ロリコンにご用心




 朝の通学路。
 何気ない日常の中に、誰もが認める仲睦まじい姉妹の姿があった。

「お姉ちゃん、乙葉のことすきー?」

「もちろん好きだよー」

「ほんとかなー?」

 高校生になる大きな姉は、S学生の妹にせがまれるまま彼女をおんぶしている。
 生まれも育ちもこの町で暮らしていた二人。ご町内でもわりと顔を知られた存在で、行き交う人々はみんな微笑ましい視線を送っていた。

「ほんとにほんと、大好きだよ、乙葉ちゃん」

「きゃあ、うれしい〜♪」

「〜♪」

 姉の背の上から喜ぶ妹は、白いブラウスにコットンカーディガン、そして三段フリル付きのミニスカート。ツインテールのお下げ髪に良く似合うお姫様風のファッション。
 発育途上の身体で背負うランドセルもまた、愛らしさに磨きをかけていた。

「乙葉もね、お姉ちゃんのことがだーいすきなの。ずぅ〜と一緒にいられたらいいのになぁ」

「乙葉ちゃん……」

 トゥンクと胸をときめかせた姉は、流れるような黒髪に大人びた顔立ち。しかし愛のこもった真剣な眼差しをS学生に送っている。慣れた手つきでおんぶからお姫様抱っこに変えると、まるでプロポーズでもするかのように白昼堂々囁いた。

「……じゃあ今夜は、久しぶりに、一緒にお風呂。入っちゃおうか?」

「ほんとー?やったー」

 だが、二人の世界は長く続かない。
 青筋を浮かべて忍び寄る小さな人影が一人。地面を蹴って、一喝する。

「コラー!そこの犯罪者予備軍!」

 大きな瞳に燃え盛る闘志を宿し、色ぼけ中の女子高校生を睨みつける青少年。身体つきこそ小柄だが同じ高校の男子制服を着ている。自信たっぷりに袖をまくった腕は細いが、今にも鉄拳制裁も辞さんと力が入る。
 高校二年。『笠置陸』17歳。
 彼こそS学4年生『笠置乙葉』の血のつながった本当の兄だった。

「また陸ってば、うっさいのが来たなぁ」

「なにがうるさいだ、智子!毎度ウチの妹に変なことしやがって、このロリコン!乙葉が変な気をおこしたらどうしてくれるんだ、今日という今日は絶対に成敗してくれる!」

 『滝沢智子』という幼馴染を突き飛ばし、乙葉を救出。
 大切な妹を背中に隠しながら、恫喝するポーズ。たわわと実った彼女の胸が近づいてくると、「しっしっ」と犬みたいに追い払おうとする。
 しかし、いざ喧嘩沙汰になればいくら男であったとしても負けてしまう、二人の体格差ははっきりしていた。

「り〜く〜、人聞きの悪いことをいわないでよ。わたしはロリコンじゃないし、犯罪者予備軍でもないよ」

 グラビアモデルにも負けないスタイルの良さを持ちながら、だけど少しだけ歪な笑顔を傾ける。

「わたしはね、ただ穢れを知らない天使のような乙葉ちゃんのことを、心から愛して愛してあいして……とーっても愛しているだけなのよ。つまりは愛、純愛。うん、ラブなのよ、ラ、ブ」

「カ、カッコイイこと言っても、S学生相手だと変態だからなそれ!」

「ふーん、カッコイイとは思うんだ、わたしのこと?」
 
 挑発するように智子は返す。

「い、今のは言葉のアヤだからな。お前なんて、お前なんてえーっと、とにかく変態だ変態」

「うわっ、失敬なやつ。ほんっと乙葉ちゃんとちがって、陸ってば昔から性格がひねくれてて、イヤなやつだよねぇー」

「ねぇー」

 懲りずにまたくっついている乙葉と智子。
 バカップルみたいに頬を寄せ合って、同じような笑顔を並べた。
 共に容姿端麗の美少女・美幼女であるからこそ、絵になる二人。神経質な陸は、乙葉の本当の兄であるにもかかわらず二人の間に入ることができずにいて、最近は益々怒りっぽくなっていた。

「乙葉も乙葉だからな。こんなやつの言うこと本気で聞いちゃダメだぞ」

 それに対し、妹の乙葉は不思議そうな顔をする。

「どーしてだめなの?」

「あ?」

 普段はとても聞き分けのいい陸の妹。けれども、智子のことになると勝手が違った。

「乙葉、ぜんぜんイヤじゃないよ。お姉ちゃん優しいし、カッコいいし、いつも乙葉が困っていたら助けてくれるんだから」

 嘘偽りのない素直な言葉だからこそ、陸は傷つき智子は至福に浸る。
 確かに智子は同世代に比べても顔立ちがよく、そこいらの男子よりもよっぽどカッコイイし綺麗だ。勉強もスポーツも陸よりもはるかにできる。同性にもモテて当然。
 一緒にいる時間はほとんど変わらないはずなのに、明らかに乙葉は智子の方を好いていて、智子のことは「お姉ちゃん」と呼び、本当の兄である陸のことを「陸お兄ちゃん」と少し他人行儀な言い方をするのも気に食わない。

「ねえ、陸お兄ちゃんはどうしていつもお姉ちゃんに意地悪するの?」

 ――それでも陸にとって乙葉は、大事な妹であることには違いない。

「む」

 大事だからこそ真剣に、時には言葉も強くなってしまうのは仕方がなく、結局陸一人が空回りしてしまうことも少なくなかった。

「好きなのに、どーして乙葉、お姉ちゃんと一緒にいちゃダメなの?」

 乙葉はさらに食い下がり、陸もたじろいだ。

「どーしてって、そりゃ……なんてっていうか……智子はもう高校生でお前はS学生だし、色々問題があるっていうか、第一智子はだけど……アレが……」

「アレって?」

「うぅ」
 
 不意に言葉に詰まる陸。キラキラとした妹の瞳に、真実を告げる勇気が出なかった。
 どこか他人事のように見ている智子。
 彼女には、ロリコンとはまた別に、人には言えない秘密があって。

「と、とにかく、ダメなものはダメなんだ。お兄ちゃんは許さないからな、ぜったい」

「ぶー、おーぼうだ、おーぼう」

 わかってもらおうと努力こそしているものの、涙さえ浮かべる乙葉の前に、これ以上のことは言えない。言葉に詰まった陸は、ふてくされたようにそっぽを向いてしまった。
 そこへ、我が物顔の智子が追い打ちをかけてくる。

「そーだ、そーだ。他人の恋路をじゃまするやつは馬に蹴られちゃうんだぞ〜」

「だぞ〜」

「お邪魔虫はあっちいけ〜」

「ばいばい、陸お兄ちゃ〜ん」

「くぅぅぅぅ、このバカ野郎どもが!」

 息の合った連携波状口撃に、結局今日もまたひとりだけ怒って先に行く。

「……」

 それでも、二人が追いかけてくれることもなく、後でフォローされることもなく、背後から聞こえてくるキャッキャウフフという声がまた、彼の怒りを燻り続けていた。





 陸と智子。
 家が隣同士の二人は、昔はとても仲のいい親友同士だった。
 自宅に帰り、押し入れの中のアルバムを開いてみると、そこには今となっては考えられないほど距離の近い幼馴染が映っている。

(この頃はまだ、仲がよかったんだけどな)

 S学5年生の頃の自分を、物憂い気に見つめている陸。
 写真の中では小さな智子と、今とはあまり変わっていない陸が、共に泥だらけの笑顔でピースをしていた。
 それはまだ乙葉が生まれて間もない頃のことだった。

(はははっ。そうそう、小さい頃は俺の方が身長高かったんだよなぁ、それでよく俺が兄で、あいつが女のくせによく弟に間違えられたっけ……くっそぉ、懐かしいなぁ)

 陸は固い頬を緩めて、小さなため息をこぼした。

(学校でイジメられそうになったときも、俺が身体を張って守ってやったのに。どうせあいつは、覚えていないんだろうけど)

 物心がつく前からずっと一緒にいた幼馴染。
 妹のようで、弟のようで、いるのが当たり前で。
 乙葉が生まれるまで、実は喧嘩らしい喧嘩も一度もしたことがなかった。
 アルバムにはS学校の時も、幼稚園の時も、はたまた赤ん坊の時まで一緒に映っている。

(イヤミったらしく笑いやがって、お前のせいでこんなに悩んでいるんだぞコノヤロー)

 時折胸が張り裂けそうになる。はっきりとした理由はわからないが、気持ち悪い。
 中学校以降の写真を見てみると、笑顔の自分は徐々に少なくなり、隣にいたはずの幼馴染は妹の写真に映ることが多くなった。

(乙葉がいなければ、今でも俺たちはあの頃のまま仲が良かったのかな……なんて、イヤなやつだよな、俺)

 智子ほどではないが陸も妹に弱い。
 だからこそ、低身長かつ童顔でちっともお兄ちゃんらしくない自分の容姿等を密かに気にしていて、なおのこと自分を超えて美しく成長した智子が妬ましかった。

(そうだ、悪いのは乙葉じゃない。乙葉のことしか見ていないアイツが悪いんだ)

 パタン、と昔のアルバムを閉じながら陸は仏頂面を浮かべる。
 幼馴染とはずっと険悪な関係が続いていて、思い出は綺麗なままにして胸の中にしまい込んでいた。

(今更、智子のやつとの仲を戻せるとは思っていない。だけど、あのロリコン趣味だけは絶対に俺が何とかしないと)

 使命感に燃える陸は、思い出したかのように見渡す。
 広い子供部屋の半分は乙葉の聖域。
 女の子らしいインテリアやぬいぐるみ、智子好みの女児服も部屋の隅でかかっている。

 ――そのとき陸にロリコンを罰するための天啓が下る。

(だけどいいのか、さすがにここまでするのは……)

(でも、このくらいのことをしないと)

(なに躊躇しているんだ、あのバカの目を覚まさせるにはこれくらいの荒療治でないと)

(今まで中途半端なことしてきて、結局ずっと邪魔者扱いじゃないか)

(来年は乙葉も5年生。これを逃したらもうあとには……)

(ええい、毒を食らわば皿までだ。やってやる!)

 すべては愛い妹のためだ。
 そして道を外した幼馴染の行いを正すためだ。
 かつてないほどの使命感に燃える陸は、凛々しい表情を浮かべておもむろに服を脱ぎだした。





 そして翌日、事件を起こした。

「お、と、は、ちゃ〜ん。お姉ちゃんきたよ〜」

 いつものごとく頭お花畑で笠木家を訪れた滝沢智子は、リビングに入ってくるなりソファーに座る女子S学生に抱きついた。
 しかし、それは彼女の思い人ではない。

「――っ!乙葉ちゃんじゃない!」

 驚かせるつもりが逆に驚かされてしまった智子。
 目をこすってからよく観察すると、彼女にとっては信じられない顔が、信じられない恰好で、信じられないところにいた。

「陸!貴方、なんて恰好しているのよっ!」

 チャーミングな文字とラブリーなデザインの女児用Tシャツ、丈の短いストロベリー色のプリーツスカートはほどよく甘く、髪型も妹の乙葉に合わせたツインテール。リボンの髪飾りと靴下もポンポン付きで、赤いランドセルまで背負って幼い姿を見せる。
 さすがに少しサイズがきついものの、元の自分を捨て去って、完全な女子S学生を装った陸。ただし、その表情は極めて不機嫌だった。

「抱きつく前に気づけよな。俺が言うのもなんだが、わかるだろ?」

 はじめての女装に臆する気持ちも奮い立たせ、陸は憤然と胸を張る。
 腰を抜かしたままの智子を見下ろして、少しだけ赤い頬。
 多少のつくりこそ違えども、陸は乙葉に負けず劣らずの可愛い顔立ちをしているのだから。

「だって普通にJSにしか見えなかったし」

「だれがJSだっ!けど、ふっ。よもやこうもあっさりひっかかるとは……語るに堕ちたな、智子」

「は?急にかっこつけてなにいってんの?ランドセル背負ったままで」

 ぽかんと口を開け放つ智子に対し、陸はまっすぐ指を差した。

「お前は今、自分がロリコンであることを認めたんだ」

「なに、またその話?もういい加減にしてよね」

 やれやれと肩をすくめる幼馴染に、陸は女児服に書かれた文字や、フリフリスカート、それからランドセルを見せつけながらくるりと回る。

「いいや、よく聞け。お前、口では散々乙葉のことを好き好き言っておきながら、そんなの全部うそっぱち。このちっこい身体とぺったんこな胸、女子S学生だったら誰でもいいだろう。それすなわち乙葉じゃなくてもいい、こんな女児服と幼児体型に欲情しちゃう、お前は立派なロリコン野郎――いやロリコン女子だ、言い逃れするなよ」

 切ない気持ちを抱きながら、幼馴染の女の子を一喝する。
 智子が本当に乙葉のことを見ているのであれば、間違っていても自分のような男と見間違えるわけがない。間違えてしまうのは結局身体だけが目的なのだと、断定した。

「いや、あなたの女装が似合いすぎているとかそういう発想はない?」

「ない」

 陸は自信を持ってランドセルを背負っている。

「あと、自分で自分の身体のこと、ロリとか言って恥ずかしくないか?」

「言うなっ!」

「はぁ、ほんっと、陸って、ひねくれているよねぇ。……仲間に入りたいのなら、そういえばいいのに」

 智子は呆れた顔して目を眇め、ゆっくりと起き上がる。
 女子高校生としては身体の大きな幼馴染は、S学生の女児服でさえなんとか着ることができてしまう陸にとって、特に今はなおさら大きく感じていた。

「と、とにかく、これでお前の変態趣向は証明されたわけなんだからな。反省しろよ!これからはもっと節度をもってだなぁ、乙葉とも距離を……って、おい!聞いているのか智子」

 勝ち誇ったつもりでいた陸ではあったが、智子の方はまるで気にしている素振りなし。
 大声でわめく陸の恰好を見つめながら、またため息をこぼす。

「なんでそういう風になるのかなぁ?」

 怒るわけでもなく悲しむわけでもなく、髪をかき上げる。智子が本当に迷った時にでる癖だ。けれど、なにをそんなに迷っているのかが陸にはわからない。
 自分はただ、妹に対する過剰なスキンシップを辞めてほしいだけなのに。

「寂しいなら寂しいっていえばいいのに」

「はあ?」

「わたしたちに仲間外れにされて、拗ねているだけでしょ、本当は?」

「ちが、俺は――!」

 陸は最後まで声を出せなかった。
 寂しいなんて感情は忘れていたつもりだったのに、智子に見透かされて狼狽している自分がいることに驚いている。これではまるで、

(――二人の仲に嫉妬しているみたい)

 そんなこと言えるはずはなく。そんなことを言い出したら、今まで必死で保ってきたものが音を立てて崩れてしまう気がした。

(お、俺は二人のお兄ちゃん的な存在なんだ。今だって、本当はもっと敬われていないとおかしいんだから!)

 幼い智子の手を引いて遊びに連れて行ったことも、小さな乙葉をおぶったことも、身体はまだ覚えている。
 けれども、智子はわかってくれない。
 陸は見た目通りのツンツンした女の子のまま、唇を尖らせてそっぽを向いた。

「陸、今着ている服さ、もしかしなくても乙葉ちゃんのでしょ?このこと、乙葉ちゃんは知っているの?」

 返事はない。
 そのかわりにギクリと陸の肩が波打つ。

「やっぱり勝手に持ち出したんだ。信じられない。こんなこと、いくら優しい乙葉ちゃんだって軽蔑するに違いないわ。――陸お兄ちゃんなんてだいっきらいって」

 智子は冷めた目をして淡々と告げる。
 完全に頭に血が昇っていた陸はそのときになってはじめて過ちに気づき、冷静さを取り戻すと同時に、急に顔色を悪くさせた。

「もちろんおじさんたちにも知られるだろうし。警察沙汰にしなくとも、乙葉ちゃんとは距離を置かれるかもね」
 
 ロリコンにたしなめられるのは、陸も到底納得がいかない。
 たしかに妹の服まで持ち出したことはやりすぎ感が否めないが、けれども、元をただせば目の前にいる智子のせいだと信じて疑わなかった。

「お、俺は悪くないし」

「言い訳しないの、見苦しいわよ」

「うぐっ、ぐ、ぐぅ」

 大きな声で叱られて陸ははじめて卑屈な自分を露わにする。

(――こんなハズじゃなかった)

 予定では、ロリコンを指摘された智子の方が、泣きべそをかいて今までのことを詫び、陸のことを見直してくれるはずだった。それが本来中学に入るまでの習わしであり、正しいのは常に陸だった。
 ところが今この瞬間正義は向こうにある。反省させるどころかむしろ叱責されて、いつものように空回りしてしまったことを自覚する。

(――――っ!?)

 そして、気づいてしまう。
 このままでは陸だけが二人から引き離されてしまう。
 乙葉、智子とも会えなくなってしまう。

「……い、いやだ」

 ぽつりと陸は誰にも聞かれることなく本音を漏らした。

「もうすぐ、乙葉ちゃんも帰ってくるけど、どうするの?」

「ど、どうするって……?」

 時刻は12時ちょうど。
 午前中ピアノのお稽古から帰ってくる乙葉は、まず間違いなく陸の女児装を見て驚くだろう。

「わたしはありのまま本当の事を話すけど、いいのね?」

「す、好きにすればいい」

 智子にできるわけがないと、陸はまだタカをくくっている。
 今までどんなにひどい悪態をついても、次の日には何食わぬ顔で接してくれていたのだから、今回だっておそらく、きっと、たぶん、悪い冗談に違いない、だろう。
 それなのに、陸は震えが止まらなかった。

「そう、じゃあ仕方がないね。陸、あなたとは長い付き合いだったけど、これで本当にサヨナラだから」

 ふぅ、と長いため息をついた後に、智子は携帯電話を取り出した。
 妹の女児服を着て可愛くなった陸のことをもう一度だけ見ると、今度はなんのリアクションもせずに電話してしまう。
 ワンコール、相手は乙葉か、あるいは陸の両親か。
 ツーコール、智子は決して手を止めない。
 スリーコール――陸が叫んだ。

「ちょ、ちょっと待てよ!」

「なに?」

 飛び込んできた陸を、智子はひらりとかわした。

「本気じゃないんだろ?なっ、さ、サヨナラって、本気で、俺のこと切り捨てるのかよ」

「だからそうだって言っているじゃないか」

 なおもコール音は続いている。
 ヒドイ、と思うよりも先に陸は切羽詰まっていて……
 智子好みのスカートやTシャツやランドセルをしているのに、彼女はこちらを見ようともしなかった。

「やめろ、やめろってばおい、智子、やめてくれよ」

 小さなその手は携帯電話に届かない。
 ピンク色のスカートをふんわりはためかせながらもう一度飛びつくも、寸前のところで回避され、うつ伏せに倒れてしまった。 
 しかし智子は気遣ってくれないどころか、通話も切れていない。あれを取られてしまえばオシマイだ。

「やめろ、やめろ、智子、智子」

「わたし、陸とはもう、話をしないことにしたの」

「そ、そんなこというなよ。幼馴染だろ?」

「幼馴染だからって、何でも許されると思わないでよ」

「うぅ……っ」

 小さく呻く陸。
 鳶色の瞳からはひとりでに涙がこぼれはじめた。

(俺、こんな必死になって……これじゃまるで、本気で智子のこと、っっっっ!?)

 妹も大事だけれども本当は、それ以上に幼馴染の女の子に振り向いて欲しいと思っていて。
 その感情は不意打ちみたいに心臓を直撃してくる。
 陸は自分の想いに負けて、嗚咽混じりに頭を下げた。

「ごめん……ご、めんってば……ゆ、ゆるして……もう……しないから」

 今はそれが精一杯だった。

「……」

 智子は通話にでるフリをしながら真剣に見つめてくる。
 自分をごまかすことなど、陸にはもうできるはずもなくて

(嫌われてもいい、だけど――!)

 ぎゅっと智子の足の裾を掴み、涙ながら訴える。
 この手を離してしまえば、本当にもう二度と口を聞いてくれない、そんな気がしていた。

「寂しかったんでしょ?」

「……うん、寂しかった」

 くすん、と力が抜けて陸は頷く。
 心にトゲがなくなり、別人のようにすり寄っていく。
 口惜しいはずなのにもう強がりをいう勇気がなくて、人を恋しく思う。
 智子は電話することを辞めてすぐ、床にみすぼらしく突っ伏していた女子S学生姿の陸を軽々と持ち上げた。その逞しさにまた平たい胸が甘く疼いてしまう。妹の乙葉と同じだなんて、顔が紅潮して恥ずかしすぎる。
 もう、この人のお兄ちゃんでいたいなんて微塵も思わなくなっていた。

「最初からそう言えばいいのに」

「ご、ごめん」

 驚くほど簡単に言葉が出る。シュンとなる陸に智子は昔のように優しかった。

「陸はさ、昔からなんでもかんでも自分が一番じゃないと気が済まない性格だから……でも、本当に反省しなきゃだめだよ。これからは素直になるって約束するの、わかったか?」

「わかった反省する、何でもやくそくするから、だから」

「だから?」

「お、俺のことその、一人にしないでっていうか、その、もっとかまえっていうか、ううう」

 真に追い詰められていた陸は幼馴染の身体に抱きついて、力いっぱい。まだ眦に涙を残しながら上目づかいにお願いをした。

「素直になってくれるのならこんなことしないし、わたしだって、陸とは昔みたいに仲良くしたいと思っているのよ」

 陸の理解が追い付かない。
 どうして、智子に優しくされると涙が止まらなくなってしまうのだろう。
 彼女が何気なく置いてくれた手。
 触れてくれた肩が熱くて、耳の先まで真っ赤になり、自分が男であることを忘れてしまいそうなほど心地いい震えを心臓へと届けてきてくれる。

「陸って、そんなにわたしのことが『好き』なんだ?」

「あ……」

 決してイメージしないようにしていた言葉を聞かされ、陸は答えに困った。

「わ、笑わない?」

 いつも怒ってばかりいた自分が、少しおこがましくも思う。
 しかし智子は言う。

「はぁ?見くびらないでよ。真剣に好意を持ってくれている人のことを、わたしが笑うわけじゃないじゃない」

「うっぐ」

 真剣な眼差しの智子に陸は悔しくも見惚れてしまう。女の子でありながらも凛々しくて、自分が子ウサギにでもなったかのような気分。

「それに、今の陸はもう男じゃないでしょ。どこからどうみてJSだし。今更だけど、この服とてもよく似合っているよ。そのキッズTシャツ、陸のイメージにぴったり。フリルのスカートだって、すごく女の子らしくて可愛い」

 爽やかな少年のような笑顔で陸は口説かれて、小さな手を包み込んでくる。くらりときた。

「これはその、智子……ちゃんなら、こういうのが好きじゃないかって。ああもう、そうだよ、智子ちゃんの理想の女の子になりたくて、着たんだよ」

 急にまた悔しくなって、ポンポン付きの靴下で地団太を踏む。
 幼馴染の透き通るような瞳に耐えきれず、見栄を張っていたものがボロボロと剥がれていき、自分でも気がつかなかった可愛い自分が露わになっていく。

「じゃあ、作戦は成功だったわけじゃない」

 肩に手を置かれ、ゆっくりと智子の顔が近づいてくる。
 なにをするつもりなのかすぐにわかったが、陸は動けない。

(ええっ!?もしかしてキ、キス!?キスするの?俺と)

 おかしい。普通じゃない。けど、欲しい。
 雰囲気とかタイミングとかいろいろあるが、内なる陸は愛されているという証拠が欲しかった。つまり、幼馴染以上になったという証をもらいたかった。
 これは決して突然の事ではない。
 1年よりも、2年よりも、きっと自分はもうずいぶんと前から待っていた。陸は言われるわけでもなく静かに目を閉じた。

「たっだいまー!」

「――っ!?」

しかし神の悪戯か運命の罠か、唇が到着する前に、妹の声が時を凍らせる。
 短い春の夢が終わりをつげ、また元の悪友同士に戻っていく感覚が広がっていくのかと思ったけれど、

「……しーっ。続きは、お風呂場で」

 息が吹きかかる距離で話をされて、陸はこの後の続きを期待せずにはいられなかった。





 なぜこうなってしまったのか。
 変なスイッチが入ってしまったとしか思えない。
 決して押してはいけないスイッチが、今、入ってしまった。
 陸はこれから智子と二人でお風呂に入ることになっている。冷静になって考えれば明らかにおかしい。確かに昔はよくお風呂に入った仲だったとはいえ、これは可笑しい。 S学生の妹の目を欺いて、彼女が何をしようとしているのかよくわからなかった。

(乙葉がすぐ近くにいるっていうのに)

 幼馴染と一緒にお風呂に入るのはざっと10年ぶりくらい。あのとき陸は智子のことを妹扱いして、身体を洗ってあげたりもしたが今は全く状況が違う。

(こんなマニアックな格好までさせて、ばか)

 スカート付きのフリフリスクール水着などを着て、股間の膨らみさえ目を瞑ればどこからどうみて可愛い女の子。紺色の生地で全身を締めつけられているような感覚が抜けないが、不思議と今は心地よい。
 わざわざ髪型までお風呂用にまとめるよう指示するあたり、本気で智子は陸を女の子として求めているのだと知った。

「なにやってんのよ、陸。早く来なさいよ」

 ガラス越しに声をかけてくる智子は、お風呂場でもう身体を洗っている。その声に、まるで緊張感がなかった。

(心の準備がまだ、でも行かないと)

 少し遅れて、陸も緊張した面持ちでお風呂場に足を踏み入れる。
 平静を保ってはいるが、スク水でツインテで女の子で、真面目に考えすぎると頭が湧いてしまいそうだった。

「お、お邪魔します」

「お邪魔しますって、ここ、お風呂場だし、第一陸の家でしょ?」

「し、仕方がない、……でしょ」

 お風呂場は決して広くない。二人に入るのには狭く、白い壁と可愛い自分を映し出す鏡に囲まれた、シンプルなつくり。
 後ろを向いて座っている背中がすぐ目の前にあった。

(――うわ、久しぶりにみたけど、やっぱおっきい)

 自分に足りないモノが智子に会って、それを見て驚く陸。
 乙葉も知らない秘密。
 陸だけが知っている、智子の中のオトコのコ――すなわち、女の子でありながら持つ、陰茎。

(やばい、なんか、魅入ってしまう。やばい、ばれないようにしないと)

 自分のものと見比べ、すっかり仔猫と化した陸は悲しむことさえできずに唾を飲み込んだ。
 湯煙の中には女性らしい大きな二つの乳房とともに、美少女には似つかわしくない“陰茎”。
 当たり前のように陸より大きく逞しく、オトコというよりもオスという言葉を彷彿される。
 今でこそ快活な性格の智子だが、昔はそのせいでよくいじめられたりもしていた。
 しかし、だからといって智子が女性としての魅力を失っているかといえばそんなことはなく、一糸まとわぬ姿はヴィーナスと呼ぶのにふさわしい。巨乳と、陸上部によって鍛えられた美尻もまた艶めかしい限りで、一切の妥協がない。

「なに、ぼーっとしているの?こっちにきて、背中、流してくれない」

「うん」

 命令されたのが少し悔しく、だけど優しく声をかけられたことは素直に嬉しい。陸は、泡立つタオルを素直に受け取った。

「よいしょ、よいしょ、よいしょ」

「もっと強くしていいよ」

「ごし、ごしごし、ゴシゴシ、ゴシゴシ」

「別に声に出さなくてもいいんだけど。あー、でも、きもちいい。ありがとう陸」

「ど、どうもっ」

 鼻の頭に泡をくっつけながら陸は、自分の手で相手を良くすることは、思いの外楽しいことだということに気づく。
 けれども、まだ恥ずかしいので嬉しい顔を見せないようにする。

「そういえばさ、陸っていかにも男の子っぽい名前だよねえ」

「う、うん」

「でも今はスク水JSなわけなんだし、よし、決めた、これからは陸って名前はやめて『まろん』ちゃんって呼ぶことにしよう」

「そんな」

 急に決められてしまって、反射的に声を出してしまったが本音は違う。
 両親がつけてくれた17年間の愛着ある名前よりも、それ以上に好きな智子がつけてくれた『まろん』という名前に魅力を感じている。
 生まれ変って、智子モノになれるような気がして、興奮せずにはいられない。

(『まろん』になったら、もっと好きになってもらえる?もっと可愛がって、くれる? ……『まろん』だったら、可愛い格好をしても、いいの、かな?)

 頭が可笑しいことはわかっている。
 けれど、男らしさよりも目の前の人に尽くすことを幸せに思っている。

「おれ……まろん、まろんは、もう、まろんだから……」

 体を洗うスクール水着少女の手が止まったので、智子は背中越しに彼を見る。

「後、わたしのことはお姉ちゃんって呼んでね。これは命令。乙葉ちゃんと同じ……ううん、乙葉ちゃんのほうがお姉ちゃん。『滝沢まろん』はちっちゃいこだもんね」

「た、滝沢まろん?」

 決して妹には言えない秘密の姉妹になれて、艶めかしいため息。
 自分が特別に扱われている気がして、もっと大好きになってしまう。ごっこあそびはごっこあそびにならず、過ぎた行いであっても身体は感極まった歓びに震えていく。
 ぴとっと智子の背中に抱きつき、スクール水着の平たいお胸をくっつけた。

「お、お姉ちゃん……」

「んー、なぁに、まろんちゃん」

 背中に顔を寄せて姉の心音をきく。同級生の女の子をお姉ちゃんと呼ぶと、いけない気持ちになれて落ち着かないけど嬉しい。
 滝沢まろん。
 滝沢智子の妹。
 S学1年生。
 ランドセルを背負い、素直で、優しいお姉ちゃんのことが大好き。
 魂が継承されていく。

「おねえちゃん」

「まろんちゃん」

「おねえちゃん」

「まろんちゃん」

「おねえちゃん……」

 そして、まろんはまろんを興じることにした。
 天にも昇る気分とはこのことを言うのだろう。自然と顔がにやけてしまうのが止められない。

(まろんに、なるんだ、おねえちゃんのために……うん、もっと素直になろう)

 もう一度、まろんは姉の首に抱きついて尋ねる。

「おねえちゃん、あのね、まろんのこと、……その、す、すき?」

 爆発しそうな心臓を抑えて、妹の真似。
 だけど乙葉とは違い、はにかんだ表情を向けながら、期待のこもった目を向けていた。

「もちろん、大好きだよ」

「っっっっ!」

 感極まって昂るまろんは、圧倒的、感謝の気持ちしかなかった。

「うん、うん、うん。あり、が、とうっ……まろんも、すき、すき、へ、へへへ」

 勇気を出した甲斐があって、あったかい気持ちが胸の内側に広がる。
 そのとき確かに百合の花がお風呂場に咲いていた。

(ずっと一緒、ずっと、ずっと……)

 良くも悪くもみんなをひっぱっていくタイプだった陸は、今は献身的に智子のことを一途に思っていた。広い背中を一生懸命タオルで磨き続けながら、一番でなくてもいい。そばにいられることを嬉しく思った。

「そろそろ前も洗ってくれる?」

「うん、おねえ、ちゃん」

 ぎこちなくも明るく答え、まだお姉ちゃん呼びには慣れないものの移動する。
 スクール水着で四つん這いになって、そのまま彼女の股の間から顔を出すと、目の前には雄々しくそそり立つ陰茎。
 間近で見るそれは、まだ使い込んだ感じのない淡い色彩を持つ。少しの雄臭さをにじませながらまろんを緊張させた。

「どうしたの、まろんちゃん」

 雄の猛りに目を奪われてしまったことに気づき、まろんは恥ずかしそうに手で顔を覆う。

「その、お、おっきいなって」

「ありがと、もちろん綺麗にしてくれるよね?」

 覚悟はしていたつもりだが、まろんは目を丸くする。
 野性味あふれる逸物は、まろんという儚いメスの存在を感じてビクビク反応しているようだ。可愛いと言えば可愛いし、たくましいと言えばたくましい。鼻先に亀頭が触れそうなほど近くにあり、見つめるほど気がはやってきた。

(口は、無理。勇気がでない。でも手コキ、くらいなら……して、あげられる)
 
 おそるおそる顔を上げると、智子と目があった。
 微笑んではいたが少し苦しそう。
 幼馴染であるまえにもう姉妹だから、心が通い合っているのも当たり前で、その顔を見つめながらゆっくりと辛そうな陰茎に手を添える。赤ちゃん指からお父さん指まで順番にゆっくり力を込めて、

「あ、ほんとにシテくれるんだ?冗談のつもりだったんだけどな」

「〜〜〜〜っ!」

 ものの見事につられてしまった。
 けど、イヤな気持ちにはなれない。
 赤い顔して立派な逸物を握りしめ、熱さと固さと脈打つ速さに意識を集中させる。
 しかし石鹸塗れだったまろんの手は、ほんの少し力加減が変わっただけで、ぬるりと陰茎の上を滑った。

「はふっ、ひあんっ!」

 この可愛らしい悲鳴は智子のもの。

「ごめんなさ、まろん、ダメだった?」

「ううん、そうじゃないの。そうじゃなくって、その逆」

「逆?」

「気持ちが良すぎて、つい、声が出ちゃった。リアルJSのおてて、ほんっといい」

 智子はごまかすように笑って、とても嬉しかったことをまろんに伝えてきた。彼女なりに気にかけてくれているのだろう。
 その気持ちが、今のまろんにはなによりもご褒美。
 男の子としての価値はなくとも、こんなにも彼女を悦ばせることができるのだと自信に変わる。

「続き、お願いしてもいいかな、まろんちゃん」

 手を優しく取られて、再び陰茎を触らされる。表皮が先ほどよりも熱くなっていて、根元からの脈動も力強い。しっかり握りしめると、智子は満足げに口元を綻ばせる。

「しょ、しょうがない、なぁ」

「あ、できるならこっち向きながらシテ。恥ずかしがっているまろんちゃんの可愛い顔、もっとよく見たいから」

「……うれしぃ」

 けれどもまろんは言われた通りに、姉の顔を見つめながら手を動かす。仔猫のように甘えて、陰茎を掌で擦りつけるようにして、積極的に奉仕する。

「んんぅぅぅ、いいよ、上手、上手よ、まろんちゃん、いいこ……」

「はぁ、おねえちゃん、きもち、よさそう」

 石鹸の泡だけでなく漏れ出した先走り汁が合わさり、その手はより粘着性のあるものに変わっていく。凛々しい姉が自分の力で眉をヘナヘナさせていくのがまた、愛おしいと思えた。

(最後まで気持ちよく、シテ、あげたら……もっと、褒めてくれるかな?)

 などと考えていると、

「ひゃん」

 まろんの口から女の子らしい悲鳴が漏れた。
 スクール水着の生地に浮かび上がっていた小さなまろんの逸物を、いつの間にか智子が触っていたのである。まろんが気づいた後も悪戯な顔して、ピンポイントにいじくってくる。

「んひゅうう」

「お返し。まろんちゃんのココ、触ってあげるよ」

 まろんという女の子は智子を心から信じて崇拝しているが、敏感になりすぎていたアソコはすぐにでも暴発してしまいそう。自然と腰を前後させた。

「だ、だ、だめ、そこ、いじっちゃ、いや」

 淡い唇は花びらのように可憐で精彩。
 熱に浮かされた瞳はまだ男をしらない無垢なる光を宿す。
 すでに息が上がって、奉仕に集中できなくなって、一人だけ先に達してしまうことを遠慮してしまう。身体を疼かせたまま、まろんはセクシーに身をくねらせお願いしていた。

「わっ、わかったから、そんな泣きそうな顔しないでよ。少しずつなら、いいでしょ……ほら、こうしてさわるくらいなら」

「……うん」

 お互いに大事なところを触りあい、かつてないほど智子を感じる。オスとして、メスとして、ときめいている。

(はにゃあんってしちゃう。こんなの、りくらしくない……でも、こんなに優しいお姉ちゃんがいるのなら……まろんは、まろんのままでも、もう、いいかも……)

 今はただ先の事はあまり考えないようにして、まろんというスク水の似合う女の子を心から演じる。ピンク色に染まった指を這わせ、慣れない手つきに精一杯心を込めて尽くす。

「お、おおぉ、まろんちゃん……」

「シテほしいことがあったら、ところがあったら、まろんに、何でも言って」

 太い肉茎。まろんの手ではとても包み込めない。
 火傷しそうな熱さ。
 洗っているだけなのに、ちょっと動かしているだけなのに、敏感に蠢くそのさまはまろんのことを待ち望んでいるみたい。

「声かけとかも、できる?」

「声かけ?」

「わかる、よね?」

 まろんは、今度は男の子の気持ちになって答える。

「し、しこしこ、しこしこ……こんなかんじ?」

 ゲームや漫画で聞いたセリフをそのままいってみると、可愛い逸物は素直に跳ねて元気いっぱいになった。本気で気持ちよかったのかちょっとだけしぶいて、まろんのスクール水着の胸元にも付着する。

「こんなのでいいいんだ」

「ま、まぁ、その、まろんちゃんが可愛いからだよ」

「……」

 無言だが、可愛いと言われてまろんは紅潮する

「おちんちん、さん、苦しそうだから最後まで綺麗にしたほうがいいよね?しーこしこ、しーこしこ、しこしこ、しこしこ……」

 知る限りの性知識を活かして、女の子として敏感な亀頭を責めてみた。

「おおう!お、まろんちゃん、うっまい……!」

 まろんはこの上のないやりがいを感じていて、もっと気持ちよくさせたくて、もっと可愛いと言ってもらいたいと、思う。
 スクール水着と平たい胸を使って陰茎を抱き込んで、寄せてあげてもパイズリにはならないが、愛らしい両手とスクール水着で挟み込むように擦りつける。
 「天使かよ」と呟く姉の顔を見つめながら、ぎこちない笑みも返す。

(あっ、やばい、これ……おちんちんの震えが、直に、つたわってきて……唇にも、さきっちょ、あたってうる)

 しごくたび亀頭とキスをする。ちゅっちゅっと、浴室内にも音が透き通る。
 しかし全然イヤではない、むしろもっとしたい――身も心も可笑しくなっていき、蕩けた顔で頬ずりさえしてみせた。インモラルな光景だが、自分も智子も、より大きく興奮していくのがわかった。

「まろんちゃん……っ」

「きもち、いいんだね、お姉ちゃん。おれ……まろんので、きもちよくなっているんだ……なんかこれ、すごく……えっちってかんじ」

 夢から覚めるのはまだ惜しい。スリスリと、身体中のいたるところをつかって奉仕する。オスの熱さと固さと匂いを覚え込みながら、このために生まれたのではないかと錯覚するほどに心が痺れた。

「しこしこ、しこしこ……」

 しばらく手コキと頬ズリを繰り返していると、智子は目ざとく指摘してきた。

「ねえ、気づいている? まろんちゃん、さっきから自分の腰も動きっぱなしだよ?まろんちゃん。おちんちん触りながら、まろんちゃんも気持ちよくなってきたの?」

「うん、きもちいい。まろん、も……しこ、しこ、しこしこ……い、いぃ」

 丁寧に優しく、そしてもどかしく、機をうかがいながら交互に。お互いの股間を慰め、一つ一つの敏感な反応と表情を見せあい、気持ちを通い合わせる。
 
「素直でいいね、まろんちゃん。乙葉ちゃんとそっくりだ」

「んっ」

 ご褒美みたいなキスを智子がくれた。
 あまりに突然のことだからわからなくて、嬉しいはずなのに物足り気な表情を浮かべてしまう。

「はっ、くぅう……」

 痺れた唇はもう立派な性感帯だった。瞳を潤ませながらおねだりを繰り返し、陰茎についばみのキスを入れる。もちろん奉仕する手は止めないようにして、また姉に甘える。
 実のところ内心では、自分の破廉恥な行いの数々に、もんどりうって倒れたくなるほど恥ずかしがっていたが、もうウソはつけない。

(どうしよう、辛抱できななくってきちゃった……)

 ウズウズした身体はもう止まらず、両手いっぱいにボディーソープを塗りたくり、睾丸にもねっとりとしたマッサージを施す。ずっとそこだけ触れていなかったので、寂しがっているのではないかと肌で理解していた。
 ――射精シテほしい。
 そこが本来であれば赤ちゃんの素をつくるところで、繊細な部分だと知っている。恭しく重みを感じ、手の中で転がすように揉む。
 想いに焦がれて、あるはずのないメスの本能に翻弄されていた。

「んぬうっ、うっ……んっ、なんか、急に、大胆だね」

「だって、まろんは……おねえちゃんのこと、すきだから」

「おっふぅ……天使……わたしの妹、天使だった?」

 リビングからテレビの音が聞こえてきた。
 おそらく妹がすぐ近くまで来ているのだろう。
 にもかかわらず、ますますまろんは密着し、睾丸を愛しげに撫で回す。
 反対の手でじゃカリ首に指をひっかけ亀頭を重点的にしごく。泡まみれだが確かにそこは智子が一番感じてくれたポイントだ。だから痛くしないよう特に気を遣いながら、カリ首回りをくくり、ぬっぽぬっぽと指でつくった輪っかをくぐらせる。

「しこしこしこ、お姉ちゃん、こっちみてぇ。しこしこしこ……」

 震えながら緊張し、猫撫で声で繰り返す。

「まろんね、いけないこなの。お姉ちゃんのこれ……おちんちんさん、握り締めて……しこしこって……えっちなきぶんになっちゃったの……」

 跳ね回ろうとする逸物を抑え込み、いじりながら指の腹で鈴口を挑発する。感じやすいその筋を丁寧いじると、智子はわかりやすい反応をしてくれる。カッコイイ姉のそんな弱々しい顔がまた、まろんは可愛いと思った。

「ああぁぁあうっ、あ!そこっ!感じるっ、はぁあぁあ……んっ」

「しこしこ、しこしこ……くるしいの、お姉ちゃん?」

「そうじゃないけど、そうじゃないけど、まろんちゃん、いろいろ、えろすぎ!」

 まろんは強制的に手を止めさせられた。
 泡以上に溢れた先走り汁によって陰部はどこもぬれぬれで、熱気と共に色欲に塗れた姿を映す。かくいうまろんは、お気に入りの玩具を取り上げられた子供のように寂しがった。

(もうちょっとで、イキそうだったのに……)

 少し気がはやっていたことを反省するとすぐ、自分でも智子を満足させてあげることができることを確信し、自分の本当の居場所を見つけられた気がした。
 今度は呼吸を間違えぬようゆっくり表皮に触れて、ゴメンナサイの代わりに優しく指を伝わせる。絶対に逆らったりしないと、臣従する気持ちをのせて愛撫する。

「待って。まろんちゃん」

「どーして、まろん、これ、すきなのに」

「気持ちは嬉しいけど、わたしだけ先にイクのはなんか違うでしょ?イクときはまろんちゃんも一緒なんだから、ほらこっちおいで」

 顎を撫で荒れながら呼ばれて、おもむろに智子がまろんの脇に手を入れた。

(あ、だっこされてる。あはっ、そんな、かるがると)

 子供が親に「たかいたかい」されるみたいに持ち上げられ、濡れたツインテールの先がうなじにはりつく。

(コレされるの、意外と、嫌いじゃないかも……)

 屈辱はない、重力さえも感じない。自分が弱くて儚い存在なのだと思い知らされてもいい。
 智子の大きな手でモノのように軽々と持ち上げられると、一人ぼっちではないという強い安心感を得る。けれど、まろんは子供じみた優越感に浸りながら、また奉仕したい気持ちが加速していった。
 
「ここまできたらもう後には引けなくなっちゃうよ?いいの?まろんちゃん?」

 まろんのカワイイものが、スクール水着の中でおっきしていた。
 そのまま鏡に手をつき立たされて、背後から智子が覆いかぶさってくる。
 ――背面立位、というらしい。
 女が立った状態で後ろから男を受け入れるための姿勢。今のまろんにはふさわしい格好。
 華奢な腰はがっしりと捕まれ、丸いお尻を突き出すように命令される。スクール水着越しに感じるのは紛れもなく智子の逸物。固く膨らんだ鋭利な先端がお尻の割れ目をなぞり、ヒリヒリと肌が火傷する。
 鏡に映ったまろんの顔はふにゃふにゃにとろけていた。意識してももう戻らない。もっと智子のモノだという気分を味わっていたい。

「あぁ……」

 感慨深げな声が漏れて、鏡の中にいる自分の顔に見惚れる。いやらしい顔だ。アルバムには決して見せられない、家族にも見せられないはしたない表情。

「素股ってわかる?」

「えっと……あ、うん」

「それじゃあ、太腿で、わたしのをはさんで」 

 視覚的には、スクール水着を履いたまろんの股間から智子の立派な逸物が生えている。
 ぴったりと閉じていた左右の内股をこじ開けこすりつきながら、ゴツゴツとした肉感を味わい、熱い粘液が塗りたくられ、ゾクゾクと鼻息を荒くしていった。

(ああ、まろんのちっちゃなおちんちんで、おねえちゃんのおっきなのでかんじちゃう……おねえちゃんのが、わかる……っ!)
 
 固さも熱さも脈動も股間で感じられるようになり、ある意味では戦車に載せられた子供のようにはしゃいで、ある意味では好きな人に強引に迫られている被虐心に小躍りしてしまう。

「んん、んんんん」

「リアルJSの太腿やわらかぁい。スク水の生地もしっとりしてて、いい……」

「リ、アルJSなんか、じゃ……ううぅ、でも、今はいうこときかなくっちゃ」

 智子も悦に入っている状態で気持ち悪かったが、まろびでた快感に酔ってまろんはとっくに可笑しくなっていた。逸物が二つで一つの性感帯となり、まろんが感じればその震えが智子にも伝わり、智子が感じればまろんもまた喘いでしまう。
 繰り返される二重奏がたまらない。
 挟んでいるだけでも感悦に打ち震えている自分がいた。

(こんなの、はじめて……ドクドクって脈打っているのもわかるし、火傷しそうなほど熱くて、まるでお姉ちゃんのとつながっているみたい)

 素股の密着感は、みちみちだった。ちょうど智子の頭はまろんの肩の上に預けられ、息遣いさえも尊くかかる。顔を見合わせるとなんだか照れくさい。
 この期に及んでお互いは恥ずかしくなり、スクール水着が発情した肌をさらに締め付け、足元で跳ねる水音がなお背徳感を引き立てた。

「うんんんぅぅぅ……おねえちゃん、おねえ、ちゃん」

 犯される、間接的とはいえその事実が陸を抹消する。

「これなら、まろんちゃんも一緒に気持ちよくなれるでしょ? ……わたしが動いてもいいけれど、任せるよ」

 セリフほど声に余裕は感じられなかったが、智子からスクール水着のおへその当たりを撫で回されて、奥がもどかしくなった。
 乱暴にされるのも凌辱感があっていいが、任せてもらえるのは大きな力に守られている感じがして、温かい気持ちになれる。

(おちんちんで、おちんちんをご奉仕するんだ……まろんので、おねえちゃんのを……ごくり)

 リボンが似合いそうな可愛いおちんちんでよかったと、今、まろんは思う。
 男の娘だからできる素股。太腿に力を入れて、スクール水着のVラインの中につまっている自分の逸物もまた道具にして、サイズ感がまるで違う姉の逸物を気持ちよくさせるために、腰をあさましく振るった。

「しこ、しこ、しこ、しこ……」

 いつの間にか嬌声も楽しげで、恥ずかしいのに顔もほころぶ。
 同じ性器なのに剛直した智子のアレに対して、まろんのはずっと水着の中でプニプニしている感じがいなめないが、性器を洗うためのスポンジだと思えばいい。
 惨めな気持ちは奥ゆかしさと解釈し、なにより荒々しい肉棒の表皮は擦り続けるごとに淫らな信号を送ってきてくれる。繊細な動きにも大胆に答え、感度は目まぐるしく変化してまろんをなかせてきた。

「んふっ……しこしこ……んあっ、……しこしこ、しこ……」

 かつんと、素股がカリ首をくぐるときが一番危ない。
 感じすぎて、油断するとすぐにでも達してしまいそうで、そのくせ情けない腰振りは止められなかった。

「お姉ちゃん……んっ、……まろん、は、どう?」

 メスっぽい表情で鏡の壁を見ると、彼女もまた似たような顔をしていた。
 その鏡の壁の向こう側にいるのは、テレビを見ているであろう乙葉。悪いとは思いつつも、こみあげてくる劣情やもどかしさは二人だけの秘密だ。

「んはぁあっ、まろんちゃん……腰使いも上手くて、素敵だよ。……あんっ、ちっちゃいくせに……、お尻、可愛くて……まぶしくて、JSさいっこう……!」

 可愛いと言われるのはまだあまり慣れないけれど、お姉ちゃんが言うことだから素直に喜べる。
 それにまた、えっちなことを褒められたことも嬉しい。
 次はもう少しテンポを変えてやろうと、ゆっくり腰を押し出し、しっかりと引く。

「うんんんんんんんっ!」

 内股を強くして締め、逸物を挟みながら転がす感じで責めてみる。お尻が自然と左右に揺れてしまう。
 こうすることで智子は喜んでくれるし、なにより自分も熱いのが欲しい。

「ふぅ、ふぅ、ふふふふ……ふりふりとしちゃって、このいやらしいお尻め」

 腰をゆすって更に感度を良くしようとすると、智子が優しく微笑みながらまろんのお尻を後ろからぶった。

「ふぁ!?あ、ごめんなさい」

 反射的に謝ったまろんだがわけがわからない。しかしお尻に痛みはない。ただ気持ちいいものが弾けて、スク水のスカートが翻った。
 智子が本気で怒っているようには全く見えなかったし、ぶたれたといっても一瞬肌が赤くなる程度のこと。むしろ火照った身体には心地いいくらいの刺激で、さらにお尻をくねらせて自らそれを誘う。

「いやらしい子にはお尻ぺんぺんの刑だ。このっ、このっ、このっ!」

 浴室に快音が響く。
 
 ぱしん、ぱしぃん、ぱしぃん、ぱっしいぃぃん

「ひゃん! ひんっ! はぁん!ああっ!んふぅっ!」

 スクール水着を淫靡に食い込まされて、こぼれたお尻に何度も折檻される。智子の悪ふざけではあったが、まろんの口から零れるのは可愛いものばかり。
 足腰から震えやびくつき、尻たぶの表面からジリジリと燃えうつる。智子の逸物をしごく助けとなり、何より幼いまろんをひどく被虐的な気分にさせてしまう。

「ごめんなさい、ごめんなさい、お姉ちゃん。い、いいこになるからっ、んはぁんっ……もっと、まろんのこと叱って!」

 そんなまろんに後ろから耳を甘噛みして来たり、強引にキスをしたり、頬ずりしてヨシヨシしたりして。

「はぁ、はぁ、ねえ、おねえちゃ……ん?」

「な、なぁに、んんっ」

「も、もう、イキちゃいそう?その……すごく、はしたない顔、してるよ?」

 鳶色の瞳が切なげに潤んで、生命力に満ち溢れた智子の肉棒にもう心酔さえしてしまう。腰が引けたまま智子自身にくっついていて、慣れないけれども甘えてみる。
 同時に智子もまた、献身的なまでの股愛撫にやられていた。

「……もう少しかな、まろんちゃんは?」

「お尻叩かれて……いっぱい、気持ちよくなって……それで……」

 今にもお漏らししそうにモジモジして、まろんは下唇を強く噛みしめている。
 いけないことと知りつつも勝手に腰が前後し、ケモノのようなスパートをかけてきた。

(一緒にイクの……一緒に、気持ちよくなって……それで、また、褒めてもらうの……)

 のぼせた頭に、冷たいシャワーでもかけてほしかった。
 お互い絶頂が近いことを知り、嬉しいという気持ちとともに、おへそに置かれた智子の手を握り締める。
 決して一人ぼっちにはならない。そんな一心で、腰を貪欲に踊らせる。

「し、しこしこ、しこしこ、おねえちゃん、いくよ……しこしこ、いっちゃうよ、しこしこ、しこしこ」

「くぅうううううっ、まろんちゃんってば、こんなに、かわいいなんて。うぅっ、わ、わたしももう限界だから――」

 必死の呼吸が重なり合ったその瞬間、智子のモノがまろんの股下で激しい発作を起こす。

「やだっ、おいてかないで!」

 寸分狂わずまろんのモノもまた絶頂を迎えようとしている。智子のモノにみっちりと股間を
 密着させたまま、かつての妹的存在の女の子に可愛い女の子へ堕とされる。
 ガクンっと腰が起き上がるとそのまま智子の胸に抱きとめられ、スク水の中の逸物が一気に加熱するのがわかった。

(ああぁぁぁ、くるっ……!)

 もしかしたら男としての最後の悦びになるかもしれない。
 熱い液だまりを感じつつ、腰を脈打たせながら、競い合うように白い混濁流を解きはなつ。

「はふぅぅううっ、んほぉっ! あふぅん、ひんっ!」

 まろんのささやかな射精はすべてスク水の中に収められ、温かい残り火を感じている。
 智子のたくましい限りの射精はお風呂場を汚し、そしてまろんの内腿には一際濃い白濁液が塗りたくられる。
 熱くて、ねばっこくて、素敵で。
 だが、智子のモノはまだ大きいままで、挟み込んだまろんの太腿に伝わるほど勢いは消えていない。小さく、小さく、断続的にうごめき、まろんはまたイク。

「ふぅ、よかったよ……すごく、よかった……」

「はぁ、はぁ、はぁ……ともこ……あっ、おれ……?」

 虚脱感からか、瞬時に正気の光をうかべるまろん。

(いいのか?こんなこと、して。ぜったい、ふつうじゃない。でも、きもちよかった――うひぃ、おれのまたのなか、ともこの……おねえちゃんの、まだ、びくびくしてる)

 取り返しのつかないことをしたことを自覚する。
 なのに身体の内側からあふれ出るのは、それとは真逆の感情。
 頭がパニックになりかけたそのとき、再び智子に抱っこされて、凛々しい笑顔に目がかすむ。

「呆けているとこ悪いんだけどさ、その……最後の掃除もやってもらえないかな?」

 完全な子供扱いで「たかいたかい」された後、それも嬉し恥ずかし、まろんは赤面した。
 下ろされたときには、ずっと内股でハメていた智子の逸物はいやらしい白濁液を垂らし、粘り気を帯びていて、へたり込んだまろんの鼻先に向いていた。

「……」

 智子の感触と匂いがまだ内腿に残っていて、目の前にあるモノと共鳴するかのように疼く。逆らうことなんて、もったいなくてできない。

「はい……」

 今はもう愛しさしか感じなくなったそれを、睾丸を包み込むように洗い、陰茎の部分も優しく拭いとる。畏怖と敬意の気持ちがこもったご奉仕。それでもまろんはひどく落ち着かず、瞬きもせず陰茎を凝視するとともに、終始自分の内股を擦り合わせていた。

「あんっ」

「え?」

 突然また、智子の陰茎が脈打った。
 ぴゅっと飛び出た飛沫がまろんの頬に弾かれたと思えば、射精はまだ止まらなかった。もしかしたら一度目よりも大量の精が放たれ、顔にかかり、粘り気が顎を伝ってスクール水着まで白く染め、童顔を穢す。

「うぁあっ、あっつぃ!」

「リアルJSのザーメンパック、やばっ」

 まろんは、顔中に熱いクリームを塗りたくられたみたいになって、わずかな量だが口の中にも入ってきた。濃厚な雄臭に忘れたくても忘れられない味。舌に絡み付く。
 白いものでマーキングさえされてしまって、まろんは小刻みに震えていた。それは快感などではなく、明らかな怒り。冷たく、静かな、濃い感情が堆積する。

(むかっ)

 妹から借りているスクール水着も、可愛い顔も、ツインテールも、ドロドロにされて台無し。せっかく智子のためにおめかししたのに、口惜しい。
 精液の匂いがこのままずっと離れなくなるような気がして――

(むかむか、むかっ)

――さすがに、これには激しい怒りを覚えた。

「はぁ、とっても可愛かった。もう最高だったよ、陸。じゃなくて、まろんちゃん」

「……っ!」

 気安く肩を抱きながら智子は甘い言葉をささやくものの、顔や体を白濁に穢されたまろんは無反応だった。怒りに震えて、拳を握っている。出すものを出し、すっきりとしたその頭に、いつの間にか奮い立つ気力が蘇った。
 だが、智子は意外に鈍感だ。

「まろんちゃん?」

「……」

「あの、まろんちゃん、どうしちゃったのかな、そんな怖い顔して、ほらほら、お姉ちゃんだよ、お姉ちゃん」

「ふんっ!」

「―――い゛っ!」

 関係ないとばかりに智子の頭を殴る。
 自分でもよくわからないけれども、まろんはまろんとして憤った。

「な、なんで……?」

「顔にかけるとか、髪にまでかかっちゃたし、ひどい!」

「お、女心って、やつ?ぐふっ」

 最後は頭に一発ゲンコツを落とし、調子に乗りすぎた女の子に、綺麗なタンコブが出来上がる。可愛い自分、
 敵な自分を見てもらいたいというのは男でも女でも同じなのだ。スクール水着を穢されたことを許せたけれども、髪の毛は特別だから……

「ご、ごめんよ〜、まろんちゃん〜」

 その後の智子は、ベタベタと抱き着いてきたが、ちょっとカッコ悪かった。



                     ※※※



 智子との入浴中、脱衣所に乙葉がやってきた。

「あれー、陸お兄ちゃん、お風呂入っているー」

「っっっっ!? な、なんだよ、乙葉か、お、おどろかすなよ」

 スリガラスの向こう側に立つ小さな人影。何も知らない乙葉が扉越しに話しかけてきて、慌てて平静を装う陸ではあったものの、まだスクール水着を着ていることもあってか、智子がいろいろとエッチな悪戯をしかけてくる

(ちょ、ちょっと、なにやってんだよともこ!こんなとき、やめろよ!バレるから、乙葉にまろんが、バレ、ちゃうからぁ!)

 窮屈な湯船の中で仲睦まじく密着していた二人。
 豊満な乳房に背中をあずけ、男の娘の胸をおっぱいにするがために、たくさんたくさんなすがまま可愛がられている。
 さわさわと、逞しい掌が、スクール水着の上から膨れた乳首にふれてくる。優しくこねるように揉んで、そして微妙で繊細なタッチでつまびかれ、ふにふにと柔らかい肉を指で転がしてくる。
 声を抑えるのも必至だ。

「どうしてー?どうしてこんなお時間に、お風呂入っているのー?」

「べ、別にい、イイ、だ、……ろ? んんっ!……ちょっと、汗かいたんだ、あぁう……っ!」

 キッと首を回し智子を睨みつけるが、「いいからいいから」と、今度は逆に顎の下から首筋まで、いやらしく舌でなぞられてしまう。

「……?なんか、変な声しない?」

「き、きのせい……だろっ、うっ!……おれ、に、ようが……っ、ないんなら、ああっ、ダメ……もう、あっちいって、……いってろよ!」

 恋人のように愛し合い、淫らに困らされる男の娘の姿。
 まだ小さな乙葉にはとても見せられないと思いつつも、陸の身体に力は入らず、とても敏感になって喘いでしまう。
 指で乳首を弄られるのも、首や肩を舐めまわされるのにも興奮し、一度は力を無くしたはずのペニスがまた復活した。
 どうしようもなく気持ちいい。感じてしまう。ゾクゾクしてしまう。たまらない。そう思った。

「うー、乙葉は心配しているだけなのに。陸お兄ちゃんの馬鹿!もう知らない」

 いやらしい胸愛撫に乱れる陸をよそにして、乙葉はふてくされたように言った。

「こら、な、なんてこと……ふぅうんっ!いうんだ」

「べーっだ、陸お兄ちゃんなんて、お姉ちゃんにいっぱいイジメられて泣かされちゃえばいいんだ!」

 妹の影が離れていく。
 扉を開き、リビングに戻っていく足音もしっかりと聞こえる。
 機嫌の悪さもあって、ドタバタと響く。
 だが、ほっとしたのもつかの間――妹の言葉通りに智子の手つきが変わった。智子が陸の乳首を摘まみあげると、快感を絞り出すかのようにひねって苛めてきた。

「んひゃぁんっ、そこはダメなの、そこは弱いって!?んきゅうぅうううっ!お、お、おねえちゃ――っっっっ!」

 ぶくぶくと、赤い顔が湯船の中に沈む。
 小さな体躯は完全に智子の腕と胸の間に飲み込まれていて、お尻に当たっている彼女の逞しさに心拍が跳ね上がっていた。
 幸いなことに乙葉には聞こえないようだったものの、智子のいやらしい手つきはもう遠慮などせずに責め立ててきた。

「ひっ、はっ、ぁん。ひ、ひどいよ、だめっていったのに……」

「だって、すっかり感じやすくなっちゃってるんだもん、いじめるなっていうほうが無理だよ」

 陸は飼い猫のように大人しくなり、耳元からの囁き声に心を奪われる。

「はぁはぁ、だ、だれのせいで……こうなったと……んっ、うく、っ!」

「もちろん、わたしのおかげだよね。だからこうして、責任とって気持ちよくしてあげているんじゃない」

 ジト目で睨む陸をからかうようにまた、スクール水着を脱がされる。
 上半身をはだか、乱れた水着との退廃的な姿で、ほんのり色づいた乳首を智子にささげる。
 彼女の淫猥な手は、男の娘の胸だけでなく内腿にまで手を滑り込ませてきて、痛いのと気持ちいいのが繰り返され、か弱いメスとしての悦びを思い出す。
 抵抗しても無駄。嫌がっても無意味。無理やりに乱暴されてしまうことが、ゾクゾクした興奮を呼び起こさずにはいられない。
 アンアン喘いで、湯船の水面を激しく揺らした。

「ふにゃ、むねを、そんなにいじっちゃ……だめだって……なんかいも、いってるのに……んんっ、びんかん、なりすぎて……ほんと、つらいの……おねえちゃんってば」

 妹には泣くな、甘えるな、みっともないと口酸っぱく言ってきた男の陸――だが今はそんなことを思い出すこともなく、鼻息を荒げている。
 痛々しい辱めを受けながら、その相手に向かって必死に媚びていた。

(悔しい、だけど……身体が勝手に喘いじゃう……逆らえない、逆らいたくない、もうほんとに……お姉ちゃんなしじゃ、いられなくなっちゃうよ)

 媚びるたびに、自分の立場を自覚する。
 智子の所有物になってしまったのだと、身体が淫らに反応してしまう。
 愛しげに触れたのは、智子の頬。それから力強く脈打っていた剛直。どちらもヨシヨシなだめようとしていても、興奮色が強すぎて頭が可笑しい。

「抵抗なんてしちゃだめよ。いくら抵抗したって、私には、もう陸のこと、恋する女の子にしか見えないから」

 その視線に射抜かれると、陸は胸が熱くなり、本当に逆らえなくなってしまう。

「そ、それは、そうかもしれないけれども……なんというか、もっと、大事にしてほしいっていうか、その……ごにょごにょごにょ」

「大事にしているよ、まろんちゃん♪こんなにも抱き心地のいい身体、絶対に手離したりしないから。スベスベのピッチピッチで、プニプニでミニミニで、たまんなぁい」

「ふはぁん!?身体が目的なの!?ぁんっ、今さっき言った傍からそんな激しくしないでっ!そこ、おっぱいなんかないから」

「いいからいいから、こうやってみっちり胸を揉み続けたら、おっぱいみたいにふくらむからもしれないじゃない」

「そんなわけ、ない、って、ふぁああんっ、あ、ああぁん」

「まろんちゃんの肌、本当に柔らかくても見ごたえがあって、気持ちいいんだからさ」

「ひゃぁあん、もうやめっ、かき回さないでぇ!きもち、ひぃいの、らめぇ……」

 演技なのか本気なのか、智子は陸の言葉を聞いた上で意地悪してくる。
 ぐったり頭を預けてしまうと、より大胆になって自分のモノのようにむにゅむにゅ胸をこねまわされた。
 ドキドキとした興奮を帯びた意識は、陸に戻れない道へと案内する。オオカミになってしまった幼馴染を突き放すこともできなくて、ただただ好きなだけ蹂躙される。なのに、もう智子には愛しさしかない。

「うへへへ。ほら、まろんちゃんも力抜いて、楽にして。脚を広げて。さあさあ、恥ずかしがらないで、あなたはもう、わたしの妹なんだから」

 イヤイヤしても聞き入れてもらえるわけもなく、陸は力の入らない両脚を持ち上げられる。
 あられもない姿で、湯船につかっている。

(ひぃいいいい、こんなの恥ずかしすぎるぅ!)

 ぎゅっと目を瞑ったまま、大胆なM字開脚が披露される。
 ペニスもそうだがお尻の穴まで丸見えで、子供におしっこさせるポーズと瓜二つなのがまた、さらに泣きそうだった。


「ぐすん、ぐすぅ、こ、こんな格好……お、おまえ……おねえちゃん……じゃなきゃ、ぜったい、しないんだからな……」

「うん、ありがとう。まろんちゃん、あいしているよ」

 悔し紛れで言ったつもりが逆に智子を喜ばせていることに、陸はまだ気が付いていない。胸だけでなく、いつしか粗末なペニスさえ丹念にしごかれていた。

「ちょっ、まっ、そこは……んふぅっ、イヤじゃ、ないの? 汚いよ」

「別に?可愛いおちんちんじゃない?それにこれは調教なんだからさ、まろんちゃんは黙って身を委ねていればいいのよ」

「調教って、そんな、こまる……ううん、やっぱり……すきに、して」

 後ろめたい単語が頭に響く。けれどものぼせあがった頭では理性も働かない。
 陸は智子に頭を抱きしめられながら、かつて味わったことのないような優越感を得ている。身体中を手痕が付くほど弄られているというのに、先の見えない深く温かい未来に、確かに女の子としての希望を見ていた。

「はふぅん……うぅう……あぁっ、あ、あん……すごく、つよく……くっ、はふん……ああ、い、いっちゃう……よっ!」

「どこを触っても感じやすくなちゃって、えっちなこなんだから」

「あぁぁあん、あんっ!」

 我慢していたはずの声はいつしか官能的な美声となって、お風呂場に複数反響した。
 ざぶんざぶんと陸は湯船に、荒波を立てながら悶えている。

(そ、染まってきちゃう……調教、されて……ほんとに、お、おねえちゃんが、いとしくて……ああっ、あたま、くらくらする……わけわかんな、きゃふぅん!)

 長年満たされなかったものがすべて、それ以上の欲求を叩き込まれて、受け止められないほどの愛情に嘶きを覚えた。

「おねえちゃ……ふぅん、ふん、まろん……もう、もう……」

 限界だった。無理だった。
 気持ちいい。溶け合いたい。愛されたい。
 瞳は蕩け、意識は錯綜し、赤く膨らんだ子供サイズのペニスが一丁前に射精を訴えかけている。無駄打ちになるのはわかっているが、シャンパンのように祝福ある咆哮を出したい。
 甘えることに全く慣れてない陸だが頑張って、キスをせがんで、首をのばす。

「お、おねがい……」

「わかっているって。でも、ひとつだけ条件があるの」

 落ち着きなく腰を動かす陸に、智子は爽やかに笑った。

「……さっきさ、乙葉ちゃんが来る前に教えた、アレ、言ってよ。そしたらもっと気持ちよくしてあげるよ」

 陸には、智子によって、覚え込まされた言葉があった。それは智子の妹になるための絶対服従の5か条。
 冗談でもそれはいってはならない。
 本気ならばもう立ち直れない。
 快感によがりながらも躊躇する陸。薄く開かれた涙目から、イヤイヤと訴える。
 けれども、結局、お姉ちゃんには逆らえなかった

「言ってくれないのなら、このまま寸止めだよ?」

 ピタリと、智子の手が止まった。それだけで、もどかしさが何倍にもなる、

「くぅうん、そ、そんな、急に手を止められたら」

 到達しかけた快感が急に消える。消えた悲しさよりも、残された焦燥感と虚しさに気が狂いそうになる。

「わかるよね?今更オナニーだけじゃ、満足できないでしょ」

「……っ」

「さぁ、はやくはやく。可愛い可愛いわたしのまろんちゃん。恥ずかしがってないで、お姉ちゃんに可愛い声を聞かせておくれ」

 惚れた弱みというものなのか、こんな最悪の殺し文句でもときめいている。湯船の中が沸騰してしまうほどに、陸の顔が赤面した。

(ああ、もうなんかだめ、お姉ちゃんが強すぎて……まろん、もうかんぜんにまけちゃう)

 幼馴染の女の子にいじめられ、マゾな女の子になることに興奮している陸。そして、ずっと偉そうにふんぞり返っていたチビの幼馴染を、可愛い妹にした歓びに酔いしれる智子。
 二つの隠された性癖と欲望が絡み合い、より高みへと押し上げる。

(も、もう〜、どうにでもなっちゃえ、おねえちゃんだいすき!)

 とにかく智子に愛されたい、そう思った時、恥ずべき台詞が口をついて出た。

「ほら、可愛い妹になるための5か条、ひとつめ、いってみようっか?」

「ひゃん!ま、まろんは、お姉ちゃんのために、素直な、女の子になります」

 ゾッと背筋が冷たく震え、快い戦慄が走る。

「ふたつめ」

「ま、まろんは、もうお姉ちゃんにはさからいま、せん!完全降伏します。ずっと、ずっとお姉ちゃんのことを第一に考えます」

「みっつめ」

「まろん、もっと、い、いい子になります……おねえちゃんに……もっと気に入って、いただけるように……スカート履いて、お洒落して、いっぱい……可愛くなります」

「それから?」

「んひぃ!?いつもね……えがおで、えへへへへ……やくそく。……にっ、にひひひ。おねえちゃんすきしゅき、だいしゅきって……いっぱいいいっぱい」

「さいごいつつめ」

「おねひちゃんに、あいしてもらえるように、お尻も、お口も、準備するよ……毎日、お尻の穴でオナニーして、おしゃぶりの練習……おねえちゃんの、おっきくて、かたいの……どっちでも、うけいれられるように、する、のぉ……」

 まだ固く閉じられているお尻の穴の縁をコリコリと、くすぐるような手つきで智子が触れてくる。ただそれだけで下半身は激しくビクつき、正しい思考がまとまらない。

「まだまだ固いかなぁ?これからうんっと柔らかくほぐしてもらわないと」

「うん、うううん、うん。えと、えと、えーっと……」

 陸はもはや性感帯を糸で絡め取られたマリオネットよろしく、湯船の中から両足を出し、M字に開く。だらしなく緩みきった顔と粗末な股間とともに、ぐったり身体を智子に預けた。
 今この瞬間、お風呂場の扉を開かれたら大変なことになるだろう。
 だがしかし、たちまちお尻の穴を中心に好き放題触られて、頭が真っ白になるほどの快感という快感を浴びた。もう挿入する側の快感など馬鹿らしく思えるほどに、屈服する。

「ひあぁぁあ……!おれ、もう、もう!」

 よがりでる声はひどく官能的で、ふたりっきりの浴室に反響する。

「おー、よしよし、よくできました。それじゃあ、できたごほうびに、キスマークを付けてあげる」

 まるでペットに首輪をつけるかのように、智子の唇が首元にくっついてきた。

「ひんっ!それはダメ、本当にやめて!」

「遠慮しなくても、可愛いキスマークにしてあげるよ。なんてったって、まろんちゃんがまろんちゃんになった証なんだから、これがあればもう寂しくないだろう。毎朝鏡を見るたびに興のことを思い出してさ……二度と、変な気を起こさせなくしてあげる」

「でもばれたら……も、もう仲良くするって乙葉とも約束したのに」

「まろんちゃんは素直で可愛いけど、陸って男は本当に執念深いからね。とどめ、刺しといてあげる」

「そんなぁ……」

 悲しいのに悲しいという気持ちはほんの少し、マーキングなんて秘密の恋人らしくていいと、心の内では思っている。 

「ほら、いくよ」

「ああ、んんんんんっ!」

 困るはずなのに嬉しがっている自分がいて、くっきり出来上がったキスマークを見て、まろんは自嘲気味に笑っていた。



※※※



陸は、自問自答せずにはいられない。

(どうしてこうなった?)

 自分はいったい今なんのためにここにいて、そして何を見せられているのか。
 ムスっと絵にかいたように、不貞腐れたまま陸は考えている。

「はははっはっ、乙葉、楽しい。お姉ちゃんすきー、あいしてるー」

「いや、そこまではちょっと」

「え?」

「なぁんて、うっそ〜。お姉ちゃんもあいしてるよ、乙葉ちゃん」

「えへへへ」

 訪れたのは、ゲームセンターだった。
いつものように智子と乙葉は恋人つなぎをしたまま、甘いトークにお花畑を咲かせている。誰も入っていけない二人だけの世界を作り、周囲の目も憚らずにイチャイチャしている。
 陸はというと、今やそんな二人の荷物持ち。
 両手に二人分の荷物を持たされたまま、文句を言う権利も与えられていない。

(あいしてるって、まろんにはいってくれなかったし)

 さらに智子に対する妬みと、乙葉に対する羨ましさで、可笑しくなりそうだった。

「お姉ちゃんお姉ちゃん、今度はクレーンゲームをしようよ」

「はははっ、もちろん。お姉ちゃんが乙葉ちゃんにぴったりのぬいぐるみをとってプレゼントしてあげるよ」

 妹と幼馴染のはしゃいだ声を聞いていると、スクール水着を着ていた時以上に胸が締め付けられる。
 完全なる弱みを握られてしまった挙句、あーんなことやこーんなことまでした陸が、今までのように二人の仲を叱りつけることもできるはずがない。

(自業自得とはいえ、こんなの、切ないよ……)

 陸は、智子の命令には表面上嫌がりつつも逆らえない。
実は今も高校の制服の下で、妹の下着を身に着けている。
自分が完全に遊ばれていただけであり、お風呂場でのこともきっと特別な意味などなかったのだろう。それでも智子を嫌いになることができなければ、二人から離れることもできない、自分がとても可愛そうに思うのだった。

「わぁ、すっごい、お姉ちゃん、ほんとに乙葉が欲しかったぬいぐるみとっちゃうんだもん。カッコイイ〜」

「ふふふ。まあ、それほどでもあるかな。なんてね」

 智子はクレーンゲームでとった景品を乙葉に渡している。
 今日だけではない、もう何個目だろうか。
妹の部屋には同じようなぬいぐるみがいくつもあるが、乙葉は毎回本当に嬉しそうにそれをもらい……また嫉妬にかられてしまう陸。

(誕生日でも、プレゼントなんてくれやしなかったのにな)

 急にまた胸が張り裂けそうな気持ちになり目頭が熱い。悩むほど涙が出そうになり、本当の涙がこぼれる直前、悲しい気持ちをなんとか頭を振るって消し去った。

(ロリコン野郎だなんてもう言えない)

陸もまた、世間や常識からはみ出した存在であることはもう間違いない。身体を重ね合わせたときの記憶がずっと頭に残っていて、人肌恋しい夜を過ごしているなど言えたものではない。
 モジモジと女の子らしくなり内股を擦りつける。
すると、当の智子はまた、新しい大きなクマのぬいぐるみをゲットしていた。

「うわぁぁあぁぁあ、すごいすごい、ほんとにすごい。こんなおっきなクマのぬいぐるみ、乙葉、はじめてみるよ」

「ふーっ、さすがにこれは苦労した。でも、ようやく手に入れたわ」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 そういって両手いっぱいに手を広げて受け取ろうとする乙葉だったが、智子は申し訳なさそうに小さく首を振った

「ごめんね、これは乙葉ちゃんのじゃないんだ」

「え?」

 乙葉は、受け取るために伸ばした手をゆっくり下ろす。
 気まずい空気が流れたが、大きな智子は小学生の乙葉に平身低頭。真摯に向き合いつつ、巨大クマのぬいぐるみを乙葉から隠した。

「どうしてもね、このおっきなぬいぐるみだけは、別にプレゼントしたい子がいるの。乙葉ちゃんのは、また今度、ね?」

「ん−、そっか、わかった」

聞き分けのいい乙葉はそれ以上のことは訊かない。
もちろん彼女もまた、クマ好きでありぬいぐるみ好きでもある。大きなぬいぐるみを心では欲していることを、智子が分からないはずがない。
しかし、ショックを受けたのは確かだったが、それでも乙葉が智子を信じる気持ちは強くて、決して後に引くものではなかった。

「じゃあね、お姉ちゃん。陸お兄ちゃんも、今日はありがとう」

乙葉は今までもらった自分のぬいぐるみだけを大事に抱え、ピアノのレッスンがあるからといってその場は別れた。
 そして、陸は智子と二人きりとなった後、密かに期待していた通りの展開が待っている――

「はい、これ、プレゼント」

「お、おれに?」

巨大なぬいぐるみを手渡され、陸は困惑する。
 けれどもしっかりそれを抱きしめて、まろんのモノ、そういわんばかりに顔をうずめて頬を赤らめた。

「うんうん、やっぱりそのぬいぐるみは、乙葉ちゃんより陸によく似合うよ」

 ありがとうと、陸は戸惑いながらつぶやくと――

「えいっ」

「うわっ!な、なにっ、いき、なり」

 ――ぬいぐるみを抱きしめる陸を、今度は智子が丸ごと全部抱きしめてきた。
 
「よーしよーし、さすがに乙葉ちゃんの前でイチャイチャするわけにはいかないからさ。寂しい思いさせちゃってごめんね、り〜く」

「は、はなせっ!」

 決して人通りも少なくない通りでで、ぬいぐるみと一緒の温かい抱擁。乙葉よりも小さな女の子扱いされて、頬と頬をくっつけてくる。
当然のように頭も撫でられて、甘い匂いとともに愛しいという気持ちがあふれてくる。奇異なる視線にさらされてからも、智子はその手を離してはくれず、むしろ周りには仲睦まじいところをアピールするかのように触れてくる。
キャッキャウウフというよりはギャーギャーわめきながら。けれどもそれは陸にとって、心底はずかしいことだった。

「いいかげん、はなしてってば」

 真っ赤な顔をした陸が、切実に訴える。

「離してほしければ、お姉ちゃん大好きといいなさい、可愛くね」

「こっ、こんなところで言えるか、馬鹿っ」

「言わないと服脱がすぞっ!」

「ぎゃーっ、ベルト!ベルト外すな!わかった、わかったからちょっと待て、まてぇ!」

 振り回された挙句ベルトまで外されそうになって、もう少しで女児用パンツが明るみに出るところだった。
両手には、大事なぬいぐるみを持っているため、満足な抵抗もできない。
恥ずかしい顔をそのぬいぐるみに隠しながら、いつもの陸らしくないしおらしい声を出す。

「お、おねえちゃ、だい、だい、す、き……」

「わたしもだよ、すきすき、あいしてる」

「あ、あいして、るって……」

 「愛」という言葉に撃沈し、すっかり可愛らしくなって、真っ赤になった陸は頭から湯気が出る。今なら花嫁衣裳さえ似合ってしまうほどに、彼はいじらしい乙女。
そして智子はというと、二人目の妹にもデレ、先ほどまでのかっこよさは嘘のように消えていく。締まりのない表情を浮かべながら、もう保護者気取りだった。

「これ、ホントに俺に……くれるのかよ?」

「りくと、まろんちゃんにだよ」

「あ、ありが、ありが、と、う……でも、でも」

 陸の心とまろんの心が天秤にかかる。
 本当は嬉しい、今すぐにでも持ち帰りたい。ぬいぐるみなど微塵も興味がなかった彼だけれども、智子からのプレゼントとなれば話は別。リボンでもつけて大事にかざっておきたいと思うのが素直な気持ち。
だがしかし、乙葉に見られるわけにはいかない。
このぬいぐるみも、そんな恋煩いした陸の表情も、まだ見せられない。

「やっぱりもらえないっていうか……こ、こんなことで、機嫌撮ろうとしてもダメだからな」

「だから、ごめんってば。寂しくさせた分、これからデートしよ?ねっ」

「……」

 ぶうっとして、拗ねる。プレゼントに流されそうになったところを踏みとどまり、複雑な感情も入り混じって、大好きな姉なのに反射的に怒ったような態度をとってしまう。
 本当は違うのに、すぐに後悔が押し寄せた。

「まろんちゃんってば。あーんなことや、こーんなことまでしたのに、まだ素直にならないんだ?」

「――っ!」

 ぽんぽんと智子に頭を撫でられて、不機嫌な陸は不機嫌な表情をしながらも頬は赤い。ぬいぐるみもしっかりと抱きしめていた。

「ああ、いけないんだ〜、お姉ちゃんにそんなつれない態度とって、そんな子は、やっぱり赤ちゃんから育てなおしたほうがいいのかもね?」

 冗談めかして陸を煽る智子は、スマホを操作したあとに印籠のようにディスプレイを見せてくる。小さな四角形は、陸の本当の姿を映す鏡。
映っているのは、はだかんぼうのまろんちゃん――動画のワンシーンだった。

「そ、それは、まさか……!」

 家のベランダで、あひるのおまるにまたがりながら、よだれかけをつけた姿は幼稚という言葉を大きく通り越してマニアックな出で立ちが映る。陰部だけでなく、ピンク色の乳首や、セピア色のお尻の穴まで、さらけ出している。
 陸は凍り付いた。
 そして、動画は再生直前だった。
 智子がしてやったりの顔して乳房を揺らし、長い人差し指がディスプレイに触れたその瞬間から、はじまった――

『ねえ、おねえちゃん。やっぱりやめようよ。おまるでおしっこするとこみたいって、はずかしいすぎるよぉ』

『だからいいんじゃないの。あひるさんのおまるに、それによだれかけ、とっても似合っいて可愛いわよ、まろんちゃん』

『あ、ありが、と。じゃなくて、せめて場所を変えよ。……お外なんて、すぐそこに乙葉がいるんだよ』

『だーめ。こんなにもいい天気なんだから、お外に出ないなんてもったいないよ』

『ああぁ、とんでもないひとを、すきになっちゃった……』

『まろんちゃんのおちんちん、可愛くて、綺麗ね。ぜんぶみえちゃう』

『ううぅ、は、はずかしぃ、はずかしすぎる、おねえちゃんに、ぜんぶみられちゃうんだ、ぜんぶ……』

『しぃー、しぃー、しぃー♪しぃー、しぃー、しぃー♪』

『だから恥ずかしいってば、あっ、ぃ、しぃー、しぃー、しぃー』

『しぃー、しぃー、しぃー♪しぃー、しぃー、しぃー♪』

『し、しぃー、しぃー、しぃー。しぃーしぃー、しぃー。やっ、もうでちゃう、でて、しまう』

 しゃあああああああああああああああああああ

 ――まさかの動画、まさかの音声付き。
煌めく太陽のその下にさらけ出した陰部から、黄金色の液体があひるのおまるにおちていく。弾ける水音まではっきりと耳に聞こえ、動画内の陸はとても気持ちよさそう。まんざらでもないと、目を細めながら浸っていた。

「……」

本来このような展開を見せつけられれば、怒り狂ってろも子に襲いかかるか、絶望に打ちひしがられて呆然自失とする、この二択しかない。
だが、陸は違った。
陸はもう陸出会って、陸ではない。
 うっとり動画内のプレイを思い出しては、あのときと似たような表情している。半ば開いた口から涎が漏れても可笑しくない。
この人にはもう敵わないのだと完全に認めつつもなお、そこからまたさらに思い知らされる

「しぃーしぃーしぃー」

 ビクンっと、ぼっーとしすぎて耳元でささやく智子の声にわかりやすい反応をした。

「り〜く」

「……うん」

「おむつ、買いにいこっか?」

「うん」

「可愛くてね、火が出るほど恥ずかしいのを選んであげる」

「――うぐぅ」

 陸は返事を返すよりも先に、股間をきつく握り締められる。

「うあぁ、あ、あう゛う゛っ」

 単純な自分がイヤになる。こんなロリコンに惚れている事実は一生の恥。股間を握力計感覚で握られて、頭が幸せになっているのが嬉しい。
 いつかこの女の子に完全に股間を握り潰されてしまうことを想像し、陸は陸のまま、ベビーショップの敷居をまたぐ。

「すいませーん、この子のおむつが欲しいんですけどー!あとついでにお洋服を選びたいんですけどー!」

自分だけの女児服と、オムツを手に入れるために、前を歩く智子の手をきゅっと掴んだ。