0003 アルバイト

「た、立ってるだけのアルバイトだって聞いたのに、なんでこんな格好しなくちゃいけないんだよぉ。」
光一は休日の人混みでごったがえす繁華街の街角で今日何度目かの悲鳴に近い独り言を呟いた。
「見て、あの子可愛い格好!」
「まるでお人形さんみたいね。クスクス。」
通り過ぎるカップル達が光一の姿を見て大げさにリアクションする。ただこんな格好で街中にいるだけならスルーされるだろうが、甘ロリファッションショップの看板を持って立っているものだから目立って仕方が無い。
「ひやっ!」
突如、春一番の風に煽られた光一は慌ててスカートを押さえる。中にはしっかり女者の下着、その上にはドロワーズまで穿かされている為に光一は気がきではない。
「こらこら、看板は両手でしっかり可愛く持ってないとダメでしょ。」
背中から声を掛けたのは光一の雇い主である姉の光姫だった。
「だ、だって、スカート捲れるし!大体女の格好するなんて聞いてないよ!」
光一は非難めいた口調で光姫に突っかかった。
「なに言ってるのよ、そんなに似合ってる癖しちゃって・・・雇った以上は私の言うことを聞いてもらうわよ。それに・・・」
「ひやあぁっ!!」
光姫にいきなりスカートを捲られ、光一の悲鳴が街頭にこだまする。
「スカートなんて捲れた方が目立って宣伝になるでしょ。」
ズボン姿の光姫は事も無げにそう言った。
「なっ!なに・・・するのよ・・・。」
大声で怒鳴ろうとした光一だったが、大勢の注目を浴びていることに気が付き、咄嗟に女の子の振りをしてしまう。
「うん、そんな風にしてれば男の子だってばれないわよ。ほら、足はもっと内股にして。リボンも曲がってるわよ。」
男の子だとばれて恥ずかしいのは自分だ。光一は仕方無く光姫に言われるまま、可愛らしいポーズで再び看板を掲げた。
「じゃあ私はお店に戻るからね。しっかりと客寄せお願いね。」
去っていく姉の姿を恨みの目で見ながら、光一は知り合いに会わない事だけを祈っていたが、翌日登校した彼の教室の黒板にその恥ずかしい姿の写真が貼られる事になることを彼はまだ知らなかった。