悪堕ちヒロインとベビープレイする妖異譚



 この世に人知れず悪事を働く魑魅魍魎の類。 妖怪や悪霊を総称して“妖魔”と呼び、それら退治するものたちを“退魔師”と呼んだ。
 彼らが扱うのはライフルやピストルなどではなく、刀や弓、 あるいは霊術を込めた特別なお札―― “呪符”と呼ばれる退魔師の技を用い、妖魔の手から人々を守りぬいてきた。
 そして、長きに渡って続くこの戦いは科学万能の世となった今も続いている。
 鷺ノ宮薫は退魔の一族として、同じく妖魔の血を引く半人半妖の後輩退魔師とともに、普通とは違う人生を歩んでいた。





「こんなところにまで妖魔があふれてくるとは―― 破っ!」

 不気味な静けさに包まれた真夜中のこども園。
 昼間の内は活気に満ち溢れたその場所も今となっては小さな魔窟。 園舎裏から漂う人ならざるモノの気配を感じとり、手首に白い包帯を巻いた、神職の装束を身にまとう鷺ノ宮薫が一人足を踏み入れる。

「悪く思うなよ。 妖魔は見つけ次第殺すのが決まりなんだ」

 闇の中から姿を見せたのは、体長2メートル近いヘビやムカデ、イタチなどによく似た妖魔たち。
 すぐにでも襲い掛かってきそうな異形を前にしてもなお、退魔師は臆することはなかった。 むしろ余裕さえ感じられ、冷酷な宣言をする青年。
 所詮は自我すら持たない低級妖魔。
 しかし低級妖魔は身体の免疫が弱い子供や妊婦、病人やお年寄りなどを狙い、彼らの精気を啜りながら生きている。 普通の大人であれば倦怠感と疲労感を抱くだけで済むそれが、こども園の園児たちとなると最悪死に至らしめる病に発展することもあり―― 青年は自らの責任の重さを思い出し、緩みかけた心を再び強く引き締める。
 鷺ノ宮薫は20代半ばを迎える、今がピークの一流退魔師だ。
 母親譲りの精悍な顔立ちには、高校を卒業するまでの18年間を退魔の修行に費やした物寂しげな影が落ち、その陰りはかえって薫という青年のアンニュイな魅力ともなっている。 彼の瞳は深海の洞窟のように深く、唯一無二の流麗な眉。 男なのに色っぽさのある唇と、涼しげな鼻梁、結わえた黒髪は清潔感をいっぱいに感じられる。
 一見細身に見えるその身体は、極限まで張られたジムのロープのように引き締まっていて、無駄な脂肪は一切ない。 幼いころは厳しい修行に耐えかねて泣きじゃくることの多かったが、今や勇猛果敢な男に成長していた。

「クヒャヒャヒャヒャヒャヒャ―――」

 ヘビ型の妖魔が周囲の木々を揺らすほどの奇声を発すると、他の妖魔たちも示し合わせたように襲いかかってきた。

「一斉に飛びかかれば勝てると踏んだか? あまり俺をみくびらないでもろうか」

 静かに取り出したのは1枚の呪符。 古めかしい文字で『風刃』と記されている。
 一匹二匹ではあれば清めの塩をかけたり、経文を唱えたりするだけでも十分なのだが、群れを成した低級妖魔に対して、すでに薫の思考は妖魔を“祓う”ことよりも“殺す”ことに切り替わっていた。
 霊気を込めると呪符は穏やかな光を放ち、闇夜の中で冷酷な表情が浮かび上がった。

「―― 滅!」

 投げ放ち、力ある言葉で呪符は発動する。
 それは一陣の風となり、見えない刃となって妖魔の身体を斬り裂いた。

「ギュウウウウウワアァァアアアアア――――!」

 断末魔の叫びが木霊する。
 妖魔たちの身体は文字通りバラバラとなり、やがて廃塵と化した。

「シャアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ふっ」

 続けて仲間を盾に突っ込んでくる妖魔を薫は身をひるがえしてかわし、その背に向けて霊力を込めた別の呪符を張りつける。
 すると稲妻が妖魔を襲い、その亡骸も他と同様跡形もなく消失した。

「・・・・・・ 迷わず成仏してくれ。 ここにお前たちの居場所はない」

 表情こそ変わらなかったが、厳しさと同時に慈悲の心を持つ退魔師。 消えた妖魔たちの行く末を祈りながら、小さくその手を合わせていた。







「思った通り、結界の力が弱くなっている」

 日付が変わる前、こども園からほど近い児童公園で見つけた小さな石碑。 何百年も前に建てられ、今も悪霊や妖魔から街を守っているはずのそれは、長い年月を経て現在力を失っていた。

(霊力が必要だ。 血を与えなければ・・・・・・)

 そこで薫たち退魔師たちは、自分たちが持っている霊力を石碑などの結界石に流し込むことで、再び結界の効力を復活させることにしている。
 古来より霊力の受け渡しは身体を重ねること以外では、血や体液を与えることで可能となり、そのために退魔師は皆同じ銘の小刀や合口を携帯していた。

「――――― くっ!?」

 手首に巻いた包帯をほどき、ためらいもなく薫は血管を切る。 まだ温かい血液が、霊力の枯渇した石碑に降りかかった。

(うぐっ、結構、持ってかれるな・・・・・・ 意識が飛ばないよう気を付けないと)

 薫は辺りを覆っていた陰欝な空気が晴れたことを感じ取ると、止血し、『妖魔退散』と記された呪符を張りつける。これらの呪符の文字もまた、同様に退魔師の血によってつくられたもので、そこに書かれた“現象”を自然界のモノを媒介にして引き起こす。
 そして最後に取り出したのは、古風な男には似つかわしくない電子機器。 携帯電話を開くと、薫は石碑の隣に腰掛けながら話を始めた。

『もしもし、優月か? こっちは終わったぞ』

『あっ、センパイ。 遅いよ〜、こっちはもうとっくに終わっています。 いい加減待ちくたびれちゃいました』

 後輩退魔師であり、まだ修行中の身でもある相棒にむかって要件を伝える。 彼女は薫よりも若く、霊力も莫大。 女であるものの、いずれは薫を超えて最上位の退魔師になるであろう存在だった。

(元気な奴だな、これでもう3日連続の出動だというのに・・・・・・)

 電話の向こうの彼女は薫とは対照的に元気はつらつ。 そんなとことからでも、霊力の差というものをまざまざと見せつけられた。
 自分の限界がわかっているからこそ、羨む気持ちが時々滲み出ていた。

『で、この後はどうするんですか、センパイ?』

 若さと才能に満ち溢れた声に一瞬躊躇した後、薫はすぐに体裁を整えて話し出す。

『念のため、結界内に妖魔が残ってないかもう一度巡回してくれ。 俺も安全を確認したら、依頼人に報告しに行く』

 依頼人はこども園の園長。 こども園では夜間保育も行っており、初老の園長はこの時間でもまだ園長室にいると聞いていた。

『了解しましたぁ。 へへっ、今夜も楽勝でしたね』

 どうにも緊張感の足りない後輩に対し、薫は今度こそコホンと一つ咳き込んで、老婆心ながら苦言を呈する。

『おい、最後まで油断するなよ。 俺たち退魔師は、霊力を消耗した今が一番危ないんだからな』

『わかっていますって。 いつまでも見習い扱いしないでくださいよ。 あっ、なんだったらセンパイは先に休んでいてもいいですよ、後はわたしがいい感じにしておきますからっ』

『・・・・・・』

 薫は沈黙を返す。

『あれ、あのー、センパイ?』

 後輩の優月とは付き合いがないだけに、彼女はそれで薫が怒ったことをなんとなく理解してしまったようで、

『俺はな、優月。 普段からやる気の見えないお前が珍しく積極的に提案するものだから、だから予定になかったはずのこのこども園にまでやってきたんだぞ? それなのにまた調子にのって。 だいたいお前はいつも――』

 素養は十分だが、まだまだ未熟な部分が垣間見える彼女。
 2歳のころから修行をはじめ、20歳を超えてからやっと一人前として認められた薫に対し、優月は現役高校生で修業中の身とはいえ、すでにいくつも実践を経験している。
 それ故に自分の力を過信している部分があり、そうでなくとも第二次性徴を迎えた彼女の手足はすらりと伸び、知恵を蓄え、最近あれこれ薫をからかうことも増えていた。

『あー、はいはい、ごめんなさい。 お説教なら仕事が終わってから聞きますよ。 じゃあ、またあとで』

『こら、勝手に切るんじゃ―― ちっ、逃げたか』

 天狗という厄介な妖魔になりかけている少女を、いつか年上として先輩として一喝しなければならない。 そう心に誓いながら薫は再び立ち上がった。







 20分後。 夜のこども園に戻ってきた薫は身だしなみを整えつつ、控えめに園長室の扉をノックしたのだが・・・・・・

「どういうことだ、これは?」

 戸惑いに睫毛を震わせ、その目を園長室の椅子に向ける。

「おぎゃあ。おぎゃあ、おぎゃあ」

 そこに物腰穏やかな園長はおらず、代わりに立ち上がることもできない幼児が一人。
 なにかを求めて必死で泣きわめいているものだから、薫は思わずその子を両手で抱き上げていた。

「この赤ん坊はいったい・・・・・・ それにこの服、園長先生の?」

 こども園に赤ん坊がいることは珍しくないが、その赤ん坊はブカブカのワイシャツの中にいて、床にはまるで抜け殻のようなスーツが落ちていた。

「―― ひょっとして、その赤ん坊が園長先生なんじゃないですか? 」

「優月・・・・・・ もう来たのか」

 薫の思考に割り込むようにして、電話で話していた後輩退魔師・大江優月が、のほほんとした笑みを浮かべてやってくる。
 彼女の手首には薫と同じように包帯が巻かれ、赤い斑点模様が痛々しい。

「おい、その手首。 ちゃんと止血しろっていつも言っているだろう」

「そんなこと言っている場合じゃないですよ、センパイ」

 長い睫毛に優しげな瞳、ぼってりとした艶やかな唇、すべてを温かく包み込むような柔らかい肌。 シャープな輪郭を包む長い髪は白いリボンが結ばれていて、整えられた毛先が大人びた身体のラインをくすぐっている。
 神聖な巫女服に袖を通したその姿は、胸元を押し上げるそのふくよかな胸と相まって、聖母と呼ぶにふさわしい姿。 内包する霊力は薫のそれを圧倒し、まともに戦えば上級妖魔ですら敵ではない。

「優月、警戒しろ」

「はい」

 薫は赤ん坊となった園長を抱きながら優月に近づく。 彼女の力を頼りにし、赤ん坊を守るためまだ見ぬ敵に備えていた。

「これもきっと妖魔の仕業、ですよね」

「わからない。 少なくとも結界内の安全は俺たち二人で確かめたはずなんだが・・・・・・ これほどの怪異、低級妖魔の力ではありえない」

 緊張した面持ちで薫は言う。 そのとき彼の頭の中をよぎったのは、狡猾な知能と自我を有する上級妖魔たち。
 ここ10年は妖魔による大きな事件は起きていないとはいえ、妖魔に敗れた退魔師がどのような末路をたどるのか、イヤというほど教え聞かされている。
 強い霊力を持つ退魔師は一方で妖魔たちの恰好の獲物。 男たちは生きたまま食われ、女に至っては凌辱の限りを尽くされるという ―― 優月の母親が、そうであったように。

(胸騒ぎがする。 一刻も早く、ここから離れた方がいい)

 退魔師とはいえ、背中を預ける相棒はまだ若い少女である。 母親と同じように、妖魔に穢される未来など悲惨すぎる。
 だが、一方で薫の頭の中には妙な思考が並走する。
 人の身体を幼児に退行させる術。
 それは殺気に満ち溢れた妖魔の仕業というよりもむしろ、自らが扱う退魔の術に近い気がして――

「―― ふふっ、後ろががら空きだよ、センパイ」

 無防備の背中、ふさがっている両手、なにより優月への信頼感が薫の反応を鈍感にしていた。

「なっ、優月お前!? 裏切ったのか!?」

 振り返った瞬間、バケツをひっくりかしたように水をかぶる―― 濃縮された悪しき霊気の液体により、薫の身体に異変が起きた。 怪しい光が身体の輪郭をなぞり、身体の中に熱い何かが流れ込んでくる。

(ぐっ、あああああああああ。 か、身体が熱い。 優月が、赤ん坊が、どんどん大きく―― いや、違う。 俺の身体が、ち、縮んで、いるんだっ!?)

 強張っていた薫の容姿は急に糸が切れたように弛緩して、輪郭は幼く、手足は可愛らしく、鍛えた筋肉もモチモチの脂肪へと変わっていった。

「そうだ、これは変若水(おちみず)!? お前、変若水の術をっ!?」

 人の身体を若返らせるという伝説の水『変若水』は、退魔一族の中で禁忌の秘術として伝えられていた。 術式だけでなく大きな霊気が必要で、使える者は退魔師の中でもほんの一握りの者だけたったはず。

「きゃはっ、大成功。 さっすがわたし。 想像以上。 センパイ、そのままはやくお子ちゃまになってください♪」

(うぐぐぐぐぐぐぐ――――っ!)

 園長だった赤ん坊は、腰をしならせる優月の手へと渡った。 すでに身長は後輩退魔師よりも低くなり、その身体に狩衣は不釣り合いに大きく肌蹴てくる。
 両手足からも力が抜け、やがて薫は立ち上がることさえできずにそのまま床上にへたり込む。 心さえ軟弱になった気がして、全身を襲うジンジンとした灼熱感は止まらない。 身体の内側からこねくり回され、激しくうねり、思考を押し流される。

(こ、この力、強すぎる・・・・・・ 抗い、きれないっ!?)

 変若水の力に、薫自身の霊力が飲み込まれていく。
 灼熱に抱かれたままちっちゃな手を伸ばし、薫はぼやける視界で自分を確かめる。 ちょうど小学生くらいの 身長だったが、表情はさらに幼く情けなくなった。

「よ、妖魔に魅入られたかっ?」

 声でさえ子供時代の可愛いソプラノボイスに変わっていた。 元々あまり声変わりしていなかったとはいえ、今聞くと少女の涙声にしか聞こえない。

「んふ、ちょっと違いますね。 ただ、夢をかなえたかっただけ、それだけなんです」

 その瞬間、優月の身体から禍々しい妖気が放ち、彼女は一匹の淫魔と化した。 それは上級妖魔以上、薫一人では勝つのは難しい。 圧倒的な雰囲気に気圧されつつ、逃げることすらできないこの状況に焦りを覚えた。
 清廉な容姿にツノさえ生やした彼女は血のように赤い瞳を輝かせて、赤ん坊を眠らし、そして颯爽と薫に近づく。

「ふふふ、安心して。 センパイを殺したりなんかしません。 それどころか、妖魔になったわたしの下僕にしてあげちゃいます」

 その手で幼児化した薫を抱き上げ、壊れかけた笑みを浮かべる優月。
 低級妖魔と戦っていたときとは比べ物にならない緊張が走り、幼児化した退魔師の心臓を握りつぶす。

「や、やめろ、は、はなせ、はなせぇえ!」

「はふぅ、手足をバタバタしちゃって、やっぱりちっちゃいセンパイはかわいいなぁ。 そんなに怖がらなくても、すぐにセンパイは私から離れたくなくなります」

(優月が、あの、優月が妖魔に・・・・・・っ!?)

 ―― 退魔師として街にはびこる妖魔を退治することとは別に、鷺ノ宮薫にはもう一つ別の重要な仕事が与えられていた。
 それは同門の後輩である大江優月の監視である。
 優月の母親もまた優秀な退魔師であり、薫が尊敬する師匠でもあった。 そんな彼女は凶悪な妖魔にさらわれ、そのとき身籠ったのが他ならぬ優月である。
 母親は優月を生んでしばらく薫の師匠を務めていたがやがて息を引き取り、彼女は半人半妖の退魔師として育った。 そして、退魔師たちの中ではいつか彼女が魔に堕ちることを危惧していて・・・・・・ 薫はそうならないことを信じ、結果として裏切られたのだった――







「きっかけはそう、センパイの家で昔のアルバムを見せてもらったことです」

 聞かれたわけでもなく、優月はすっかり可愛くなった薫を抱いたまま語り始める。
 たおやかに微笑んでいるというのに、彼はそのすべてが空々しく、はるか遠くに感じていた。

「確かあの日は、昔のお母さんが見たいっていうような話だったと思うんですけど、そんなことすぐに忘れちゃうくらい、子供のころのセンパイがあんまりにも可愛らしくって・・・・・・ 私、すぐに夢中になっちゃいました。 一目惚れ、なんですよ」

「・・・・・・」

「でも、最初は自分の運命を呪いましたよ。 だって、どうしても自分のモノにしたいって思った人はもう10年以上も前の人で、今じゃすっかり普通の人だったから・・・・・・ だけど、神様ってホントにいるんですね。 私が退魔師だったのも、妖魔の血をひいているのも、このときのためだったんだってわかっちゃいました。 私にはセンパイを取り戻せる力があって、やり直せるんだって」

「だから変若水を使って、禁忌の術に手を出して俺を子供に戻したのか?」

「はい」
 
 そこでまたひとつ、優月はため息をつく。
 有り余る幸せを零し、猫をあやすように薫の首を何度も撫でまわす。
 
「子供のころのセンパイは完璧です。 男の子だっていうのにお花の妖精さんみたいで、健気で、愛らしくて、清らかな子供。 ため息が出るほど可愛らしくって、だから私――」

「もういい、優月」

「センパイ?」

 話を遮る薫は子供とは思えぬ難しい顔を浮かべている。
 聞くに堪えない彼は、うっとりしはじめた目を細める優月をまっすぐに見て、小さく頷いた。 少々偏っているとはいえ、これは紛れもない愛の告白であり、彼はそれに応える義務があった。
 ただ、その答えはたった一つ。
 唯一無二の柳眉を垂れ下げて、軽蔑した眼差しを送る。

「キモチワルイ・・・・・・ 運命とか、お花の妖精さんって、そんなものはただのまやかしだ。 頭を冷やせ」

 優月の想いを一太刀にして、言葉を叩き返す。
 なおも、薫は容赦なく続けた。

「ショタコンっていうのか? 趣味趣向は人それぞれだが、お前はやりすぎた。 だが、今ならまだ間に合う。 俺を元に戻して解放しろ、早く」

「ふ、ふふふ、まぁ、普通はそういう反応になるわよねぇ。わかってた、うん、ほんとにわかっていたんですけどね・・・・・・ ふぅ、やっぱ厳しい躾が必要かな、これは」

「なにをぶつくさ言っている?」

 優月のことをよく知る薫としては、妖魔に身を堕とした今でも彼女を諭せると信じていた。 例え厳しくても妹分を叱咤して、正しい道に導くのも自分の役目。 自分と彼女の間にある絆というものは、愛情よりももっと深いものがあると思っていた。
 それがどんなに拙い希望で、彼女の心はすでに常闇の底に沈んでいることに気づかなかったとしても、そうせざるにはいられなかった。

「べーっだ、イヤに決まっているじゃないですか。 センパイはもう一生その姿のままなんです」

「なんだとっ!?」

 赤い舌を伸ばして挑発する優月に、薫は幼顔で眦を釣り上げる。

「せっかくあのころの可愛い薫子ちゃんに出会えたっていうのに。 戻りたいなんて、馬鹿言わないでください」

「か、薫子ちゃん?」

 口を開け放ったまま驚く薫に、優月は鼻で笑った。

「そうです、センパイは今日から薫子ちゃんです。 ちっちゃくなったら、絶対そう呼ぼうって、前々から決めていたんです」

 その呼び名は、剛毅果断な退魔師の薫が、今や可愛らしいだけのお子様に成り下がっていたことを如実に表している。
 人形のように整った目鼻立ち、シミ一つない白い肌。 ほっぺただけは雪化粧したイチゴのように赤々とし、幼子特有のふっくらとした輪郭。 あどけない印象で退魔師としての厳しさも、男としての凛々しさもない、儚い心が宿っている。
 筋肉質だった身体もリセットされ、割れた腹筋はプニプニのお腹。 児童そのものの体躯で、大きな瞳は今なお優月のことを憂い気に見つめていた。

「センパイにはもう一度人生をやり直してもらって、今度こそ立派な女の子に育ててあげます、私が」

「お前が、俺を? まさか、そんなくだらない理由でわざわざこども園に俺を誘い込んだというのか?」

「ふふ、さあ、どうでしょう。 いずれにせよ、薫子ちゃんはもうわたしの下僕になるしかないの」

「ふわぁ!?」

 抵抗するまもなく、服を脱がされる。
 子供の火遊びを止めるみたいに、呪符も、合口も、身ぐるみを全部はがされ、完全に生まれたままの姿にされる薫。

「ふふふ」

(―― うわっ、く、くらい!?)

 冷えきった笑顔を最後に闇が訪れ、裸の彼はなにかの衣服をかぶせられたのだとわかったが、その意味まではまるで理解が及ばなかった。

「薫子ちゃんはぁ、ひとりでお着替えできるかなぁ? ほら、がんばれがんばれ、お洋服は前と後ろがあるから注意してねぇ」

 あやす口調に悪態をつく余裕はなく、薫はモコモコとまるで羽化のはじまった青虫みたいに蠢き、暗闇の中から出口を探す。 無理やりにかぶせられた服に仕方なく袖を通し、ぶっきらぼうに首が抜けると、その目は驚愕に見開かれた。

「・・・・・・ なんだ、これは」

 そこには幼い顔立ちとなった薫を、さらに幼くさせる妖精めいた衣装―― ガーリーワンピース。 白とピンクのストライプ調に、緩やかな丸襟と、胸には大きなイチゴのアップリケ。 裾は短くそろえられ、まるで園児服のように見えてしまった。それに加えて、ポンポン付きのキッズソックスまではなんとか堪えた。
 しかし、オムツが一枚差し出されたとき―― それも絵本のような物語がプリントされたフワトロなオムツを見て、あまりの気恥ずかしさに薫は膝をついて低く唸った。

「あれ、気に入らなかった? せっかく薫子ちゃん一人でも履けるよう、パンツタイプのオムツを選んであげたのに・・・・・・イヤなら、こっちのテープタイプにする?」

「ぬぅ・・・・・・」

 見た目には表れていないが薫のショックは大きく。仕方なくパンツタイプのオムツを受け取った。
 変若水のことといい、女児服といい、その用意周到さは悪質極まりない。
 それでも、妖魔に目覚めた優月の力は薫のそれを圧倒的に凌駕し、今逆らったところで勝てる見込みはごくわずか。 大人しく従ったふりをして機をうかがう他ない。

(油断させてなんとか脱出を・・・・・・ とはいえ、この俺がオムツなんて、こんな、こんな、幼稚なものを・・・・・・)

 女装させようとしている、それも赤ちゃんみたいな恰好をさせて、薫を辱しめようとしている。 変態の思考は薫にはわからない。 人の業と妖魔の力を持った優月に、彼の良識が危ぶまれた。
 
「まじまじと見ちゃってぇ、可愛いオムツでしょ? ウサギさんだけじゃないよ、ゾウさんにキリンさん、キツネさんやキツツキさんもいるよ。 これで、薫子ちゃんも寂しくないよねえ?」

「黙れ」
 
 確かに可愛いといえば可愛い。 全体的にピンク色をして、動物たちはニコニコした笑顔で描かれ、フワフワでモコモコした印象が幼稚さを顕著に表している、
 しかし、それを20超えた男が履くとなると話は別次元。
 身体は小さくとも心はまだ大人、すんなりオムツを履けるほど薫はズレていなかった。

「ほらほら、お着替えにいつまで時間がかかっているの? 迷ってないで、はやくはやく。 うふふふふふふふふ」

 男の子の幼児女装に興奮している変態淫魔に狙われ、薫は睫毛を震わせる。
 命が惜しいわけではない、ただ責任を感じていた。
 あくまで先輩として、堕ちた彼女に引導を渡してやるのは自分だと自覚していた。 そのために覚悟を決め、この程度の屈辱で怯むわけにはいかなかった。

(優月、お前が一人前の退魔師となって旅立つことが、俺の夢だったんだぞ・・・・・・くっ!?)

 もう一度だけ躊躇した後、決心して自分で女児オムツを広げて自分で脚を通す。 ただそれだけのことに、これまでの人生を台無しにしたような感覚に陥る。 オムツを履き、桃尻がモコモコと膨らんで、繊細な陰部におもらしパッドをあてがった。 途端に尿意を催促するような浸透力が広がり、肌が粟立つ。

(ふわぁ・・・・・・ !?)

 魔に堕ちた優月とオムツの中でウサギさんが笑っていて『恥ずかしい』なんて言葉では言い足りぬほどの屈辱に、薫はさっさと次の服を取った。 キッズソックスも履いて、そこにはもう退魔師の姿はない。

「うふふ、やっぱり似合っている。 これなら いつでも幼稚園や小学校に入れるわね。 じゃあ、最後に髪を整えるよ?」

「ちっ、好きにしろ。 こんなものはただのコスプレだ、そう易々とお前の思い通りにはならん」

 しかし見通しは甘かった。 優月が最後にとり出したものは、薫を可愛く見せるためのものではなく、薫を改心させるものだった。







 こども園の園児リストに、『さぎのみや かおる』の名前が静かに書き加えられていた。
 白とピンクを基調としたプレイルームに運ばれた薫。
 壁一面にはチューリップ畑が描かれ、天井にはキラキラお星さま。 カラフルなプレイマットは動物さんたちが描かれ、ツギハギタイプでおもらしによる水害にも対応している。 木馬や積み木は出しっぱなしで、部屋全体がおとぎの国の世界。 
 幼児化させられた薫はそこで可憐なお姫様として、自分よりも大きなクマのぬいぐるみの上に、抱きつくような形で寝かされていたのだが、

「ねぇね、ねぇね、ひどいよ、ねぇね」
(く、口が勝手に・・・・・・)

 拙い女の子言葉でしかしゃべれなくなった薫。
 自分のことを“薫子”としか言えず、後輩である優月のことを“ねぇね”と呼んでいる。

「ねぇね、 薫子のお口、じゅふの力で女の子にしちゃっのぉ」

 頭の横、髪止めのように張り付いている呪符はホンモノ。 『女児言語』と書かれていて、それがある限り薫の口調は戻らない。 一刻も早く取り除きたいところだが、霊力で勝る妖魔の呪いに、今の薫はそれを解呪する術がなかった。

(本当に小さな女の子みたいな口調でしかしゃべられない。 こんな馬鹿げたことに呪符を使うなんて・・・・・・)

 毒づく表情すら可愛らしいのは、薫の髪が二つ結びのおさげにされたからだけではない。
 女児服の優しい生地に肌をしっとりと撫でられ、陰部を守るのはピンク色のオムツ、羞恥心とこそばゆい気持ちにモジモジして、長い眦からほのかな色気が漂っていた。

「はぁい、薫子ちゃん。 おっまたせぇ。 優月お姉さんですよ〜。 お利口な薫子ちゃんはぁ、クマちゃんとちゃーんと仲良くできているかなぁ?」

「・・・・・・」

 着替えたのは薫だけではなく、優月もまた保母さんの恰好をして再び現れた。 名札の付いた黄色いエプロンを身に着け、ツノを生やしたまま、からかうようにガラガラを鳴らす。 からんころんと、幼稚な音色に薫の意識が甘すぎる幻想郷へと誘われた。
 彼女はまだ心まで幼児に堕ちていない薫を見ると、頬についばむようなキスをして、美貌を曇らせながら三つ編みをいじる。

「照れなくてもいいんですよぉ。 だって薫子ちゃんがクマちゃんのことが大好きなの、お姉さん知っているから。 ほら、しゅきしゅき、だいしゅき〜って、抱きしめてあげよう」

「・・・・・・ ねぇね、馬鹿。 きらいきらい、だいっきらい!」
(この屈辱・・・・・・ 絶対に許さんぞ、優月)

 細かく睫毛が震え、幼唇から非難する声を漏らす。
 しかし細められた優月の瞳は冷たい光を宿し、楽しげに内腿から足の先までを撫でまわす。 馴れない感触はただ気持ちが悪いだけと、そう思いたかったのだがそれだけではなく、ソワソワしてしまう。
 自分より年下の、それも少女に性的な目で見られていることに気づいた薫に、優月は見抜いているような笑いを浮かべていた。

「んー、馬鹿か・・・・・・ ひどいね、薫子ちゃん。 でも優月お姉さん、馬鹿なのは薫子ちゃんのほうだと思うな」

 優月の視線が薫から別の所へ移る。 彼女の視線はこども園の二階に向かい、そこにはまだ幼い本物の赤ちゃんが眠りについているはず。

「だって、薫子ちゃんがいい子になってくれないとね、優月お姉さんは他のバブちゃんたちのお世話がしたくなっちゃうかも? それでもいいの?」

(脅迫する気か、コイツ!?)

 いやらしく口を釣りあげた優月が、薫だけの本当の保母さんになろうと迫ってくる。 狂気にかられた女性は、彼がよく知る優月という少女とまるで一致しない。

「わ、わかり、まちた・・・・・・ する、しゅきしゅきって、す、するぅ」

 ただののっかっていただけの巨大なクマに向かって、両手を背に、両足を腰の後ろに回すが、全然手足の長さが足りていない。 それでも胸元に顔を埋め、オムツ丸見えでしがみつくと、情けないことに妙な安心感に満たされた。
 その醜態・恥態をしっかりと優月に見られ、むずがゆい気持ちが下半身を中心に湧き起こる。

「うん、えらいえらい、とーってもえらい。 でも、もーっとなかよくしましょうねぇ。 ぎゅーってハグして、ほっぺもスリスリって」

「こ、こう?」

 馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、やわらかく弾力のある生地を持つクマさんをハグハグする。クセになりそうなほど抱き心地がよく、指や頬が、柔らかさの中に溶け込んでいく。

「まだまだだよ、薫子ちゃん。 しゅきしゅきだいしゅき〜って、声に出して。 さん、はい、しゅきしゅき〜って」

「〜〜〜〜っ!?」

 恥ずかしさよりも惨めに思えて涙が出そうになる。 少し前まで妖魔を祓っていた自分が、人を守るためとはいえ、その妖魔と化した少女に従わされている。 未だかつて想像さえしたことのなかった幼稚な言葉を、薫は唇を震わせながら唱えた。

「・・・・・・ しゅ、しゅき・・・・・・ くま、さん・・・・・・ だい・・・・・・ しゅき・・・・・・」

 同時にクマさんの胸に頬ずりまでして、恥ずかしくて、真っ赤に染まった顔を隠すことはできたが、耳朶の紅までは隠せなかった。

「いいですよぉー、そのまま続けてみましょう。 優月お姉さんが、ちゃーんと薫子ちゃんとクマさんのらぶらぶっぷりを、見ていてあげるから」

(くっ!? 腹立たしい、腹立たしいが、ここは堪えるしかない・・・・・・ 朝になれば、きっと仲間たちも助けに来てくれるはず)

 しかし、それはあまりにも悠長なことを言っている。
 傍から見れば、女装した薫がクマのぬいぐるみを押し倒しているように見えるかもしれない。 それも「好き」とか、「大好き」とか、幼稚ながらも真面目に愛の告白。 薫はそれを冗談でも言ったことがなくて、心がどんどん軟弱にされているようだった。 
そんな彼のことを優月は恍惚とした表情で眺めていて、双峰乳を強調するように持ち上げている。

「じゃ、じゃあねぇ、薫子ちゃん・・・・・・ は、はぁあん、こ、今度はもっと、大人なことしよっか? へ、へ、へへへへ・・・・・・」

 興奮しすぎて鼻息荒く、邪悪な妄想を恥ずかしげもなく提案する淫魔の優月。 むせかえるような妖気を浴びているうちに、男も女もかかわりなく蠱惑的な気持ちを起こさせる。
 幼児化して多くの霊力を失った薫もまた例外ではなく、頭ではごっこ遊びと割り切りつつも、羞恥心と背徳感が爛れた気持ちに転化する。 白い肌をピンク色になるまで焦がれるのは、身体をすり合わせると同時にちっちゃな陰茎までこすり付けていたせい。 なにより女児用オムツの生地は他のどんなものよりも気持ち良くて、

(はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・ ペニスが、ぬいぐるみの脚の付け根にはまって、ううう、こ、これでは俺、素股、されているみたいじゃないか)

 不意に、薫の頭の中でクマが生きているかのような錯覚を覚えた。
 ほんの一瞬の白昼夢だったが、優月が見逃さない。 彼女は薫の身体を少し起こして、悪魔みたいにニッコリ笑った。

「薫子ちゃん、キス しよっか、クマさんと、誓いのキス」

「にぃあ!?」

 思わず変な声が出てしまった。 無機物とのキス、そこに特別な意味など何もないはずなのに、だがそう割り切れないのが今の薫だった。

「薫子ちゃんはぁ、優月お姉さんの下僕でぇ、将来クマさんのお嫁さんになるのぉ・・・・・・ きらめくウエディングドレスきてぇ、森の中のチャペルで、けっこんしきぃ」

(おぞましい・・・・・・ これが、人間と、妖魔の間にできた子供の末路、なのか?)

 死ぬことよりも恐ろしい未来に向かって、優月は邁進する。 悲しいことに、付き合いが長いだけにそれが冗談でないことがわかってしまって悪寒が止まらず、 なにより自分自身の心もまた、可笑しくなってきていて、

「いいよねぇ、薫子ちゃん? だって薫子ちゃんはぁ、クマさんでおちんちんシコシコしちゃうイケナイコなんだからぁ、責任取らないとぉ」

「ち、ちがっ!? ねえね、待って、待って、待ってってば」

「ううん、待たない。 待ちません。 待ちたくないのぉ。 っていうか、早くしないとぉ、優月お姉さん、コーフンしすぎてみぃんな殺しまくっちゃうかもよ?」

 欲望に忠実な後輩退魔師は、お腹を空かせたトラのような顔をしている。 呪符を片手に構えながら今にも術を唱えてきそうで、火照ってきた薫の額から冷たい汗が流れ出す。
 もう迷っている暇はなかった。 クマさんのつぶらな瞳を見ないようにして、無心で唇を合わせていった。

(口って、ここでいいんだよな? ・・・・・・ くっ、なんで俺がこんなことを――――――んぐぐっ!?)

 軽く合わせるだけ、そう思っていたつもりが何者かの手が薫の頭を押さえ、そのままクマの口に押し付ける。 尖った唇が潜り込み、フガフガとくぐもった音が漏れ出す。 彼は満足に呼吸ができていなかった。

「ダメだよぉ、薫ちゃん。 そんなんじゃ全然ダメダメ。 キスはねぇ、もっと情熱的に、もっと深々としないと」

 クマのぬいぐるみに、顔ごとむさぼり食らわれているかのような衝撃。
 恐るべき力により薫は目鼻口を抑えられたまま、極度の酸欠状態に陥った。

「そもそもシチュエーションをもっと考えてよ、愛する二人のキスなんですからぁ。 たっぷり見つめ合ってぇ、視線をからめてぇ、愛の囁き。 ほのかに色づくほっぺ、そしてようやく合わさる唇。 息することも瞬きすることも忘れて二人の愛は永遠に・・・・・・ ねえ、わかりましたか、薫子ちゃん?」

 優月の声は人間の時と同じく優しく、薫は優月にお仕置きされていることに気づく。 悪いことをした子供とは自分のことであり、自分が変わらない限りこの苦しみは永遠に続けられるものだと理解させられる。

(わ、わかった、わかったから。 ちゃんとやる、やってやるよ―――っ!?)

 降伏するように手でぬいぐるみをたたくが、なかなか優月は許してはくれない。
 白く霞がかった意識の中で、薫は決定的な敗北を一つ刻まれる。 自分が間違っていると無理やりに思い知らされ、無呼吸の苦しみに退魔師は窮していた。
 ようやく手を離してくれた時には顔面は蒼白し、涙だけでなく涎さえ垂らしてひどい表情を浮かべていた。

「―― ぶはかっぁ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・・ぇ」

 はしたない顔を持ち上げられ、目の前にはとびっきり素敵な優月の笑顔で期待に満ち満ちた目をしている。

「あら〜、ひどい顔だねぇ。 ちゃんと綺麗にしてあげる、ほら、フキフキフキ」

「うぶぶぶぶ」

 厚かましく顔を綺麗にされて不快に眉をたわめる薫だったが、優月のおせっかいは終わらない。 丁寧に丁寧に髪をすかしてはねっけを直し、さらに淡い桜色をしたリップを薫の唇に塗る。
 たったそれだけで、少女は乙女へと昇華し、あどけない白い容姿に艶唇が妖しい輝きを放った。

(こ、これが、俺・・・・・・ ? こんなの、女の子、その、ものじゃないか・・・・・・)

 鏡に映った美少女といって差支えのない自分に、ときめいてしまった自分がいる。 驚いたように瞳を大きくし、リップを入れた唇を指でなぞる。
 アイするぬいぐるみのためにする、はじめてのお化粧。
 それが女の子としての嗜みであることを教えられ、恥ずかしいという気持ちよりも戸惑う気持ちの方が大きくなっていく。

「薫子・・・・・・ クマ、さんと・・・・・・ キ、キス、する・・・・・・ね? ねえね、見てて」

 真剣にこちらの動向を伺う優月に、薫は本気にならなくてはならなかった。小さな子供がぬいぐるみに話しかけるように、舞台役者がその役になりきるように、自分を女と思い、クマさんを恋人と思う――。

(・・・・・・ 命をかけてやることが、こんな、ぬいぐるみごっことは)

 それでも真剣に、両手をついてクマさんの瞳を真正面から見つめる。 その色、ツヤ、深み、輪郭からもあるはずのない感情を読み取ろうとして、熱っぽい眼差しを送る。 頭の中ではクマのことでいっぱい。 このクマさんのいいところはどこだろうか、このクマさんはなにが好きなのだろうか、このクマさんは今までどんな生き方をしてきたのだろうかと、考えた。
 すると、“ポーカーフェイスな彼”が微笑んだように思った。 薫は熱さと恥ずかしさと緊張感に包まれながら びりびりと痺れる唇をゆっくりとおろしていく。

「クマ、さん・・・・・・ んー・・・・・・ んっ? んんんんんんんっ!?」

 唇がたどりつくよりも早く、再び薫の顔面がクマさんの口が押さえつけられる。 しかし今度は優月も何もしていない。 動いているのは他ならぬ、クマさん自身だった。

「 がっ、ふっ、ふががが、ご、あ?」

 突然、意志を持ったクマのぬいぐるみ。 腹は波打ち、湿った吐息が吹きかかる。
 顔中クマさんの唾液塗れとなるものの、なおも彼は薫に対して頬ずりしたり、ハグしたり、またキスを降らしてくる。 熱烈に愛されていることはわかったものの、あまりの溺愛ぶりに薫は溺れかけていた。

「ぷっ、あははは、ああははははっはははは。 びっくりした? ねえ、びっくりしちゃった、薫子ちゃん?」

「ねえね、なんで、うぷぷぷっ!?」

 諸悪の根源を睨んだまま薫は憤る。
 愛嬌たっぷりなはずのクマの貌は今、いやらしく鼻を伸ばし、チラリと見えるオトコのコの乳首に釘づけ。 ゾクっと悪寒が走ったのと同時、クマさんはワンピースの中に向かって、鼻を擦りつけてきた。

「ふわぁああぁぁああんっ、や、やめてよもう」

 ポッチみたいに固く尖った乳首は綺麗なピンク色。 乳輪ごともみくちゃに研磨されて、甘い電撃が薫に危険な信号を与える。 「ひゃん」なんて自分でも驚くほど女々しい嬌声が漏れ出すと、その幼き瞳は闘志に燃えた。

「〜〜〜〜っ!」
(こ、このインラン猥褻痴漢グマ、俺は男だ。 発情しているんじゃない!)

 感情に任せて思いっきり殴った拳だったが、意外なことに効果はあった。 クマは怯んで 薫の身体から離れ、痛がる素振りを見せている。

「わぁ、さっすが薫子ちゃん、過激に素敵ね♪ でも、薫子ちゃんが男の子でいられたのは昨日までだよ。 優月お姉さんとクマさんが、薫子ちゃんをアンアン鳴いちゃう女の子にしてあげる・・・・・・ 見てなさい」

 嗜虐の笑みを浮かべる優月は呪符を放ち、クマさんの股間に異変が生じる。 両脚の付け根が膨らんで、ソフトボールくらいの大きさとなり、それが見る見るうち天井に向かって伸び始める。
 薫のモノよりも数段大きく太い竿に、重機にも見える屈強な牡肉。 紛れもなく、数々の女退魔師を狂わせてきた妖魔の男性器だ。

(そんな、大きすぎる・・・・・・)

 薫は信じられなかった。 ぬいぐるみに生々しい雄のシンボルが生えたことではなく、その狙いが自分にあることを信じたくはなかった。 退魔師になってからはいつ死んでも悔いはなかったが、強姦されるなんて考えたこともない。

「男だから、妖魔に犯されるはずないって? そんな可愛らしい顔してさ、甘いよ薫子ちゃん?」

「ひっ――」

 発情したクマさんは獣根を跳ねさせながら、二足歩行で迫ってくる。
 薫が逃げようにも出口は当然ない。

「助けてほしかったらいつでもいってね? 優月お姉さんの下僕になるっていうんなら、今回だけは助けてあげてもいいかな」

 薫は悪い意味でクマさんの男根から目が離せぬまま、首を振って拒絶する。 自分自身の矮小さを思い知ると同時に、一人のメスであることも思い知らされる。 自分を穢す存在に、全く新しい危機感と憤りを感じて震えていた。

「うー、うー、ぅうううううう・・・・・・」

 ・・・・・・ やがて、薫は当然のように壁際へと追い詰められていた。
 貞操を守るのはオムツ一枚。 最初は嫌悪さえしていたはずのその下着が、今や彼を守る最後の盾になるなんて。

「はぁ、ケダモノのようになった旦那様がか弱い少女を女の子にするの・・・・・・ はぁ、これもまた愛。ウフフフフフ」

 邪悪な笑い声が響く中、鼻息荒々しいクマさんが、大人の腕ほど太い腕を伸ばし、薫は寸前のところでかわす。 小さくなった身体が幸いし、クマさんが一瞬彼を見失った隙をつく。
 ―― 彼は手首の包帯に隠していた小さな呪符を取り出した。
 それをクマさんの足に張り、残り少ない霊力を使って力ある言葉をかけると、突如吹き出した火柱がぬいぐるみの身体だけを包み込んだ。

(よかった、こんな状態でも、一応呪符は使えるみたいだ)

 ただし、薫に悠長に考えている暇はなかった。

「あちゃー、薫子ちゃんにはぁ、恋人ごっこはまだ早かったみたいねぇ・・・・・・ でも、今のが正真正銘最後の呪符とみた」

「は、はうゎ」

 巨大クマさんを退けたのももつかの間。 無防備になったオトコのコの胸に、優月の手が包んできた。
 まずは感度を確かめるように乳首をいじるその手は、周りの脂肪を寄せては上げてマッサージし、あるはずのないバストを揉みしだこうとしている。
 退魔師だった少年は、胸を揉まれるというはじめての凌辱に戸惑うと同時に、切り札を使ってしまった後悔の念に潰される。

「いい感度・・・・・・、ツンツンとがって綺麗な色の乳首・・・・・・ 食べちゃいたいくらい」

「ひ、ひやあう・・・・・・ ふ、ふっ・・・・・・ さ、さわっちゃ、ダメェ・・・・・・ねえね。 やめてってば」

 可愛らしい声でしか鳴けなくなった薫は優月に抱きかかえられ、足が勝手に宙を浮く。 胸を揉まれる気持ち悪さと気持ち良さの狭間の中で、頭がぶつけられたような鈍い痛みが走った。

(イ、イヤなのに・・・・・・ 反射的に、身体が反応してぇ・・・・・・ ひぐぅ、う、うそだ・・・・・・ お、おれがぁ、こんな、きもちになるなんてぇ・・・・・・)

 血の通わない彼女の肌と肌を合わせると、より一層淫らな気持ちになる。 滝のような妖気と霊力を浴びせられて、首筋の血流がドクドクと脈打っていた。
 未知なる快感と邪な熱病が胸の先端から下半身まで響きわたり、女児オムツの中で陰茎の形がくっきりと浮き彫りとなる。 恥ずかしがっている余裕さえなく、次から次へと弾ける電気に、身体ごと作り替えられているような錯覚を覚えた。

「ひぃぐぅううううううううう;!?」

「・・・・・・ 薫子ちゃんは、もうここにいていいのよ。 ずっと、ずーっと、お姉さんに甘やかされて生きるの」
 
 不意に鋭敏となった乳首をきつくつねられ、思わず薫は悲鳴を上げる。

「涙は弱い者の証、でしょ? だから今の薫子ちゃんにはお似合い。 さぁ、下僕になることを誓いましょう? 絶対その方が、もっと気持ちよくなれるんだから」

「や、やだ・・・・・・ やだやだ! 薫子は、薫子はぜったい、負けないんだから」

 弱々しい表情のまま首を振り、薫は妖魔の誘いを断固として断る。 汚辱の手は止まることはなく、両胸の先端は悪戯に爪弾かれて痛ましい声が上がった。
 不意にお尻をもち上げたと思えば、薫の顔面にFカップが押し付けられ、それはぬいぐるみとは比較にならないどこまでも沈みゆく柔軟な乳果実。 意識さえ白く塗りつぶされてしまうようで、

「はぁ、頑固なのは子供の時からなんだねぇ。 でも、そういう困難な状況を打破してこそ、手に入れた時の悦びはひとしおなんだよ」

「ふわあああああぁぁああああ・・・・・・」

 保育士のエプロンごしに、双乳で顔を愛撫される。 前髪の生え際やら瞼の上、鼻先から唇や下顎にいたるところまであますことなく柔らかさで責められ、顔中の筋繊維がほつれるような淫靡な何かを塗りたくられる。 抵抗などまるでできない。 甘いミルクのような匂いが弛緩剤の役割を果たす。

「嫌がっているわりには・・・・・・ 身体は正直さんなんだもん。 こんなことしてくれるの、世界中探したってお姉さんだけだよ」

 そう勝ち誇って、今度はお姫様抱っこされる薫。
 暴れる彼を押さえつけることは今の優月には容易く、ちょっと股間のオムツに手を当てるだけで動けなくなってしまう。 握っただけでじわぁっと気持ち良さが滲みだし、高まる射精感に腰や身体を動かせなかった。
 そして薫が運ばれた先には特別なベビーベットが一つ、『さぎのみや かおる』と名前入り。 通常のモノよりも一周り以上大きなそれは、薫には棺桶のように思えた。
 ベビーベッドには一際幼稚なサークルメリーが子守唄を奏でており、小さなクマの兄弟が、薫の到着を待ちわびていた。 当然、いずれも立派なモノを生やしている。

「森のクマさんと薫子ちゃん、第二章。お父さんのカタキだ、ちっちゃなクマ兄弟の逆襲レイプ。 はじまりはじまり、なぁんてね」

 さっと、優月は手を離す。

「くぅうう!?」

 あっと言う間、仰向けでベビーベッドに落下する薫。
 腰を打ち付け、拙い柵の中で恥ずかしいまたオムツが全開。 陰茎がよじれて、笑顔のどうぶつたちが急にニヤけた顔に変わっていた。

「あぅぅぅ、お尻、痛い、もう、ねえねったら――」

 退魔師だった少年は邪念を払いつつ、毒づくために口を開いた。
 しかし新たな住人となった彼に、ぬいぐるみたちからの苛烈すぎる制裁がはじまる。 幼い薫にはお似合いの、太さはないが長く“可愛い”獣根が口腔を一気に貫いてきた。

「うぐぅ!? むぅえっ・・・・・・ぬぶぶぶぶぶふう、ぬりゅっ・・・・・・ きゅぷぷぷっ」

 フェラチオなどAVでしかみたことのない薫の口腔を犯し、ぬいぐるみの肉棒が口蓋垂を押しのけ食道をノックする。 
 子供に愛されるための造形とは裏腹に、クマのぬいぐるみは逞しく腰を振り、薫の口は性欲処理のための道具と化す。 溶解するほどの熱さが脳の奥まで伝染し、痛みと猛烈な吐き気を撹拌させながら、小さな自分よりもさらに小さな愛玩人形に蹂躙される。

(俺は・・・・・・ こんなやつらにまで、好き勝手されて・・・・・・)

 自分という存在が、ここまでゾンザイに扱われるものなのかと多大なショックを隠し切れない。
 驚愕に見開かれた瞳はサークルメリーを見つめ、喉奥を犯すぬいぐるみに見下され、抵抗することも忘れて苦しげな声を漏らす。 
 口だけでなく脳にまでその凌辱感は届き、痛みと心地の良い痺れが尾骨から背筋を駆け上がる。 ジュップジュップという水音をどこか遠くに聞きながら、闇の彼方に飛んでいきそうになる意識を必死で繋ぎとめようとしていた。

「ちゅぱちゅぱ、ちゅーぱちゅぱ。 お上手でちゅねぇ、薫子ちゃん。 クマちゃんの腰使いに合わせて動いて、そんなにおしゃぶりが気にいったの?」

 指先で乳首や陰茎、頬をつっついていた優月は、壮艶な笑顔を見せて白いキバをこぼす。
 薫は優月が言うように自分からフェラチオを求めたわけではない。 だが、相手を屈服させようとするクマの肉棒の力強い動きに負けて、首や舌が無意識に動いていた。
 もがくその右手も左手も別のクマさんの獣根を握らされ、これも戸惑いがちに動かすよう強要されたような気がして、喉も、右手も、左手も・・・・・・ 最後の一本はおへその上を走っていて、全身を使って奉仕する。

「ぬりゅっ・・・・・・ぬぶぶぶぶっ、ぢゅば!? ぐ、ぐる、じ・・・・・・ あ、ご、んぷぷぷ・・・・・・」

 可憐に色づく頬を窄めて、唾液が飛散し、鼻が赤くなるほど何度も口内ピストンを繰りかえされる。 無様としか言いようのない醜い顔を晒したまま、雌の恥辱と雄の重量感をイヤというほど味あわされた。
 妖魔の獣根は幼い退魔師の口の中で歓喜したように律動し、ドロリとまとった体液の中を舌が泳いでいる。
 喉以外の肉棒も火を起こすほど速くこすり付けてきて、まるで薫という新しい玩具を取り合うように、邪な熱と鼓動を感じさせてきた。

「苦しい? 違うよぉ、きもちいいだからね。 ほら、おしゃぶりきもちいいって。おちんちん、だいすきだよって。 クマさんのおちんちんに囲まれて、身体中えっちっちになっちゃった」

 ズチュッ、ズチュウッ、ズブブブッ・・・・・・
 淫魔の眼差しは情欲を誘う蠱惑の眼差し、艶めかしい声は催淫効果を及ばせる。 薫は自分の身体を犯す音を耳にしながら、心の深いところで何度もその声を反芻させられる『おしゃぶり、きもちいい』と、『おちんちん、だいすき』と聞きたくもないのに浮かび上がる。

「んぐっ、んぶ・・・・・・っっ、むぅぅぅっ、んぶぶぶっ!?」

「うふふふふ、クマさん。 もうそろそろ限界みたいだね。 薫子ちゃんにぃー、たっぷりミルクをご馳走したいって、はりきっているぞ」

 ズブッ、ズブブブッ! ズプゥッ!
 なにか大きなものがせり上がってくるのを感じて、薫はかっと目を見開く。
 途端に口内に納まっていた陰茎が大きく膨れ、無茶苦茶につついてくる。 透き通った喉はボコボコと膨らんで、粘膜をこそぎ、屈辱と苦しみが全神経を震わせる。

「じゅる、ずぷぷんぶぅ!? んんんんんんんぐっ!? ふぅん、あ゛っ、あ゛あっ、んふぅぅんっ・・・・・・んんんんんっ・・・・・・ んち゛ちゅぷっ!?」

 薫は随分前からぬいぐるみを引き離そうと試みたが、両手は陰茎の熱さにふやけている。 邪な熱に意識がぼーっとしはじめ、ただ機械的に前後させていた。  カリになったところを指でぐりぐりまわすと、心地よさそうに跳ねるのがちょっと面白いなどと歪んだ思考に邪魔されていた。

「薫子ちゃんはぁ、ごっくん、上手くできるかなぁ? クマちゃんのミルク、こぼしちゃダメよ?」

「んんんんんんっ・・・・・・ ふひゃっ・・・・・・っ」

 幼い口腔を凌辱し尽くした獣根を、優月がさらに一押し。 喉は微痙攣を起こしながら、最も深いところにピタリとはまりこむ。
 ぬいぐるみたちに悪意はない。
 彼らは皆ひとえにダイスキな薫と遊びたいだけであり、小さな薫はオスというものを徹底的に教え込まされた。

「さぁーん、にぃー、いーち・・・・・・ぜろ。 どぴゅうぅ、びゅるるるるるぅぅぅぅぅ!」

 声に合わせて、白い液体が喉奥で迸る。

「むぅうううううっ!? んぢゅば・・・・・・んんんんんんん――――――っ!?」
(やめろ、やめてくれぇ・・・・・・ 妖魔の精液なんて、飲みたくない・・・・・・)

 小さな凌辱者が持つ肉棒は次々と灼熱液を薫にぶちまけて、穢れのない喉を孕ませる。ヘドロのような粘度でへばりつき、暴力的な濁流となって荒れ狂う。 退魔師の瞳から正気の光が消えかけ、底が抜けるほどの失墜感。 締りを失った身体には、手淫するぬいぐるみたちも卑猥な液体をこぼし、髪やイチゴのワンピースを汚して雪肌に溶け込んだ。
 薫は妖魔に狂わされた女退魔師たちを想い、同時に自分がそうなることへの予感に戦慄する。

(辛い、苦しい、熱い・・・・・・ これが、人を淫らにさせるという、妖魔の力・・・・・・ なんて濃厚な・・・・・・)

 ニュルッ・・・・・・チュププ・・・・・・
 獣根が抜け、意図せず身体が何度もビクンッビクンッと仰け反る。 まるで虐げられて感じているような錯覚さえして、今なお腰を振り続けるぬいぐるみたちの 獣欲を一身に受けていた。

「ちゅぱちゅぱ・・・・・・ 口の中にあるクマさんのミルクは零しちゃダメだよ、薫子ちゃん。 ごっくん、できるまで何度だってしてあげるんだから」

 ぬいぐるみの獣根が抜け、薫の口端から泡となったこぼれた白濁液を見て、優月は優しく残酷に語りかける。
 完全に臆した薫は喉の粘膜に絡みつく高い粘度の液体を、勇気を振り絞って胃に流し込む。

「んぶぶぶぶぶぶ、はぁ、んぷっ、おおっ、おおおおおおおおおおぅぅぅぅぅううううんっ!」

 か弱い女の子みたいにぎゅっと目をつむったまま、薫は濁音を鳴らしながらそれを嚥下する。 甘く腐敗した果汁のような味、舌触りは大量の蛆が浮かんでいるのではないかと思うほどで、あまりの惨めさに涙をこぼして必死で―― ゴックン。
 身の毛のよだつ嘔吐感に全身が脈動し、胃の底に沈殿する凌辱の塊にまともな思考など働くわけがない。
 幼い顔立ちは敗北感に歪み、力なき退魔師にはワンピースさえ大人びて見えた。 本来、自分が助けるべき幼子と同じ女児服で、彼女らの代わりにされることを被虐の悦びに変えながら、目の前をまばゆい稲光が過ぎ去った。

「できたできた、薫子ちゃんのごっくん、ちゃんと上手くできたねぇ。 えらいえらい。 でも、まだ手の中にも白いの残っているよ。それも綺麗にしなくっちゃ・・・・・・ ねっ?」

「ふぁ、ふぁぁい」

 頭をやられてしまったのか、逆らうことが億劫で、ただ言われるがまま優月に従う。 両手に糸を引く白い粘液もまた、犬のように舌を這わせて舐めとった。 さながら自分は精液壺かと、苦しみもがききながらベビープレイにガタつく心。

「ぶ。ぶううはぁっ、ご、ごほ、ごほっ・・・・・・ う゛げぇっぷ」 

 短い手足を投げ出したまま、薫は凌辱の余韻を漏らす。 すえたオスの匂いを漂わせ、口内で精を放たれる感覚が消えない。
 そのぬいぐるみたちは射精と同時に魂を失っており、今はただベビーベッドの幼稚な彩となり、仲睦まじく薫の身体の上に寄り添っていた。そして、そのすぐそばには優月の幸せそうな顔がある。 はじめて一人歩きした子供をみつめるかのように、黒い欲望はまだまだ尽きてはいないようだった。

「どう、薫子ちゃん。 もう退魔師なんてイヤだよねぇ? 一生懸命頑張ったって、薫子ちゃんは弱いんだから、いずれこうなるのがオチ」

「っが、あ、お、ぐううう・・・・・・ ねぇ、ね」

 抗う力など残っていないのに、堕ちかけたその一瞬はっとなって気丈さを取り戻す。 薫の瞳は儚いが、正義という子供にふさわしいものをまだ信じていた。

「こんな、こんなことでくらいで、薫子、お、堕ち、ないもん・・・・・・ 薫子、は、妖魔のものになる、くらいなら・・・・・・ し、死んだ方がマシ」

 その言葉に答えるかのように優月は楽しげに手を添える。 妖魔となった今でも瑞々しい指が、薫の内腿を伝い、女児用オムツに浮かび上がった陰茎の影をなぞる。

「その割にはココがすっごく元気なんだけど・・・・・・?」

 気が付かないはずはなかった。
 体中の熱がそこに集まってきて、それは薫が感じていたという証拠であり、凌辱に屈した証でもあった。

「・・・・・・ 薫子、お、男だから、仕方がないもん」

「いいえ、オトコのコだからなんだよ?」

「オ、オトコ、の、コ?」

 聞きなれないニュアンスでかどわかされ、心が揺れ動く。
 力で大きく劣る薫が強気でいられるのは、大人としてのプライドがあってこそのもの。 それも今や風前の灯で心の一部は優月に魅入られてしまった。 陰部を触れられているのにいやとも言えず、ただじっとそれに悶えている。

「そうよ、薫子ちゃんはオトコのコ。 女の子よりも弱くて、可愛らしい、甘えたがりのかまってちゃん」

「あうっ!?」

 不意に、頭に呪符を張られる。
 すぐにまた、ベビーベッドに寝そべったままの身体は変調を起こした。
 『幼児言語』の隣に『快感放尿』と記されたそれは――

「へへっ、尿意を催促してその分泌量を倍増させる優月オリジナルの呪符・・・・・・ まあ、多少頭が馬鹿になっちゃうかもしれないけど、仕方がないよね?」

「〜〜〜〜っ!?」

 驚愕する薫を襲う、痛みともかゆみとも違う、響くような感覚。 どこか懐かしさのする危うい予感を持ちながら、絶頂にも似た悦動がせり上がってきた。

(な、なんだ、なんなんだこれは!? 尿意が、し、小便が勝手に溜まって・・・・・・)

 尿道にミミズがのたうつような流動に身震いして、強制的に誘われる排尿行為。 冷たい霊力が呪符を通して流し込まれ、膀胱が決壊寸前まで膨張する。
 試練の時を超え、尿意が解き放たれたときの爽快感は誰もが知っている。 だが、呪符によって引き起こされたものは、これまで経験したことのない苦しみ、疼き。 蓄積された解放感とそのエネルギーに、薫は気が狂いそうだった。

「ふわぁ、ふわっ、ふわぁああああああ・・・・・・」

 混乱した薫はおトイレとも言えなかった。
 最低限の生理現象さえその自由を奪われて、悔しいという感情よりも本当にシテいいのかと、戸惑いさえ浮かべて優月を見上げる。
 奇妙な履き心地の良さをもつオムツは、薫のおもらしを吸収することで完成する。 アニマルプリントは彼が身体の大きな幼児であることを証明し、陰部を優しく内包しながら、その時を待ちわびているのだった。

「いっぱい遊んで、ミルク飲んでお腹膨れたでしょう? じゃあ、今度はしぃーしぃーのおじかんですよ〜」

(くあ、あ、あ、な、なにもかんがえられなく・・・・・・ や、やめろ、ああ、ううううう、やめて、くれぇ)

 罵られる方がむしろ良かったと思えるほど、妖魔は慈愛に満ちていて、括約筋をほぐすようにパンツの上から股間と、内股の肌を執拗にさすった。たまらず腰を横転させようにも、ベビーベッドはぬいぐるみでいっぱい。 命を失った今でも薫を囲み視姦している。
 自律神経に支障をきたすほどの強い圧迫感に相反して、薫は艶唇から上ずった声を出していた。
 自己憐憫と興奮が交錯し、どこまでが呪符の効果なのかわからない。 ただ我慢という言葉ではもうどうにもならないところまできていて、泡沫の幸せのまま、ゆっくりと奈落の底へ落ちていく

「あ、あああああ、い、いや、いや、ねえね、ねえね?」
(ゆ、優月・・・・・・ お前・・・・・・)

 訳も分からず優月を呼ぶ、このまま抱っこしてトイレの前で連れて行ってほしいとまで願ったが、

「も、もうだめ、薫子、おしっこぉ! おしっこぉ!」

 秘孔から尿がもれ、幼児向けオムツに生温かい感触が広がっていく。 細かく振動しながら肢体が抜け殻同然になっていく。 それら全てを視られている。
 ―― 薫は確かに感じていた。 黄金色の奔流が前立腺を摩擦して、刹那的に爆発するマスターベーションとはまるで違う、長く尾を引く、染み入るような快感を享受してしまった。
 空いた両腕はぬいぐるみをしっかりと抱きかかえ、とうとうと続く放尿に痺れが止まらず、その虜となって愉悦に浸る。

「お、おお、おむ、ちゅ、び、びちゃびた、にな、るぅ・・・・・・」

「あーあ、とうとうおむつにおもらししちゃったね。 んふ、でも気持ち良いでしょう? 妖魔の下僕になった薫子ちゃんは、これから何度だってこの快感を味わせてあげる」

「あうあ、あ、ああ・・・・・・」

 長い放尿がそこで終わり、ずしりと重くしたオムツを感じさせられながら、薫は放心状態。赤ん坊のような表情のまま、優月が満足げにやってきて耳元で囁く。
 母性を感じさせるその声は、男の自尊心も大人の意地をも乖離させる。

「気持ち良かったね、薫子ちゃん」

「いやぁ、いやぁ・・・・・・」

「気持ちよかったんでしょ、薫子ちゃん」

「ぁぁぁ・・・・・・」

「薫子ちゃんは、気持ち良かったの? そうでしょ?」

「・・・・・・」

 信じ込ませるように唱え続ける。
 薫の潜在意識の中に眠る変態性を引きずり出す。

「気持ち、よかった?」

「・・・・・・」

 ・・・・・・ コクン、じっと見ていなければ気づかないほど、薫は小さく頷いた。
 ついに、泣く泣く認めさせられてしまった。 自分の中の弱さを。

「ふふっ、よくできました。 優月お姉さん、嬉しいっ!」

 額に額を押し付けぐりぐりと優月はスキンシップを図るも、ツノも当たって軽い痛みを抱く。
 
「じゃあオムツ、脱がせてあげるね。 イヤだなんてもう言わないよね?」

「あ、あ、あ・・・・・・」

 薫はまだ放心していたが、陰部とお尻の温もりは冷えていき、一変して気持ち悪くなっていく。 不快感は彼の表情に現れ、微妙に垂れ下がる眉と萎んだ唇に優月ははしゃぐ。
 彼女は焦らすようにオムツを剥いて、包茎ペニスが外気に触れた途端、己の匂いに薫は覚醒する。

「・・・・・・ ねえね、なんで・・・・・・ あああ、オムツ、オムツが」

「お股、くちゃいくちゃい、ね? もう正気に戻ったの? ひひっ、あーん、そんなに悲しい顔しないでよ、薫子ちゃん。 おもらしくちゃいくちゃいでも、お姉さんは薫子ちゃんを見捨てたりしないよ」

 恨みがましく優月を睨むも、ズブ濡れのオムツを逆に突きつけられては、むずがゆい気持ちにまた頬を赤く染める。
 自分が追い詰められていく感覚には気づいていたが、その緊張感が徐々に薄れていく。

「あーんもう、拗ねた顔も可愛いんだから。 薫子ちゃんのびしょびしょのお股、フキフキしてあげるからご機嫌治してねェ」

 不意にオムツを剥かれた薫はただそれだけで幼児らしく鳴いた。
 往生際が悪く抵抗していたが力は弱く、幼児は優月お姉さんには逆らえないことが世の摂理。 あやされて、可愛がられて、我儘さえ優しく受け入れられてしまう。
 逸脱した悦びを迎えた股間は風が通るたびにわなないて、今なお凌辱の余韻が尽きていない。 そうすることが当たり前のように、そうなることが決められた運命であるかのように、幼稚な淫毒が弱り切った魂に忍び寄った。

「はーい、フキフキ、フキフキ、きもちいいよね?」

 優月は“バスタオルよりも大きな白い布地”を手にして、鼻歌を口ずさみながら陰茎を拭う。
 それはオムツに比べると質感はさらりとして柔らかさもないが、不思議と薫の肌との馴染みが良くて、臭い体液を残さず吸い込んで汚れていく。 そのとき、ゾゾゾと嫌な痺れが駆け上がり、唇を噛んでいた薫の口が笑みの形にとろけはじめた――

「ん? ふふっ、薫子ちゃんったらフキフキされながらまた感じちゃった? そんなにこのオチンチンふき気に入ったみたいだね。 優月お姉さん、嬉しいっ!」

 ―― 邪悪に目を細める優月をみて、ようやく薫は自らの失態に気づく。
 汗と体液に塗れた吸い込む布地は、かつて彼が何度も袖を通して修羅場をくぐった大切な宝物だった。

「ね、ねえね・・・・・・」
(お、まえ、おれの狩衣で・・・・・・ 退魔師の誇りが・・・・・・ あああああああっ!?)

 神聖な衣装を穢され、薫は意識を失いかける。
 腰が抜けているというのに手を伸ばしたが、指が触れる前に取り上げられた。

「こら、ばっちぃからさわっちゃダメ。 それにこれは薫子ちゃんにはもう必要のないもの、 あとで、トイレのぞうきんにするんだからね」

「・・・・・・ ぞ、ぞうきん」

 退魔師の誇りを目の前で引き裂き、勝ち誇る優月は悪臭漂う装束からも興味を失い、部屋の隅へ無造作に投げ捨てた。
 大切なものを奪われていく悲しみに薫は、躾けられた犬のように大人しく、オムツを履かされていないことに心細ささえ感じるまでになっていた
 皮被りの短小ペニスはまだ痛痒い快感を引きずっていて、ぷっくり先端を膨らませながら、サーモンピンクの綺麗な牡肉が包皮口からアタマを出している。 その溢れ目から透明な先走り汁を垂らし、 奇妙な居心地の良ささえ感じ、心ならずも身体は愛欲を求めて疼いてしまう。
 ミルク飲み人形と化した瞳に、自分をあやすためのガラガラが映ると、白い両頬も華やかな色をつけた。

「もういいでしょ? これからはミルクを飲んでおもらしするだけのお仕事を、頑張りましょう? 」

「そんな、ねぇね、薫子は・・・・・・」

 嬉々とした言葉に、薫は悲しそうに反論する。

「どうして、どうし、て、ねえね、そんなこというの・・・・・・? ねえね、だって・・・・・・ 退魔師にあこがれて、その服大事そうに・・・・・・ 修行、がんばってたのに、なのに・・・・・・」

 女児の言語能力を精一杯使ったが、それ以上続かない。 四肢を投げ出し下半身を露出したまま、目をつぶって固くなった。
 薫は優月の愛憎渦巻く心に気づき始めた。 だからこそ泥濘に腰までつかりながら、ワラをも縋る気持ちで訴えかけた。

「可哀そうな子ね・・・・・・」

「え?」

「可哀そうな薫子ちゃん、本当に何も知らないんだ」

 憐みにも似た優月の言葉に、薫は時を凍らせる。
 涙さえ流しそうになる妖魔はベビーベッドに寄り添い、子守唄変わりに憎しみの念を聞かせ始める。

「力なき弱者を守り、悪しき妖魔を祓う退魔師・・・・・・ そんなものはただのお伽噺。 弱者を食い物にしているのはむしろ退魔師の方」

 優月の黒い視線から、侮蔑する感情が伝わってくる。 人生の半分以上をかけてきた退魔師の、その邪悪な側面が露わとなった。

「ねえ、薫子ちゃんは妖魔退治1件につき、いったいいくらのお金が入っていると思う? 想像もつかないくらいの法外の値段よ、そのお金で長老たちは、どれだけご立派な別荘をたてたことか」

「そんな・・・・・・」

 妖魔よりも醜く、私腹を肥やす仲間に薫の表情も変わる。

「あいつらに人々を守りたいなんて気持ちはないの。 あるのは金と権力に対する執着心だけ。 妖魔の仕業に見せかけて邪魔な連中を従わせ、人を殺すことも厭わない。 神職が聞いてあきれる」

 薫は何も言えなかった。
 信じたくはなかったが、優月の言葉が薫の胸をえぐる。

「お母さんだって、わたしを守るためにあいつらに・・・・・・」

 そこで視線を下ろし、優月は首から下げたペンダントを開く。 そこには優月に良く似た、大人びた女性の写真があった。

「わたしを、妖魔の子供を妊娠させられ、やっとのことで逃げ帰ったら今度は仲間だったはずの相手に身体を弄ばれて、死んじゃったお母さん・・・・・・ どんなに悔しかったことか」

 退魔師であり、薫の師匠であり、優月の母親でもあった女性の記憶が蘇る。 初めて出逢った時の薫は厳しい修行に泣きじゃくっていて、彼女はそんな薫を優しく慰めくれた。
 妖魔を倒すことよりも、花を育てたり小説を読んだりすることが好きな控えめな性格。
 でも有事の際には誰よりも先頭に立って、皆を勇気づけてくれた。
 うららかな春の陽だまりのような笑顔を浮かべていたその裏で、妖魔よりも汚らしいものの手で蹂躙されていたと思うと 薫もまた憎しみという感情が芽生えはじめる。
 彼女の怒りと悲しみが今の優月であるのならば、弟子であった薫はやはり優月の下僕になるのがふさわしい。 退魔師だった人生をリセットして、最初から今度は女の子として生まれ変わる、そんな人生がまた開けてくる。

「ねえね、かわいそう・・・・・・」

「ん、やだ、薫子ちゃん泣いてくれるの? わたしのために? 」

 妖魔と化した優月はもう涙など枯れてしまったようで、干からびた精神は漆黒の衣をまとっていた。

「ありがとう、薫子ちゃんはやっぱりいい子だね。 だから退魔師・・・・・・ ううん、大人になんかなっちゃだめ。 ずっとここで、お姉さんの下僕になるんだ。 素敵でしょ?」

 幸薄そうに笑う姿は、母親の面影がある。 薫はまた、その顔に甘えたい衝動が沸き起こり、下僕にならないことが、とてもいけないことのように思えた。

「・・・・・・ あ、いっけない。 話に夢中で薫子ちゃんが半分裸なのわすれていた。 すぐに新しいのを履かせてあげるね」

 薫は自分を辱しめようとする言葉にも、幼児向けの衣装も下着にも、悪辣な優月本人に対しても、もはや嫌悪感を抱かなくなってきていた。
 せめて自分だけは彼女の気持ちをわかってやれたらと、同情にも似たぬかるんだ感情が包み込み、手足の倦怠感がさらに増す。
 ただそれでも、心は大きく倒れかけたが、最後の一線だけは譲れなかった。

「ねえね、ごめん。 薫子は、それでも、退魔師をやめたくないの」

「・・・・・・」

 優月は少しだけ、優月らしい表情をして、

「そう、なんだ。 まあ、なんとなくそんな気がした」

 弱々しく拒絶し、まだ反撃のチャンスはあると信じながらも、その意義を見失いかけていた。 優月にはもうすべてを見破られている気もして、いずれは堕ちてしまうことを確信されたようで、羞恥心と罪悪感から目線を逸らしてしまった。
 やがて彼女の手が薫から離れていき、去り際にふっと吐息を吹きかけられると、焼けた下半身が訳もなく震えだした。

「いいのよ、時間はたっぷりあるから。 薫子ちゃんが、優月のお姉さんのおつかいをこなして、自分からをおねだりするまでぇ・・・・・・ 何度だっておかしくしてあげる」

 衣擦れの音が聞こえた。
 視線を戻すと、優月は恥ずかしそうにしながら服を脱いでいる。 男を惑わせ女を嫉妬させる退廃的な肢体をさらし、手毬を並べた様な乳房を重々しく抱えている。 その中心で赤ん坊がくわえるには少し大きめの乳首が固く実り、わずかだが乳液をこぼしていやらしく湿っている。
 ―― だが、そちらに注意がいったのは一瞬だけのこと。

「勘違いしないでね、怒ったわけじゃないのよ。 ただ、お姉さんもお腹すいちゃって、お夜食、いただいちゃおうかと思ってね?」

 再び性的な目で見られることに、身体が緊張する。
 人ならざる力で持ち上げられ、股間が宙を浮く。 恐怖を煽るように大きくM字に開脚され、眼下には優月の股間から生えた鋭利な凶器。 重量感のある陰嚢と、網の目のように血管が浮き出た肉棒がそびえたつ。 獰猛な鈴口からは熱い先走汁をふきこぼしていた。 当然、薫のものなんかとは比べ物にならない。

「妖魔の身体ってすーぐお腹すいちゃうのよね。 だから、薫子ちゃんみたいに霊力の強い娘を見ると、これでいっぱいよがらせてみたくなっちゃうの」

 薫が身体の中で唯一清らかさを保っていたのが、不浄の穴だった。
 貪欲に薫を求める優月は、先走汁を塗りたくるように尻の割れ目をすべり、潤滑油の役割を果たさんとしている。

(こ、こんなハズでは・・・・・・ こんな、ことになるなんて・・・・・・)

 まだ青い蕾をしつこくつついてくる男根にホンモノのオスを感じ、顔から血の気が引いて瞳から生気が抜ける。 幼稚な身体が武者震いにも似た振動を繰り返し、尻の内側からの掻痒感が激しさを増すと、あさましい命乞のような言葉ばかりが口から出た。

「・・・・・・ 薫子、食べられちゃうの、ね、ねえねに?」

 子供をおしっこさせるような大股開きで、薫はこれから男を失う。 女児のワンピースが永遠に完成することのない未成熟な肢体をくるんで、可愛いソックスを履いた脚が宙をこぐ。
 気丈さを振る舞おうとしても、退魔師の真実知った彼に今まで通りの熱意はない。 プライドをはぎ取られた退魔師は、恐怖と恥辱に抱かれ、本物の幼児に帰ろうとしていた。

「痛いのは最初だけだから・・・・・・ すぐによくなるよ、だって薫子ちゃんは下僕だもん。 お姉さんのモノ」

「――――っ!?」
(い、いやだ・・・・・・ こんなみっともない姿で、お、お尻を射抜かれるなんて・・・・・・ )

 むき出しの心に響く妖魔の甘言に臆して、薫の意志に反して固くなっていた全身から力が抜けていく。
 『まだ負けたわけではない』―― しかし内なる声は随分と遠く聞こえる。
 優月は一思いに貫こうとはせず贅沢な時間を費やし、薫が落ち着くのを待った。
 焦らされているわけでもないのに、焦らされているような気になり、薫は蕾から自分を求める膨大な熱量を直に感じながら、肉穴は逸物を迎え入れるための収縮を繰り返しはじめた。

「いただきます♪」

 そして静かに、お行儀よく、彼女は囁き、ゆっくりと腰が下ろされる。

「ひぎぃいいぃぃぃいいいいぃいいいいいいいい、さ、さけちゃ、あぐ、さけるぅううううぅぅぅうううぅぅぅう――――っ!?」

 ジュブゥウウウウウゥゥゥゥゥ。
 女の子が生やした肉棒によって青い蕾を無理やりに開かされ、退魔師は内臓を抉られるような激痛に鳴いた。

(ムリムリムリ、こんなのムリだぁあああああ!)

 ブチブチと何かが切れるような音さえ聞こえ、幼女が受け入れるにはあまりに大きい剛芯が、腸道を拡張させながら薫との結合を深めていく。 無理やりに身体を破壊する激動に薫の意識は引き裂かれ、あどけない容姿は醜く変貌する。 眼球は怖しい速さで動き回り、短い手足をバタつかせるも、強姦するものの目を悦ばせるだけだった。

「スゴイ、スゴイよ。 薫子ちゃん、これが薫子ちゃんのナカんなんだね、お姉さんのオチンチンを痛いほど締め付けてきて―――― フゥウウウウウウ、サイコーに素敵」

 薫を抱えながら固くなった乳首や胸周りを鷲掴みにし、揉みしだきながらなおも腰を動かす優月。 薫の下腹部が内側からぽっこりと膨らみ、卑猥な陰茎の形となって最深部まで伸びていく。 ワンピースについたイチゴのアップリケが歪み、薫を退魔師としてではなく、幼い女の子として踊り食らう。

「くはぁ!? やぁ・・・・・・っ、や、やぁ・・・・・・ ねえね、やめて っ、い、だい・・・・・・い゛、だいよ゛ぉ・・・・・・ おなか、こ、こわれちゃう!」

 いやいやと首を横に振って拒絶するも、開花した菊孔は優月の肉棒を飲み込んで、生々しい脈動を繰り返す。
 五臓六腑を押し上げる壮絶な圧迫感と、穿たれたような激痛。 だが、真に恐ろしいのはそれらに負けて女児に目覚めていく自分自身の心であり、腸内の肉壁がひっかかるような感覚に、時折うっとりとした悲鳴さえ漏らしてしまう。
 最初の一撃で括約筋が限界まで伸びきり、いくら踏ん張ってももはや肉棒の侵入を止めることはできない。 それどころか力を入れると粘膜や赤くただれたヒダが陰茎に絡み付き、より敏感になって脳神経を灼きつけてくる。 悦動を感じ、高い熱を感じ、そして自分を犯したいという優月の感情まで雪崩れ込んできた。

「うへへへへ、お口もいただいちゃう」

「んんんんん――――っ!?」

 ただでさえお腹が膨れて呼吸がうまくできないというのに、興奮を抑えきれなくなった優月が薫の唇を奪う。 赤ん坊をおしっこさせる体位のまま、舌と舌がヘビのまぐわいのようにからみつき、唇まで淫らな毒がまわって唾液がコポコポと端から漏れた。

「はぁああああん、ほら、オチンチンが全部はいちゃったよ。 相性ばっちりだよ、もうたまんないくらいよくて・・・・・・ だから、これからいっぱいパンパンするのぉ!」

 ゆっくりと抜かれていく剛芯が、再び角度を変えて勢いをよくねじり込まれた。
 お尻の穴から刺激するそこは前立腺と呼ばれる特に敏感な部分、女性であればGスポットと呼ばれる部分に成長する部分であり、男でありながら女を感じられる急所だった。

「きっひぃぃあああっ? な、な、な、そこ、そこ、なにぃ!? ビビーンって、ダ、ダメぇ!? あたま、ぐひゃぐひゃになっひゃふぅ!?」

 凶悪な亀頭に腸壁に潜む急所を討ち抜かれ、網の目のように浮き出た肉筋が捲りあげてくる。
 下半身全体を狂わせる妖しい魔悦に薫はあえぎながら、しかし自分自身の陰茎は痛いほど勃起してしまって亀頭が半分覗けている。 薫は必死になって懇願したが、優月はより熱心に前立腺を開発し、何度もぐりぐりと押し付け征服していった。
 
(んぁあああああああああああああ! かき回されるぅ・・・・・・ お腹の中、内臓が、チンポがぁ、あぐっ・・・・・・ ふにゃああんんんんんっ?)

 優月は蛮勇を振るい、前立腺を摩擦しながらもしっかりと根元まで腰を叩きつけてくる。 繰り返し粘膜が削られるたびに神経が近づき、駆け抜ける激痛も快感も熾烈を極めた
 薫の狭すぎる菊孔と腸道を妖魔専用のカタチに変え、二度と元には戻らぬようハメ倒してくる。
 肛門で行われるセックスに充血したヒダが剛芯にこびりつき、優月の爪がきめ細やかな肌に食い込んだ。 なすがままされるがまま、倒すべきはずの敵に対して力なく背を預け、結合はより深みに到達してしまう。

「いい子ね、薫子ちゃん。 貴方ってばやっぱりサイコー。 もっともっと乱れて、お尻の穴でところてんになっちゃう姿をお姉さんに見せてぇ!」

「あひぃいいいいいああああああ! や、やだやだやだぁあああああ!」

 酩酊する薫は退魔師の使命を忘れないようにしながらも、それもまた爛れた背徳感へと変わって愛らしい悲鳴を漏らした。 汗と涎が飛び散り、凌辱感と排泄感に歪むその顔は、次第に人外の交わりとメスの快感を覚えていく。

「痛いだけじゃないでしょ? 苦しいだけじゃないでしょ? ウソついてもわかるんだから、もっと気持ちよくさせて、もっと素直にさせてあげる」

 狂喜する優月はさらに激しく薫を弾き飛ばすような勢いで腰を突き上げ、先走り汁と腸液が混ざりあい、おもらししたように床のプレイマットを汚した。熱くて太い剛直がさらに激しく腹の底をかき回し、前立腺というものをとことん苛め抜く。 耐えがたい激痛の先にある途方もない快感、それがもう間もなく手が届いてしまう。
 床を踏み抜くようなピストン運動は大きくなり、体中の汗でワンピースがぴったり張り付くまで続けられた。

「はうっ、う、ん、んんっ、あ、あああ、ひぁああ、うっ、し、く、しぬぅ・・・・・・ ああ、はふ、おねが・・・・・・ せめて、もっと、や、やさしく・・・・・・して」

 菊孔を滅多刺しにされる薫は根を上げ、激しい肉棒の突き上げに合わせて首をガクガクと揺らし、感じすぎてしまったせいで苦しげな呻き声を出す。 汗にまみれた壮艶な表情と、イチゴのアップリケの組み合わせがひどく淫靡に映り込んだ。
 それでも優月は同情などまるでせず、ますます征服欲を高ぶらせながら、逃げられないよう薫を四つん這いにして組み伏せた。

「いいよ、薫子ちゃん、もっとアイシテアゲルヨ! 後ろからも犯してアゲル! 二人でケダモノみたいになってサァ」

 勃起した皮付きを振りながら、赤ちゃんがハイハイするような姿で犯される薫。 くびれのない腰を掴まれ、ケモノじみた動きで貪られる。
 耳を塞ぎたくなるほどの力強い肌と肌がぶつかる音が響き、ふやけた腸道がまた妖魔のモノで拡張されていく。 身体中が軋み、苦悶と快楽に押し上げられながら遥かな高みに登りつめ、下僕としての淫紋が押し付けられるようとしていた。
 薫はその異常な興奮を抑えることができず、媚びたオトコのコの表情になり果て、下半身は縫い付けられたように離せない。

「あああああああん、あ、ああああん・・・・・・ 、っぐっ、やば、気を抜いたらイっちゃいそう。 くやしい、わたしのほうが、感じちゃってるじゃない!?」

 後ろからのピストン輸送の合間に、不意に小ぶりなお尻を思い切り叩かれ、薫は悲鳴と涎がこぼれた。
 切れかけた意識がわずかに回復し、背後から覆いかぶさるようにしてペロペロと優月が顔を舐めてくる。 首筋、鎖骨のくぼみまで冷たい舌が肌をなぞり、耳の中まで水音を響く。
 顔中を味わい尽くされている薫は上半身をうつぶせにし、クリームのようにとろけた白さを醸し出すお尻をツンと天井を向けた。 その中心に赤黒く変色した剛矛が出たり入ったりしている光景を、彼は股の間から目の当たりにしてしまう。

「ふあかああああ、あああ・・・・・・ んああああ、あ。・・・・・・ あああ」

 悔しいはずなのに甘えた声が漏れ、恥ずかしいはずなのに表情は悦びの色。 後ろからの責めに答えるかのよう腰は淫らに踊り、愛し合う二人のごとく肉と肉とが惹かれあう。 なおも優月は執拗にキスをせがんで、乳首を指で転がしながら耳朶にかみついてくる。

「まだ・・・・・・ 堕ちない・・・・・・ ? クス、それとももっとひどいことされたくて我慢しているのかな? ふふっ、マゾだねぇ、薫子ちゃん。 それじゃあ、ココはどうかなぁ、薫子ちゃんのクリトリス」

「〜〜〜〜〜っ!? ば、ば、ばかぁ!?」

 優月はあえて、オチンチンを女性のクリトリスと呼んだ。
 クチュ、クチャクチャクチュウ、と薫の陰茎から水音が奏でられる。

「キャフウウウウウウウウウ、や、やらぁ、やらか、かおるこのオチンチン、ずりずりしちゃいやぁああああああああああ!」

 お尻に妖魔の肉棒をくわえたまま再びゴロンと背面座位のカタチとなり、薫は自らの皮被りを見せつけられながら、新たな性癖のページを開かされた。
 シルクのごとき肌触りのする女子高生の手は、ちっちゃな性器を親指で指圧し、クチャ音を立てながら快感を噴出させる。
 自分でするよりも何倍も気持ちいい電気が流れ、そうでなくても尻穴を無残に凌辱されていた彼は、無理やりされることに凄まじいむず痒さを起こしていた。

「んもうぉ、クリトリスだってば。 ほら、オチンチンじゃないよ、クリトリスって、正しく呼んであげて」

「ああああっ、ンっ、きゃううううっ!クリトリス、ああああ、クリトリス! 薫子のクリトリス、あ、あああ、きもちよすぎてしんじゃう! しんじゃうよぉ!」

 薫は自分が人の形をした肉人形になったのかと思った。
 前も後ろも情け容赦なく擦りあげられて、七色の刺激に涎を垂らし、ピンク色の舌を突きだしながら咽び泣くことしかできない。
 オスとしての快感も、メスとしての悦びも、苛烈な二つの猛りは鎮まることなく幼躯の中に栓をされ、いつ暴発してもおかしくない。 異常性感は更なる高みに到達し、恍惚状態を迎えた彼の頭の中には、どこかでみたサークルメリーが鳴り響く。

「いい顔しているよ薫子ちゃん。 その情けない顔、もっともっとお姉さんに見せて」

「ひぃうっ、もう堪忍してぇええええええええ」

 価値観はゆがみ、穢れのないところなどどこにもない。 お尻も陰茎も女の子の性感帯と変わり、厳粛な心さえ色欲に壊れ、巨大なマグマだまりにも似た悦楽が胎動している。
 優月はもう薫が限界だということがわかっているようで、薫の男根をしっかり掴みなおしてから降り回し、悪戯に飽和している射精感を煽った。

「あう、あっ、あっ、あっ、う、あ、あ、ひ、い、あ、あ、あああっ、んっ、んっ、んっ」

 そしてニギニギと手の中でたっぷりと先走汁を溜めて、絶頂に向けて下半身がブルブルと震わし、薫は顔を真っ赤にふやかせて恥ずかしがった。

「出しちゃうんだ? 薫子ちゃん、お姉さんのお手々の中におもらししちゃうんだ・・・・・・アハアハハアハハハハ」

 大人びた魔根に幼い薫が逆らえるはずもなく、完全に身体の自由を諦め、恋人に甘えるように頭を預けている。
 幼児であること、メスであること、年下の後輩にイジメられること。 桃源郷に通じる生殖器官を徹頭徹尾責めたてられ、不徳の官能美を吸収しては陰嚢から精液を絞り上げる。
 途方もない絶頂が抜ける直前―― 薫が漏らしていたのは、絶対に言うものかと誓った「アンアン♪」という仔犬の喘ぎ声だった。

「んんぁあああああ、もうダメ・・・・・・ あうっ! イっちゃ、だ、ダメぇぇえええええええええええ――――」

 プシュ! プシャアアアアッ! ドビュルルゥルルゥ! ドブルルゥルゥ!
 薫の罪悪感が、白濁の証となって解き放たれる。 自分が知る甘露など如何に浅かったものかと思い知るほど深く、もがく魂を掴まれて、淫獄の底に引きずり込まれる。
 優月の手淫が薫の陰茎をすりつけて、快感一色に染まる血潮と溢れる粘液。 耳をつんざくような嬌声を発しながら弓なりに背を反らし、剛芯に貫かれた尻穴を中心に腰は大きな円を描くようにグラインドする。
 人の叡智と剛毅と信愛など、怠惰な肉欲の前にはまるで意味をなさず、生命は腐り、卑猥なことばかり考える新しい自分がいた。
 しかし、薫に対する凌辱はこれで終わりではない。

「ああ・・・・・・ んぁ・・・・・・ へぇぁへぇぁへぇあ・・・・・・ はあ」
 
 精を放つ悦びに、痙攣と硬直がかわるがわるやってくる。 薫は息をすることさえ淫乱で、敗北宣言の代わりにその腕を優月の腕に巻きつけていた。 怯えきった瞳に映るのは後輩退魔師でも妖魔でもなく、あっという間に陰嚢は縮小しジンジンとした痛みだけが残った。

「こら、惚けていちゃだめでしょ? まだねんねははやいよ?」

「ひぁう、あ、あえ?あ、も、もうこれ以上、む、無理・・・・・・ ほ、ほんとに、壊れる、からぁ」

 優月の獣根が再び活性化し、これまでの凶暴な勢いから打って変わって、身も凍るほど優しく、緩慢な腰使いで薫を鳴かせる。 か細い二の腕と幼児用ワンピースのイチゴを掴み、飛び立てない彼をその腕の中で寵愛する。

「ひぎぃっ!? あ・・・・・・ はひ・・・・・・ や・・・・・・ やめ・・・・・・ ゆるして・・・・・・ 死んじゃ・・・・・・ ぐえっ・・・・・・」

 ジュボ・・・・・・ ズチャ、ズチャ・・・・・・ ズチャ・・・・・・ ズッ・・・・・・
 すべての神経がむき出しになっている薫はネチネチと嬲られ、息遣いに合わせて敏感スポットを突かれてしまう。
 心折れてもなお拒絶する彼だったが意志は弱く、キッズソックスを履いた脚は明後日の方向に向かって蹴りを入れ、後ろ手に回した手が妖魔のツノを掴むその程度。 無理やりにされているという緊迫感はなく、もどかしそうに腰を揺すっては無意識にそれをせがんでいる。徐々に輸送がまた荒々しくなると、目元をたゆませて狂った女の声が出た。
 排泄器官さえも薫をメスにしてしまうあさましい肉壺となり果て、身を裂かれる痛みよりも間延びした快感と痒みが何よりも恐ろしい。 狭い下腹部が亀頭にやられてボコボコと隆起し、それを愉しんでいる優月と自分ではない自分。 光を映さない優月の瞳に飲み込まれ、最後の意地を手放した。

「あ、がぁあああ・・・・・・ ひゃ・・・・・・ ふっ・・・・・・ が・・・・・・っ・・・・・・っ・・・・・・」

「薫子ちゃんがイクと同時に、オチンチンの中にたまった霊力、吸い取ってあげる。 こんな弱った身体でそんなことしたら、干からびて死んじゃうかもしれないけど・・・・・・ 仕方がないよねぇ」

 ジュボッ! ジュボッ! ジュボボボボボ!
 後ろから背中を抱きしめ、座ったままで子供におしっこをさせるような体位。 今の薫にこれほど似合うポーズはなく、虐げられるために生まれた小ぶりなお尻を、ただひたすら抉られる。
 真夜中のこども園で行われた幼稚な男の娘のためのお遊戯会は、淫らな最終章の幕を開け、突き立てられた魔根がただひたすら幼肉を踊り喰い、狂ったようにピストン輸送を繰り返す。 だが、妖魔との交わりを深めた 薫にとっては あらゆる刺激が蜜の味だった。
 彼は嵐に揺れる柳の花のように三つ編みを揺らし、ぐったりとしていて、甘えるようにしなだれかかる。 痛みさえ今や身体は快感と認識し、背徳的な官能細胞におかしくなって、尻壺は逞しい肉幹をくわえたままより大きく拡張されていった。

「んあぁあああ! あぎっ! お、お、おおっ!? すごい・・・・・・ こ、こんなの・・・・・・ む、むりぃ・・・・・・ た、たえられるわけない・・・・・・ ひっ、く、くるってしまう・・・・・・ あああっ!?」

 色褪せた景色を見つめながらジュクジュクと魂をそがれる薫の下肢は、妖魔の力強いものを求めて吸い付き、気が付けば自分自身の肉棒にさえ支配されている。 痛痒い感覚が身体の前後で折り重なりあい、あっという間に堕ちていく。
 それがたまらなく愛しいものに思え、それさえあれば幸せで、それがなければ生きていけないと・・・・・・ 待ち焦がれたメス穴がざわつき、お互いに限界が近い薫と、そして優月を途方もない興奮のステージへ押し上げた。

「んぁあああああああああっ! い、いく、あ、ああちがう、く、くる!? すごいの、やだ・・・・・・ しゅごいのがぁ、き、きちゃうぅうううう」

 シーソーが好きすぎる子供のように薫は優月の魔根で狂喜して、未成熟なお尻を上下に激しく揺さぶり、甘美な破滅に向かって歩を進めていく。 強いオスに惹かれるメスと同じく、豪胆な魔悦に抗えきれなかった。 うっとりと頬を染め、肉ヒダを捲れあげる魔根の最後の律動が彼の甘美な痙攣となり、前立腺を叩く亀頭が白濁した熱を膨らませていった

「よく我慢したねぇ。 えらかったよぉ、それにとってもエッチだった。 でも、もう我慢しなくていいよぉ。 っていうか、もう我慢絶対できないんだからっ。イクのよ、ほーらイクイク、イっちゃえってば。ズコズコバコバコされちゃって、泣きながらイキ狂いなさい! ぅぅうう、あ、ふうううううううううう――――!」

 ネバついた欲望が瞬く間に腸内をいっぱいに満たし、幼い肉壁がひりつく。

「おぎゃ!? で、でて・・・・・・る・・・・・・ アツイもの、ぜんぶ・・・・・・ かおるこの、なか・・・・・・ ひゃ、ひゃあああああああ―――――っ!?」

 釣り上げられたように両足がピンっと伸び切り、優月に抱っこされていたイチゴは、人間性を失ったような顔を暴露する。
 薫の意識を灼熱の凌辱液が塗りつぶし、またその上からさらに濃い妖魔のオスのものが続き、反抗した分だけドロドロの悦流がしみこんでくる。 退魔師だったことも男だったことも忘れ、メスとしての絶頂をいただき、彼の下腹部は細かいひきつけを起こしながら妖艶に弾けた。
 堕ちた、堕ちた、と笑う妖魔の優月は彼のおへそを撫で回すと、内側から浮き上がる魔根とハイタッチするみたいに叩き合う。
 立て続けに射精され、なおも萎えることのない巨根。 お尻から腸や胃を貫き、喉元までせり上がってくるようにさえ感じられる。
 二人の下肢は溶け合い一つとなり、それでもまだ心臓は妖魔との密着感を求めて早鐘を打ち鳴らし、手足の感覚もなく脳が焼き爛れるほどの絶頂を連続で与えていた。

「ふふふふ、驚くのはここからなんだから」

 ジュル、ジュ、ジュルルルルルルルルル。

(あ、が、す、すいとられ、あ、るぅうううう―――)

 放たれるばかりで力に圧倒されていた薫が、唐突にその向きが変わったことに驚愕し、新たな快感に乱れはじめる。
 目に見えない細い管が突き刺さされたたようで、身体の中枢から血よりももっと自分につながりの深い力の源泉―― 霊力が啜られていく。 耳触りの悪い吸引音とともに鋭い痛痒感、それはキモチイイものでもあって、人格さえも搾取されていった。

「あぎぃいいいいっ、あ、お・・・・・・ な、なん・・・・・・ ぐへぇあああああ・・・・・・」

 あらゆる感覚が混乱し、朦朧とする薫は天井に張り付いたキラキラ星に向かって手を伸ばすも、永遠に届かない。  
 思考が薔薇色に達するごとに開門し、退魔師として蓄積した霊力をこってりとしたスープのごとく啜られ、憎き妖魔となった優月の糧となる。 最後の希望がつかの間の安楽と引き換えに消え去り、心に空虚な感覚が広がっていく。

(・・・・・・ お、れ ・・・・・・ が、・・・・・・ け、されて・・・・・・ いく・・・・・・ だれ・・・・・・ か・・・・・・ たす・・・・・・け・・・・・・て・・・・・・くれ・・・・・・)

 気持ちよく霊力を吸引され、薫もまた自分の師匠だった人と同じく妖魔の贄となる。 彼は妖魔の首輪のついた花嫁であり、痛々しい愛娘でもあり、甘味のある食料だった。
 薫の腹腔に充満する体液が、そんな恥知らずな人生すら黒い幸福感に浸してしまう。
 体中から魔を虜にする濃厚な香りを漂わせ、妖しい色気を帯びた目を開いたまま意識を虚空に彷徨わせる。 精と霊力を吸い尽くされ、だらりと垂れさがった手足と首。 もう優月は動いていないというのに時折思い出したように小さく蠢き、頭の中でまだ絶頂時のことがフラッシュバックする。

「もう壊れちゃった? 人間の男ってほんと軟弱だね・・・・・・」

 大量の射精を終え、存分に霊力を啜りあげた優月はゆっくりと剛棒を引き抜く。 薫の尻穴から空気が抜ける音ともに白い濁流が流れた。 あれほど激しく動かしたというのに妖魔のモノはまるで衰えを知らず、そのままペチペチと彼の頬を叩いていた。

「・・・・・・・・・・・・ あ・・・・・・・・・ ふう・・・・・・」

 薫の意識は定かではない。 突然ボールを投げられてどうしていいのかわからない飼い犬のごとく惚けていて、ひんやりしたプレイマットの上を転がりこむ。 優月に根こそぎ搾り取られ、満身創痍となった今でも絶頂時の興奮と射精感を忘れられない。
 心では拒絶しても身体はすでに陥落し、優月を求めているのだった。
 きもちいい、きもちいい、と身体はまるで泣きながら笑っている。
 退魔師としての厳しい修行も高尚な精神も、妖魔が与える快楽の前ではただのまやかし。 例え男であっても、抗うことなんてできるはずがなかった。
 触れられただけで幼い下肢は気持ちよさそうに震え出し、あさましい願望とけだるい幸福感に包まれていく。 大人なら当たり前に我慢できるはずの欲求が急に我慢できなくなり、干からびた身体には心地よい火花が飛んでいた。
 ミニのワンピースの下で固く尖った乳首は、ヘビに噛みついているようにジクジクと痛み、疼き、薫にひどく自虐的な気持ちを起こさせるとともに、オチンチンもまた女性の陰核のように腫れ、痺れがとれない。
 優月の受け皿となり、凶悪な性感帯となってしまった尻穴からは今も熱気のこもる凌辱液を垂れ流していた。

「あがぁあ!? ううあ、ひっ・・・・・・あうう・・・・・・ あっ、・・・・・・ぃぃいい」

 事は終わっているが、小さく、静かに、発作的に薫は何度も達する。 自分で自分を陥れるように、腰が触れ、ゆるやかに奈落へと堕ちていく。

「あー、美味しかった。 こんなに気持ちいいなんて、やっぱりわたしたち、相性バッチリなんだね」

 かつての先輩退魔師を見下しながら、優月は近づいてくる。
 油断しきったその表情―― 反撃するなら今だった。

「・・・・・・ あ、う、ふわああ」

 しかし、迫りくる優月を前に薫はまともな声すら発せられない。
 弱り切った精神では彼女と戦うなんてとても無理、それどころか彼女を待ち焦がれる思いが強くなっていく自分に嫌気がさす。

「ごめんねぇ、薫子ちゃんのお尻があんまりいいものだから、お姉さん霊力絞りすぎちゃったねぇ。 苦しいよねぇ、辛いよねぇ。このままじゃホントに死んじゃうかもねェ・・・・・・」

 スイーツな笑顔のまま、動けない薫をそっと膝枕する優月。

「こうしているとほんとに赤ちゃんみたい・・・・・・ ばぶばぶって、今度はよだれかけにおしゃぶりも用意してあげるね」

 往生際がイヤイヤするのは、欠片に残った理性がさせたもの。
 しかし、柔らかな感触が後頭部に伝わり、優しい声が心を撫で、死という言葉の前に戦わなくていいという気持ちが薫を弱くする。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「薫子ちゃん、聞こえてる? このまま衰弱して、低級妖魔の餌になんてイヤでしょう? 死にたくはない、死ぬのは怖いよね?」

 退魔師としての自尊心を失った薫には生への執着心しか残っていなかった。
 それを恐怖で煽り、彼女は思いもよらないことをいう。

「じゃあ、奪った霊力をちょっとだけ返して上げる・・・・・・ 薫子ちゃんの好きなやり方でね」

 奪った霊力を返すという優月、無論そこには悪意しかない。 警戒しなければならないが、もはや手遅れだった。

「ほーら、おっぱいだよ。 薫子ちゃんの大好きおっぱい、これをあげるから元気出して」

 目の前で、ぷるんと揺れた優月の二つの乳。
 ただそれだけで、意地なんてものはあっけなく消える。
 他のことなんて考えられない、ただそれが欲しくて、頭と心と下半身が一つになる。

「あーんして、薫子ちゃん。 お姉さんのお乳を飲んで、霊力を戻すの」

「あ、あ、あ・・・・・・」

「だって、赤ちゃんはお乳を飲んで成長するものでしょう?・・・・・・ 薫子ちゃんさえよかったら、これから毎日だって授乳してあげる」

 マシュマロよりも白く、カスタードプリンよりもぷるぷるして、ホイップクリームよりもなおとろける、赤ちゃんの大好きなものが今、迫ってくる。
 艶のある峰乳が薫の瞳を覆い、まん丸な乳輪とほのかに色づく乳首が大きく膨らみ、甘い匂いを漂わせている。 それらは薫のモノだと優月はいい、下唇に触れると微弱電流がバチバチ流れ、薫の自我を押しつぶしながら幼児に還る。
 心が赤ちゃんになりゆく彼には、その誘惑はあまりにも贅沢で、跳ね返すことなどできなかった。

「んっぐ・・・・・・ っ・・・・・・ んんんん」

 薫は一心不乱に乳を飲む。
 甘味が広がり、優月の言う通り霊力は徐々に戻ってきたが、それと引き換えに自分の大切なものが消えていく気がして・・・・・・

「いいわ、薫子ちゃん・・・・・・ くくく、やっと決心してくれたんだ・・・・・・ これでもう、自分が年上だとか男だとか思っちゃだめだよ。 薫子ちゃんは今、生まれたの。 妖魔のお姉さんの下僕としてね」

 ―― 薫に残された力はもう、“自分の舌を噛み千切る力”だけだった。
 しかし、その愚かで矮小な男は、あろうことかその最後の力を自らの欲望を満たすため、幼児になるために使ってしまう。

「おー、よちよち、よちよち。 かわいいおさない薫子ちゃん」

 薫の瞳に映るも優月はもはや憎き敵ではなく、自分を守ってくれる姉か母
 手足は必要とせず、表情さえ糸が切れた人形と化し、ただそうすることが当たり前のように乳を啜る。 口元の汚れなど、幼児なら気にしない。

「はぁはぁ、もっと、もっと吸って・・・・・・ 薫子ちゃん・・・・・・ もっと・・・・・・ 吸えば吸うほど、薫子ちゃんは可愛くなるんだよ」

 優月は幸せそうだった。
 変わり果てた先輩退魔師を見下しながら、惜しげもなく乳を与える。
 睫毛の一本一本、その一挙種一挙同までを愛してくる。
 大きな赤ん坊に対して嫌悪感などまるでなく、口元にたれた乳液を甲斐甲斐しく手でぬぐう。
 薫は何もしなくて良かった、何も心配せず、何も考えなくてよくなった。 どこまでもどこまで澄み渡った空のごとく・・・・・・



 戦いは終わった。
 ここから先、二人にとって新しいとても幸せな日々がはじまる





 ・・・・・・ ハズだった。





(・・・・・・ あ)

 不意に、薫の脳裏に女の人の顔が浮かんだ。
 その女の人は優月にとてもよく似た人で、寂しげにこちらを見ていた。
 なにかを言おうとして、でも薫を見ると何も言わずに悟り、背を向けて去って行った。
 それはただの夢だった。
 彼女は助けてはくれない。
 彼女はもう死しんでいる。
 彼女は妖魔の子を産み、仲間に裏切られてもなお、薫を育てた、真の退魔師だった――

(・・・・・・あ、あ、あああ)

 夢から覚めると、乳房が覆い尽くす視界の隅、薫の瞳に優月の手首が映り込む。
 ほんの少し血の滲んだ包帯がまかれていて―― それが、薫にかすかな希望と記憶を引き戻す。
 
「あぐっん!」

 可愛らしい声を上げ、薫の首が動いた。
 口に含んでいた乳首を離し、その代り自分の口元を綺麗にしてくれていた優月の手首に食らいついた。

「か、薫子ちゃん!?」

 それは不意打ちいうにはあまりにのろく、最初は猫の甘噛みのようなものだった。
 薫自身もなぜそんなことをしたのかわからず、導かれるようにして牙をむく。
 薫の前歯は優月の手首に刺さり、包帯を破り、皮膚を抉って血管に到達した。
 勝ち目はないと薫自身でさえ諦めていたが、彼にはまだ“自分の舌を噛み切る”だけの力は残っていて、最凶妖魔を討つ奇手に変わった。

「―――っ!? あ、い、いだ、いだぁあ、があ゛あ゛!」

 唇から血がこぼれる。
 舌に鉄の味が広がる。
 生温かい感触が喉を通る。
 むかしから退魔師たちは自分たちの血を使って結界石に霊力を送っていた・・・・・・ 薫は今、奪われた霊力以上のものを奪いとり、ズタズタにされた男の尊厳さえも取り戻そうとしていた。

「か、かおる、こ、ちゃぁん」

 優月の顔にはじめて動揺が走る。 だが、未練がましく薫に対する幼児扱いをやめない。 手首から鮮血を流しながら、信じられないといった表情を浮かべていた。

「くっ・・・・・・」
(まだだ、まだ、まだ・・・・・・)

 おっぱいへの未練を断ち切るため、幼児化への誘いを振り払うかのように、薫は血を啜り続けた。
 優月を吸い殺すつもりでいた。
 その姿は退魔師というよりも吸血する妖魔に近く、顔の下半分が赤く染まって時折覗ける歯列だけが白く輝きを放っていた。

「こ、このぉ、い、いい加減に、いい加減に・・・・・・離しなさい!」

 徐々に苛立ちを覚える優月、血が抜かれていることもあってかその顔は紫色に変色し、怒りに任せて力づく薫を跳ね飛ばす悪手に出た。

「ぐっ、あ゛う!?」

 表情をひきつらせたのは、むしろ優月の方。
 手首に噛みついていた薫は、自分の身体が吹き飛ばされると同時に、彼女の肉片を深くえぐって持ち去ったのだ。

「は、はあ、はあ、はあ・・・・・・」

 弾き飛ばされた先。 プレイルームの隅。
 薫はプレイマットの上で、そこに描かれていたキリンさんと接吻を交わす。
 それでも満身創痍だったはずなのに、不思議と心が軽い。 翼が生えたよう。 勝てると思った。 手を伸ばせばそこには優月が投げ捨てた狩衣があり、すっかりサイズは合わなくなってしまったがその感触が忘れかけていた大事なことを教えてくれる。たとえ穢してしまったとしても、やはり退魔師の誇りはそこにあった。
 薫は大きすぎる狩衣の比較的汚れていない部分だけを破りとって、女児服を着替え直し、戦いに向けて武装する。
 敵はただ一人、母になれたかもしれない憐れな女。
 小鹿みたいな脚は肉欲にふけた身体を奮い立たせ、ガラス細工のような首が甘えたがりな頭を起き上がらせ、紅葉によく似たその手に優月を倒す決意を込める。
 一歩間違えれば幼児逝き。
 久しく忘れていたスリルと興奮、悪い奴に全力でぶつかれるという高揚感に、少年は燃えないはずはない。

「ねえね、ねえね、薫子は・・・・・・っ!?」

 ふと、自分が未だ女の言葉だったことに驚く薫。
 慌てて頭の呪符をとって床にたたきつけ、優月に付けられた呪いを解く。 三つ編みも解き、これでやっと薄汚い男の子に戻れた。

「優月、俺はお前を殺したくはない・・・・・・ これが最後の警告だ。 大人しく俺と一緒にくるんだ。今なら、俺が最大限上に掛け合って、殺されないよう弁護してやる」

 自分でも迫力に欠けると薫は思っていた。
 痛手を負わせることには成功したが、今なお絶望的。
 それを身体を小さくされ、声は女の子みたいで、つい今しがたまで授乳されていた者が言っても笑いの種にしかならない。  しかし、それで優月が少しでも油断してくれれば、ことはもっと楽に進むのだが。

「あんな金の亡者たちのために、戦うの? 薫子ちゃん?」

 退魔師たちをそう揶揄して、優月は薫の決意を確かめてくる。

「違う、自分自身のケジメのためだ」

「あはっ、自分のおケツも満足に拭けないのに?」

「・・・・・・ 上等だ」

 薫にもはや迷いはなかった。
 一方、優月もまた心を決めている。

「できることなら綺麗な身体のままにしたかったけど、仕方がないよね」

 手首の傷を止血しながら、不敵に笑う優月。

「お前にはまだ負けん」

「お姉さんのこと、あんまり見くびらないでよね。 さっきは油断したけど、そんな身体でどうやってお姉さんに勝つつもり? 霊力がちょっと戻ったからといっても、呪符が一枚もなくっちゃ術は使えないはずでしょう?」

「呪符ならあるさ、ここにな」

「っ!?」

 虚言でも幻でもなく。確かに呪符は存在した。 それも一つではない、束となって薫の手の中にある

「どうして・・・・・・」

「用心深い性格なんだ、俺。 身体の中に隠していたものとは別に、予備の呪符をこのこども園の敷地内のいたるとことに隠している・・・・・・ 例えば、このプレイマットの裏とかにな」

 それでも優月はすぐに冷静さを取り戻し、余裕のある態度を見せつけた。

「あっ、そう。 抜け目がないんだね、薫子ちゃん、次からお姉さんも参考にさせてもらうわ」

「お前に、次は、ない」

「アハハハハハッハハハハハハハハ」

 優月は膝枕をした時と同じく屈んだままだった。
 それは手首の裂傷が痛んでいるわけではないことを、薫は知っていた。

「立てよ、優月。 そのハイソックスの裏に、お前の予備の呪符があるんだろ? そいつで俺と、最後の勝負だ」

「――――っ!?」

「気づいていないと思っていたのか、そのくらいのこと。 お前こそ俺をみくびるなよ」

 優月の呪符はあと一つ。
 それを防ぎきれるほど薫は元気ではない。
 しかし、優月だって厳しいはずだ。
 ならば、先に呪符を使って相手にダメージを負わせたものがこの戦いの勝者となる。
 自然と二人は見つめ合って――

「・・・・・・。 お前には散々ごちそうになった」

 全身の力を抜く薫、それは“次の一瞬”を優月よりも迅く抜くため

「まだデザートがあったのに、途中離席はマナー違反だよ薫子ちゃん」

 優月もまた抜かりはない。

「甘いのは昔から苦手なんだ。 だから今度は俺がお前におごらせてくれ・・・・・・ 覚悟しろ」

「追い詰められると急に饒舌になるどこかの退魔師さんが、お姉さんに勝てるのかなぁ?」

 張りつめた空気に、二人の声はどこか和やかに響く。

「優月、確かにお前は強い。 けれど、時には実力や才能よりも、経験がものを言うことをお前はまだ知らない」

「今がその時とは限らない。 そうでしょう、おっぱい大好きの薫子ちゃん」

「・・・・・・ 試してみろよ、キョウダイ」

「もちろん、でもその前に――」

 ―― そのとき、密かに、薫の背後に二つの影が迫る。

「―― クマさんたちが、薫子ちゃんにもっと遊んでもらいたいみたいよ!」

 再び命を与えられたクマのぬいぐるみたちが襲いかかってくる。 彼らは薫の口を犯し、手を穢し、薫をまたそっちの世界に引き込もうとしてたが、

「同じ不意打ちは食らわん」

 薫は見抜いていた。 背後からの攻撃は、最初に変若水を浴びせられたときに反省し、必ずまたやってくると思っていた。
 だからこそクマの手をひらりと躱し、つむじ風のごとく蹴散らす薫。
 そのとき、もうすでに彼の呪符は優月よりも迅く宙を駆け抜け――

「斬り裂け風刃―― 破っ!」

「きゃあああああああああああああああああああああああああああ」

 薫の呪符は風の刃となって、優月の身体を切り裂いた。
 だが、致命傷ではない。
 彼女はまだ戦える。

(気づいているか、優月。 傷はあえて浅くなるようにした。 なぜなら、そこでまたお前は油断する。 わかっていても必ずスキをつくる。 それがお前の慢心。 怠惰によって積み重ねられた経験なのだ――!?)

 薫はいつ倒れてもおかしくない。
 自分一人ではもはやどうにもならなかったが、その華奢な背中を優月によく似た恩人が支えているからこそ、戦うことができる。

(だから、俺は今、俺のすべてをかけてお前に挑む!)

 土気色の薫は手荷物呪符を扇のように広げ、ありったけの霊力を絞り出す。
 ぐらりと傾く精神を統一し、幼い身体に鞭打って、乾坤一擲の術を放つ。
 ・・・・・・ ほんのわずか、そこに優月の子供になりたい心を含ませたまま。

「―― 臨(リン)!

 ―― 兵(ビョウ)!

 ―― 闘(トウ)!

 ―― 者(シャ)!

 ―― 皆(カイ)!

 ―― 陣(ジン)!

 ―― 烈(レツ)!

 ―― 在(ザイ)!

 ―― 前(ゼン)!」

 夜明けの光よりも眩い閃光が、こども園全体を包み込んだ。







 朝からお天気雨が降ったり止んだりする、億劫な日のことだった。

「・・・・・・ 待っていたよ、薫子ちゃん」
 
 そこは多くの退魔師たちが集う総本山で、人里から遠く離れた山間の天然洞窟につくられた座敷牢。 もちろんただの座敷牢などではなく、格子には覆い尽くすほどの呪符が張りつけられ、妖魔となった優月は今、この場所で幽閉されていた。

「今度はなにして遊ぶ? あやとり? おてだま? それともやっぱり、おままごとがいいかしら?」

 岩の切れ目から差し込んだ陽光が、赤い襦袢に身を包んだ彼女を照らし出し、底から覗ける豊満な乳房や、なまめかしい美脚が輝きを放つ。
 優月は格子にとぐろを巻くようにして抱きつき、情婦のような異彩を放ちながら微笑みを浮かべいた。
 まだ10代だというのにその完成された美体は並みの男ならばその誘惑に負け、彼女の奴隷となって搾取されることだろう。 事実、これまでの見張り人を何人も吸精され、病院送りにされていた。

「元気そうだな、優月。 こっちの気も知らないで、いい気なものだ」

 座敷牢から優月の手が届くぎりぎりまで近寄り、声をかける薫。 その表情に一切の油断はなく、敵を睨む目をしていたのだが・・・・・・

「あははは、薫子ちゃんには言われたくないなぁ。 そんな格好して、今度はどこの小学校に転校するの?」

 薫は舌打ちする。
 あの事件以降も彼の身体は小学生サイズ。
 しかも今は真新しい某有名女子小学校の制服を着ていて、新緑のブレザーとスカートに心はひどく落ち着かない。

「お前のせいだぞ、優月。 お前が俺の身体をこんなんにしたから・・・・・・」

 続く言葉が出てこない。 優月が妖魔化した責任はそれを退治した薫にまで波及し、その幼くなった体さえ利用され『小学校に潜入捜査して上級妖魔を討て』などと命令される扱い。 そこに今のところ期限はない。

「そうね、薫子ちゃんは悪くない。 とっても強くてえらい子よ、お姉さんだけはわかっているから」

「ぐっ・・・・・・」

 すべてを見透かしたかのように、身勝手な“赦し”を与える邪悪な聖母。
 人生観が変わるほどの濃厚なまぐわいを交わし、かつての上下関係などあってないようなもの。 今では敗北者であるはずの優月が、薫をいさめることが多くなっていた。

「ほら、胸元のリボン、結び方がちょっと変だよ。 直してあげるから、こっちにいらっしゃい」

「俺をまた、女の子扱するのか?」

「なぁに、もしかしてこわいの、わたしが? 心配しなくても、お姉さんはここで大人しくお留守番しているから」

 そして、操り糸を引くような手の動きで、優月は薫の身体を手繰り寄せる。
 手が届き、薫のリボンに触れた。

「女の子はねぇ、身嗜みが大事なんだから・・・・・・ ちゃんとしてないと、他のお友達に笑われちゃうぞ? それに言葉使いも上品にしなくっちゃ」

「う、うん―― じゃない、お前に言われなくてもわかっている」

 恥ずかしがり屋の薫。
 それでも大いに満足した優月はリボンを整えると、格子を挟んで彼の身体を抱きしめ、囁いた。

「本当は今日、その制服を見てもらいたくて来たんでしょう? ありがとう。 とっても良く似合っているし、すごく可愛いわよ薫子ちゃん」

 薫は動けない、否定も肯定もせず、立ち尽くす。

「・・・・・・ 忘れないで、アナタの身体にはワタシの血が流れている。 だから、いつか必ずアナタはワタシを求めて帰ってくる。 それまで、ずっと待っているから、ずっと、ずっと、いつまでも、ここでね・・・・・・」

 あの日飲み干した優月の血は、今も確かに薫の身体の中にある。
 それはある意味、親子に近い形になったのかもしれない。

「じゃあ、また、ね・・・・・・」

 優月は手を振って、その小さな妖魔を外界へと送り出した。
 言葉なかったが、寂しそうに歩いていく背中を見つめながら、彼女は血の色をした瞳を妖しく輝かせていた。
 


 それから一年後、半人半妖の優月は人知れず座敷牢から姿を消した。
 同じ頃、薫によく似た可愛らしい女児がとあるこども園に現れるのだが、それはまた別のお話。