ミイラとりがミイラになっちゃうお話



 大都会の喧騒から外れた倉庫街の一角。
 地元の住民でさえ寄り付かないその寂れた場所は、警察の目からも届きにくいことから、いかがわしい取引の舞台になることが多い。
 ある風のない夜のこと。
 独自の調査で取り引きの情報を掴んだ“瀬野真琴”は、まだ若いジャーナリストだった。 彼は厳重に施錠された分厚い扉を解除し、緊張した面持ちで押し開いた。

(センパイ。 あなたのカタキは必ず僕がとります。 だからどうか僕のことを見守っていてください)

 数年前から行方不明になっいる兄のようなジャーナリストを想いつつ、真琴はシンと静まり返った闇の中へと踏み込んだ。

(誰かいる!?)
 
 歩きはじめて数分後。
 懐中電灯の光に浮き上がってきたのは、後ろ手に縛られ、目隠しとボールギャグを噛まされた十数人の少年たち。彼らはいずれも普通の服装ではなく、身体には痛ましい性的虐待の跡も見られる。
 ―― これは集団拉致監禁事件に間違いない。
 ジャーナリストの使命感からか、真琴はすぐさまカメラを構えた。

「ひっ!?」

 シャッターを切る音に怯え、少年たちは一同に慄き身を震わせる。
 真琴はバツの悪そうな顔を一瞬した後、努めて穏やかに声をかけた。

「みんな、心配しなくていいよ。 僕は君たちを助けに来たんだ、もう大丈夫。 家に帰れるぞ」

「あ、あなたは・・・・・・?」

「僕はジャーナリスト、君たちの味方だよ」

「じゃーなりすと?」

 一人の少年が真琴の方を向く。
 少年は他の少年たちとは異なり全裸で、真琴はそのときはじめてあることに気が付いた。

(・・・・・・ 菖蒲?)

 監禁されていた少年たちの胸、太腿、あるいは臀部のいずれかに、まるで所有者を示すかのように『菖蒲』(あやめ)のタトゥーが入っている。
 真琴はそれも、しっかりと自分のカメラに収めるのだった。

 





 それはまだ、女尊男卑の時代の波が世界にそれほど浸透していないころのお話。
 日本の各地では若い男性。 それもいわゆる童顔で、可愛いらしいといわれる少年たちを狙った拉致事件が多発していた――



『こんばんは、ニュースの時間です。 本日は集団少年拉致事件において多くの少年たちを救出しました、フリージャーナリストの瀬野真琴さんにお越しいただきました。 瀬野さん、今日はよろしくおねがいします』 

『よろしくおねがいします』

『さて、さっそくですが、瀬野さん。 今回の集団拉致事件、犯人の狙いはいったいなんなのでしょうか?』

『はい、私は実際に現場で監禁されていた少年たちをこの目で見て、まずはその服装に驚かされました』

『と、いいますと?』

『女子高生の制服、セーラー服、スクール水着など、彼らは皆中学生から大学生までの少年たちなのですが、全員いかがわしい女装をさせられていたのです』

『若い少年たちを誘拐し、その上で若い少女の恰好をさせていた、ということですか?』

『ええ、にわかに信じられないことですが事実です。 こういっては少年たちに失礼かもしれませんが、私自身最初はみんな少女ではないかと思ったくらいですから』

『拉致した少年たちを女装・・・・・・ いったい、どのような理由が考えられるのでしょうか?』

『調べてみますと、彼らは男でありながら犯人から女の子であることを強要されていた模様です。 格好だけではなく、立ち振る舞いも、さらには性的暴行も加えられていたと証言しています』

『つまり、犯人は男を女装させて淫行を働く変質者ということでしょか?』

『・・・・・・』

『瀬野さん?』

『いえ、これはあくまで推測ですが、私は背後にもっと巨大な組織が動いていると思います』

『巨大な組織・・・・・・ 事件はこれだけではないということでしょうか?』

『おそらくは氷山の一角でしょう。 日本は今大変な過渡期にあります。 ここ数十年の男子出生率の低下、そして女性権力者の急激な増加に伴い、全国では“女尊男卑”をプロパガンダに、男性に対する差別やイジメなどが新たな社会問題となっています。 その一方で若い男をビジネスの道具にし、彼らの人生を食い物にする犯罪者があるのです』

『瀬野さん。 瀬野さんは告発記事の中でも、男性を性奴隷として取引する組織が存在すると書かれていましたね。 その関連が深いと?』

『その通りです。 ・・・・・・ 私見になりますが、我々人類はいずれも女性の身体から生まれてきました。女性は尊ぶべきものであり、敬わなければなりません。 だがしかし、それによって男が不幸をこうむる未来などあってはいけません。 男女平等というのは難しいかもしれませんが、決してできないことではないと私は信じています。 今こそ、日本人の精神が試されているときなのかもしれません』

『ありがとうございます・・・・・・ コマーシャルの後も、当番組ではこの集団少年拉致事件の真相に迫っていきたいと思います。』



 ―― 暗闇の中、スクリーンに映し出されたニュース番組が消える。 明かりがつくと、円卓に座る女性たちの姿が現れた。 それはいずれも美しく妖艶な才女たち。 彼女たちは一人を除き、皆忌々しげに表情を歪めていた。
そこは、都内某所にある高層マンションの一室。
先ほど真琴が提唱していた犯罪グループが、幹部だけを集めて緊急ミーティングを行っていたのだった。

「男の記者とはいえ、やはり野放しにしておくべきじゃなかったのよ」

 一人の声が引き金となって、真琴に対する怨嗟の声が重なっていく。

「Cブロックは今や壊滅状態。 今月の取引は全てキャンセル、大赤字だ」

「そんなこと、今は問題ではないだろう。 多くの仲間が逮捕された、我々の方まで警察の手が来ないとは限らないわ」

「いや、その心配はありません。 警察や警視庁にはすでに手は打ってあります」

「だけど、今後の我々の活動に支障がでることは必至。 しかも、あの地区の施設はみな最新のものばかりだった」

「ああ・・・・・・ これで、我々の計画も10年遅れたな」

「そうよ、それもこれもすべてあの男、あのジャーナリストのせい」

「瀬野真琴にはしかるべき処置をしなければならない。 こういうやつを野放しにしておけば、いずれまた同じ馬鹿があらわれる。 男って、そういう生き物でしょう?」

 真夜中、人目を忍んで集まった高貴な女性たち。
 皆表向きは財閥や医療関係や、大学関係、司法や行政などの政治関係など、各々が社会的身分の高い人々。 だがそれだけでは飽き足らない彼女たちは、自らの欲のため裏の世界にまで手を伸ばしていた。

「・・・・・・ アヤメさん?」

 中央に鎮座する一際気品に満ちた老淑女―― 100歳を超えるともうわさされるこの組織のトップである彼女が、末席でつまらなそうに胡坐をかいている少女に声をかけた。

「あの地区の担当は貴方だったはずよね、アヤメさん?」

「ええ、まあ、そうですね」

「・・・・・・ 責任、とってもらえるのかしら?」

 グループ全員の芽がアヤメと呼ばれた少女に向けられるが、彼女に気圧された様子はない。 むしろ嬉々として髪をかきあげ、立ち上がる。

「んー、じゃあ始末しましょうか? でもぉ〜」

 アヤメは口の端に指を当て、考えているみたいに視線をぐるりと一周させた。

「ただ殺すだけじゃ皆さん満足しないでしょう? だ、か、ら・・・・・・ 私がこのお兄さんを、皆さんが大好きになるまで徹底的に躾けてあげますよ。 我々のやり方でね」

 いつのまにかアヤメの手にはマコトの写真と、その詳細情報が書かれた紙が握られていた。 グループの中でも最も若い彼女は、その狡猾さと度胸、なにより豪胆な手腕を買われてその地位にいる。 快活な笑顔でペロリと写真を舐める姿はおどろおどろしく、先ほどまで威勢よく話をしていた他の幹部たちは静まり返った。

「・・・・・・ いいでしょう、あなたにお任せします。 朗報を期待していますよ」

 ただ一人、老淑女だけが真っ赤な唇で下弦の月を描いて、厳かにそう告げるのだった。







 それから三日後。

『瀬野真琴、謎の失踪! 自宅からは大量の覚せい剤と危険ドラッグ!』

『若きジャーナリストの光と影! 友人T氏の元には自殺をほのめかすような話が!?』

『詐欺、強姦、恐喝! 暴かれた瀬野真琴の本性とは!?』

 あらゆる新聞の一面を、瀬野真琴の失踪と、身に覚えのない犯罪が掲載されていた。







                       2.

 ジャーナリストなどの報道関係者は、時としてカメラのファインダー越しに現実を見ている。 それは現実を見ているはずなのにどこか自分のことを虚ろに思い、自分自身が事件に巻き込まれる可能性があることを、失念してしまうことがある。
 そして真に危機が迫ったとき、彼らはファインダーのない現実を直視し、恐怖をより鮮明に、絶望をより深々と味わうのだ。

「ひぃ、ひぉ、ひぃ、た、た、たすけて、たすけてぇ・・・・・・」

 とあるところのとある施設にて。
 何者かに拉致された瀬野真琴はありとあらゆる凌辱をその身に受け、コンクリートの床に寝転がされていた。

「なんか、テレビで見た時とはずいぶんイメージが違っているんですけど?」

 様子を見にやってきたアヤメに、その部下が答える。

「最初のころは威勢が良かったんすよ? でも一晩中、輪姦してやったらこのザマ・・・・・・ ったく、もう少し骨があると思ったんだけどなぁ」

 アヤメの部下はいわゆる両性具有―― フタナリの少女たち。
 彼女らにお尻の処女を奪われた真琴は服はボロ雑巾のようになり、短小包茎のペニスを晒したまま。 精液まみれで身体中汚ていないところなどどこにもない。 口や喉にさえ激しく犯されて、あるものは真琴の眼球にまで精液を流し込み、あるものは小便混じりのサンドイッチを餌として食させていた。

「・・・・・・ まあ、いいわ。 どうせやることは変わらないんだし、ちょっと誰かソファー持ってきて」

 別の部下がすぐにソファーを準備する。
 アヤメはそこに腰掛け、真琴は彼女の部下に抱えられながら、その足先に跪く。

「や、お兄さん。 ご機嫌いかがかな? 私はアヤメ。 よろしくね」

 合コンでも始めるかのような軽快なノリで、アヤメは挨拶する。
 それにより真琴の恐怖はより一層深くなった。

「ニュース見たよ、瀬野真琴さんだっけ? すごいなー、カッコイイなぁー、もう有名人だね。 私たちのお仕事を邪魔して、いい気になっちゃった?」

「あ、あ、ああああ・・・・・・」

 真琴の震えは止まらない。骨が軋むようで、奥歯がカチカチと音を鳴らす。
 怖くて怖くてたまらない。
 年齢も、身長も、体重も、すべて勝っているはずなのに、年の離れた少女たちに睨まれるだけで心臓が凍えるほどの恐怖に駆られてしまう。 食物連鎖の上と下、絶対に勝てない相手であると、本能が悟ってしまった。

「あ・・・・・・ ああ・・・・・・ ゆ、許して・・・・・・ もう、許してください」

 まだ少女ともいえるアヤメを目の前にし、真琴は自然と土下座をしていた。
 白濁液にまみれた顔に涙を流し、許しを乞う。

「お願いします、もう許してください。 限界なんです。 可笑しくなりそうなんです・・・・・・ だから、だから、もうやめて。 ここからだして。 に、二度と記事なんて書きません。 テレビも出ません。 お金ならいくらでも払います、だからお願い・・・・・・ 僕を、助けて・・・・・・」

 瀬野真琴は限界だった。
 このままでは自分が自分でなくなってしまう。
 あさましく卑猥な、人ではないものにされてしまう。
 少女たちに蹂躙され、今まで自分が積み重ねてきたものすべてが崩れ、精神的に極限まで追い詰められていた。

「もうイヤ、イヤ、イヤだぁあああ! た、助けてぇええええええええ!」

 これまでの人生で、これほど必死になってお願いをしたことなどない。 足を舐めろと言われれば喜んで舐めよう。 犬の真似をしろと言われれば何度だって。 下劣な生への執着心から頭を地べたにこすり付けて、土下座を続けた。 少女たちの嘲笑が上から響き、頭や身体を踏みつけられるが、これで救われるのなら構わなかった。 やがて涙だけでなく鼻水まで垂らして哀願する。

「そう、そうだねぇ、苦しいよねぇ、泣きたくなるのも当然だよねえ。 だって、お兄さんはただ自分の仕事をしただけだもん。 なんにも悪くない、お兄さんは悪くないよぉ」

 アヤメが優しい言葉を投げかけてくれる。 ぽんぽんと同情したように肩をたたかれると、真琴の心に温かいものが湧き上がった。
 だが――

「でもさ、無理なんだよね。 私もこれが仕事だからさ。 運が悪かったと思って諦めようよ、そうしうよう」

 ほんのわずかな希望を抱いて顔を上げた真琴の目に、スマホを操りながら適当に話を合わせるだけのアヤメがうつった。

「そんな、そんなぁ・・・・・・」

 一瞬で真琴は悟ってしまう。
 この娘に何を話しても無駄だ。 彼女はあくまでストイックに自分の仕事をこなすだけで、こちらの話など酔っ払いの戯言程度にしか聞いていないようだった。

「あとね、お兄さん勘違いしているよ? そりゃ私たちは男の子を誘拐してあれこれしているけどね、別に不幸にしたいわけじゃないんだよ? そこんとこジャーナリストさんには理解してほしいな」

 アヤメは一枚の写真を取出し、真琴に見せる。
 ただ見るだけではない、隅々までその目に刻み込ませるようフタナリの少女たちに顎を掴まれ、鼻先までその写真に近づく。

「この写真に写っているのは、ニシノツカサくん。 18歳。 今、お兄さんの隣にいるフタナリの子のお兄ちゃんだった子だよ」

「・・・・・・ だ、“だった”?」

「そう、ツカサくんはね。 不幸な子なの。 背が低いし、喧嘩も弱い。 オチンチンだってフタナリな妹に負けちゃうくらいちっちゃいの。 でもお兄ちゃんってだけで周りは必要以上にプレッシャ―を与えて、強く立派な大人になることを強要したんだよ」

 アヤメは教鞭をとったように真琴の耳にささやく。 熱く、優しく、どこか残酷に。

「おかしいよね? 人には向き不向きがある。 どう見てもツカサくんは人の上に立つような子じゃない。 それなのにたった一、二年早く生まれただけで、こんな弱っちくて可愛い子を無理やりトップに教育するなんて間違っている。 彼自身もすごく悩んで、苦しんでいた」

 典型的な犯罪者のエゴ。
 しかし心が弱っている真琴には、それが一瞬とはいえ正しいことのように思えてしまった。

「だからね、私たちは彼に新しい自分を知ってもらったの」

「―――っ!?」

 二枚目の写真が見せられる
 それは先ほどと同じニシノツカサなのは間違いないが、フタナリの妹に後ろから抱きかかえられ、M字に開脚したままお尻を犯されたレイプ写真だ。

「ほら、ちゃんと見て。 目を逸らさないで。 ツカサくんの生まれ変わった姿を見てあげてよ」

 凄惨な写真。 しかしツカサの瞳に悦びの色があることを真琴は知ってしまう。

「最初はツカサくんもお兄さんと同じですごく嫌がっていた。 だけどすぐにその素晴らしさに気づいてくれて、こんなに気持ちよさそうな顔して、だらしないでしょう?」

 瞬きすら許してもらえず、ツカサの痛ましい写真をその目に刻み込まれる真琴。
 まるで女の子にイジメられることが、正しいことのように思えてしまう写真。
 まるで自分が男ではないかのような写真。
 まるで未来の自分を映しているかのような写真。

「や、やめろ・・・・・・」

「ダメだよ、逃げちゃダメ。 ほらもう一度写真をよく見て、見るの。 姿だけじゃなくて、顔を見て、目を見て、忘れないで、この目を」

 アヤメの有無を言わさない言葉は、いかなる暴力よりも強く凶悪だった。
 さらに写真が提示される。

「・・・・・・ これが今のツカサくん。 付属の幼稚園で女の子として育てなおしている真っ最中。 ほら、彼女の目。 とっても幸せそうでしょう? 恍惚感と幸福感にあふれた、メスの顔している」

 本来なら大学生であるはずのツカサは、なぜか幼稚園の入園式に出ていた。
 それも通園服にスカート、黄色い通園バックを着て、年長組らしき園児に股間をまさぐられ悦んでいる。 変態としか言いようのない姿だった。

「な、な、なんだ、なんだよ、これ、なんで・・・・・・」

 焦ったように真琴の眼球は忙しく動き出す。
 目の前の事実を拒否しようと思えば思うほど活発に目が動き、あらゆる情報を脳に送り込んでくる。 その上それは、アヤメの言う通り被害者がメスの快楽に屈服し、歪んだ幸福のまま女児に堕とされたという、認めたくはないことばかり。
 常識や価値観が一気に塗り替えられる中、アヤメの執拗な責めは続く。

「次はコレ、彼はハヤシバライクオくん。 彼の父親はそこその企業の社長だったんだけど、会社が倒産して以来父親は失踪。 かわいそうに、彼一人莫大な借金を背負ったまま残された」

 証明写真のように凛々しい顔つきでうつるハヤシバライクオ。
 だがすぐに見せられた二枚目の写真には、そんな面影はどこにもない。

「普通なら眼球とか内臓とか売り飛ばしても足りないんだけどね、彼のことを気に入った女の子が・・・・・・ まあその娘は小学生なんだけど、彼を養女として買ったのよ」

 ロンパースによだれかけとおしゃぶりをつけて赤ん坊同然。 彼は大きいベビーベッドの中でぬいぐるみとともに寝転がされ、純粋無垢な瞳を映している。

「ほら、もっと見て。 この目を、この澄んだ瞳。 とても綺麗でしょう? 」

 おまじないのように繰り返し、見ることを強要するアヤメ。
 逃げようとしても拘束されており、目をつぶろうものなら部下のフタナリ少女たちが無理やり瞼をこじ開けられる。

「イクオくんにはもう恐怖も不安もなにもない。 これからずーっと皆に可愛がられるの。 オムツを替えられ、哺乳瓶で食事して、乳母車でお散歩。 彼はもう何もしなくていいし、考える事もしなくていい。 羨ましいとは思わない?」

「あ、あ、あ・・・・・・」

 限界と思っていた恐怖のさらに奥から、震えがやってくる。
 とても話の通じるレベルではなかった。
 彼女たちの目には真琴も男の子たちも、ゲームセンターにあるぬいぐるみ程度にしか思っておらず、可愛く飾り付けて飽きれば捨てるだけ・・・・・・

「最後にもう一人紹介。 これはぜひお兄さんに見てもらいたいの。 ほら、ウサミヒサシ。 お兄さんのお仕事の先輩なんでしょ?」

「えっ――」

 見せられた写真。
 それはまさしく数年前行方不明になった、真琴の先輩だった。
 しかしその姿は――

「あ、あああああああっ!?」

 場所は飼育小屋だった。
 金網に囲まれたその中でチンチンのようなポーズをとるウサミヒサシは、陰部には痛ましい白い包帯。 口とお尻にはにんじんが突き刺さっていて、

「ウサミちゃんはね、今はとある小学校のウサギ小屋にウサギとしてかわれているの。 彼はすごく乱暴な子だったけど、去勢してあげたらもう人が変わったように大人しくなっちゃってさ、今じゃすっかり可愛いウサギさん。 ガニ股で、小学生がよってきたら『ぴょんぴょんぴょん』って可愛く鳴いて、両手をお耳の上にピンと当ててね、腰をふっておねだりするるんだよ? そしたら小学生たちはニンジンをあげるの、二つのお口にね」

 そしてアヤメはやはり決まって最後にこういう。

「ほーらほら、よーく見て。 これがお兄さんのセンパイだよ。 物欲しそうな顔してるねぇ? 愛嬌振りまいて、可愛がってもらおうと必死。 そうだよ、女の子はね、自分に媚びてくるメスが大好きなの。 お兄さんも、この目を覚えた? そう、瞬き何てしちゃだめ。 じっくり目を見てあげて、目を、目を、目だよ」

 ツカサ、イクオ、ヒサシ、三枚の写真が床に並べられる。
 真琴は犬のように這いつくばりながら、その三枚を舐めるように見せられ続けた。 彼らの顔が瞼の奥に焼きつくまで、その瞳が心の中に巣くうまで、彼らのことが“羨ましく”思えるほど狂うまで。

「お兄さん・・・・・・ ううん、マコちゃん」

 アヤメはソファーから立ち上がり、見下したような笑みを浮かべる。
 真琴は反射的にアヤメの目をじっと見つめてしまった。
 大きな瞳の中に映る自分自身の情けない顔に、写真の男の子たちと同じものを感じてしまい、

「・・・・・・ あっ」

 アヤメがゆっくりとした動作で真琴を優しく蹴飛ばす。
 たったそれだけで仰向けになってしまった彼に向かって、再び足でつつく。

「ここ、お股開いてよ」

「あ」

 あまりにもあっけなく、真琴は言うことを聞いてしまう。
 M字に開いた股間の上にアヤメはまたしてもゆっくり、真琴は逃げようと思えば逃げられるはずなのにそれができず、土足のまま踏みつけられる。

「私ってさ、まだ●歳なんだよ? それなのに一方的に命令聞いちゃってさ、恥ずかしくないのかな? マコちゃん?」

 ぐりぐりと、アヤメは股間を嬲るように体重をかけてくる。  足コキなんてものではなく、ただ羽虫を踏みつぶすかのような残酷さ。

「ここ、なんでおっきくなっているの? ん? 年下の女の子に踏まれて興奮しちゃった? くすっ、どうしようもない変態だね」

 ペニスが折れるのではないかと思った。
 睾丸を潰されるかと思った。
 生き地獄を味あわされ、マコはあうあうと陸に上がったコイのように口を震わせていた。

「うぁ・・・・・・ あっ・・・・・・ ぐっ・・・・・・うぅ」

 最初は痛みと屈辱と恐怖だけしかなかったはずなのに、真琴は誘拐されてから今までの出来事で性癖がまるで変ってしまっていた。 次第に別の感情がめばえ出す、
 痛くて、気持ち良くて、それからもどかしい。
 官能が響き、先走り汁が飛び散り、ペニスが震えあと一歩で絶頂を迎えたというのに・・・・・・ そのとき、アヤメの足がピタリと止まった。

「・・・・・・ あ」

 快感がするりと逃げる。
 あれほど嫌がっていたのに、急に物寂しく思ってしまう。
 反射的に、真琴は阿呆みたいにアヤメの顔を見上げた。

「こら、なにこっちをみているのマコちゃん? 何度もいっているでしょう、あなたが見るのは写真よ、写真。 この子たちをもっとよく見てあげて。 可愛くて、情けないこの子たち。 その目を見るの。 みんな、貴方を見ているのよ」

 幼児マゾに堕ちた男の子たちの写真がまた、真琴の顔の前に突き出される。
 悦び、幸せ、そして媚びるような男の娘たちの目。
 まるで真琴を同じ仲間として誘っているかのようにも見えた。

「さあ、ちゃちゃっとしてあげる。まだまだこの後も教育プログラムが残っているんだからさあ」

 電気アンマ。
 アヤメは真琴の両足を掴み、掘削機のような凶悪な振動を浴びせた。

「うあ、あああ、あああっ、あ、ひ、ひいいいいいいい〜んっ・・・・・・!」

 快感と激痛に脳細胞が焼き切れるほどの灼熱感。 
 頭の中で何度も白い光がはじけ飛び、下半身が大きく脈打つ。
 ペニスのコントロールを完全に失ってしまい、真琴は湧き起こる迸りに五感を狂わされていく。

「ひやだ、いやだ、あうあ、ああ、あああ、も、もう、があああああああ」

 目を閉じることは許可されていない。
 真琴の視界には幼稚園児に入園したツカサ、赤ん坊となったイクオ、ウサギちゃんにされてしまった先輩の写真が覆い尽くする。 フタナリの少女たちによって顔一面に写真を覆い尽くされ、脳の中までその倒錯的変態図が流れ込んでくる。
 呪われた儀式のような態勢で、ペニスを激しく踏みつけられ、やがて最低の射精を迎える。

「はぁい、ドマゾペット一丁あがり♪」

 嬉しげなアヤメの言葉のあと、シャンパンのように吹きあがる精液。
 腰を暴れさせながら自らの尊厳とともに精を放ち、真琴は果てた。
 そんな彼にまたアヤメは近づき、同じように床に寝そべりながら彼の股間を鷲掴みにした。

「いーい、マコちゃん。 もう女の子にさからっちゃだめだよ? 女の子は皆マコちゃんのご主人様なの。 特に小さい女の子たちにはね、マコちゃんのことをたくさんイジメるよう言っておくから、可愛く媚びないとすぐに捨てちゃうよ。 捨てられちゃったらどうなると思う? ん? そんな怖いこと、私の口から言わせないでね。 んふふふ」

 悪魔らしい笑みを浮かべ、アヤメはスマホで写真を撮る。
 すぐにその写真を真琴へと見せると、

「この子はね、“瀬野真琴”。 男の子の本当の幸せを知らない可愛そうな子なの。 でも大丈夫、十分素質はあるから。 ほら、顔を見て、目を見て。まだ抵抗している感じがあるけど、女の子にイジメられないと満足できませんっていう感じがするじゃない?」

 真琴の写真を真琴に見せつけながら、アヤメは恐怖を予言する。

「これからマコちゃんはねえ? いーぱいお勉強して、他の娘たちに負けないくらい可愛くて情けなーい幼児になってもらうから、そう、嬉しいでしょう?」

 否定したい、真琴。
 しかし、股間をまさぐるアヤメの手にうっとり表情がふやけていき、やがて彼女に勧められるまま『契約書』にまでサインしてしまう。
 それは真琴が真琴として行った、最後の選択となることをまだ知らない。







                       3.

 コールドスリープのような大掛かりな設備。
 周囲には不穏な音と振動を発する機械が並び、白衣を着た数名の学者たちが忙しく動いている。 巨大な電源コードや光るチューブが折り重なり、設備の中心にある卵形の生体ポッドにつながっていた。
 そのポッドは大人がやっとひとり分くらい入れる大きさ。
 怪しい薬液に満たされたその中で、膝を抱えるようにして、全裸の瀬野真琴が眠っていた。
 彼の身体には今の状態を測定したり、特殊な薬品を注入したりするための細いチューブがいたるところについていて、特に大きなチューブは三本。
 吸引と食事を流し込むための口マスク。お尻にはアナルプラグにも似た排泄用チューブと、陰部にもオナホールに似た構造をした排泄用チューブが取り付けられ、真琴自身が一つの部品でもあるかのような接続具合だった。

「・・・・・・」

 そして妖しげな液体に満たされた生体ポッドの中で、真琴は知らぬ間に身体を作り替えられ、もう半年になる。

「ちょっといいっすか、アヤメさん」

「んー?」

 真琴の監視を続けるモニタールームにて、アヤメは部下の一人に尋ねられる。

「あたしこの設備のことイマイチよくわかってないんですけど、よかったら教えていただけませんか?」

 話しかけられている間もアヤメは、設備に表示された細かな数字を自分の目でチェックし、一つ一つ問題がないことを確認していた。

「一言で言えば、若返り装置よ。 肉体改造。 人間の細胞を活性化させて、身体を好きなように変異させちゃうの」

「へー、なんか魔法見たいっすね」

「んふふ、魔法じゃなくて科学の力よ。 まあ、まだ試作の段階でもあるんだけどね」

「それって被験者の安全は大丈夫なんっすか?」

 アヤメはほくそ笑む。
 もちろん危険に決まっている、命の保証なんてない。
 しかも恐ろしいほどの繊細さが要求され、未だ数百分の一の誤差がなかなかあわず、研究員は夜を徹してその微妙な調整を続けていたのだった。

「まあ、5人に1人くらいは容器を開けた途端ゲル状になって崩れたこともあるけど・・・・・・そのときはそのときよ。 マコちゃんはもう22歳だしそのままだと可愛くないからねー。 私好みの見た目小学生くらいで、赤ちゃんみたいなプリプリの肌。 それでいて、できるだけ“美少年”って感じの状態で女の子にしてあげる」

 本来その設備は18歳までの人間にしか使えない。
 それ故に22歳の真琴に使うのは一つの賭けだ。 しかし、いずれにせよできないのならそのまま殺すだけだから、アヤメにとって真琴は格好のモルモットだ。

「美少年? どうせなら美少女じゃないですか?」

「完全に女の子にしか見えない男の子よりもね、ちょっと男の子に見えるくらいウケがいいのよ。 あくまでみんなは、女の子に女装した男の子に興奮するみたいでさ」

「そのあたりはよくわからないっす。 あと、それ・・・・・・ それはなんですか?」

 様々なグラフや瀬野真琴の身体の一部が映る中、一つだけ休日朝に放映されるようなアニメ番組が流れていた。
 クマやウサギが人間のように歩いたり笑ったりするアニメ。
 心なしか笑いどころでは真琴の表情も緩やかに変わった気がする。

「そっちはマコちゃんの催眠・・・・・・ もとい、睡眠学習に使っているの。 眠っているマコちゃんの脳に幼稚な教育番組やアニメを流して、思考をよりちっちゃな女の子になってもらうのよ」

「へー、なんか面白そうですね」

「面白いわよ、今までクールだったり、熱血系だったり、不良少年気取っていた子がね、玩具やぬいぐるみを差し出してあげるだけで目を輝かせて喜んじゃうの。 でも自我が消えたわけじゃないから・・・・・・ ふふふっ、面白い反応してくれるわよ」

 サディスティックな妄想にアヤメの手が止まる。まるで一つの芸術作品を見つめるみたいに愛情をかけ、肉体と精神の改造をすすめる真琴に笑いかける。

「そうそう、貴方、反射ってわかる?」

 アヤメのほら穴のように黒い目にゾッと一瞬怯みながら、部下は遠慮がちに答えた。

「えっと、確か飼い犬にベルを鳴らしてから餌を与えるようにしていたら、餌がなくともベルを鳴らしただけで餌をもらえるものと勘違いして、犬が涎をたらしちゃうっていうあれっすか?」

「良く知っているじゃない。 基本的にはそれと同じようなことをしたくてね」

 アヤメが合図すると、真琴のペニスやアナルが責められ射精感を高める。
 生体ポッドのなか、ゴボゴボと気泡を漏らしながら感じるマコ。
 睡眠学習用の映像が、女の子たちのファッションショーに切り替わる。 いずれもピンクやヒラヒラ、フリフリ、リボンにスパンコールのたくさん入ったお人形さんのような衣装ばかり。

「もうマコちゃんには男としてまともな射精なんかさせてあげない。 ちっちゃな女の子にならないとイキたくてもイケないエッチな身体にしてあげる。今までみたいに男服も着られなくなって、可愛いくてヒラヒラでフリフリの服じゃないと不安で不安で仕方がなくしてあげる」

 すでに改造は7割方終了し、瀬野真琴の精悍な顔立ちは幼げな高校もしくは中学生のものへと変わっている。
 時々生体ポッドの中で目を覚ますこともあるが、幼稚園の風景や教育番組の授乳シーンなどを脳に流すことにより、精神はすこぶる安定。 洗脳の方も順調のようで、カメラや新聞記事といったジャーナリストに関係の深いものよりも、ぬいぐるみと玩具などに興味を示すようになっていた。
 後もう少し、“普通の女の子にはないありえない変態性”を身に着け、愛玩動物としての自覚を植え付けさせればよいと、アヤメはにやけた。

「おしっこが我慢できなくなるのは当然として、玩具をみつけたら一番に飛んでいくような好奇心を植え付けてっと」

「まるで赤ん坊っすね」

「そうよ? マコちゃんはもう一度赤ちゃんとして産まれるの。 さしずめこの施設はママの子宮の中。 そしてその担当者である私の、可愛いベビーに生まれ変わるのよ」

「・・・・・・ ははははっ、は、あはぁ。 やっぱ恐ろしいわ、この人」

「すくすく育ってね、マコちゃん。 貴方に会えること、とっても楽しみにしているんだから・・・・・・」

 陶酔したアヤメの声が真琴に聞こえるはずはない。 しかし眠っている彼の頭の中で、アヤメに対する恐怖も不安も一切なくなっていた。 そしてその変わりに残ったのは、卑しい加護欲と愛情。
 一人ぼっちの生体ポッド。 あらゆる感覚も感情も奪われた中で、真琴は時々アヤメに抱かれる夢を見ていた。
 そんな睡眠教育の映像、誰も、一度も流した覚えことはないのに・・・・・・







 肉体改造と洗脳教育を終えた瀬野真琴は、非合法の秘密会員制クラブの男娼館で、お披露目の場を与えられることとなった。
 その男娼館には、食事とショーが同時に楽しめる特別会場がある。
 二階席まである高い天井と広々としたつくり。 赤紫色を基調とした、まるで遊園地のアトラクションホールのようなところで、従順な男の娘たちはお客様にかしずいている。 お酌をしたり、キスをしたり、身体をいじめられたり、中にはそのままお持ち帰りされたりするなど、お金と欲望が渦巻く世界が広がっていた。
 日夜行われる卑猥なエンターテイメントは、館最大の目玉。
 広いステージの他にも大がかりな仕掛けが存在し、室内なのに小さな観覧車まであった。 それはゴンドラの代わりに人ひとりが入れるほどの金の鳥籠がゆっくりと回っていて、中には翼をもがれた天使こと、男娼たちが哀しくも切ないダンスを披露している。

「どうかしら、生まれ変わった自分は?」

「どうといわれても、その・・・・・・ はずかしいです、とっても」

 ステージの舞台袖。
 20歳前半の精悍な顔をしていた真琴は、今や小学生と見間違えられてもおかしくない。 元より低かった身長もさらに一回り以上縮んでしまった。
 そのくせ着ている服は大きいサイズの幼児服。ピンク色のベビーワンピースのスカートにはさくらんぼうのマークが入っていて、レースとフリルが波打っている。 ソックスもそれに合わせられ、白いよだれかけには「MAKO」というみっともない刺繍。 丸いおでこを開けてヘアピンで止めた。
 女の子に見ようと思えば見えないこともないが、真琴の容姿はあくまで男の子にしては可愛いというだけであって、女の子のそれとはまた違う。“可愛らしい女の子”ではなく、“可愛らしい女装した男の子”として出来上がっていた。

「さあ、出番よ。 マコちゃん。 その情けない姿、みんなにいっぱいみてもらいましょう」

「あ、あ、あ、ああああ・・・・・・」

 逆らえず、なすがまま、その背を押されて震えながら歩み出る破廉恥が服を着たような真琴。
 ステージの中央に立たされた彼に、観客席の照明は一旦落ち、スポットライトの光が集約した。

「お待たせいたしました! それでは本日のメインイベント。 ジャーナリスト・瀬野真琴のデビューショーでございます。 マスメディアの麒麟児、日本新時代の反逆児などと言われた男のなれの果てをとくとご覧ください」

 卑猥なキャットガールが司会をし、ショーの幕が開く。
 しかしそのキャットガールもまた男の娘であり、マイクロミニのスカートからはエナメル下着。 見せびらかすように勃起していて、ネコの尾はそのままアナルプラグになっている。 むき出しになった乳首には銀のピアス。 それから二の腕には菖蒲のタトゥーが刻み込まれていた。

「あ、あ、あ・・・・・・」

 その夜は真琴のデビューショーということで、組織の構成員はもちろんのこと、会場には大勢の観客が集まっている。 ステージを囲むように設けられた丸テーブルと席だけでは足りなくて、隅で立ち見をする客も少なくない。
 緊張する真琴だが、もはや彼に逃げ道など存在しない。 ぽつりぽつりと諦めの境地で言葉を発する

「しゅ、淑女の皆様・・・・・・ このたびは、わたしのような卑しいメスイヌのためにお集まりいただきありがとうございました」

 ピンクを基調とした幼稚な格好とは裏腹に、真琴は慇懃な謝罪を述べる。 それはすべてアヤメの指示であり、姿と態度のギャップが周囲の目を惹きつけた。

「わた、しは・・・・・・ 浅はかな私は、オチンチンに支配された汚らしい男の分際で、男が女と平等などという恥知らずな考えをもっておりました。 その挙句、ジャーナリストとして真実を報道する立場であるにも関わらず、この間違った思想を公共の電波に発してしまったことを、深くお詫びいたします。 本当に申し訳ございません」

 真琴は心から後悔し、詫びていた。
 もはや拉致される前のことは悪い夢のようにしか思えない。
 善悪という概念から目を背け、ただ母親にしかられた童女のような泣き顔。 見捨てられないように、もう一度信じてもらえるように、写真の男の娘たちみたいに愛玩してもらえるよう精一杯女性たちに媚びていた。

「こ、これからは、他の男の子たちと同様。 いえ、それ以下の家畜として、ま、マコを、変態幼児マゾ奴隷のマコを、どうか一生、か、可愛がってくださいませ・・・・・・ マコはもう、皆様にお世話されないと生きていけません」

 謝罪の言葉とともに、マコは震える指先でスカートをたくし上げる。
 負け犬にふさわしい、紙オムツが明るみに出る。
 それは今よりちょっとだけ背伸びした幼女ルックで、真琴自身がおつかいによって手に入れたもの。 真琴よりも若いはずの店員さんに詳しくお話して買った、イルカさんのマークがついた女児用オムツだ。 さらには自分よりもさらに幼い小学生におねだりして履かせてもらい、その一部始終が背後にあるスクリーンで放映、多くの観衆の目にさらされた。

「肉体改造は成功のようね。 こうなったらあの子もいよいよ人としておしまい」

「さすがアヤメ。 あの瀬野がここまで堕ちるなんて。 敵でなくて本当によかったわ」

「やだぁ、ふふ。 オムツだなんて、でも男なんかにはふさわしい格好」

 軽蔑した視線を受ける真琴。 その下半身はマゾ奴隷らしく、オムツの中であさましい膨らみを作っていた。

「マ〜コちゃん、難しい言葉たくさんあったのに、よくできました」

 口上を終える真琴に、いつの間にかステージに上がったアヤメが手を叩きながら近づいてくる。

「あ、マ―― アヤメ、さん」

 真琴は耐えきれずアヤメの胸に飛び込み、人見知りの激しい子のように顔を隠してしまった。

「あら、私のこと恨んでないの、マコちゃん?」

「恨んでいる、恨んでいる・・・・・・ けど、けどぉ、もうマコにはア、アヤメさんしかいないんだから」

「そう、じゃあ、せいぜい私の役に立ってよねマ〜コちゃん」

 膨れっ面のマコのほっぺをつつきながら、肉体だけでなく心の方も陥落し、モルモットにはモルモットの幸せがあることを教えられてしまう。
 アヤメは大きな赤ん坊を抱えたまま視界からマイクを借りると、改めて皆の前で宣言した。

「みなさん。 お聞きになった通りです。 瀬野真琴は本日をもって無事に終了いたしました。 ここにいるのは私たちの可愛いペット奴隷のマコちゃんです。 ご理解いただけましたか?」

 敵であるはずのアヤメに泣きつく姿を見て、誰も瀬野真琴の再起不能を疑う者はいない。 会場では全員ではないものの多くの拍手がこだまする。それは幼児奴隷としてのマコを迎えるモノであり、悔しさや情けなさよりもどうしても嬉しさがこみあげてしまうほどに、彼はおかしくなっていた。
 だがそこへ、意義を唱える人物がたった一人。

「・・・・・・ アヤメさん、ちょっといいかしら?」

 会場の二階にあるVIP席から声をかけるのは、この組織のトップであるはずの女性。
 真琴の始末をアヤメに任せた、黒ずくめの老淑女だった。

「貴方は最初、私たち全員がこの男を大好きになれるよう躾けるといったわね? これだけで、本当に全員が納得できると思って?」

 他の幹部とは異なる圧倒的な威圧感。 マコは思わず身震いしてぎゅっとアヤメの身体を抱きしめるが、彼女の心拍に乱れていない。

「まさか、これから面白いものを見せてあげますよ?」

「・・・・・・」

 アヤメは再びマイクを構えると高々と手を上げると同時に、反対側の手でマコのオムツを掴む。 もちろん、再びスカートをたくし上げることを目で指示して。

「では、みなさん引き続きよく見ていてください。 このマコちゃんですが、見た目は大きいですけどまだまだ生まれたばかりの赤ちゃんなんです。 ところが、先ほどのように大人のような謝罪ができるだけでなく、なんと、ひとりでおしっこまでできちゃうんですよ」

 馬鹿にしたような言い方で、周囲の関心を集めるアヤメ。
 それは幼児奴隷ショー第二幕の幕開けであり、幼児男娼としてはじめてのお仕事となる。

「マコちゃん、そろそろおしっこの時間だよ? しぃーしぃーしよっか?」

「あ、あ、あ・・・・・・」

 しぃーしぃー。
 その言葉を聞くとマコは“反射”で下半身が震える。
 今まで大丈夫だったはずの膀胱が急に満たされ、排泄を促す指令が脳に伝えられる。
 顔を赤らめ落ち着きなく、内腿をすり合わせながら突然の変調に焦るマコだが、すでにショーは始まっているのだった。

「あらあら、マコちゃんは今すぐにでもおしっこがしたいようです。 だけど、こんなところに幼児が使えそうなおトイレなんて・・・・・・ おおっと、あった。 ありました。 あーんなとことに、可愛いオマルがあるぞ。 これはなんという幸運でしょうか」

 芝居がかった口調でアヤメは、ステージからとあるテーブル席のほうに指差す。
 お酒を嗜む女性たちの真ん中に、なぜかアヒル型のオマルが置かれ、薄暗い中でスポットライトが一本あたっている。
 アヤメたちは、人間が最も見せたくないであろう排泄姿でさえ、滑稽な見世物にしようとしているのだった。

「さあ、マコちゃん。 行きなさい」

「む、むり、ごめんなさい。アヤメ、さん。 あるけないよ・・・・・・」

 下半身から力が抜け、そのまま糸が切れた人形のようにへたり込む。
 イヤというわけではない。 洗脳教育のおかげか、奴隷だからやらなくてはいけないという意識はあるのだが、破裂寸前の膀胱に足がいうことを聞かないのだ。

「いいのよ、そうなることは計算済み。 犬さんみたいに四つん這いになって歩けば。 赤ちゃんなんだから、ゆっくりいきなさい」

「あ、ああうう、あう・・・・・・ わ、わか、った」

 そう提案されるとマコは従うほかない。

「私だけじゃなくて、ほら。 マコはもうみんなのモノなんだからさ」

「ああうん・・・・・・ えと、みなさま、マ、マコは赤ちゃんだから・・・・・・ハイハイして、オマルまで行きます・・・・・・ ちゃんと、みていて、ね?」

 嘲笑と歓声が漣のように広がる。
 ちゃんと喋り方も舌っ足らずで拙い言葉。
 視界はもはや幼稚園児よりもさらに下となり、震える脚を奮い立たせ、四つん這いになって、よちよちとステージを降りる。 当然スカートはめくり上がり、オムツも丸見え。 フリフリ腰を振って、火照った四肢に会場の床はひんやり冷たく感じなると、一歩ずつ確実に、マコは幼児として新しい自分の道を作っていく。

「みなさん、どうかマコちゃんを一緒に応援してあげてください。 はい、あんよはじょうず、あんよはじょうず♪」

 最初はまばらだった手拍子が徐々に整い、その数を増やしていく
 皆がマコのハイハイと、オマルへのおしっこ、無様な成れの果てを期待していた。
 ―― よちよち、よちよち。
 あらゆる女性に見下される劣等感と、今にも踏みつぶされるのではないかという恐怖に掻き立てられ、自分という価値がゴミ箱をあさるネズミよりも劣った存在になったことを、理解させられてしまう。
 なのにマコの表情はのぼせあがり、思考に淫らな花を咲かせ、だらしなく口を開いたまま這って行く。
いったい自分はどこまで堕ちていくのか、どこまでみっともなく情けなくなれるのか・・・・・・ 怖い。 けれどマコはドキドキしてしまう。 自分の破滅さえ甘い快感を見出すドマゾな自分に酩酊し、そしてようやく、オマルのあるテーブルにやってきた。
 はしたない幼児であるマコはそこで、無礼を承知でそのテーブルをよじ登るのだが――

「え?」

 ―― 目の前には大きなお尻。 長いネコの尻尾が生えていて、それは最初に司会をやっていたキャットガールの少年のものだった。

「やあ、マコちゃん遅かったね。 ボクもちょうどおしっこしたくなっちゃってさ。 ってなわけで、このオマルは使用中。 お先に失礼するね」

 マコにお尻を見せたまま、キャット少年は首だけを動かし、悪戯っ子のように舌をだして見せた。
 同時に、彼のペニスから黄金色の液体が迸る。
 じょろ、じょろ、じょろろろろろろろろろ・・・・・・

「んふふぅぅうううううう、ふぁ、すっごい、マコちゃんも、みんなも、見てるぅ・・・・・・」

 頬を染めながらオマルに跨り、愉悦した表情で催しを解消する男の娘。
 女性たちが食事するための真っ白な丸テーブルの上、まるでシャンパンタワーのように煌びやかな光が弾け、マコと周囲に見せつけるように堂々とオマルした。
 その姿にマコは様々な感想を抱く。
 綺麗。 情けない。 ズルイ。 なんで。 全部見られている。 気持ちよさそう。 みっともない。 でも・・・・・・
 チュポンと、最後の一滴がオマルに落ちるまで、マコは見惚れていた。

「マコちゃんマコちゃん。 ぼーっとしないで、オマルはあっちにもあるわよ。 でも、グズグズしてたらまた他の娘に盗られちゃうかもね」

 それを聞いてマコとは慌ててテーブルを降り、急いでハイハイ、よちよち。 お尻をフリフリしながらもう一つのオマルに向かう。
 周りの嘲笑がより一層大きくなる中、右に左によれるマコはもはや大観衆の中でオマルすることしか考えていない。どんなに恥ずかしくて、どんなに気持ちがいいのか、最低下劣な期待にオムツの中のモノを膨らませていた。
 しかしようやくたどり着いたときには、また――

「は、はぁあああああ〜ん、おしっこ、き、きもちぃいいいいい」

 またしても別のキャット少年にオマルを奪われ、マコはついに嫉妬を覚えてしまう。男の娘としての、メスとして負けたくないという的外れな想い。
 今にもオムツを濡らしてしまいそうなのに、我慢。
 そこへ救いの手を伸ばすのは、やはり彼女だった。

「マコちゃーん、こっちこっち、ほら。 これが最後だよ? おいでおいで」

 そのオマルはアヤメが持っていた。
 つまりはステージの中央、マコが元いた場所にオマルが置かれた。
 マコはもう目の色を変えて一直線。 テーブルやスカートの中をくぐり、尻を蹴られたり、顔を踏みつけられたりしても、訓練された犬のようにステージに戻る。

「はぁい、マコちゃん今度は一等賞。 うふふふ、あはははは」

 馬鹿にされていることにも気づかずに、マコは誇らしい気持ちでオマルに跨る。
 やっとおしっこができる。
 だがその時になってようやく観衆たちの目を思い出し、自分が今から人として最低のことをしようとしていることにも気づいて、マコの羞恥心に火だるまとなった。 身体中トマトをぶつけられたみたいに真っ赤になり、そのまま硬直する。
 しかも一人では自分のオムツが上手く脱げなくて・・・・・・ マコがグズグズしていると、左右から先ほどのキャット少年が二人とも横入りしてきた。

「やーん、ぼくももう一度おしっこしたくなっちゃったあ」

「マコちゃんマコちゃん、ぼくもこのオマル気にいちゃった。ゆずってよ」

 ペニスをマコにこすり付けるような感じで、我先にとオマルに先端を向ける。
 するとやはりまた惜しい、負けたくないという感情がマコの中で湧き上がり、二人には渡さないとばかりにオマルを掴んだ。

「だめ、だめだから、こ、これ、ボクの、だから」

「えーちょっとぐらいいじゃん。 ねー?」

「そうだよぉ、マコちゃんは赤ちゃんなんだからオムツにしぃーしぃーしてればいいの」

 一つのオマルを奪い合う男の娘たち。
 狭いオマルの口のポジション争いに、ギュウギュウ詰めのマコ、
 異様なその光景にホール中の人々が手を叩いて笑い、「マコちゃんがんばれー、まけるなー」などと応援まで始める始末。
 老淑女もまた満足そうに唇を緩め、いつの間にか姿を消した。
 そしてこの三つ巴の決着は、決められた運命のようにマコが敗れる

「ふああああああん、あっ、で、でちゃうぅううううう」

 右のキャット少年も、左の少年も放尿。
 しかしマコは直前で二人に突き飛ばされ、その真後ろでちんぐりがえし。

「っっっっっっっっ!?」

 二人に邪魔されオムツを脱ぐことさえできず、お尻を突き上げながら、とうとうお漏らしをしてしまった。 じんわりと生温かい感触が広がり、爽快感と不快感に包まれる。

「う、うわああああん、あああああんあ、ああああん」

 マコはもう何が悲しくて泣いているのかわからない。
 声を張り上げ、両手を振り回しながらそのまま仰向けで倒れた。 小水が満たされたオマルの横で、満たされない欲求が爆発。 駄々っ子のようになってしまったマコを見て、拍手喝采する観客の頭からジャーナリストの瀬野真琴という存在は完全に消えてしまった。

「おー。よちよち。 泣かないで、泣いちゃだめよ。 マコちゃんは頑張った頑張った、 だからほら、特別にご褒美を上げよう」

「んぐ」

 アヤメの手からおしゃぶりをくわえさせられる。
 ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱ。
 自然と唇が動き、マコは自分でも信じられないくらいにピタリと涙が止まった。
 そして二人のキャット少年が持つガラガラの音に、徐々に自分が、誰かの赤ん坊であったことを思い出した。

「あはっ、よかったねぇマコちゃん」

「うん、可愛い可愛い。 マコちゃんが一番可愛かったよ」

「そうそう、マコちゃんは一番だよ、一番」

 キョトンとするマコ。 なぜかとても幸せな気分になったような気がして。

「ばぶ、ばぁ、ぶぶ」

「うふふ。 自分からばぶばぶいっちゃうなんて。 マ〜コちゃん。 すっかり堕ちちゃったね。 それじゃあ最後にみんなでそのオムツを替えてあげる」

「あ、あぃ、あううう」

 抵抗しないといけない、そんなことはわかっていたけれど、マコは自分から足を広げ、倒れ、迎え入れる。
 無論そのオムツ替えも全て観客たちへの出し物としておくられ、組織に逆らったもの末路として、マコは永遠に刻まれることとなった。







                       4.


 それから一週間、マコは男娼館の姫となった。
 淫らで幼稚なドレスを着たままカゴの観覧車に入れられ、オチンチンを立たせながら媚びるように踊り続けた。報酬がもらえるのはカゴが地上付近にたどり着いたときだけで、しかし新米奴隷であるマコにはまだお金をもらう資格はない。 その代り観客が持つ哺乳瓶から水分を摂取したり、同じく観客の口の中で粗食されたペースト状の料理を口移しでもらったりしていて、イジメられながらの毎日を過ごしていた。
 ステージでは日替わりで色々なショーがあるのだが、男娼たちの苦労は尽きない。ギロチンや十字架や三角木馬といったSMプレイ、女性が乗る馬車を引くポニープレイ、お尻の穴で生け花をしたり、男同士のペニスを紐で括り付けて綱引きをやらせたり・・・・・・ 中にはまだ抵抗心の残る男のペニスを去勢という名目で踏みつぶすという残酷極まりないものもある。 
 だがマコ自身その光景に勃起してしまうほど、彼はすっかりその世界に馴染んでしまっていた。
 しかし、アヤメはそれだけでは満足できず、さらなる激しい仕打ちを準備していた。彼女は裏の世界だけではなく、表の世界にも女装幼児マゾ奴隷マコをデビューさせようとしていたのだった。

「マコちゃんもすっかりここの生活になれたみたいだから、そろそろ赤ちゃんから保育園児くらいに成長させてあげるね」

 バースデーケーキのつもりなのだろうか。 アヤメから、ろうそくが3本たてられたイチゴのショートケーキと、ある意味ベビー服とは甲乙つけがたい恥ずかしい女児服をプレゼントされる。
 上着は淡いピンクのTシャツ―― 竪琴を引く人魚姫のアニメイラストが描かれており、シャープやフラットや音符などの音楽記号に、『PRINSECE』という達筆な筆記体とともにスパンコールで彩られている。 そしてピンクと白のフリルが重ねられたミニスカート。 先端には赤いポンポンがつけられて、ピンクのポシェットまでハート型で女の子らしいファッション。

「んふふふ、可愛い可愛い。 ホント可愛いわよ、マーコちゃん」

 そういいながら、小馬鹿にした雰囲気で花のマーガレットのヘアアクセを、マコの髪にとめる。女の子らしさに特化したピンクの女児服も、そのヘアクセも、凛々しく切れ上がった眦を持つ美少年とは正反対のものだった。
 だからこそ、その背徳感と懐疑的な幼稚性に人は魅了され、冷たい嘲笑ときつい罵倒を送る。 マコは身体さえ薄ピンク色に染め、あらゆる刺激に敏感だった。

「ええと、マコは、マコは、でもその・・・・・・ おそと、はずかしい」

「なぁにいってんのよ。 今までもっとすごいことしてきたじゃない、今更はずかしいはないでしょう?」

「あ、あ、ううう・・・・・・ そ、それとこれとは違うっていうか・・・・・・」

 完熟するマコの反応に興味を示し、繁々と見つめるアヤメ。

「とにかく私が決めたんだからこれはもう決定事項。 じゃあマコちゃん、離れないようについてきてね」

 その言葉を聞き、マコはおそるおそる自分からアヤメと手をつなごうとしたのだが、その手は虚しく宙を掴む。  
 アヤメはマコの背中に迷子紐―― 幼児用ハーネスを取り付け、まるで犬のお散歩気分で外に連れ出した。

「・・・・・・ マコ、いぬじゃ、ないもん」

「へー、じゃあ、おすわり」

「・・・・・・」

「お、す、わ、り」

「・・・・・・っ」

 アヤメの声色が変わると、マコは人目もはばからずに股を開いて座ってしまう。

「よしよし、じゃあ、お手」

「わ、わん・・・・・・」

「ちんちん」

「はっ、はっ、はっ」

 舌をだし、腰をふり、みっともない姿をさらす。 それがアヤメ相手だとなおさらオチンチンに心地よい痺れが走って、

「あはは、やっぱり犬じゃない。 もう嘘ついちゃダメだからね。 メスイヌのマ〜コちゃん」

「くぅうううん」

 負け犬よろしく鼻を鳴らして、アヤメのふくらはぎあたりに鼻先を擦りつける。色狂い同然にまたご褒美をねだっていて、しかし彼女は気づいてくれない。
 そしてマコは犬としてではなく幼児として、まだ日も高いうちから都内の公園に向かう。 それもわざわざ電車に乗り(マコは子供料金)、駅前大通りを歩き、繁華街を抜け、あえて人目の多いところを選んでマコをさらし者にした。
 人々は驚く。
 迷子紐をつけるにはあまりにも大きな体躯と、少年が着るにはあまりにも幼稚すぎる女児服と、集団観衆の中で顔を赤色や青色へと変わる病的なマコ。
 中には噂を聞きつけたのか、マコの昔を知る者が会いに来て、

「わたし実はあなたのファンだったんですよ。 でもこんな情けない姿になるなんて・・・・・・今度、みんなと一緒にかこってあげますよ。 いくらですか?」

「あたしのこと覚えている? あんたの記事のせいで仕事をクビになったのよ。 絶対に許さないからな」

「見違えましたよ、瀬野さん。 奴隷になったって本当だったんですね、いや、それにしても情けない。 ああ、こっち見ないでくれませんか、変態がうつるから、だから見るなって言ってんだろ、キモイオカマ野郎が!」

 そのとき彼は自分でスカートをたくし上げ、恥ずかしいオムツを彼らに触ってもらうことになっていた。
 マコへの当たり方、オムツへの触り方は人それぞれで、優しく撫でまわすように触る桃もいれば、バンッと股間を叩くようにふれるものもいる。 もっとも困るのは、短小ペニスをオムツ生地の上から探し出し、射精するまでしごくタイプだ。 このときにはもう黙って耐えるしかなく、マコは白昼堂々一般人の目もある中でも、イカされてしまうのだった。

「おさわり、いただきまして、あ、あり、がとう。 奴隷男娼マコ、のこと、これからもよろしく、おね、がいします・・・・・・」

 結局マコは白いオモラシを2回、犬になって立ちションを1回。 2度のオムツ替えが終わった後、ようやく目的地である公園にたどり着く。
 そよ風と木漏れ日だけが二人に優しくなびき、マコはふとこのまま二人だけで時が止まればいいのにと、恋人の―― それも女の方のようなことを想うのであったが、

「マコちゃん、ねえ、お外だよ? 逃げなくていいの?」

 突然アヤメはほのめかし、自ら迷子紐を手放した。

「ほら、どこでもいいから駆け込んでみたら? 『助けてください、こんなちっちゃな女の子みたいな格好していますけど、僕、本当はジャーナリストの瀬野真琴なんです。 悪い組織を追っていたら、逆に拉致されて自分が男娼にされちゃったんです』って、言ってみたらどう?」

 しかしマコにその気はない
 逆に投げ捨てた迷子紐の先端を拾っては、焦ったようにアヤメの所に持っていく。

「マコは、マコはもうマ―― アヤメさんのモノなんだから。 捨てたりしちゃ、やだ」

 逃げるどころか逃げられないようアヤメに抱きつき、涙さえ溜めて、彼女の手にハーネスをぐるぐるにまきつけた。

「ひょっとして、私に惚れた?」

「・・・・・・」

「はぁ〜、そういうことか。 あたしって、なんでこう変態ばっかりにモテるんだろう? 悪いけどパスね。 私って実は“ノーマル”なんだよ? 女尊男卑はいいけれど、やっぱり付き合うなら普通の男がいいの。 身長は180cmでしょう、年収は最低1000万円以上、寡黙で真面目で一匹狼タイプで、愛車はロールスロイスがいいの」

 面倒臭そうにアヤメはマコを突き放す。
 彼女の理想からかけ離れたマコは呆気ないほどすってんころび、オムツも全開
 それを見下すアヤメの視線には、愛情などひとかけらもなかった。

「じゃあ、私。 あそこでクレープ食べているから。 マコちゃんは、その辺で適当に遊んでいてよ」

「え?」

 ちゃっちゃと迷子紐を外し、マコを送り出す。

「ほら、いつまでもお姉ちゃんとばっかり遊んでばかりじゃいけないでしょう?子供は子供らしく、たまには同世代の子たちと遊んでこないとね」

 正論のようで正論でない言葉で諭され、マコは空が落ちてきたような恐怖に蝕まれる。

「え、え、え・・・・・・ ひ、ひとりで、あ、やぁ、やぁなの。 ママも、マ―― アヤメさんも、一緒に?」

「だめよ、私クレープたべたいの。 あそこは人気店なんだから。 今からあの行列に並んで、食べ終わったてから戻るね」

「く、くれーぷ・・・・・・ 」

 渋々うなずくマコだが、自分がクレープにすら負けてしまったショックは隠せない。
 心が立ち直れないうちから、孤独と緊張に追いやられた。
 今まで何とかアヤメがいたからこそ、一人でないからこそ幼児ペットらしく振舞えていたこともあったが、この先は本当の幼児デビューショーとなった。
 木漏れ日の光をスポットライトにして、オムツの中はもうすでに、じゅんっと湿り気が帯び始めていた。





 その公園には見覚えがあった。
 公園の中心には、マコより一回り小さいだけの小便小僧がある噴水。
 それを円形に囲むようにベンチが置かれ、この時間帯は子供連れの主婦が世間話に花を咲かせている。
 ブランコやスベリ台、シーソー、ジャングルジム、砂場といったおなじみの遊具。 いつだったかジャングルジムから転倒した子供が怪我をしたという記事の作成のため、何度か取材に訪れたことがあって、製造者や管理者や遊んでいた子供にまでインタビューしていた遊具に、まさか自分が幼児として遊ぶなんて、信じられないことだったが、

「あ、う、う、うううう・・・・・・ なんで、なんで、なんでなのぉ」

 ウズウスする、その遊具で遊んでみたくて。
 それが睡眠教育による結果だということをマコは知らなくて、遊具で遊ぶ子供たちを見ていると、自分も、自分も、という興奮が湧き上がる。 常識も理性も雑念として処理され消えていく。
 気が付けばマコは、一目散に走りだし、幼稚園児以下の子供たちにまじり、きゃっきゃと遊んでいた。 ただし、羞恥心だけはその身に残したまま。



「あなた、だぁれ?」

「マ、マコはね、マコっていうの・・・・・・ さ、さんさいだよ?」

 ―― ブランコに乗りながら、隣のお友達と競争し、

「マコちゃん男の子なのに、なんで、女の子の格好しているの?」

「マコ、女の子だもん。 女の子だから可愛いのがいいの、スカートひらひらだもん」

 ―― オムツを露わにしたままスベリ台を下り、

「わぁっ、マコちゃんおもらししちゃってる。 だってブルブルしているもん」

「オムツ、しているから平気だもん。 ほ、ほら、見て、漏れてないよ、ぐすん」

 ―― ガッタンバッタン、シーソーで気持ち良くなってしまい、

「こら、マコちゃん。 めっ、だよ、めっ! そこは危ないから待ってなさい」

「ご、ごめんなさい、ミドリちゃん・・・・・・ ミドリ、おねえちゃん」

 ―― ジャングルジムの上で他の幼児とじゃれあうころにはもうすっかりみんなの“妹”としての地位を確立し、

「くししししし、マコちゃんのお手々、ちっちゃくてあったかぁい」

「マコ、マコ、マコ、は、はずかしぃ・・・・・・」

 ―― 砂のお山を作ってトンネルをつくっていたら、いつの間にか反対側から穴をあける子供が現れて、お山の中で手を握り、

「はーい、赤ちゃんごはんでちゅよー。いいこにしてまちゅかぁ?」

「ば、ばぶばぶ、ばぁぶ。ばぶ・・・・・・」

 ―― さらに砂場でオママゴト。 お人形ですらパパさん役、中学生のお姉ちゃん役に選ばれているというのに、マコは迷うことなく赤ん坊役にされ、どろ団子を食すフリ。
 だが、女児に妹扱いされることに馴れ、それすら悦びに変わりつつあったそんな時、最も恐れていたことが起きた。

「ねえ、あなたって、前にインタビューにきたお兄さんじゃないの?」

「――っ!?」

 顔面蒼白。 表情からあらゆる感情が消える。
 声をかけてきたその女子小学生は、確かに瀬野真琴が取材の時インタビューをした女の子だ。いかにも委員長といった感じのメガネとおでこが特徴的。
 無論、本来アヤメの手により顔立ちが幼く肉体改造されているので普通なら気づくはずはないのだが、これがそのアヤメによる策略であることをマコが気づくはずはない。

「なんですかコレ? 男のくせしてこんなピンクでヒラヒラな服着て、こういうのが好きなんですか? インタビューしたのも、自分が女の子になって遊びたいからだったんですか?」

「ち、ちが、ちが、マコは・・・・・・ その」

「マコ? 自分のことマコっていっているんですか?」

「あ、うう・・・・・・」

「これって犯罪ですよね? ケーサツに行きましょうか? ほら、ほら、オムツまで赤ちゃんのをつけて、もう言い逃れできませんからね」

「う、ううう、うあああん」

 泣く。
 泣くしかできないマコ。
 小学生のお姉ちゃんに言われ、今一度自分と自分の姿を客観的に見直した時、湧き上がってくるのは羞恥心と罪悪感で、それが返ってマコを本当の幼児にしてしまう。

「あう、あ、あ、ああ・・・・・・」

「・・・・・・ また赤ちゃんみたいになって。 いいですよ、それなら私が代わりにお仕置きしてあげます。 ほら」

「やだぁ、やだ、やだぁ」

「こら暴れないの。 ホントにケーサツ呼びますよ」

「うぐぅぅぅぅぅ」

 猫のように首根っこを捕まれて、マコは小学生に女子トイレの中へと連れ込まれる。 そこにあるオムツ交換台に乗せられ、

「や、やめて、あああ、ごめんなさい、あや、あやまるから」

「うるさい! 赤ちゃんのつもりなら黙って大人しくしていない」

「ひっ――」

「なんだ、小学生に怒鳴られただけでびびっちゃうんですか。 なんとかいったらどうなんですか、お兄さん」

 マコのオムツには今、森のどうぶつさんさたちが描かれている。
 その女の子は知ってか知らずかオムツ生地の上から股間をまさぐるように撫でまわし、気持ち良さに負けたマコは屈辱的なオムツ交換ポーズのまま動けなくなってしまった。

「うわぁ、くっさ。 なにこの匂い? これだから男の子はイヤなんです」

「あ、ああ、かえして、かえして、マコのオムツ」

「キモッ! どんだけオムツが好きなんですか? これはもうゴミ箱ですゴミ箱」

「そ、そんなぁ・・・・・・」

 小学生の手でオムツを外されるという恥辱。 にもかかわらず、マコはトイレに設置された廃棄ボックスをどこか物欲しそうな目で見つめていた。

「で、オムツ、誰に当ててもらったんですか?」

「え?」

「耳の悪い子ですね。 あんまり小学生舐めていると、このオチンチン切っちゃいますよ?」

「ひ、ひいいい、ごめんなさい、ママ、ママ、アヤメママです」

 咄嗟に出てしまった言葉は、もう戻せない。

「あなたにもママなんているんですね、不思議。 あなたみたいな変態は、きっと泥と精液が混じって生まれたんだと思っていました」

「そんな、ひどいよぉ」

「だから、いちいち口答えしないでください 」

「はうわ、す、すみません」

 アヤメや娼館出逢ったどの女の人とは違い、小学生からはもはや恐怖しかない。 マコは顔を青白くし、目線を合わせられず、だけど彼女の言うことには無条件でしたがうよう首を振る。

「ふふふ、ようやく立場がわかってきたみたいですね。 では、お仕置きの時間です」

 マコは言われるまま、トイレの壁に手を付き、丸みを帯びた白いお尻をつきだすようにする。
 恥ずかしい格好だが、トイレの扉は全開、いつ誰が来てもおかしくはない。
 だが、そんなことでしどろもどろになっているヒマはなく、

「きゃひん!?」

 一発、小学生の尻叩きがマコに炸裂する。
 それも素手ではなく、ランドセルから取り出した長い竹差しを振った。

「あっぅあああっ!」
「ほら、どんどんいきますよ! 

 1発、2発、3発―― マコの白いお尻が紅葉色に染まりだす。

「あぐぅ、いぎぃ、ひ、ぎゃあ!? お、お尻の皮やぶけちゃう」
「破けるわけないじゃないですか、くだらないこといわないでくさい」

 4発、5発、6発―― 痛々しい腫れが、菖蒲の葉のように広がった。

「ひぃ、ひぃ、あつい、あ、あついいいいい!」

「感じているんですか? やらしいですね、これじゃあお仕置きにならないじゃないですか」

 7発、8発、9発―― もはや痛みという感覚さえ失くし、マコはただ尻肉を震わせる衝撃と、そこから滴り落ちる甘露に酔う。

「ゆるして、ゆるして、ゆるしてぇ」

「まだしゃべれる余裕があるじゃないですか・・・・・・ それと、お尻を叩いている私も疲れるんですよ。」

 10、11、12―― 涙も涎も鼻水だけでなく、オチンチンさえ活気づいて跳ねまわる。
 身体を売って生活していたけど、それでもまだ自分は幼児の中では特別に秀でた存在だと思っていたマコ。 しかしこうして普通の女子といっしょに遊び回り、普通の小学生に折檻されて、底辺の中で見つけたわずかな自尊心さえ踏みにじられる。
 マコは小学生に屈服し、自分の無力さを骨身にしみこませながら、最後の調教は終わりを迎える。

「あ、あ、あ・・・・・・」

「反応が鈍くなってきました。 ペースを上げます」

 13141516171819・・・・・・

「あ、あ、あ、あ、あ、あああああ」

 激烈の火花が飛び散る中、小学生は20発目の尻叩きを前にマコへ囁く。

「では、お兄さん。 最後は思いっきり叩いてあげますから、その前に謝罪を、私の言葉に続を復唱してください」

「ふぁ、ふあい」

「ふふふ」

 マコの意識は、被虐官能に打たれた湯気の中。
 美少年顔もすっかりヘタレ。 ピンクの幼児Tシャツの下、申し訳なさそうに勃起する小さなオチンチンと、鮮やかな赤い線を描いたお尻を左右に振る。
 常識や理性すら感じさせない虚ろな瞳には、アヤメより育てられた奴隷根性がしかと根付き、小学生は耳打ちするとその通りにマコはしゃべる。

「マコは変態です! お尻叩かれて感じちゃう最低の雌奴隷ですぅ! どうか、どうか罰を、いやらしいドマゾペットなマコに、小学生のお姉ちゃん! きついお仕置きしてぇ! ――ああああああああぁんっ!?」

 淫乱な怪獣のようなマコにトドメの一発。 一際大きな音が響き、彼はミミズのようにのたうちまわった。

「はい、よろしい。 お仕置きはおしまいです」

「う、ううう、うわぁああん」

「泣かないでください、みっともない。 それに・・・・・・」

 小学生は、どこかのだれかとよく似た考えるポーズをとる。

「よく考えたら、お尻叩きで喜んじゃうのなら、これってお仕置きにならないんじゃない?」

「え、え、え?」

 ちゃんと言われたとおり言ったはずなのに、なぜかとがめられたマコは混乱する。
 完全に心は折られていて、彼は今にも失禁しそうなほどみっともなく、縮み上がった。

「あ、心配しないでください。 痛いのはもうしませんから」

 しかしその言葉とは裏腹に、真面目な小学生の目に慈悲の色はない。







 10分後、アヤメと女子小学生は公園で出逢う。

「お疲れ〜」

「アヤメ姉さん。ホントにクレープ食べてたんですね?」

「え、だから私そう言ったじゃん・・・・・・?」

「そうですけど・・・・・・ 相変わらずというか、読めない人ですね」

「んー? まあ、そんなことよりさ、マコちゃんの方はどう?」

「言われたとおりにしてきましたよ。 今トイレに縛り付けて反省させています」

 ―― このとき、マコは『わたしは幼児女装するのが大好きなドヘンタイです♪』という看板を首にかけたまま個室に放置されていた。

「いい感じですね、瀬野さん。 もうすっかり調教済みって感じじゃないですか」

「んー? でもまだ八分咲きってとこかな?」

「そんな風には見えませんでしたけど?」

「逆らったり逃げたりすることはしないんだけどさぁ、まーだなんか芝居がかっているというか、現実逃避している感じがするのよねぇ。 あともう一皮むけたら、完成かな?」

「あまりやりすぎないでくださいよ・・・・・・ アヤメ姉さんはそれでいつも壊しちゃう」

「はいはい、わかってますよっと」







                       5.

 夜、誰もいない、いるはずのない公園。
 小便小僧のある中央噴水広場にて、マコはその周囲を『きーこ、きーこ』と周り続けていた。

「ぶーんぶーん、いっけーマコ号。 もっとはやく〜、きゃははははははは。 いいわ、とっても似合っている」

「んひゃぁあああああっ!? あっ、ひぃあ、ううぅ、いひぃ、あ、も、もう堪忍してぇ〜」

 快感にも苦痛にもこらえきれず悲鳴を上げるマコだが、“ペダル”を漕ぐ脚は止まらない。

「はっ、ああっ、ああうんん、、い、あが・・・・・・ くあああん、お、おしり、と、とけちゃうよぉ・・・・・・」

 昼間と引き続いてスパンコールがちりばめられたピンクの幼児Tシャツと、ピンクのスカートを着ているマコ。
 しかし今はオムツさえ履いていない。
 “サドル”に付けられたアナルバイブを根元までくわえ込みながら、彼は赤い“三輪車”に跨り、また『きーこきーこ』とガニ股開きで車輪を転がす。
 過敏なペニスはスカートを持ち上げいきり立つけれど、彼の表情は悲しみに暮れている。

「あぐ、あ、・・・・・・ ど、どうして、どうして三輪車なのぉ、ひどいよ、マ―― アヤメさぁん、ひっぐ、マコのこと、もうきらいになったのぉ?」

 変態的な幼児は、なぜこんなことをされなければならないのか、なぜアヤメは自分に優しくしてくれないだろうか、と考える。

「別にキライとういうんじゃないのよ、マコちゃん。 幼児にはやっぱりこれかなって思って、気に入らなかった?」

「はっ、ああ、あっ!? ん・・・・・・ んぐぐっ、ひぃいいいいいいいいっ!?」

 三輪車についているアナルバイブは電動式だ。 アヤメがもつスイッチ一つでいかようにも振動が変わる。

「どう? 幼稚な三輪車を漕ぎながら、お尻の穴をたっぷりかきまわせる気分は?」

「おしりが、おしりが、おしぃりがあああ・・・・・・」

「うんうん、それでそれで?」

「ふぁ、あっ、すごいのっ、き、きちゃうぅううううううう――――っ!?」 

 本人ですら信じられないほど急な絶頂、飛び散った白濁液が光る。
 温かみのない無機質な肛虐に、尻穴の粘膜はかんばしい腸液をにじませながら赤々と染まっていた。

「はあ、はあ、はあ、ふぅーっ」

 立ち止まり、愛車にしなだれかかるマコ。
 かれこれ30分以上オナニードライブを働き、すでに三度もイカさてしまい、 徐々にマコは身体の感覚を失いつつあった。

「なぁんだ、嫌がっている割にご機嫌じゃない。 そんなにこれがいいんだ?」

「あが、あっ、ち、ちがっ、ちがっ、ちが――」

 電動式アナルバイブをつけたり消したり。 悪戯に身体に火をつけられ、疲れているはずなのにまた起き上がってくるちっちゃくて現金な性器。

「まだまだ行けるでしょ? もう一周。 さっきより遅かったら、またお仕置きかな?」

「わぁあああああんっ、マ――― アヤメさん、意地悪しないでぇ」

「そーれ」

 嫌がるマコの背を無理やり押し出し、三輪車は勢いに乗って走り出す。
 となると、当然連打されたみたいに車体が揺れる。 気をやってしまうほどの衝動がサドルからバイブへ、そしてお尻の穴から前立腺へと抜けていった。

「んぎぃい!?」

 バイブは止まっているはずなのに、三輪車に乗るマコは、今なおところどころで不意打ちされたかのように顔をしかめ、官能美に背筋が弾けている。

(ガタン、ゴトンって、ひあ、バイブがもっともっとって、お尻の奥、ついてくるよぉ!?)

 公園の敷地内は毎日綺麗にされているとはいえ、地面は平たんではない。 小石や突起が多く、三輪車のタイヤがそれらを巻き込むとガタンガタンと車体が揺れ、突き刺さったバイブは大きく振幅する。
 それは電動よりも複雑で、予測不能で不規則な振動となり、スピードに乗れば乗るほど過激に、バイブはマコの尻穴を押し広げた。

「はっ、はっ、はっ、ぐぁ――」

 赤い三輪車はもはやマコの身体の一部。 性感帯。 たった一周終えるまでに、何度も何度もマコを嘶かせた。

「も、もうやだよぉ、お股が、お尻の穴は、足が痛いよぉ・・・・・・おうち、かえりたいよぉ」

「我慢しなさい、マコちゃん。 もう赤ちゃんじゃないんだから」

「うう、うううう・・・・・・」

 恥辱に耐えて甘えるような言葉を発しても、親離れを促すように冷たい言葉を投げ捨てられる。
 そんなアヤメの厳しさに、マコは悲しくなって顔をこわばらせた。

「はい、もう一周ね」

「えぐえっぐ、うわぁぁあん」

 ボロボロ大粒の涙をこぼしつつ、それでもアヤメの命令には逆らえない。 しっかりとアナルバイブをくわえ込み、もうお尻の穴が元のサイズに戻らないと知りながら、また震える脚でペダルを漕ぐ。
 きーこ、きーこ。
 間抜けな車輪の音が、絶望する心の奥に響き渡った。

「うわっ、あ、ひえ、ひゃあうあお!?」

「相変わらずいい表情するのよねぇ。 愛玩奴隷っぽくていいんだけど、やっぱり今度の出し物は三輪車レースにしてもらおうかなぁ? ポニープレイ馬車やゴブ綱わたりも手堅いんだけどねぇ」

 あくまで愛玩動物としてかける愛情はあっても、人として扱う気もなければ、憐れむ気持ちも一切なし。 アヤメはマコを商品として見ている。

「うぁ、あ、んあああ、なっ、はうっ! おはあっ、くっ、ひぃん!」

 一方何も知らないお馬鹿なマコは、無邪気な子供を冒涜する三輪車プレイに興じながら、チラチラとアヤメの様子をうかがっていた。
 彼はただ、目先の快楽、目先の幸せしか見えていない。

「マコちゃんはどっちがいい? このままうちで働きたい? それともさ、ツカサくんやイクオくんみたいに女の子として育てなおされたい? 」

「わかんあい、ああ、わかんないよぉ、もぉ・・・・・・」

 強い焦りと不安が交錯する狭間にせり上がる射精感。
 繰り返される絶頂に悩ましい息と、うわずった声が止まらない。

「そっかあ、わかんないか・・・・・・ あ、喉かわいてない? ミルクあるけど飲む?」

「の、のむ、のむぅうう」

 ついさきほど赤ちゃんではないでしょう、といったアヤメだが、差し出したのはまごうことなき哺乳瓶。
 馬の鼻先に人参を吊るすかのごとく、三輪車を漕ぐマコの眼前に哺乳瓶の口を向けると、彼は必死になってそれを追いかけ、首を伸ばし、

「あはははは、お口パクパクさせちゃって可愛いー。 ほらほら、もっと早くこがないといつまでたっても飲めないわよ」

「あぁーううう、あぁーううう、あぁー、あぁー、あぁー」

「モタモタしていると、おいてっちゃうぞ。 キャハハハ」

 アヤメがマコの前を歩く―― コツコツと、夜の公園に足音を響かせる。

「まって、まぁって、ああ、う、ふああん、お、おいてかないえぇ・・・・・・」

 泣きべそをかきながら、マコは保護者であり飼い主でもある相手を追いかける。 ガタンゴトンと四肢を痺れさせ、快楽に下半身の感覚を見失う。 でも尻の中で暴れるバイブは切なくて、口を半開きにさせて涎塗れになっても、底力を振り絞る。
 コツ、コツ、コツ。
 きこ、きこ、きこ
 コツ、コツ、コツ。
 きこ、きこ、きこ。

「あうぅんっ! はひはひぃあっ! うっ、い、い、ひゃああうんnっ!」

 足音、三輪車の音、そしてメスの嬌声の三重奏。
 日中無邪気に遊んでいた幼児は、夜の公園でただ甘露を貪るだけのペットとして生きていた。

「はーっ、はあぁぁぁっ、うあ、あ、うううんっ! おっ、おひぃ、あ、マ、ママぁ・・・・・・」

「ん? 今なんか行った? 気のせいかな?」

 ―― そして、終わりの見えない三輪車マラソンは続く。

 



「ぜーは、ぜぇー、ぜぇーはっ・・・・・・ あへ・・・・・・ あ、へはは・・・・・・。あ、あ〜」

 息も切れ切れ、だらしなく開き切った口からは泡さえ噴いて見える。 マコは噴水前のベンチにうつぶせで寝そべって、かろうじて意識はあるようだが、壊れ切ったアヘ顔はなにか別のモノを見ているような気さえしてくる。

 アヤメは最後の最後、マコが搭乗する三輪車を急な下り坂を走らせたのだが・・・・・・。もっともその時すでに彼の意識は朦朧としていたし、オーガニズムを維持したまま、失禁さえしていた。 完全なる無防備であるにもかかわらず、三輪車は一時ロデオと化したのだから、正常な自我が残っているのかも怪しい。 お尻にめり込んだバイブの凶悪な上下振動によりついに『マコ号』はガス欠となった。

「うっわぁ。 アナルが凄いことになってる、これ大丈夫かな? 一応、写メとって確認しておこう」

 マコのスカートがめくりあがると、尻叩きによる赤いお尻のその真ん中で、さらに真っ赤に充血した菊門。 長時間にわたって酷使し続けた結果、ぱっくり深い穴を開けたまま、今なお痛ましく痙攣している。 そこに大粒の汗が浮かび、どこか夜露を受けた薔薇のような綺麗さがあった。

「ふは・・・・・・へぇは・・・・・・ あ、へぇ・・・・・・ ふあ・・・・・・にぃ、あ・・・・・・。 あひゃ・・・・・・ ふぅ・・・・・・ にゃほぉう・・・・・・」

 朦朧とする意識の中で、マコは喘ぎ続ける。
 臀部が小刻みに起伏させると、ぷうぷぅなどと可愛らしい音を立てて、アヤメの笑いを誘う。 いやらしく身をよじる姿は、永遠に蝶にはなれないイモムシのようだった。

「んー、今晩もそろそろ終わりかな。 でもこのまま終わらせるのもなんかもったいないきがするしぃー、うーんと」

 考えながら、アヤメはマコのお尻をこねくりまわす。 あっ、あっ、あっ、と敏感に反応するのは面白いが、

「マコちゃんマコちゃん、ねんねしちゃだめよ」

 イマイチ反応が淡白なマコに、今度は頬を叩いて目覚めさせる。 彼は頭を重そうに持ち上げながら、寝ぼけた顔して瞼を押し開くが、

「ふえ!? あ、あ・・・・・・ ママ?」

 思わず言い間違えてしまう。

「ママ? そういえばさっきもそんなこと言ってたわね?」

「あ、違った、ご、ごめんなさい、アヤメさ―― あぐ?」

 お尻とお尻の穴に続いて頬まで赤く染まったマコ。 平然としていられたのはほんの一瞬だけで、蘇る感覚に目を白黒させる。

「あ、あつぅっ!? ―― な、なっ、なぁ!? お、おひり、あつくて、うぁあ、や、あづぃいいいいっ」

「おおぅ、意識が戻ったから感覚も戻ってきたみたいね。 どう? ケツマンコやりすぎて、火傷してるんじゃない?」

「はひぃ、はひぃ、はぁぁああっ!?」

 お尻の穴に劇薬を塗られたように跳ねまわり、ベンチから転げ落ちて激しく悶えるマコを、涼しげな顔して見つめるアヤメ。
 夜空を照らしている満月よりも瞳を丸くして、すでに新たな悪知恵を働かせていた。

「マコちゃん、お尻の穴、やっぱりちょっと冷したほうがいいみたいね?」

 胡蝶のように寄りつくアヤメに、マコはその腕をとられる。

「な、なに? なにするの? マ、マ、マコ、はもう、ほんとに無理だよ?」

「でもお尻の穴冷やさないと、そのままじゃろくに動くこともできそうにないじゃない ・・・・・・ ねえ、ほら、あそこにちょうどいいのがあるでしょう? あなたにぴったりの相手よ」

「・・・・・・ まさか?」

 途端にマコの顔が蒼くなる。 それでもアヤメは一切躊躇してくれず、問答無用に連れ出される。 信じたくはないが、いくらアヤメでもそんなご無体なことはしないと信じたいが、マコの『まさか』は最悪の形で実現する。
 向かうべきところは、最果ての場所。
 例えるのなら、ゴルゴタの丘。
 噴水の中央にそびえたつ“小便小僧”と目があった。

「こ、これで、洗えっていうんですかぁあ・・・・・・?」

 自分とほぼ変わらない石のペニスから、清らかな水が弧を描いて流れている。ショーアップされた噴水は、青々とした水を張って、水流は光のつぶてとなって宙に舞っていた。

「違うわよ、洗っていただくの。 子にも種にもならない精液やおしっこ垂れ流しのマコちゃんより、公園の爽やかなひと時をつくってくれる小便小僧くんの方がよっぽど価値のある生き方をしているでしょう? 敬わないと」

「そ、そんなぁ、ひ、ひどいよぉ・・・・・・」

 小便小僧もコントラストがはっきりとし、昼間よりも表情豊かに映えていた。

「こらこら、可愛いお顔が台無しじゃない。 ほんっとあなたって、イジメがいがあるわねぇ。 そういうとこはわりとすきなんだけど?」

「え、え、ええ?」

 からかわれていることはわかっているけれど、マコの心臓は高鳴ってしまう。 それだけで、彼がアヤメの提案を断る理由がなくなってしまった。

「ささっ、マコちゃん。 自分で自分のお尻の穴を広げながら、小便小僧のチンポに向かって突き出して・・・・・・ まあ、バックからしてもらえると思えばいいじゃん。 そういうのも、もう経験済みでしょう?」

「う、うぅ・・・・・・」

 もう自分はとっくに堕ちていて従順な奴隷男娼のつもりだったマコだが、それは大きな思い違いだったのかもしれない。 愛されたいという欲求が残っていて、淫らに狂うこともできない。
 永遠の未完成ということでは、ある意味変態幼児の完成形。
 仕方がない、かつてアヤメが言った言葉を反芻しマコは幼児服を脱ぎ捨てる。 夜の公園で一糸まとわぬ姿となり、残るのはマーガレットのヘアアクセ。
 覚悟などまるでできていないが、ざぶざぶと、噴水の中に足を踏み入れる。
 尻を突きだし、小便小僧に挿入をおねだりするような最低のポーズをとるが、

「遠慮せず、もっと近づきなさいよ。 ・・・・・・ ほら、ちょっと緩めてあげるから」

 噴水の台座を開き、アヤメは蛇口を締める。 小便小僧から放たれる水流が弱くなると、マコは奥歯を食いしばって菊門を近づける。

「ひぃぃぃ」

 熱く爛れた美肉のホールカップめがけて、冷たい水流が直に当たる。 勢いはそこまで強くないが、急なクールダウンに筋肉が硬直し、肛門は窄まる。

「あっあっあっあっあっ」

「まだまだいけるでしょう、もっと近づいて。 それで小便小僧の童貞くらっちゃいなさい。 あははは」

「ひぎゃ、あ、い、し、しゅごぉしゅぎるぅ」

 何度もイカされ敏感になりすぎた腸道に、酷すぎる命令。 倒れるよう後ずさりをすると、簡単にマコと小便小僧の影は一つになる。 石のペニスに蓋をして、浅く繋がり、水流は染みるような痛感を届けてくる。

「よし、マコちゃん。 そのまま動いちゃだめよ、いい? 動いちゃダメだからね―― 動くなっていってんでしょうがっ!」

「は、はひぃ!」

 今まで聞いたことのないドスの入った声に縛り付けらえれ、もう動きたくても動けなくない。 この後自分がどうなるかなど、とっくの前からわかっているはずなのに、 しかし赤く捲れあがった尻穴は、これ以上の激感を期待するかのように震えていた。
 激しい動機、息切れ、小便小僧に水圧で責められ、冷たい愉悦に浸る・・・・・・ そして耳に聞こえる、きゅっきゅっきゅっという不穏な音。

「―――― っ!?」

 ―― アヤメが蛇口を勢いよくひねったのだ。
 身構えるマコ。 危険を察知して咄嗟に尻穴を窄める。 しかしそのタイミングを外すかのように一秒遅れて・・・・・・ 括約筋が緩み切り、鮮やかに広がる菊の花びら目がけて、清い水が飛び込んできた。

「いっ、いひぃいいいいいい―――――っ!?」

 喉が張り裂けるほどの声が、夜の公園にこだました。
 ゆるやかな弧を描くはずの放水が一直線の鉄砲水へと変化し、マコは尻穴を抉られ舌を突き出す。
 その瞬間マコは魂のない小便小僧にすら恭順し、そうすることが当たり前のように腰を前後に振った。 小便小僧に犯されていると、セックスしているいう妄想にふけ咽び泣く。

「あぎぃいあ、お、はぁあああ、さ、さむい、いた、あづぃいいい!」

 水に打たれて身が引き締まるのと同じく、細やかな快感が脈打たせる。

「痛い痛い言いながらしっかり感じちゃっているじゃない。 もう、チンポがついてりゃなんだっていいんだ」

「ら、らってぇ、らってこんなのぉ・・・・・・っ!」

 腑抜け、とろけ、最底辺の恥辱に鼻水までこぼして感じ続けるマコ。
 これほどまでの屈辱、恥辱、痛みを受けているというのに、穿った気持ち良さががますます増長する。

「いいのいいの、ちゃんとそうやって自分を陥れて、認めていけないいの。 弱い男の子はね、そうやって誰かにすがって生きるしかないの。 それが幸せなの」

「し、しあわせ・・・・・・?」

「そう、マコちゃんは今、幸せの真っただ中にいるの。 たんと味わいなさい・・・・・・ 死ぬほどにね」

 ―― そして、マコの中でなにかがふと切れた。

「あ、あああ、ああああん!?」

 嘶くように一度大きく身を起こすと、今まで麻痺していた美肉も神経もすべてが鋭利に研ぎ澄まされていく。 旺盛な性欲が宿り、より深々と小便小僧とのつながりを求めていた。

「ア、 アヤメ、さん・・・・・・ へ、へんなの、マコ、へんなのぉ」

「なにが変なの? マコちゃん?」

 興味津々とアヤメは訊く。

「つ、つめたくてぇ、あ、あつくて・・・・・・ あ、ぎぎいっ、い、いたいのぉにぃ、はづかしぃのに、でも、でも、きぃもちよく、なっちゃう・・・・・・」

 熱さと冷たさ、痛みと快感に、脳が溺れる。 腰を近づければペニスでさえ届かない腸道の奥にまで水があふれ、腰を離せば逆流した水と入ってきた水がぶつかりお尻の中で暴れ回った。
 それらすべてが快感として、それらすべてが幸せとして、マコは薔薇色の思考を展開させる。

「マコちゃん、それは変態っていうのよ?」

 小さくアヤメが囁く。

「へ、変態? ははっ・・・・・・ マコ、へんたーい! あははははははははははははっ! お、お尻の穴、まだまだお水のおしっこが入ってくるよ」

 心が満たされる気がして、屈託のない笑顔をこぼすマコ。
 今なら小便小僧とも熱いベーゼをかわせるほどに、よがっていた。

「はぅあ、あ、はぁ、はぁ。ひひひ、いひひひひひひっ」

 石像にすらすがりついてしまう自分を情けなく思う気持ちが消えていき、こんなに淫らになってしまった自分を褒めて、愛でてしまうマコ。

「おおぅ、だんだん本当にセックスしているみたいになってきたわね。 やっぱり“お兄さん”は素質があった。 うん」

 アヤメはカメラを構える。
 変わり果てた瀬野真琴の姿を、メスとなったマコの顔を、その媚びへつらった負け犬の容姿を映す。
 きっとその写真は、いつか見たツカサや、イクオ、先輩のウサミといった者たちと同じファイルにまとめられるのだろう。 どこかの憐れな犠牲者が自分を見てしまうことに、マコはどうしようもなく下半身が疼いてしまう。

「はぁああんっ、ああ、あああ、くううん。 撮るの? マコのこと、撮っちゃうの?」

「うん、今のマコちゃん最高にいやらしくて可愛いからね」

「あ、あはぁ、う、うれしい、はぁ、はぁ・・・・・・ ぅぅぅ、マコ、う、うれしいいのぉ!」

 マコの身体の熱は完全に冷め、震え、そして膝が大きく笑っている。 しかし尻穴を通る水の流れに、その顔から悦びの色を隠せはしない。

「えーなに? もっと水を強くしてほしいって? しょうがないなぁ」

 もちろんマコはそんなことは言っていない。 すべてアヤメの企みだ。

「――――っ!?」

 きゅっ、きゅっ、きゅっ、マコの心臓が跳ねた。
 これ以上されたら壊れるかもしれないというスリルと、これ以上されたらどんなにおかしくなるのだろうという好奇心。
 ドマゾなペットはまた頬を赤らめて、命令されることなく深く石のペニスをくわえこむ。 全身に鳥肌を立たせながら自分自身をしっかり抱きしめ、遅れてやってくる激流に身を投じた。

「き、きゃああああああああああああああ――――っ !?」

 迸る水流がお尻だけでは抑えきれず、内腿や腰、睾丸やペニスにもぶつかる。
 下劣な噴水オナニーを楽しむマコを見下すのはアヤメと小便小僧のみ。 妊娠してしまうのではないかと思うほどたっぷり水を飲みほすと、やがて最後はまたしても、アヘ顔を水面に映して倒れ込んだ。

「―― おっと、危ないわね」

 流石にこのままでは溺死してしまうと思ったのか、アヤメは服が濡れることも構わずマコを受け止める 。
 そうして小さなマコを抱きかかえるその光景は、かつてマコが肉体改造装置に入れられたときに見た夢と、そっくりだった。







 次の夜から、マコは男娼館でも身体を売って接客するようになる。

「こんばんは。 マコです。 ご主人様。 きょうは、よろしくおねがいします」

「マコ、ここに来る前まではね、とっても悪い子でした。 だけど、ほんとはね、ずっと昔から、マコは女の子にイジメられたい、奴隷やペットになって躾けられたいって思ってたの。 だからマコはみんなの気をひいて、捕まえてほしくて、じゃーなりすとさんになって意地悪しちゃった。 でもそのおかげでマコはマコになったから、今は色々なお姉ちゃんに出会えて、嬉しいです」

「え、オムツ? マコはまだ赤ちゃんだからオムツだよ? オマルを使ってトイレトレーニングもしているけど、最後のピッピッがうまくできなくて、いつも最後のおしっこを外しちゃうの・・・・・・ ママにも、この間少し怒られた」

「ママっていうのははね、アヤメさんのこと。 マコを誘拐して、マコを改造した人。 本当は直接ママって言いたいんだけど、恥ずかしいから内緒だよ?」

「・・・・・・ うん。 マコは、いつでもいい、よ。 マコのこと、たくさんイジメて、ください」

「ふああああ、あああ、すごい、あああ、いいの。 お姉ちゃん、お姉ちゃんお願い、マコの乳首、そのまま、そのままギュギュって、ちぎれちゃうくらいに強く、もっともっと痛めつけてぇ 。 幼児女装マゾの乳首もっとイジメてぇ」

「あはぁああああ――――――――っ!? きゃうううううう! すごい、すごいぃっ!! あああっいく、いくのっ、お、おしりでいっちゃうの! ああっ、お姉ちゃんっ、マコ、マコもう、いきます、いっくううう! いやああああっ、こんなのダメになっちゃうよぉ!」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・ え? あ、うん、えと、うん、じゃあ言うよ。 こほん、男の子はね、女の子には勝てません・・・・・・ くふふふ、だからはやく、世界中の男の子が、女の子の奴隷になれる日が、くればいいと、思います」

 もはやジャーナリストのことも集団拉致監禁事件のことも頭になく、ただもっと可愛い女の子になりたい。 もっといっぱいイジメられたい。 その幸せをもっとたくさんの人に伝えたい。マコは下劣な欲望に身を任せ、日々女の子として媚びる毎日を送っていた。







                       6.

 ―― 2年後
 都内某所にある人目を忍ぶためにあるような懐石料理店。
 おろしたてのスーツに身を包みながら神妙な面持ちでそこを訪れる、“瀬野真琴”の姿があった。
 彼を招いたのは議員秘書を名乗る青年と、警察関係者とその仲間の計3名。 いずれもまだ若い男たち。
 真琴はこの2年の間、自分の身に起こった数々の悲惨かつ淫猥な体験を語った。 拉致、強姦、肉体改造、洗脳、そして斡旋と人身売買。 女尊男卑を謳った犯罪組織とその全貌を知った男たちは言葉も出ない。 途中、あまりのむごたらしさに気分を害して退出した者以外、彼らは真剣に真琴の話を聞いていた。

「・・・・・・ 瀬野さん。 お話、ありがとうございました。 推し測ること大変困難ですが、心中お察し申し上げます。 とにかく今、こうして無事に話ができてよかった」

 深々と頭を下げる、とある議員秘書を名乗る男。

「いえ、僕は運が良かったんです。 その僕を買ってくれたお客の中に学生時代の友人がいて、彼女がいなかったら・・・・・・」

「どうぞ」

 言葉が途切れたところで、丁寧に酌をついでくれる秘書。 真琴がそれを一気に飲み干すと、話を切り出した。

「瀬野さん、折り入ってお願いがあります。 今の話、然るべきところで証言していただけないでしょうか?」

「・・・・・・ それはどういうことですか?」

「瀬野。 あんた、この一年新聞かテレビを見ていないのか?」

 不意に、秘書の隣で胡坐をかいている男が目をぎらつかせた。

「いえ」

「そうか、なら来月早々に解散総選挙が行われることも知らないんだな」

 真琴は首を横に振る。
 粗暴な男はそのことに対して不満を見せなかったが、秘書の男と目を合わすと、示し合わしたようにうなずき合った。

「今の日本は、瀬野さんが拉致された時よりもさらに深刻な事態に陥っています。 政治や経済だけではありません。 金融、警察、病院、教育機関のいたるところでそのトップが失脚。 代わりにその地位に立ったのは性差別主義者の女性ばかりで、あらゆる業界が女性に牛耳られようとしています」

 冷静に見えた秘書も熱弁をはじめ、額に浮かんた汗をハンカチでぬぐう。
 そして粗暴な男の方は、ぐっと真琴の肩を掴んだ。

「クソみたいな話だが、このままじゃ次の選挙でやつらが大多数の議席を獲得することは確実。 そうなれば日本は世界でも類を見ない女尊男卑の国として、一気に舵をとられてしまう。 憲法だって改正され、俺たち男はスーツの代わりに首輪をはめて会社に通うことになるんだ」

 迫りくる危機に、男たちは臆することなくその魂を燃え上がらせていた。

「瀬野、俺たちはかつてのお前と同じだ。 やつらの悪行を暴こうとして、だがいつもあと一歩の所で辛酸を舐めさせられてきた」

「・・・・・・」

 男は口調こそ乱暴ではあったが、その目には怒りよりも悲しみに近いものが混じっている。 真琴に同情を示したのも、最初に聞いていた年齢よりも老けて見えるのも、多くの苦難を超えてきた証なのだろう。
 ありていだが、使命を全うするためであれば命さえ惜しくない、そんな顔つき。 それが本来の、男としてのあるべき姿なのかもしれない。

「私たちにはもう迷っている時間はありません。 罪を告発し、真実を明るみにし、法によって彼女たちの動きを封じる。 それができるのは、瀬野さん、貴方だけなんです」

 秘書もにじり寄ってくる。
 眼鏡の向こうにあるのは猛禽類の目。 やはりかつての真琴と同じく、使命感に燃えた強い輝きを放っていた。

「貴方の身の安全は保障します。 貴方が証言してくれれば玉虫色の世論も動き、そして山川先生がこの異常事態を正してくれることでしょう」

「山川・・・・・・ 貴方がたは、○○党の山川善次郎の指示で動いているんですか?」

 何かを考えるように、真琴は酌を置いたまま床下を見つめる。

「はい、そうです。 あの人以外、今の日本を立て直せる人はいません。 だから、瀬野さん、どうかお願いします」

「俺からも頼む。 瀬野、もう一度日本男児の尊厳を取り戻すため、俺たちに力を貸してくれ」

「・・・・・・」

 もう一度深く頭を下げる山川議員秘書と、鼓舞するように拳を突き上げる男。
 心のこもった説得だった。
 まだあって間もないが、真琴のことを信頼し、信用してくれている。
 真琴はまたゆっくり、今度は空のグラスをとり、オレンジジュースをつぐ。 本当は哺乳瓶からの甘いミルクが恋しいのだけれど仕方がない。 もうすぐ夜の九時になるので、いい子のマコは“おねんね”する時間であり、あまり飲みすぎるとまた翌朝オネショをしてしまう。 それにいつもは子守唄を聞くのだが・・・・・・

「なんだ、お前たちはっ!?」

 ―― しかし次の瞬間、悪辣とした女性たちが彼らの部屋になだれ込んできた。

「こ、これはっ!?」

「瀬野、お前まさか!?」

 逃げ場をなくしてすでに袋のネズミの二人。
 途中で退席したはずの彼らの仲間も床に寝転がされ、動揺が走る。 自分たちが罠にはめられたことに気づいたようだが、もうすでに遅かった。
 冷笑を浮かべ、アヤメがみんなの前にわけ入った。

「ふふふっ。 聞いちゃった聞いちゃった。 まさかあの山川議員が首謀者だったとはねぇ、超意外。 アイツ見た目そうでもないのに、結構な役者じゃない」

 すでに勝負はついていた。
 女尊男卑―― 否、女性のよる独裁国家。 男性奴隷制度の確立。
 おぞましい野望の最後の抵抗勢力が判明した今、選挙を待たずして男側の敗北は決定的。 剛腕を振るうアヤメはもうすでに部下を山川議員とその側近たちを囲うよう指示を出しているだろう。
 苦境の最中、逆襲の機械を伺い準備を進めていた憐れな男たちも、これでおしまい。
 その希望はあっけなく消える。
 もちろん、その原因をつくったのは――

「瀬野ぉおおおおおおおおっ! お前、俺たちを売ったのか!? そこまで腐っていたか!?」

「はいはい、その威勢のいいお兄さんはすぐに持ち帰って装置にかけちゃって。 ああ、こっちの大人しい秘書さんの方はまだダメよ。 色々と聞きたいことがあるから」

「俺に触るな! くそっ、こらっ、放せ、放せ! 卑怯者、ひきょうものぉおおおおおおおおおお!」

 ゴミ収集車のように手際よく。往生際の悪いその男も、女性4人がかり抑え込まれてはほとんど抵抗できず、無理矢理に連れ去られていった。
 ・・・・・・ その後、マコと同じく幼児化させられた彼は、女性たちの慰み者として一生日の光を見ることなく過ごすことになる。
 そして秘書の方もまた、

「瀬野さん・・・・・・ 貴方はこれで本当によかったんですか? 日本が、いえ日本男児が、滅びてしまうんですよ」

 粗暴な男と同様、連れ去られる。
 ・・・・・・ 彼は最後まで幼児奴隷に堕ちることはなかったが、やがて心を壊し、デパートにある女児服売り場のマネキンとしてショーウインドウに飾られることになった。

「・・・・・・」

 そして”男”はいなくなった。
 マコにだって、なにかをなんとかしなければならなかったはずなのに、あんなにもぎらぎらしてなにかを正そうとしたはずなのに、すべて遠い昔のこと。 今はこの怠惰な毎日が一日でも長く続くことを願っている。

「マ〜コちゃん♪」

 アヤメは背後から頬をすり寄らせながらマコに抱きつく。 有無を言わさずベルトを外し、ズボンを下ろす。 その結果上はスーツ―― ワイシャツと背広がまだ残っているというのに、下半身を可愛いおむつ一枚となった。

「あ、ママ・・・・・・」

 かあっと頬が赤くなる。 それは恥ずかしいだけではなく、恋慕に近い歓び。

「ありがとうね、マコちゃんのおかげで悪い男はみーんな捕まえられそうだよ。もうおねむの時間なのによくがんばったねえ、えらいえらい」

 褒めちぎりながら、アヤメのその手はオムツの上からオチンチンを撫でまわす。
 それだけなのにマコは極上の幸せを抱き、天にも昇る気分で、おもらし。

「ふわぁあぁぁぁあ・・・・・・」

 日本に生まれた罪のない男の子たちの破滅。
 自分を頼ってくれた男たちの破滅。
 自分自身の破滅。
 そのすべてが今どうでもよくなる。
 おしっこの気持ち良さに流される
 若い女の子に弄ばれ、排泄させられるという爽快感と陶酔感にはかえられなかった。
 みっともなく小さな女の子にヒィヒィ泣かされる自分がたまらなく愛しくて、オムツの中で広がる生温かい感触にいつまでも浸っていたいと思うようになっていたマコ。

「もうおもらししちゃったんだあ、仕方のない子。 じゃあオムツ替えてあげるから・・・・・・ ふふっ、赤ちゃんじゃないから、もう言わなくてもできるわよねぇ?」

 そうして身も心も支配され、跪き、寝転がされ、当たり前のように屈辱的な赤ちゃんポーズをとる。
 敵だったはずのアヤメにオムツ替えをねだってしまう幼稚な元ジャーナリストの下腹部には、彼女の所有物になったことを示す『菖蒲』のタトゥーが咲いていた。