僕が女の子になる日 第3話 揺れるスカート



病院で最後の検査を終え、いよいよ家に帰ることになった。鏡の前に立ち、母さんに手伝ってもらいながら、スカートの裾を整える。その姿を見つめるたびに、胸の中で羞恥心が膨らんでいく。こんな可愛らしい格好で病院の中を歩くなんて…思わず顔が熱くなり、歩き出すのに少し勇気が必要だった。

廊下に出て、足を一歩踏み出すたびに、スカートの裾がふわりと揺れて足に触れる。その軽やかな感触がどうしても気になって、心の中で「大丈夫、大丈夫」と何度も自分に言い聞かせた。それでも、スカートがヒラヒラと揺れるたびに、落ち着かない気持ちが胸の中で膨らんでいった。

受付で最後の手続きをしているとき、看護師さんが近づいてきた。彼女は僕の顔を見てから、服装に視線を移し、何かを感じたのか、クスリと優しく笑った。「お疲れ様。体調は大丈夫そうかな?」と、柔らかい口調で尋ねてきた。僕は少し緊張しながら「大丈夫です」と返事をした。

看護師さんはさらに微笑みを浮かべながら、「それはよかった。そのお洋服、とても可愛くて、あゆみちゃんにすごく似合っているわね!」と続けた。

その言葉を聞いた瞬間、顔が一気に熱くなった。胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚に襲われ、恥ずかしさで足がすくみそうになった。

「ありがとう…」と小さな声で返したけれど、その声は震えていた。看護師さんの優しい目が僕を「女の子」として見ていることが痛いほど分かり、その視線が重く感じられた。自分が完全に「女の子」として扱われていることに、どうしようもない羞恥が込み上げてきて、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。

手続きを終え、車に乗り込むと、父さんが「新しい家に向かうよ」と言った。僕は頷きながら、窓の外の景色が変わっていくのを見ていた。新しい小学校に通うため引っ越すことは入院前に聞いていたけれど、小学生としてやっていけるのかという不安が胸に広がった。さっき、看護師さんに女の子として扱われたことに対する恥ずかしさが、頭の中に残り続けていた。

車が新しい家の前で止まり、母さんが「ここが新しい家よ」と微笑んだ。僕は深呼吸をして、胸の中で膨らむ不安と恥ずかしさを少し押さえ込みながら、玄関に向かった。

玄関のドアを開けると、家の中には新しい生活の匂いが漂っていた。リビングに入ると、前の家と同じ家具が配置されていて、少しだけホッとした。馴染みのあるソファやテーブルが、新しい環境の中で唯一の変わらない要素として、僕を迎えてくれたように感じた。

「さ、あゆみ。自分の部屋も見てみようか」と父さんが優しく言った。

部屋に足を踏み入れた瞬間、甘い花の香りがふわりと鼻をくすぐった。どうやら母さんが置いた芳香剤から漂っているらしい。この部屋全体が、女の子の世界に染まっているようで、少し戸惑いを覚えた。かわいらしい花柄のカーテンに、子供用の勉強机。それに白いテーブルとピンクのカラーボックスも準備されていた。ベッドカバーもレースがついていて、まるで女の子の部屋みたい…いや、今となっては「まるで」じゃなくて、本当にそうなんだけど。

「どう?気に入った?」母さんが嬉しそうに尋ねた。

「うん…すごく可愛いね」と答えたけれど、その声には戸惑いが混ざっていた。いくら小学生用の部屋とはいえ、全体的にちょっと可愛すぎないだろうか?

その時ふと、母さんはガーリーなデザインが好きだったことを思い出した。ここは母さんが自分の理想を詰め込んだ部屋なのかもしれない。

僕は小学生として、そして女の子として、この可愛すぎる下手で生活していく現実に改めて向き合った。不安と恥ずかしさ、そして少しの期待が胸の中で渦巻いていた。

新しい部屋で少し休んでからリビングに戻ると、母さんが夕食の準備をしていた。リビングの家具は前の家と同じものなので、なんだか安心感があった。食卓には、母さんが得意な肉じゃがや、お味噌汁、それに新鮮なサラダが並んでいた。僕も椅子に座り、3人で夕食をとり始めた。

「どう?新しい部屋、気に入った? お母さん、あゆみが気に入ると思って一生懸命選んだのよ」と、母さんが少し照れたように言った。その言葉を聞いて、やっぱり、あの可愛すぎる部屋は母さんの趣味だったんだ――母さんらしい部屋だな、と親しみを感じつつも、ちょっと可愛すぎるなと心の中で思った。

夕食を終え、後片付けを手伝っていると、母さんが「ちょっと待っててね」と言い残して部屋を出て行った。僕は何があるのかと少し気になりながら、食器を片付けていた。

母さんが戻ってくると「これ、あゆみに用意しておいたの」と、赤いランドセルを持ってきた。「これから小学校に通うために必要だからね。あゆみが使いやそうなものを選んだんだけど、どうかしら?」と母さんが尋ねた。

僕はその言葉に返事をしながらも、心の中では強い抵抗感と恥ずかしさが渦巻いていた。高校生である自分がランドセルを背負うこと自体が、どうしても受け入れがたく感じられた。しかも、自分は男だ――その事実が、さらにこの状況を恥ずかしくさせた。

「ありがとう…すごく良いと思う」と答えたけれど、その声はどこか曇っていた。ランドセルを手にしながら、これを背負って小学校に通う自分を想像すると、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。

ランドセルを手にしていると、母さんが「これも必要だから」と言いながら、小さな防犯ブザーを渡してきた。その時、父さんが口を開いた。「安全第一だからな。しっかり防犯ブザーもつけておけよ」と言って、僕に優しく微笑んだ。

僕はそれを受け取りながら、内心で少し複雑な思いを抱いた。男だった自分が小学生だったときは、こんなに心配されることはなかった。それが、今こうして女の子として扱われることで、すべてが変わってしまったのかと感じた。

その後父さんから「今日は疲れただろう、もうお風呂に入って寝なさい」といわれ、お風呂に入った。お風呂から上がり、バスタオルで体を拭いていると、用意されていた女の子用のパジャマが目に入った。淡いピンク色のパジャマで、袖口と裾には小さなフリルがついていて、全体的に可愛らしいデザインだった。パジャマに着替えると、その柔らかな感触が肌に心地よく、だけどその見た目に少し照れくささを感じた。

さらに、母さんが用意してくれた女の子用の下着を手に取り、少し躊躇しながらもそれを身につけた。新しい感覚に慣れないながらも、パジャマを整えて鏡を見た時、そこには今日一日を終えた「女の子」の自分が映っていた。

パジャマを着終わったところで、母さんが「髪を乾かしてあげるわね」と言ってやって来た。「女の子の髪はしっかりケアしないとね。それに、これからは女の子用のシャンプーも用意しないといけないわね」と、母さんが柔らかい声で言った。女の子として扱われることにまだ慣れていないけれど、母さんに髪を乾かしてもらう時間は何だか特別で、安心できる時間だった。

母さんが髪を乾かし終えると、「はい、これで終わり」と優しく微笑んだ。僕は鏡に映る自分の髪を見て、これから始まる新しい生活に少しだけ前向きな気持ちを持てそうだと思った。

時間はまだ夜の9時だったけど、僕は1日の疲れが出たようで、そのままベットに倒れ込んだ。寝ようと包まったピンクの布団は柔らかくて温かいけれど、その温かさが逆に現実を突きつけてくるようだった。僕は本当にこれから「女の子」として生きるんだという思いが、胸の中で重くのしかかってきた。


次の日の朝、目覚まし時計が鳴り響く。まだ眠気が残る中、僕は重いまぶたを開け、布団からゆっくりと体を起こした。今日が新しい学校に通う初日だと思うと、胸の奥に緊張が広がっていくのを感じた。

リビングに降りると、母さんが朝食を準備してくれていた。軽く「おはよう」と言って、トーストと目玉焼きをさっと食べた。普段と変わらない朝食だが、緊張で味があまり感じられなかった。

食事を終えると、着替えのために、自分の部屋へ向かった。クローゼットを開けると、昨日の夜、母さんが準備してくれた服がきちんと掛けられていた。それは、白いブラウスとピンクのチェック柄のスカート、そして同じチェック柄のリボンがセットになっていた。全体的に可愛らしさを強調しており、女の子らしさを引き立てていて、見るだけで顔が真っ赤になってしまった。

さらに、衣装ケースの中から白いソックスを手に取ると、縁取りに軽いフリルがついているのが見えた。女の子らしさを感じさせるデザインだとすぐにわかり、履くのを少し躊躇したが、結局それを履いて鏡の前に立つ。フリルがさりげなく揺れる様子が、一層女の子らしさを強調していて、さらに恥ずかしさが募った。

着替えを終えた後、リビングに戻ると母さんと遠さんが「すごく可愛いわ、あゆみ」「とっても似合ってるよ」と褒めてくれる。その言葉に思わず顔が赤くなり、恥ずかしさで言葉が出なかった。

その時、母さんが「髪、整えてあげるわね」と声をかけてきた。僕は椅子に座り、母さんは髪を丁寧にすくい上げて、髪をまとめてくれた。母さんの手の動きが心地よく、少し安心感を覚えた。「こうやってまとめる髪型を、ハーフアップっていうのよ」と母さんが微笑みながら教えてくれた。

ピンクのリボンを髪に結び、仕上げにスカートをもう一度整え、赤いランドセルを背負うと、鏡に映る姿はどう見ても小学生の女の子にしか見えない。

「行ってきます」と小さくつぶやき、母さんが見守る中、玄関のドアを開けた。冷たい朝の空気が一気に流れ込んできて、少し身震いした。

外に一歩踏み出すと、見慣れない新しい道が広がっていた。ランドセルの重みを背中に感じながら、緊張と不安を抱えつつも、何よりも怖かったのは、この女の子の格好をして一人で歩かなければならないことだった。周りの目が気になり、足が自然とすくんでしまいそうになったが、僕は勇気を振り絞って歩き出した。