0014 憧れの看護婦さん

 
「あらあら、ナース服が良く似合ってるじゃないですか、榊原先生」
「やだ・・・・もうその呼び方はやめて下さい・・・・」
「そうだったわね。今日からあなたは只の新米ナースなんだもんね。ほら、帽子が曲がってるわよ」
「す、すいません・・・・」
「申し訳ありません長坂婦長でしょ!?」
「も、申し訳ありません・・・・長坂・・・婦長・・・・」
元小児科副部長の榊原勇司は五つも年下の長坂朱実に深々と頭を下げた。
「じゃあまずは、みんなに挨拶してもらうからね。出来る?」
「は、はい・・・恥ずかしいですけど・・・・あ、あの・・・・」
目の前に並んだ沢山のナース達の蔑む様な視線に邦彦は足を震わせる。
「あの・・・・今日から入りました・・・榊原・・・ゆ、ゆ・・・・ゆうな・・・と申します」
「きゃははは!名前まで変えたんだ」
若いナースが思わず声を上げて笑う。
「ねえ先生、恥ずかしくないの?男のくせにそんな格好してさあ?」
「男の時は偉く威張ってた癖に、随分しおらしくなったじゃない。」
「ねえねぇ、下着も女物なの?ブラもしてるみたいだけど、何カップなの?ゆうなちゃ〜ん♪」
女性になるため大がかりな整形手術も施した勇司は今や文字通り新米ナースにしか見えない。その事もあってか、まだ年端もいかない少女達は遠慮無く彼を罵る。しかしそんな無体な仕打ちにも彼は俯いて耐えるしか無かった。
「静かにしなさい!ゆうなさんが可哀想でしょ」
婦長に言われ、さすがに場が静まる。
「みなさんも知っての通り、先日榊原先生は事故に遭って男性器を損傷してしまいました。我が病院の最先端を誇る技術で一命は取り留めましたが、男性としての機能を失った先生はこうして女性として生きる道を選ばれたのです」
「それはわかるんですけどー」
まだギャルといった風のナースが質問する。
「先生、なんでわざわざうちの病院で働くわけ?ひょっとして私達の制服以前から羨ましかったとか?」
またもやクスクスといった笑い声がナースセンターに響き、勇司の心臓を凍えさせた。
「ゆうなちゃん、自分で言いなさい」
「はっ・・はい・・・ええっと・・・その・・・あたし・・・」
「あたしだってさ♪」
「うんうん、あたしがどうしたの?」
「そ、その・・・子供の頃から・・・・看護婦さんに・・・なりたく・・・て・・・」
それは本心だった。まだ性が未分化の頃、身体の弱かった彼は病院で幼少期を過ごし、その頃に看護婦という存在を強く心の奥に神聖化して焼き付けてしまっていたのだ。だが性別というのはやっかいなもので、やがていくら努力しても看護婦にはなれないことを悟った彼は医師となったのだった。そんな彼にとって今回の事故は不幸とばかりは言えないものだった、勤務中の労災であった為病院側は彼の申し出を特別に許可、果たして彼は今念願のナースとして職場に立っている。
「んふふ、まるで小学生の女の子みたいな事をいうのね」
主任看護婦の絵那が厳しい表情で勇司を睨み付ける。
「でも現実を甘く見るんじゃないわよ!」
「はいっ!」
一回りも年下の先輩に言われ、勇司は気を付けの姿勢を取った。
「年上だからって甘えないでね。今日からあなたは一介の見習いナース。ここにいる先輩達には必ず最上級の敬語を使って決して逆らわない事。人の嫌がる仕事は率先して行う事。毎日時間前に来てナースセンターと職員用のトイレ掃除はかかさないこと。それから・・・」
「きゃっ!」
絵那に制服の裾を捲られて勇司は小さな悲鳴を上げた。
「それから、女性として常に清潔な服装を心がける事・・・・ショーツが少し汚れてるわよ、男性の時と違ってトイレの後はよく拭いておきなさい。」
「・・・・は・・・・はいぃぃ・・・・」
真っ赤になりながら消え入りそうな声で勇司は返事をした。

「さあ今日から頑張るゾ!」
とっても恥ずかしいけど・・・・と呟きながらも勇司は胸を張って白衣の天使への一歩を踏み出した。