良妻愚夫

世の中には様々な家庭があるかと思います。今で夫が家事をして妻が外で働いているという家庭も皆無では無い事も知っています。
ですが私の置かれている環境ほど異常な家庭は珍しいのでは無いでしょうか。興味の無い方には退屈な話かもしれませんが、愚かな私の私生活を少しお話させて頂けますでしょうか。


私の名前は鳴海悠太(仮名)と言います。それなりに裕福な家庭に育ち、幼い頃は自慢ではありませんが勉強も運動も人並み以上には出来ました。
超一流とはいいませんが名の知れた大学に通い、当時人気だったIT企業に入社した頃が私の人生の絶頂期だったのだと思います。三年後、順調に主任となった私の元に配属されたのが今の妻でした。
明日香と言う名のお嬢様短大を出たての彼女は、世間知らずで最初の頃は私をイライラとさせました。女子社員の癖に上司にお茶を淹れることも知らない。それを指摘すると泣き出してトイレに駆け込み、何時間も帰って来ない。もちろんコネで入社した彼女はコンピュータの知識も全くありませんでした。
短気な上司と無能な部下という関係が変わってきたのは、彼女の入社後半年ほどしての事でした。正直一か月持たないかなと思っていた彼女は懸命に仕事を覚え、元々負けず嫌いだったのでしょう。私の無茶な命令にも的確に応えられるように成長しました。
彼女の成長を課長に褒められるうちに、私も初めの頃は気付かなかった彼女の美しさを感じ取るようになりました。一人っ子だった私には五つ下の身近な女性というものは大変新鮮で、それが恋愛感情に変わるのに長い時間はかかりませんでした。
そして一年後、私は社内の厳しい競争を勝ち抜き明日香と婚姻を交わしたのです。同僚の羨望の眼差しを受けた挙式の様子が今でも夢の様に思い出されます。

威張れた事ではありませんが、私はいわゆる亭主関白でした。朝は起きた時に朝食が出来ていないと平気で怒鳴りつけるし、風呂が沸いていない、酒が切れていると手を上げてしまった事もあります。そんな私でしたが妻は文句の一つも言いませんでした。年も離れており職場での上司と言うこともあったのでしょう。そんな妻に私は甘えきっていたのだと思います。

そんな状況が一変したのは結婚後一年ほど立った時の事です。私は職場で大変な失態を犯してしまったのです。
私を訴えたのは市ノ瀬璃子という新入社員の女の子でした。新人の頃の妻より出来の悪かった彼女に対し、私はついつい家庭と同じようにしてしまったのです。
言い訳をすれば彼女の方にも問題がありました。「主任の教え方が悪い」などと吐き捨てられ、冷静でいられる上司がいるでしょうか。私はついつい彼女の先輩でもある妻の事を見習えとばかりに、彼女の頭をコツンと軽く叩いてしまったのです。
翌日社内は大騒ぎになりました。璃子が社長室に駆け込んで、私に酷い辱めを受けたと直訴したのです。次第に私の振る舞いは「頭を殴った」から「胸を触った」いや「スカートを捲って尻を叩いた」などと信じられない噂の尾びれがつき始め、部長から事情聴取を受けた時にはもう噂はもみ消しようも無いくらいに広まっていました。
悪かったのは璃子の父親が市の有力者だったということです。娘が受けた辱めに激怒したその父親は、その上司に厳しい処分をしないと会社に圧力を掛けるとまで脅迫して来たのです。その二週間後、私は会社を依願退職しました。

しばらくの間、私は理不尽な怒りに身を震わせながら失業保険で生活しました。事情が事情ですので退職金は無く、恥ずかしい事に遊び好きな私の家庭には貯金もほとんどありませんでした。そして失業保険が切れて再就職活動を初めた私は、そこで生まれて初めて世間の厳しさを知ったのです。
同業各社の面接を受けた私はけんもほろろに断られ続きました。年齢はまだそこそこ若いとはいえ、不況の折さしたるキャリアも無い私を採用してくれる会社はありませんでした。今思うと、当時のやりきれない感情が態度に出ていたのかもしれませんし、もしかしてあの市ノ瀬璃子の父親が各社に手を廻して採用しないようにしていた可能性さえあります。
かといって、それなりにエリートコースを歩んできた私は中小企業などに頭を下げに行く気持ちもさらさらありませんでした。やがて貯金は底をつき、私の家計の収入は妻のサラリーだけとなってしまいました。
当時の妻の手取りが二十数万円だったと思います。流石の私も段々と後ろめたく、家庭での立場は日に日に弱くなってきました。ですが一日中、就職活動もせずに家でゴロゴロとしている私に、妻はまだ献身的に尽くしてくれていました。
ですが、更に半年ほどした時期に妻の態度が急変したのです。

「ねえ悠太さん。いつまでこんな生活をしているの」
いつもの夕食後、私のグラスにビールを注ぎながら、真剣な眼差しで妻は切り出しました。
「わたしそろそろ子供も欲しいんだけど、こんな状態じゃとても作れないわ」
薄々は気にしていたのですが、その言葉は私の心に突き刺さりました。
「いや、その……まあ景気が良くなれば……」
私はそんな馬鹿のような言葉を返しました。すると妻は見た事も無いような仕草を私に見せました。
「ふん。じゃあその頃あなたは中年のおじさんね」
そう言いながら妻は鼻をならしたのです。いつもなら激怒する私ですが、その時は文句を言えるような空気ではありませんでした。
「分かった。じゃあもう少し範囲を広げて仕事探すよ」
プライドを捨てたつもりでそう言った私でしたが妻の口から出たのは意外なセリフでした。
「それはいいの。そうそう、私課長になる内示を受けたの」
私は驚愕しました。所属していた開発部には多くの課があり、若くして課長を命じられる事も少なくは無いのですが、妻の新入社員の頃を考えれば信じられない人事でした。しかし考えて見れば私は自分が辞めてからの会社の事をほとんど妻の口から聞いた事が無かったのです。
「そうか。お前が課長だなんて、随分会社も苦しいんだな」
そして自分が働いていた時よりも出世しようとしている妻に対し、私は思わずイヤミを言ってしまいました。しかし妻は嫌な顔一つせず、今の会社の状況を説明し始めました。
私と動機のライバルが副部長に昇進したこと。一つ年下だった後輩が今の課長だということ。そして私が一番衝撃を受けたのは、新しい技術の話についての妻の話でした。
「それでね、そのプロジェクトの設計に関してなんだけど……」
妻の口から出てくる言葉の意味の半分も私は飲み込めませんでした。何しろIT業界は今も技術の革新がとんでもなく早い世界です。その最先端で働いている妻と、一年ものあいだ何もせずに過ごしてきた私とでは話が通じる筈も無かったのです。
「ふ、ふーん。そうか、凄いな」
分からないとも言えずに適当に相づちを打つ私を、今思えば見抜いていたのでしょう。適当に話を切り上げると、妻は本題に入りました。
「それでね、当たり前だけどお給料も随分と上げてもらえるんだ」
妻が口にしたのは私がもらっていたものよりも倍近くになるくらいの破格の給料でした。課長クラスでそんなにもらえる筈が無い事をこの時気がついておくべきだったのですが、その時の私は嫉妬から「以外と少ないんだな」などと強がるしかありませんでした。
「少ないと言っても、以前の二人分以上にはなるでしょ」
自分の以前の給料が少なかったと言われている様な気がして、私は少しだけ腹を立てました。しかし次に妻の口から零れた言葉は私を狼狽させました。
「それでね、提案なんだけど……悠太さん専業主夫にならない?」
「えっ!?」
それは思いも寄らない提案でした。私の古い感覚では、男は外に出て女房を養う者。妻は家庭を守り、夫を支えるものというのが当たり前だったのです。私がそれを口にすると、妻は更に辛辣な言葉を吐きました。
「でも、全然出来て内じゃない。第一、悠太さんの働いていた頃のお給料だけでも生活出来てなかったのよ。私のお給料の分まで娯楽に使っちゃってさ」
ずっと大人しくて、不満を漏らした事の無い妻からそんな言葉に私は怒り、そして冷静に考えて情けない気分になりました。そこで私は一つの疑問に思い当たりました。
「だけど、お前子供作りたいんじゃないのか。課長職なんてしてたら妊娠なんて出来ないだろう」
そう口にした私に対し妻は「あっ……ううん、それはもういいの。今のうちにお金貯めとかなくちゃね」と応えました。ここでも私は気がつくべきだったのです。妻の言動のおかしさに。
「とにかく今の状況ではお互いそれが一番でしょ。あなたも落ち着けば職を探してくれればいいから。そうしないと悠太さん、人間としてダメになっちゃうよ」
そんな風に丸め込まれ、私は専業主夫という職業についたのです。この時はまだそれは仮の職業のつもりでした。

「今日のご飯美味しく炊けてるよ」」
「お風呂沸かしてくれたんだね、ありがとう」
そんな風に初めの頃、妻は家事に慣れない私に気遣いの言葉を掛けてくれました。家事分担も全て私任せではなく、掃除料理洗濯などしたことも無い私に配慮して、妻は十分に手伝ってくれていました。
しかし何ヶ月か立ち、妻が正式に課長に就任した頃からその生活も変わり始めました。途端に忙しくなってきた妻は残業も当たり前になり、疲れもあって私への要求はエスカレートしていきました。
「ええっ!?まだお風呂沸いてないの?帰る時間メールしたじゃない」
「ちょっとぉ、疲れて帰ってきたのにこんな不味いご飯しかないの?」
普段敬語に近い言葉で私に接していた妻の言葉遣いは次第に荒くなり、何度か口論をしたこともあります。しかし最後にはやはりお金を稼いでいる妻に言い負かされ、私は頭を下げて「明日から注意する」と言わざるを得なかったのです。
正直、何度も何度も腹を立て、離婚も考えた事があります。ですがこんな状況で、こんな理由で離婚などしては世間の笑いものですし、第一自分一人でも生活できる自身もありません。なによりまだ若くて美しい妻の事を私はきっと心の底から愛していたのでしょう。


そんなある日の事でした。
「ねえ悠太さん、私言ったわよね。このシャツは色落ちするから別に洗ってよって」
「あっ、そ、そうだね。忘れてたよ、ゴメン……」
「いつも一緒ね。ゴメンて謝ればいいと思ってるんだから……見てよ色が移っちゃって、このワイシャツもう着れないじゃない!」
よほど腹に据えかねていたのでしょう。私の何度目かの同じ失敗に、妻はまだ濡れた洗濯物を私の顔に投げつけました。
「おい!」
怒りに身を震わせて妻を睨み付けた私に対し、妻は落ち着いた声で言いました。
「あなた、まだ自分の立場が分かって無いみたいね」
「えっ?」
「約束したでしょ。私がお金を稼いでくる代わりに悠太さんは家の事をしっかりとする。初めの頃甘やかせたのが悪かったのかしら……」
「お前……いくらなんでも亭主に向かってその言い方は……」
「妻を養ってこその亭主でしょ。そんなところがあなたは分かって無いのよ」
「し、しかし……」
「なによ。お金を稼いでるのは誰なの?どうしても嫌なら分かれてもいいのよ」
妻の発言に、私は後頭部をハンマーで殴られた様な気がしました。すっかり自信を失っていた私はその時点で屈服したも同然でした。
「じゃ……じゃあ……どうすれば」
「このままじゃあお互いに不幸だわ。新たにルールを決めましょうか」
「ルール?」
「そう、この家庭でのルールよ」
妻は少し考えてからゆっくりと口にしました。
「まずこの家の主人は私。あなたは私の妻」
「妻!?俺が!?」
「そうよ、変じゃないでしょう」
「だって、俺男だぞ?」
「性別なんてどうだっていいわよ。だって今の立場上そうじゃない。まあ心構えだけでもいいから、そう思っておきなさいよ」
妻はそう言って笑いました。「妻」という言葉に「主なるものに添えるもの」と言う意味があることを知ったのは後の事です。そう「さしみのつま」とかいう意味のそれです。
「そういうことだから、あなたは基本的には私に絶対服従ね」
「そ、そんな前時代的な……」
「なによ、前時代的だったのはあなたでしょ。大丈夫よ、私は以前のあなたみたいに暴力を振るったりはしないから」
そう言われては返す言葉がありませんでした。仮に離婚調停などになれば私には不利な条件ばかりなのです。
「それから言葉遣いも改めてよね。これからは私が主人なんだから、悠太さん……悠太は敬語で話してくれるかしら」
「ええっ!?」
さすがにそれにはすぐに承諾できませんでした。
「まあすぐにとは言わないから、徐々に慣れてくればいいわ。私の事はそうね……明日香さん。ほら、言ってみて」
「……」
「あら、まだ変なプライドは残ってるのね。だから悠太も苦しいのよ。ほらほら、観念して妻になりきっちゃいなさいよ」
「で、でも……」
「ん?言えないの?お金を稼いでるのは誰?一日中家にいるあなたを養っているのは誰?あなた一人でも生きていけるの?」
それはもう脅迫でした。私は観念して屈辱の言葉を口にしてしまいました。
「あ……明日香……さん……」
「よく言えました。じゃあ今日からその調子でお願いね」
妻にポンと頭を叩かれても、私は拳を握りしめて屈辱に耐えるしかありませんでした。

次の日から目に見えて妻の態度は横柄になりました。
まず朝食は私が一時間も前に起きて作ることになったのです。だらしないパジャマのままの格好でリビングにやってきた妻に私は朝刊と朝食を差し出します。
「卵また固いわね。半熟が好みだって何度言ったら分かるの?」
台所に立ったままの私の背中に罵声が浴びせられます。昨日までならまた口論になったかもしれませんが、昨日の約束により私はすっかりと自信を失っていました。
「ご、ごめん……」
家に居るときは付けるように言われた白いエプロンの前で手を合わせ、私は謝罪しました。
「申し訳ありません、明日香さん。でしょ?」
「えっ?」
「なによ、昨日約束したでしょ」
「だって……たかが卵の焼き加減くらいで……」
「悠太!」
「は、はいっ!」
普段は大きな声など出さない妻に怒鳴られ、私は驚愕して思わずそんな風に返事をしてしまいました。
「これはあなたの為なのよ。悠太だっていつまでも中途半端なままじゃ嫌でしょ。立派なプロフェッショナルな妻になって私を喜ばせてよ」
「う、うん……」
そんな風に諭されると頷くしかありませんでした。
「じゃあ言えるわね」
「も、申し訳ありま……せん……明日香……さん」
こんな風に私は、五つも下の妻に次第に教育されていったのです。

妻との決め事はそれだけではありませんでした。
主なものを上げれば以下のような感じです。

・悠太は明日香の妻として明日香の身の回りの世話に務める。
・悠太は明日香が仕事に集中できる様、出来る限りのサポートをする。
・悠太は明日香に敬意を払い、敬語で話す。
・悠太は明日香より早くに起き、遅くに就寝する事。
・悠太は明日香より先にお風呂に入ってはいけない。
・悠太は明日香より先に食事をしてはいけない。
・悠太は明日香が望んだ時にだけ夫婦の営みを行う。
・悠太は明日香の求めに応じられるように、一人で自慰をしてはならない。
・悠太は家事をする時は指定されたエプロンを着用する。

まだ性欲盛んな私にとって辛かったのは、下から二つ目の約束事。そして不可思議だったのは最後の項目でした。どうして男である私がエプロンなどを常時着用しなくてはいけないのかとしばらく悩みました。
しかしその疑問はすぐに氷塊しました。説明しても分からないかもしれませんが、女性のような白いエプロンを身につけているだけで、なんとなく卑屈な気分というか、妻よりも下の立場だということが常に頭に渦巻いてくるのです。
妻が仕事に行っており、家事もする事が無くテレビを見ている時でさえなんとなく自分が「妻」である事をその布きれが私に訴えかけるのです。妻が考えたにしては出来すぎているように思えたのですが、あとで思い返すとそれは杞憂では無かったのです。

以前から減っていた夜の営みはほとんど行われなくなってしまいました。
たまにそれを求められるのは、大抵妻が飲んで帰ってきた時の事です。酔っぱらって帰ってきた妻は私に寝室の用意をするように命じます。
約束以来、別々の部屋で寝ている私は滅多に使われなくなったベッドをメイドさながらに丁寧にメイクしなければなりません。
それでも簡単に抱かせてもらえる訳も無く、大抵妻は私をまるでストリップ嬢のようにゆっくりと目の前で脱がさせるのです。
泥酔して羞恥心が無くなっているのでしょう、ベッドの上で股を広げて座る妻の前で、私は命じられるままに服を脱いでいきます。時には歌を歌いながら脱げとか、踊る真似をしながら脱げなどと無茶な命令も言われます。
ですがたまにしか見れない美しい妻の裸体を見た私は、股間を大きくしながら妻と交わりたい一心でその命令に従いました。
ここで恥ずかしい告白をしてしまいます。私のペニスは真性の包茎で、大きさも人並み外れて小さいのです。男性は私が初めてだったと初体験の時に告白した妻はそれほどそれを気にしていなかったのですが、この頃からは私のそれを馬鹿にするようにもなっていました。
「あらあら、小さいチンチンおっ勃てちゃって、可愛いんだ」
「ねえ、そんなに皮かむりなのに私のオマンコに挿れるつもりなの?」
そんな言葉は屈辱的でしたが、妻の機嫌を損ねては折角の機会を損ねてしまうかもしれません。私は
「はい、こんな小さいペニスで申し訳ありませんが、どうかさせて下さい」
などと卑屈な言葉を言いながら、妻に頭を下げるしか無かったのです。
それでも性交をさせてもらえるの三回に一度程度でした。それもほぼ騎乗位の体勢でのみです。私は女性より優位な立場に立っているという気分で興奮するタチでしたので、以前はバックからの挿入専門だったので、ベッドに寝たままというのは非常にプライドを傷つけられました。しかしそれもまだ初めの頃は生のペニスを挿入させてもらえるだけでも良かったのかもしれません。
次第に妻は「まだ私妊娠したく無いからコンドームしてくれる」と言いだし、そのうち明らかに私のペニスの大きさに不満を言い出すようになったのです。
「なによ、それでも勃起してるの?」
「全然気持ちよくないじゃない。妻が一人で感じちゃってどうするのよ」
私としては不満な体位で、そんな風に焦らされると小さなペニスは益々膨張度が低くなってしまいます。そしてある日妻は驚くべきものを私に差しだしたのです。
「今日からそのディルドーを付けてくれるかしら」
それは大きな男性器の形をした張り型でした。中身は空洞になっており、その中に本物の男性器を挿入できるようになっているようです。
「ED(勃起不全)の男性が使う用なんだけどね。それだけ大きければ私も大丈夫だから」
試しに装着してみると見た目は確かに立派でしたが、中で私のペニスは縮こまったままで、もちろん私自身はなんの快感を得ることもできません。
ベッドの上に寝かされ、妻がそれを愛撫し、ローションを塗っても決して私はそれを感じる事は出来なかったのです。ようやく妻がそれを自分の中に挿入し、体を揺り動かし始めると悲しいかな、その中で私のものは勃起を始めましたが、ただそれは人間ペニス鞍になりはてて、視覚的に感じているだけでしか無かったのです。
「久しぶりに良かったわよ」
行為後、そんな私の感情に塩を塗り込むかのように「久しぶり」に力を込めて妻は満足げに言いました。一方の私としては欲求不満で堪りません。一も二もなく妻に頭を下げました。

「お願いです、せめて射精させて下さい。」
「ええっ、もう私満足しちゃったもん」
妻は少し考えるようにしたあと、こう言いました。
「じゃあさせてあげてもいいけど、方法は私に任せる?」
もちろん私はすぐに「はい」と応えました。ですが手コキかフェラでもしてもらえるかと一瞬でも期待したのが馬鹿だったのです。妻は私にベッドの上に四つん這いになるように言いつけたのです。
「いい格好じゃない。動いちゃダメよ」
そう言って妻は私の後ろに回り込みます。やがて妻の柔らかい手が私のお尻を撫で始めました。
「ねえ、悠太って私のなんだっけ?」
「そ、その……つれあい……」
「ちがうでしょ!」
こんな時くらいと見栄を張った私のお尻をぴしゃりと妻が叩きました。突然の出来事に私はヒッと情けない声を上げてしまいました。
「違うでしょ。約束したでしょ、悠太は私のなんだっけ?」
「は、はい……つ……妻です……」
その体勢は思いの外主従関係をはっきりとさせるものでした、恥ずかしながら射精したい一心でそう言ってしまった私のお尻に、冷たいものを感じたのはその時です。
「なっ……なにをっ?」
「振り向かないで。動かないでっていったでしょ」
妻は明らかに私の肛門にローションを塗っていたのです
「妻っていうことは女ってことだよね。じゃあこっちは必要ないよね」
「い、いいっ!」
今度は妻はぬるぬるした手で私のペニスを握りしめました。それは愛撫というには強すぎて私は痛みさえ感じるほどでした。
「ふふん。いい声で鳴くじゃない。やっぱりあなたは女の子になった方がいいんじゃない。ほら女の子ならこっちでいきましょうね」
「ひぃぃぃっ!」
私は寝室に響き渡る声を漏らしてしまいました。なにしろ今まで出すだけだったお尻の穴に異物がゆっくりと入ってきたのですから。
「慌てないで。アナル用の極細だから全然痛くないはずよ。でも動いたら怪我するかもね」
そう言われては四つん這いの私は下手に逃げる事もできません。それをいいことに妻はゆっくりとそのバイブを私の中に挿入していきました。
「あっ…あぁっ…そんな奧まで……無理です……」
「あはは、そのセリフまるで処女の女の子みたい。大丈夫よ私に任せときなさいって」
妻はまるで男のような口調でゆっくりとバイブを出し入れし始めます。
「あっ……やめっ……抜いてっ……」
弱々しいセリフを吐きながら私はお尻の違和感に耐え続けました。ですが不思議な事に数分もした時から私のペニスは固さを回復し始めたのです。
「あらあら、あなた本当に変態だったの、お尻の穴で感じるなんて」
理由は分かりませんでしたが、その時は前立腺云々だと思っていました。なにより溜まりに溜まった性欲はその刺激には勝てませんでした。
「ほら、もういいのよ。初めての女の子として射精しちゃいなさいよ!」
妻は再び私のペニスを握りしめました。
「い、いいっ……いいひゃぁぁっ!!」
ものの数秒も持たなかったと思います。私は産まれて初めてお尻の穴で射精してしまったのです。その事実は私の男としてのプライドを粉々にしてしまいました。
「ほら、これがあなたをイかしてくれたのよ」
射精後、私は初めてそのバイブと対面しました。肉色をしたそれは、お尻で感じていた感触から想像していたものと比べ驚くほど小さく、そして短いものでした。しかし、こんなもので感じてしまったのかと呆然とする私に対し、妻は思いも寄らない事を言い出したのです。
「じゃあ、それに向かってお礼言ってみようか。ほら、土下座して」
そして妻は床に転がしたバイブの前に、私を押し倒したのです。
「頭を下げてありがとうございますって言うのよ。そうね…今日は私の粗末なチンチンを射精に至らして頂き、ありがとうございました。ってね」
「そんな……」
まさかただの物品に対してそんな真似はできません。ですが妻が許してくれる筈もありませんでした。
「はぁっ?約束しなかったっけ、妻はご主人様には絶対服従でしょ。それとも捨てられたいの?」
そんな風に言われ私は仕方無く床にひれ伏しました。
「出来るじゃない。あなた自分の立場分かってる、今のヒエラルキーは私、バイブ、あなたの順なのよ。分かったらさっさとお礼を言う!」
「はっ、はいっ……わ、私の……粗末な……チンチンを……射精…して下さって…ありがとう……ございました……」
妻に頭を踏まれバイブに土下座しながら、私は寝室のカーペットに涙を零していました。


続きます