俺は淫乱女子児童 第二章 もう男の子には戻れない

 イジメに遭ってどんよりしていく俺とは対照的に、高校に通う新(真緒)はますます男らしく輝き始めていた。学ランを着こなす体つきも豪快さを増し、声もどんどん男らしく太く低くなっていく。
 最近入ったというバスケ部では、すでに頭角を現しているらしく、今年中から選抜メンバー入りするかもしれないと、まことしなやかに言われているようだった。
 自分の分にと新しく買った女の子用のピンクのパンツをたたみながら、俺は己のふがいなさに涙が出てきそうになっていた。でも、高校に入ってエンジョイしている新の手前、俺が高校に戻ることはできないのだ。しかも、自分の妹より頭もよく運動もできる自信がまったくないし。
 俺は…、いったいどうすればいいというのだろう。自分の居場所を見つけるため、はりきって新生活をスタートさせたはずなのに。
 
 イジメは加速度的にひどくなっていった。トイレに連れ込まれての暴行や水かけなどの延長線で、放課後の教室がイジメの舞台となる日が来てしまっていた。しかも、これまでのイジメは増永と山崎のグループだけでやっていたようだったけど、今度はクラスメイト全員が関わるようになる。
 その日、クラスに一台あるミネラルウォーターのサーバから直接水をかけられた俺は、濡れ鼠のまま先生のいない教室に残らされた。折りしも先生が休みだったため、教室で自習をする予定だった四校時。他のクラスも静かに授業をしている最中の出来事だった。

「みんなー、村岡さんがトイレで転んでびしょ濡れになったから、拭いてあげて」
 そう増永に言われて教室に引きずられてきた俺は、女子数人に無理やり壇上で体を拭かれることになる。最初は服の上からハンカチやタオルでごしごし拭かれていただけだったが、いつの間にかスカートがめくれてしまっていたらしい。そこから見えたパンツに反応したのが山崎で。
「おい、そのパンツの膨らみはなんだよ。見せてみな」
 教室中にいやーという女子の声が響き渡ったが、防音設備が整った教室であるため、隣のクラスや廊下にはまったく漏れていないらしい。しかも、視聴覚の授業のために黒い暗幕まで教室についているものだから、山崎の言葉を察した数人の男が、いっせいに自動の暗幕を引いて外から目隠しをする。
 事態の危なさを理解した俺がなんとか教室を出ようとすると、目の前に立ちはだかった山崎の足が伸び、それに躓いて思い切り床に転がってしまっていた。スカートがめくれたまま、無様に床に転がった俺の腰にまたがったのは、山崎。彼がそのまま俺のパンツを太ももまでずり下ろした直後、体をひねらされた俺。
 結局、俺の下半身はまんまとクラス全体に公開されてしまっていたのだ。

 発達が悪かったせいか、年のわりに陰毛も薄い俺の性器。だがしかしそこらへんの小学生男子よりは多少大人の形をしていたらしい。それを見た女性徒が叫び声をあげる暇もなく、山崎が大声を上げる。
「お前、男じゃねーか!」
 急いでパンツを履こうとした俺の行動を阻止するべく、山崎と黒木が俺を床に押さえ込んだまま、パンツを両足から抜き取る。おかげでスカートにフルチン状態になった俺は、恥ずかしさから床にぺたりと腰を下ろしたまま動けずにいた。
 そんな俺のスカートを足先でめくったのは、冷静な顔をしていた増永。恐怖で項垂れている俺のチンコをじっと上から眺めながら、ふふんと鼻で笑っていた。
「村岡さん、いったい何歳なの。小学生じゃないよね」
 でかい胸を揺らしてそう囁くお前のほうが、小学生らしくないよ!俺はあくまで黙秘を貫き通したかったが、増永の足先が俺のチンコの先をつぶす勢いで押してきたので、正直に答えるしかなかった。
「じゅ、十六歳だよ!」
「うそぉ!十六なのに小学生の問題も解けないの!?」
 そこを突っ込むのか。ますます肩身が狭い俺は、ぐうの音も出ない。
「普通なら高校生なのに、小学校に女子として通っているなんて、いろいろ問題がありそうだねぇ」
 いつの間にか場を仕切り始めていた増永は、乱れた俺の三つ編みをほぐしながら、酷薄に微笑んで山崎を見上げる。遠巻きに眺めていた山崎は、腕を組みながら増永に対して顎をしゃくっていた。
「周囲には黙ったまま、これからも小学生としてやっていきたいの?」
 増永の問いに、俺はしぶしぶ頷くしかない。すると、彼女はわざとらしく俺の目の前で両膝を折って座り込む。プリーツスカートの隙間から黒いレースのパンツが見え隠れしているのに気づいてしまい、俺の視線がキョドる。つか、小学生のくせに黒パンかよ。俺だって持ってないっていうのに、どんだけ早熟なんだ。
 冷や汗をかき続ける俺の顎をつまんだ増永は、ハシバミ色の瞳を細めて微笑んだ。
「だったら、あたしたちの言うこと聞くって約束してくれる?」
「は?」
「あたしたちの命令にちゃんと従えば、黙っててあげるから。ね」
 にこりと微笑んだ増永の隠微な笑みの裏には、恐ろしい計画が黒いレースのパンツと共にみっちり詰まっていたのである。


 五年二組の女王である増永と王である山崎の力は絶大だった。二人が緘口令を引いてから、俺が男であることは外部に一切漏れてない。しかし、女王である増永の俺への要求は、子供の要求としてはかなり度を越していたのだ。
 翌日からクラスのお楽しみ会として、毎日終礼後に俺の見せ場が執り行われることになった。
 下校時間ぎりぎり三十分前に、教室に暗幕が下ろされ、俺は壇上に一人立つはめになる。目の前には増永を筆頭に、山崎となぜか暗澹たる表情を浮かべている黒木がいる。
 途方にくれる俺に、増永は腕組しながら女王の風格でこう述べていた。
「お尻の穴まで見えるように、ポーズとってみて。もちろんパンツは外してからね」
 まるでスケベ親父の要求だ。俺はその光景を思い描いて蒼白になりながら、思わず叫ぶ。
「いやだ!」
「あら、そんな態度でいいのかな。あたしが窓から叫んでもいいんだよ。あんたが十六歳の男だってことを。もしくは、職員室に駆け込んで女装の変態がいるって言いふらしてやるから」
「…………」
 いったい増永は何を考えているというのか。となりにいる山崎でさえ不安そうな表情を浮かべているじゃないか。
 悔し涙を浮かべながらみなの前でパンツを外した姿になった俺は、スカートを捲り上げて床に手をつける。お尻は高く突き上げたままの前屈なので、ケツの穴すべてが丸見えになったと思う。自分の玉が視線を感じてきゅっと収縮するのを感じる。
「アソコを膨らませてみて」
 そんな無茶な要求を押し通そうとするのが増永だった。妙に男性性器に興味があるらしく、俺のチンコをつぶさに研究しようとしている気がする。
「お前は変態だ」
 なけなしの俺の嫌味に、増永は椅子の上で脚を組んで優雅に答える。
「女物のパンツなんかちゃっかりはいてくる村岡のほうが、よっぽど変態。ごちゃごちゃ言ってないで、早くしな」
 人の視線が気になる俺にとって、勃起はかなり難易度が高かった。下校の鐘が鳴るぎりぎりまで股間には手も触れずがんばってみたけど、膨らませることはやはり不可能だった。そこで諦めてくれるかと思った増永は、やはり納得してはくれず。
 
 
 翌日はもっとひどい要求が待っていた。メンバーは相変わらずだったが、黒木の表情は昨日に比べて元気さを取り戻しているように見える。何かあったのだろうか。
 相変わらず俺の目の前でいすに座って足を組んでいる増永。これ見よがしに薄いレースの白いパンツを、組んでいる足の間からちら見せして見えるのは、気のせいだろうか。
「今日はみなの前でチンコををいじってみて」
「ええ!?」
「いじって大きくなったら、先端から何かが出るんでしょ。その手品を見せてよ」
 増永はどこまでも真剣だった。半笑いの山崎のフォローを期待してみたが無理なようで、俺は小学生男女の好奇心丸出しの視線を浴びながら、開き直って床に座り自慰を始めることになった。
 ここ数ヶ月まったくそのために触ってこなかった性器は、少しずつ大きくなり始める。終いには先走りまであふれ出して、俺の両手をぬるぬるに染めていた。
「きゃー、倍くらいになってるぅ」
 女子の黄色い声に泣けてきそうになりながらも、俺は早く終わらせたくて、必死にマスを掻く。早く下校しましょうというアナウンスに焦っていると、いつの間にか増永が暴発しかけていた俺のチンコの先端に足先を乗せてきていた。
「もっと早くイケないの?」
「ショーは時間切れなのよ。出演者は時間厳守でなくちゃ。明日もう一度最初からね。包茎君」
 ひどい宣告。あろうことか、敏感な先端めがけて強めに押してくるものだから、俺は勢い余ってその瞬間に達してしまっていたのだ。
 そのとき、黒木の視線が俺とかち合った。彼は急に赤面すると、意識しているかのように俺の視線をそらす。しかし、なぜか彼の股間は激しく膨らんでいるのがここからでも見えたのだった。

「今日は、あたしがあんたを気持ちよくさせてあげる」
「はぁ!?」
 翌日は増永から提案してきたことを実行する羽目になった。彼女曰く、俺の自慰を手助けしたいのだという。男が何をしたら気持ちよくなるかわかっているからという。まじで?
 机の上で四つん這いになるよう命令された俺は、顔を突っ伏して尻を掲げた状態のまま、自慰をすることになった。昨日も経験した行為だったので慣れてしまっている自分が情けない。
 目を閉じて気持ちいい状態を思い出し、ひたすら自慰を始めた俺のケツに、増永は突拍子もなく濡れた何かを挿入し始めていたのだ。
「な、なに!?」
「縦笛よ。これがお尻を行ったりきたりすると気持ちよくなるんだって、本で読んだ」
 どこの本で仕入れたんだよ!や、やめろよ!!そんなこと経験したこともない俺が恐怖で身をすくませていると、すかさず山崎が俺のケツを叩いてくる。そのせいで入り口が緩んだ肛門の中に、まんまと縦笛が挿入されてしまっていた。
「ひっ!……う」
 ご丁寧に縦笛には給食で出たバターが塗りこまれていた。おかげで痛みも感じない俺の肛門は、経験する新しい感覚にじわじわ浸食されることになる。
 奥に突っ込まれたときの奇妙な圧迫感や、入り口付近を刺激する笛の形のいびつさのおかげで、徐々に心地よさを感じ始めていた俺。
「ふ…あ……」
「うふふ。やっぱり気持ちいいんでしょ。男のくせに」
 いつの間にか自ら腰を前後に動かしながら、縦笛を体内に取り込んでもだえ始めていた俺。恥ずかしさと悔しさで頬を紅潮させながらも、縦笛を飲み込んだ肛門は気持ちよさできゅうきゅうと締め付けている。
 縦笛をピストンさせながらよがる俺の姿を、増永と山崎はじっと眺めている。時折喉を鳴らしているのは、山崎だろうか。もしかすると、隣の黒木かもしれない。
「んっ…っ、は……あっあ、あ!」
「マジ感じてるっぽい…。キショイ」
 そんなほかの女子のつぶやきなんかどうでもよかった俺は、ただ増永の繰り出す刺激を味わいながら高みを目指していた。いつの間にか女子のような高い声を上げながら達したとき、肛門に突き刺さったままの縦笛の存在に愛着すらわき始めていたのだった。
 衆人環視の中のオナニーショーというありえない世界の中に、少なくとも俺は自分の居場所を確保したのだった。

 その縦笛を増永から譲り受けた俺は、いつものように夕方早い時間に帰宅していた。
 ここ最近は増永も山崎も苛めてこないし、勉強だって見てくれる。放課後のオナニーショーがあるけれど、それ以外は楽しい小学校生活になりかけてきたその日、事態が急速に展開したのだった。
 帰宅してきた俺と隣のお兄さんが、偶然にも玄関先で鉢合わせしてしまっていた。
 その日は休みだったのか、シルクのシャツに金のネックレスとサングラスという姿のお兄さんが廊下に出た際、家の鍵を開けようとしていた俺と鉢合わせになっていた。とりあえずぺこりを頭を下げてさっさと家に入ろうとした俺の手を、なぜか手で押さえるお兄さん。彼のサングラス越しの視線が、急に間近に迫ってきて、俺は危うく悲鳴を上げそうになっていた。
「な、な、な、なんですか!」
 ようやく声を放った俺をじろじろ眺めていたお兄さんの手は、相変わらず俺の手の上にある。というか、俺の手をさりげなく触りながら低い声を放っていた。
「君…なんで女装してるの」
 あまりの驚きで声も出ない俺の手を掴みながら、彼はそそくさと自らの部屋のドアを開けて俺を連れ込むことに成功していた。お兄さんの家の玄関先にある恐ろしく高そうな壷の前で追い詰められた俺は、彼の腕の中から動くことができずにいた。
「最初に見たときは明らかに男の子だったよね。それが夏休み明けにはこれだもの。妹ちゃんのほうも男らしくなってるしさ。これが世間で言う夏休みデビューというやつかと、お兄さん思ったんだけど」
 この人、意外にも隣の引っ越してきた俺たちのことを、ちゃんと見てたんだな。そんなのんきなことを考えていた俺だけど、この状況は明らかにおかしいので、女児姿の俺はどうにか彼の手を振りほどこうと躍起になっていた。
「人んちのことなんて、どうでもいいじゃないですか!俺は早く帰りたいんです!」
「早く帰らないとお母さんが帰ってくるから?もしかしてお母さんはこのことを知らないんじゃないの。ぜひともそこらへんの事情をお兄さんに教えてもらえないかなー。さもないと、お兄さん口が滑りそうだからね」
 これはもしかしなくても、脅迫なのだろうか。
 
 その後、二時間ほどかけてこれまでに起こった俺と新の出来事を、なぜかこのお兄さんにすべて語る羽目になっていた。
 豪奢な応接間の深いソファにお兄さんと並んで座りながら俺が語っている間、お兄さんはじっと俺の手のひらや剥き出しになった膝小僧、はてはスカートから覗いた太ももまで触れてきていた。つか、ずっと俺のどこかを触っていたと言っても過言ではなくて。
 なぜそんな行為を俺が許したのかというと、なぜか怒る気がしなかったからだ。彼が美味しいよと薦めてくれたチョコレートボンボンを三個ほど食べた後、やけにおおらかで楽しい気分になった俺は、彼に散々セクハラされながらも、洗いざらい語ってしまっていたのだった。今思えば、あのときからこのお兄さんは相当怪しいのだけど。
 お兄さんは俺を哀れむように何度も頷きながら、俺のランドセルに刺したままの縦笛を眺めて言った。
「あれが、君のお尻に入ったというやつかな」
「うん」
「まったくひどい同級生だね。その同級生もあの縦笛で苛めてやったらいいんだよ。いったいどのくらい奥まで笛って入るのかなぁ」
 俺がランドセルから縦笛を取り出して手でこのくらいと指し示すと、お兄さんの目が妖しく光る。
「君の中に入ってるとこ、ぜひとも見てみたいなぁ」
 俺は今日聞いた同級生の心無いせりふを思い出し、急に冷静になる。
「でも、絶対キショイって言うよ」
 お兄さんは大げさに両手を振って、最終的に俺を抱きしめていた。いい子いい子と俺の頭を撫でまわす彼の行為に、なぜか俺は嬉しさがこみ上げていた。
「言うはずがないよ。真緒はとってもかわいいもの。こんなかわいこちゃんが隣に越してきたから、お兄さん嬉しくてしょうがないんだ」
 それまで同級生から散々苛められてきた俺にとって、その甘い言葉の数々は、枯れた木が水分を得て生き返るかのように染み渡っていくのだった。見知らぬお兄さんの理不尽な要求をすべて飲もうと、そのとき心に誓っていたのも、その甘い言葉の数々のせいだろうか。
 
「いいよ…。真緒。最高だ。すごくきれいだ」
 ソファの上で、お兄さんに背中を預けた体勢になった俺は、スカートをまくりあけられると、パンツも片足に引っ掛けた格好のまま、自らのお尻に縦笛を突っ込んでいた。何もぬめりがなくては突っ込めないので、お兄さん自ら不思議な液体をどこからか持ち出しては、それを俺の尻と縦笛にたらしていく。
 それだけでかっと熱くなった俺の秘部は、縦笛で激しく肛門をこすらないと我慢できないくらい熱くなっていたのだった。水やバターとはまったく違う感覚に涎さえ流して悶えながら、俺は背後のお兄さんに問いかける。
「これ…なに?熱いし、かゆい…」
 お兄さんは、勃ち上がっている俺のチンコを優しくいじりながら、内部に納まっている縦笛を軽く揺らす。それだけだと物足りない俺が、自らの両足をおっぴろげ、縦笛を掴んでいるお兄さんの手を掴んで上下に揺さぶる。笛の凹凸が容赦なく俺の濡れた肛門を犯す様を見て、お兄さんは嬉しそうに俺の耳たぶを噛んだ。
 たったそれだけなのに、急に上りつめてしまった俺は、彼の手の中へ大量に白濁液を放ってしまったのだった。お兄さんは最後まで俺の耳の穴を舐めながら、悪魔の申し出を口にしていた。
「いつでもお兄さんのことにおいで。いっぱい気持ちいいこと教えてあげるから」
「ほんとに?」
 まだ朦朧とした気持ちの中で、俺はもう一度チョコが食べたいなと考えをめぐらす。しかし、お兄さんはあのチョコを持ち帰らせてはくれなかった。また次回にあげるからと、宥めすかされる。
「じゃ、代わりに俺と妹のことも内緒にしてよ」
 いい年した男二人で指きりげんまんし、俺は何事もなかったかのように身支度を整えてお隣さんの家を後にしたのだった。
 このとき、すでに夜の七時前。そろそろ新も家に帰るころだから急いで夕食を作らないと、と思った矢先、俺はとんでもない人物と家の前で鉢合わせしてしまったのである。
 普段は夜九時以降にしか家に帰宅しない母親が、よりにもよって女子の制服姿の俺と、玄関先で鉢合わせになったのだから。
「真緒!その格好はいったいどういうこと!?」
 縦笛を握り締めた俺は、正直このまま隣のお兄さんのところに逃げ帰りたくなっていた。


 夜八時後に学ラン姿で口笛を吹きながら颯爽と帰宅した妹も、母親の恐ろしい視線を受けて金縛りに遭う。とりあえず着替えて無言のまま食事を済ませた俺たちは、母親を目の前にして事の真相を話して聞かせることになったのだった。
「そんな…ばかな…」
 呆れ返った母は一瞬無言になったが、その後火がついたように怒り出したのは言うまでもない。
「なにバカなことやってんのあんたたち!特に真緒はお兄ちゃんでしょ!今さら小学生になってどうするというのよ!!新だって、高校生の勉強についていけるわけないじゃない」
「あ、それは全然大丈夫。今のほうが成績いいし」
 新の返答に、母でなくとも驚いた俺。話を聞くと、今の新の成績は学年で五番に入る勢いらしい。高校でも常に底辺をさ迷っていた俺と比べると、月とすっぽんだ。
 日焼けした顔にまぶしい笑顔を浮かべて、男らしさに磨きのかかった妹は、一リットルの牛乳パックをごくごくと飲み干して言った。
「成績も上がって部活もいい調子だし、先生も一目置いてくれているしで、今の高校生活はあたしにとってさいこーよ。兄ちゃんもそうでしょ」
 急に話を振られた俺は、しどろもどろになりながらもなんとか答える。
「え?あ…まぁ、…そうだな。俺の成績もよくなっているし。クラスのみんなと仲もいいし」
 俺の答えに目玉をひん剥く母。小さいころから周囲と協調が取れず苛められることが多く、成績も悪く不登校気味だった俺だからこそ、驚くべき発言だったのだろう。
「しかも、小学校に通いだしてからのお兄ちゃんは、ますますエロさに磨きがかかったよね。血色もいいし」
「こら、新!お兄ちゃんになに言ってんの!でも、まぁ、…真緒も楽しそうだし、互いに成績が上がれば問題ないのかしらねぇ」
 兄妹に言いくるめられた母親も、ここまでくるともはや何が正しいのか判然としなくなっているらしい。とりあえず互いが楽しい学校生活を送ればいいかと納得し、いったん席を立とうと腰を上げかけ、ふと俺たち二人の格好をまじまじと眺めていた。
 新は、部活動している男らしいスェットとTシャツ。俺はというと、新と似たような格好をしていた。そんな俺を見た母は、びしっと手入れされた指先を俺に向けて言い放つ。
「だったら家でも新はお兄ちゃんとして真緒と呼ばれること。真緒は今日から新として妹として女らしく振舞いなさい。お互いばれたら大変でしょ。身自分の意識から変えるのよ」
 要するに完全に兄妹としての立場も逆転させるということなのか。本気なのか我らの母は。

 その日のうちに互いの部屋も入れ替え、なおかつ持っていた服も総入れ替えとなった俺たち兄妹。もともと女らしい服を妹が持ってなかったとはいえ、家でもなけなしのスカートを着る生活が始まった俺は、ますます女らしさを加速させていくしかなかった。
 というか、女として暮らすことに、そこまで苦痛を覚えてない自分自身に驚いているくらいだ。
 家で笛の練習をしていると、兄である真緒(新だが)にうるさいなぁとやじられ、風呂の順番さえ代えさせられてしまう。リビングのソファの位置も俺は端っこに追いやられ、真緒はそのでかい体を大いに広げて寝転んでいた。
 しかも、俺の膝の上に頭を乗せてふんぞり返っている。困惑気味の俺の顔をちらりと見上げた兄(妹だが)は、顎をしゃくって命令してきた。
「新、ジュース買ってこい」
「はい!」
 そんな言葉が普通になる日がくるとは、誰も…いや、俺だけが想像していなかったのかもしれないが。
 しかし、いい面もいくつかはあった。高校の授業でますます頭を良くした真緒に、自分の勉強を見てもらうことだってできるのだ。
 食事後の居間で、一時間ばかり真緒に勉強を見てもらうことが、俺の日課になり始めていた。問題が一発でできると、真緒は俺の頭を撫でてくれる。
「よくできたな。えらいぞ」
 そう言って貰えることが、何より嬉しかったのだ。
 自慢の兄(しつこいようだが妹)。それが俺の新しい兄である真緒だった。俺がなりたくてもなれなかった理想像を、目の前で体現してくれたのが真緒だったのだ。
 だからこそ、自分も自慢の妹らしく振る舞わなければ。そんな無理な意気込みが、元々プレッシャーに弱い俺の下半身を弱くしたのか。それから数日後、俺はこの年にしてありえないことをしでかしてしまっていた。
 おねしょをしてしまっていたのだ。
 朝起きると、ベッドのシーツがぐっしょり濡れてしまっていることがたびたび起きるようになり、そのたびに不在の母の変わりに兄に怒られた。
「新!寝る前のジュースは控えろって言っただろ」
 真緒にそう叱られた俺は、肩を落としてしゅんとするしかない。ここ数日は水分を控えていたにもかかわらず、おねしょがとまらないからだ。
「だって…、飲まなくてもおねしょしちゃうんだもん」
 干した布団の前でもじもじし出した俺に向かって、真緒はため息混じりにこう言った。
「これで何回目だと思う。これ以上おねしょするようなら、対抗策を編み出さないといけないじゃないか」
「対抗策って?」
 きょとんとする俺の両肩を掴んでため息を吐いた兄は、今夜おにいちゃんが買ってくるとだけ伝えて学校に出かけていったのだった。
 とりあえず真緒にまかせておけば安心。そう心から思う。頼れる存在があるだけで、今の自分がすごく楽になっていると気づかされたくらいだ。

 その日の夜、相変わらず縦笛を吹き続けていた俺に真緒が買ってきたものは、子供用の紙おむつ。
 えーっと、ぶーたれた俺の額を指先で小突いた兄は、しょうがないだろと一言釘を刺しながら、わざわざ俺のパンツを外して履き替えさせてくれた。
「自分でできるよ!」
「だーめ。新は適当なとこあるから、自分では絶対はかないだろ。今日から兄ちゃんが毎日はかせてやるからな」
 というわけで、家では毎日真緒が俺にオムツをはかせてくれることになったのである。
 オムツがおしっこでパンパンになったとき、お風呂に入ったときなど、真緒はまったく嫌がらずに俺のオムツをその場で取り替えてくれていた。そしてそれが日常になり始めたのだった。
 眠る前にオムツを履き替えることで、奇妙な安堵感を味わった俺。兄である真緒がいてくれれば大丈夫。自分はもう男でも兄でもないし、ましてや小学五年生の女の子だ。そんなことを己に納得させると、途端に安堵感が降りてくる。
 その安堵感から、夜中になるとついつい縦笛を肛門に差し込んでみたりしてしまう俺がいたとしても、誰も責められないと思う。
 こんなことしちゃいけないと思いつつも、ここ最近毎日っていうほど放課後のショーで慣らされてしまっているので、手持ちぶさたの時や、むらむらしてきたときなど、思わず肛門に手が伸びるようになってしまっていた。
 制服が入れ替わってしまったことで、逆に本来の自分でいられるようになった気すらする。
 オムツの緩々感に包まれながらベッドで眠りに落ちる俺は、モラルや世間的にはまちがっているだろうが、以前に比べて十分幸せであることにはまちがいなかったのである。