0017 包茎短小差別社会

 
包茎短小差別と言う言葉が出来たのはいつ頃だっただろう。初めの頃は社会問題として扱われたその新語も、結婚率ひいては将来的に子供を持つ確率との因果関係が詳らかにされると、差別ではなく社会政策として公然と認識されるようになった。
例えばペニスの長さが2センチに満たない男児は何歳になっても小学校に入学する事が出来なく、包皮が剥けていない男児は中学校に進学する事が出来ずにいつまでたっても小学生のままとされる。もちろん高校入試にも男子はペニスの大きさが一番の選考科目となり、就職時に至ってはペニスの立派さにより一流企業に就職出来るか、出世出来るかとさえ言われる時代になっていた。

神奈川県に住む中川駿一くん(19つ)の場合は、6歳時にペニスの大きさが1センチ強しかなく、地元の公立小学校への入学を拒否された。
仕方無く彼は次の年も幼稚園の年長組に残ることになったが、一向にペニスが成長する事はなく、それ以来彼は14年間『年長さん』の生活を送ることを余儀なくされている。
そんな彼の育児を放棄した両親に代わって彼の保護者となっているのが、彼の妹だった中川弥生さん(16)だ。現在は彼の姉となった弥生さんは、高校一年生ながらアルバイトをして彼を養っている。だが、まだ戸籍上は幼児としてしか認められていない駿一君には彼を保護する為の無数の法律を守らなければならず、そんな彼女は毎日辛い生活を送ることを余儀なくされている。
まず彼女の朝は駿一君のオムツを交換する事から始まる。幼児保護の観点から無理なオムツ離れの指導は禁止されているから、駿一君は19歳になってもまだオムツが手放せないのだ。夜用のオネショタイプの紙オムツにたっぷり含まれたオシッコは、まだ駿一君が小学生になれないことをはっきりと表している。汚れた下半身を濡れタオルで拭いてあげ、新しい昼用の紙オムツに替えてあげると、駿一君は恥ずかしげにお礼を言うことも最近はできると言う。
幼児には幼児用の食事しか与える事が禁止されているので、駿一君の食事はいつも離乳食だ。市販のものだけでは栄養が偏ると考えている弥生さんは、手作りのりんごペーストや柔らかいクッキーなどを焼いて駿一君に与える事にしている。危険な為に、幼児は自分の手で食べることは禁止されているので、弥生さんは根気よく駿一君の口にスプーンで食事を運んでいく。弥生さんはまだ母乳を出すことは出来ないので飲み物は、ほ乳瓶に入れた粉ミルクを与えている。
食事が終わると自分は高校のセーラー服に着替え、嫌がる駿一君に幼稚園の制服を着せる。食事が幼児用ばかりだから駿一君は19歳にしては、身長143センチと小柄だが、それでも幼稚園の制服を着るには少し違和感がある。制服は赤いチェックの吊りスカートと紺色のボレロといったオーソドックスなものだが、駿一君がむずがるにはもう一つの訳があった。彼は先日から女児用の制服を着用するように幼稚園側に言われているからだ。
それは彼が日に何度もオムツを汚してしまう為の処置だったが、19歳男児である彼にとって恥ずかしいのも当たり前だろう。だが彼担当の保育士である桂木優子さんの「だからといって下半身オムツだけっていうのも嫌がりますし、いちいちズボンを脱がしていると他の園児の迷惑になるんです」と言葉を聞けばこの処置も仕方が無いと納得できる。
この日も胸にチューリップ型の名札を付け、黄色い通園鞄を肩から提げさせられ駿一君は泣きながら弥生さんに連れ出されていった。
通学用のシールを貼った自転車の後部座席に駿一君を乗せ、弥生さんは幼稚園まで彼を送っていく。保育士の優子さんはいつもそれを出迎えて「あなたもまだ高校生なのに大変ね」と弥生さんをねぎらう。しかし実は優子さんの方もまだ18歳であり、彼女より実は年上の『妹』を預ける事に弥生さんは恥ずかしさを感じているという。替えのオムツを渡しながら、弥生さんは優子さんに深々と頭を下げて高校に登校していった。
園が始まると毎朝行われるのは年齢超過児童に対するペニスのチェックだ。おともだちの見守る中、ベビーベッドに寝かされた駿一君はスカートを捲られオムツを外される。既に漏らしてしまい黄色く染まるオムツをおともだちに笑われながら、優子さんがそっと専用の物差しを彼のペニスに添えた。
「1.3センチ・・・・・・」
溜息と苦笑いの混じった声で呟くと、優子さんは電子機器にその値を入力した。
駿一君が小学校に進学出来るのはまだまだ先の話となりそうだ。