0008 いじめっ子に復讐を1

 
「き、着たぞ!これでいいのかよ!」
牧山陽向(ひなた)は顔を真っ赤にしながらも強気の姿勢を崩さずに言った。
「そうだね〜・・・・」
青木晴樹は陽向の姿を楽しげにジロジロと観察してから笑みを浮かべる。
「陽向君って色が白いからピンク色が似合うよね。学校一のスポーツ少年がこんなに女の子の・・・僕の妹の服がぴったりだなんて思いもしなかったよ。」
「そ、そんな事はどうでもいいだろ!これでいいのかって聞いてるんだよ!」
照れながら大声を上げた陽向に対し、晴樹は冷ややかな目で見つめる。
「あれ?僕にそんな乱暴な口をきいていいのかな?君の大好きなサッカーを辞めたくはないんだろ?」
「くっ!・・・こ、このヤロー!・・・・」
「そんな格好で怒鳴っても、もう全然怖くないよ。自分の姿鏡で見てみたら?」
「・・・っきしょう!」
陽向が呟く。晴樹の言うとおり今の彼の姿−フリルのついた薄いピンク色のシャツと二段になった同色のフレアースカート−ではどんな言葉を言っても全く迫力が無い。
「それにさぁ、そんな乱暴なセリフを吐いていると晴樹君の夢が終わっちゃうよ。僕が君の所属チームの監督に一本電話すればいいだけなんだからね。」
「あ、あれは・・・・」
「友達に誘われたからって言うの?でも万引きは万引きでしょ。それに晴樹君だって少しは身に覚えがあるからこうやって僕の言う事を聞いてるんじゃないの?昨日まで君が虐めてた同級生の命令をさ−。」
「ぐっ・・・・・」
陽向は拳を握る。晴樹の指摘は事実だった。彼の持っている証拠写真がもし明るみに出れば、彼のみならずチームにも迷惑がかかり、恐らく進学が決まっている名門○学への特別推薦も取り消しになってしまうだろう。
「君はスポーツ馬鹿みたいだからもう一度言い聞かせてあげるよ。」
晴樹は椅子に座ったまま足を組む。
「今日から君は僕のお人形さんなんだよ。それも女の子のね・・・・理不尽?卑怯?・・・そんな事ないだろ。君だって昨日までは暴力で僕を支配してたんだから。」
しかし恥ずかしくてたまらない陽向は歯ぎしりしそうな顔で言い返す。
「こ、こんな事して楽しいのかよ!」
「ああ楽しいね。」
晴樹はニヤリと笑った。
「学校一の人気者が僕の言う事をなんでも聞くんだぜ。目立たない転校生に過ぎない僕の事をさぁ・・・・僕はね、君が恥ずかしがる姿を見てるだけでとっても楽しいんだよ。ほら、もっと可愛くしてみせてよ。君は今日から僕の前では女の子になるんだからさぁ。」
「そ、そんな事・・・・」
戸惑う陽向を見て晴樹は心から満足そうにしながら告げた。
「じゃあ自分から挨拶してもらおうかな、ひなちゃん?」
「ひ、ひなちゃん?」
「そう、可愛い名前でしょ。陽向君はこれから女の子になるんだからその呼び方の方がいいよね?」
「て・・・てめー・・・・
「そんなに睨んでも駄目だよ。昨日までの僕なら震え上がってたかもしれないけどね・・・・ほら、言えるの?言えないの?」
晴樹は胸のポケットから取りだした写真をヒラヒラとさせる。そこには陽向が数人の友達と共にスーパーのお菓子売り場で商品をポケットに入れる様子がくっきりと写っていた。それを見た陽向は悔しそうに奥歯を噛みしめる。
「ほら、さっさと言ってよ。きちんと言えないと何度でも繰り返させるからね。」
晴樹の『本気』を感じ取った陽向は仕方無く口を開いた。
「くっ・・・く・・、お・・・俺は・・・」
「『あたし』だろ?」
「あ、あたしはっ・・・・牧山・・・ひ、ひっ・・・ひな・・・ですっ・・・。」
「そう。ひなちゃんって言うんだ。可愛い名前だね。性別と学年は?」
「えっ!?・・・そ、そのっ・・・お、お、お・・お、おっ・・・おんな・・・おんなっ・・」
「『女の子』なんでしょ?」
「んっ・・・くっ・・・はいっ・・・・そ、そう・・・だ。」
「言い直して。」
「きっ・・ぐっ・・・・お、おっ・・・女の子・・・ですっ・・・」
「あははははは!女の子なんだぁっ!・・・で、学年は?」
「ひ、ひがし・・・第三△学校の・・・六年・・・生・・・・です・・・。」
「えっ?」
「六年生だって言ってるだろ!」
苛ついた陽向に対し晴樹は冷ややかに言う。
「背伸びしなくていいよ、ひなちゃん。今時そんな可愛いお洋服着た六年生なんている筈ないだろ?だってそれ俺の妹の、四年生の妹の服なんだよ。まさかそんな小さな女の子用の服着た六年生がいるなんて思えないよ。」
「こ、これは・・・・お前・・・が・・・着ろ・・・って・・・」
「えっ?なんて?」
「は、晴樹・・・くんが・・・僕に・・・・」
「本当にお前馬鹿だな。まだ自分の立場分かってないの?」
晴樹は立ち上がって陽向の頬をぺたぺたと叩く。
「ちょっとは痛い目みないとわかんないのか?大体こんな恥ずかしい格好して僕にさからうつもり?」
晴樹はそう言いながら陽向のスカートを捲り上げた。
「ひゃぁっ!やっ、やめろっ!!」
「あははは!慌ててスカートを抑えるなんて、すっかり女の子してるじゃん。ほら、いい加減あきらめなよ。君には僕に逆らう権利なんてないんだからね。それともスカートの下の可愛い女の子ショーツ姿をみんなに見てもらう?」
晴樹は先程撮影したばかりの、陽向の下着姿の写真が写った携帯を見せつけた。
「お、お前いつの間に!?」
「分かったでしょ?これクラスにばらまいてもいいんだよ。それが嫌なら、もう一度初めからきちんと挨拶してほしいな。」
「ぐっ・・・・」
プライドの高い陽向にとって、たとえ強制されたにしても女装姿などを公表されるのは死刑宣告に近い物があった。彼は遂に屈服せざるを得なくなってしまった。
「あ、あたしの・・・名前は・・・ま、牧山・・・ひな・・ですっ・・・。」
晴樹はニヤニヤと笑いながら頷く。
「ひ、東第三・・・△学校の・・・よ、よ・・・四年生の・・・お、おっ・・おんな・・・女のこ・・・です・・ぅ・・っ・・・」
「はい良く出来ました。」
晴樹が手を叩く。陽向は黙って床を見つめたまま汚辱に耐えた。
「じゃあ自分の立場が理解できたみたいだから、そろそろみんなにお披露目に行こうか。可愛いひなちゃんの姿をみんなに見てもらおうね。」
「な、なんだって!?」
「何度も言わせないでよ。デートしようって言ってるんだよ。二人で今からお外でね。」
「ちょ、ちょっと!この格好でか!?」
「おかしな事言うなぁ・・・ひなちゃんは女の子なんだろ?」
「で、でも・・・・」
「気にするなよ。僕だって学校で君にたっぷり恥をかかされたんだからさぁ。」
冷たい目で睨む晴樹を見て陽向は震えた。
「大丈夫だよ、別に僕は恥ずかしくなんてないから・・・」
「ま、待って!ご、ごめん!謝るからっ!もう、虐めたりなんかっ!」
「ちょっと遅かったね。さっ、たっぷり生き恥晒しに行こうか。」
どこにそんな力があったのか。晴樹は陽向を引きずる様にして玄関から飛び出した。



素材提供:きまぐれアフター様