かったわ、虹歩ちゃんがやる気になってくれて。これでわたしもご両親にいい報告ができるわ。」
理音の言葉に虹歩はますます逃げ出すわけには行かなくなった。

筆記試験はさすがによくできた。まさか手を抜くわけにもいかず、試験の後簡単な体力検査を受け、理音と虹歩は別室で待機させられた。
30分ほど待たされた後、虹歩は再び最初の面接室に呼ばれた。中には校長が一人沈痛な面持ちで座っていた。
「あ、あのう、試験の結果がよくなかったんでしょうか?」
虹歩は恐る恐る尋ねた。
「正直に結果を伝えます。」
虹歩はゴクリと唾を飲んだ。まさか、ここまで騒いだ挙句に小学校にまで入れないのでは情けなさすぎる。
「試験結果は上出来といわないまでも、まあ5年生ならやっていけるくらいの成績でした。」
「5、5年生!僕は桃鳳では小6並みの学力も無いという事ですか!?」
「まあ、そういう事になりますね。一応あなたも一度は初等部を卒業しているんでしょうけど・・・お父様と前の理事長には困った事ですね・・・。」
虹歩はがっくりと俯いてしまった。
「じゃあ僕は5年生としてこの学校に通うことになるんですか・・・。」
校長は少し厳しい口調で言った。
「話はまだあります。たしかに、学力的には5年生ならなんとかやっていけるでしょう。問題は・・・体力測定の結果です。」
「ど、どういう事ですか!?」
「知っての通り、わが桃鳳学園では文武両道を目指しており、運動能力においても学力と同じくらい重きを置いています。そして虹歩くん、あなたの運動能力は長期間療養していた事を差し引いても酷すぎます。これでは5年生にはとても編入させられません。」
「そ、それじゃあ、どうなるんですか、不合格ってことですか?」
「そう言いたいところですが、実は私もお母さんに強く頼まれていることもあり、また病気で長い間休学していた児童を突き放すのも本意ではありません。」
「で、では・・・編入させてもらえるんでしょうか?はっきりして下さい!」
ここに来るまでは、初等部に入学することをためらっていた虹歩だったが、今はなんとか編入したい気持ちでいっぱいだった。
「わたしからの最後の譲歩です・・・。」
校長は眼鏡を外すと、虹歩の方を見据えて話し出した。
「幸いにも女児児童には運動能力の制限はありません。水野虹歩くん、女児児童としてなら3年生に編入を許可しましょう。」
虹歩は後ろから頭を殴られた様な気分だった。


第三章 もうひとつの逆転


「じょ、女児児童!?僕に女の子の振りをしろっていうんですか!?」
「振りというか、女の子になってもらいます。それが虹歩君がわが校に入る事が出来る唯一の選択肢です。」
「そ、そんな・・・いくらなんでも無理です。絶対にばれてしまいますよ!」
「そうかしら?虹歩君ちょっと立ってみて。」
虹歩はゆっっくりと椅子から立ち上がった。校長はあらためて虹歩の体を見回す。
「身長はいくつだったかしら?」
「う・・・・150センチです・・・。」
「嘘おっしゃい、どうみても145ぐらいしかないわよ。それにその華奢な体・・・確かに小学3年生、9才の児童としては立派な体格ですけど目立つほどじゃあないわ。現にあなたより大きい3年生の女児児童は我が校にはたくさんいます。」
校長は手元の資料を開いて頷くように言った。確かに体格の事を言われると虹歩は言い返す言葉が無い。元々、中1としても華奢だった体は療養所にいってからもほとんど成長する事無く、今では虹歩の大きなコンプレックスになっていた。
「で、でも無理です・・・恥ずかしすぎます!」
「では、仕方ありませんね。残念ですがあなたと会うのは今日で最後という事になります。」
校長は理音に目配せしながらわざと冷たく言った。理音があわててフォローする。
「虹歩ちゃん。校長がこれだけ言って下さってるのよ。虹歩ちゃん頑張るって言ったじゃない。」
「う、うん・・・でも絶対ばれちゃうよ・・・。」
「大丈夫・・・」
理音は両手で虹歩の頬に手を当てた。
「虹歩ちゃん、こんなに白くて可愛い顔つきだし、髪型さえそれらしくすれば絶対可愛い女の子になっちゃうわ。」
「うっ・・」
虹歩も自分の顔立ちが女の子っぽいことは自覚していた。
「一度は決断したじゃない。5年生だとか3年生だとか、男の子だとか女の子だとか大した違いじゃないわよ。」
理音は虹歩が妥協し始めたのに気づき、強引な説得の仕方を続けた。
「・・・う、うん・・・」
「じゃ、決まりね。校長先生、先の条件で編入をお願いします。」
「え、えっ!ちょっと待って・・・」
「じゃあこちらにサインして下さいね。」
二人は虹歩を無視して話を進め始めた。
『私は本学への入学を希望し、在学中は全て学院の指示に従います。』
そう書かれた入学同意書が虹歩の前に置かれ、校長がボールペンを手渡した。虹歩は数秒躊躇ったあげく渋々同意書にサインした。
「ふー。これで私も安心したわ。頑張ったわね虹歩ちゃん。」
そい言われても虹歩はちっとも嬉しくない。18歳の自分が小学3年生、それも女児として入学しても頑張ったもないもんだ。
「では、これは入学のしおりになります。理音さん、保護者としてよく読んでおいて下さい。では4月に会えるのを楽しみにしてるわよ虹歩くん・・・いや虹歩ちゃんだったわね。」
虹歩の頬がほんのりと赤く染まった。

悪夢を見続けている様な気持ちで虹歩は帰宅の途についた。平日なので中学校に通っていた律月が帰ってきた後、昨日と同じ様に三人はリビングに集まった。
「と、いうわけなのよ。律月ちゃんもショックだとは思うけど協力してね。」
まさか、隠しておくわけにもいかない。妹の前で今日の昼間の恥ずかしい話を語られ、虹歩は下を向いたまま小さな声で呟いた。
「律月・・・ごめん。」
俯いているため律月の表情は見えない。きっと、情けない兄に落胆しているだろうと考えていた虹歩に以外に言葉が返ってきた。
「理音さん・・・これで私ふっきれました。」
『ふっきれた?』一体何の話をしているんだろう?
「兄もこういう事にしまった様なので、私も覚悟を決めます。」
虹歩には律月が何を言っているのか全く分からなかった。
「そう、良かったわ。私も協力するから頑張っていきましょう。」
「り、理音さん、一体何の話をしているんですか?僕にも説明して下さいよ。」
虹歩はたまらず割って入った。
「そうね、もう少し黙っているつもりだったけど、いいわ。話してあげる。律月ちゃんもいいわね?」
律月がこくりと頷く。
「虹歩ちゃん、あなたが療養所に入院する事で、ひとつ問題が沸き起こったの。そう、この水野家の後継者の話・・・。」
「えっ?それは、もちろん僕が・・・長男だし。」
「そう、当然そのはずだったんだけど、あまりにも療養生活が長すぎたのよ。高校生、16歳になっても一向に退院できない事にお父様は苛つかれたの。」
虹歩の頭に嫌な予感が走った。理音が続ける。
「で、ごめんなさいね、もともと成績も良くなかった虹歩ちゃんには跡は継がせないと・・・そこに白羽の矢が立ったのが律月ちゃんなの。」
虹歩にとってはある程度予想した事だった。虹歩にとって水野家の後継者という事には執着はなかったが、それより自分が父親に見捨てられた事がショックだった。しかし、ここで虹歩にひとつの疑問が浮かんだ。
「で、でも理音さん。水野家の跡取りは男子でないといけないって、僕はお父さんに聞かされた事があるんだけど・・・。」
「そう、その事なの、律月ちゃんが『覚悟を決めた』って言ったのは。」
「ま、まさか・・・」
「そう、律月ちゃんはこれから男の子として生きていく事になるのよ。ちょうど虹歩ちゃんと入れ替わる様にね。」」
「そ、そんな・・・律月!律月はいいの?男になるなんて!」
律月は虹歩を見つめ微笑を浮かべた。
「うん、もちろん私も嫌だったし凄く悩んだわ。でも今日のお兄ちゃんの話でふっきれちゃったの。どんな立場でもどんな格好でも私は私だもの。」
「そ、それはそうだけど・・・」
「ありがとう律月ちゃん。そういう事だから虹歩ちゃんも覚悟を決めて女の子になりましょうね。今日から虹歩ちゃんは律月ちゃんの妹ね。」
今日、多くのショックな言葉を聞かされた虹歩のとってそれはとどめの一撃だった。
「じゃあ、明日から律月ちゃんは男の子、虹歩ちゃんはその妹として生活してもらいます。」
「えっ?僕が女の子の振りするのは学校だけじゃないんですか!?」
虹歩があわてて聞き返す。
「わかってないのね。いきなり女の子として学校に行ってもぼろが出るに決まっているでしょ。来月新学期が始まるまで、虹歩ちゃんにはじっくりと女の子としての教育を受けてもらうわよ。」
虹歩は背筋が寒くなった。まさか家庭内でも女の子として生活させられるとは想像していなかったのだ。
「そうね、まず必要なのは当面の生活用品ね。明日は土曜日だから午後から3人で買い物に行くわよ。」