天使達の悪巧み 第六章 年少組りおの失敗

「みなさん入園おめでとうございます」
壇上に立った園長の挨拶から入園式が始まった。優子の祖母との話だったが、まだ初老とはとてもいえないその女性はまだ四十代にさえ見えた。
「ひよこ幼稚園では園児の心と体のすこやかな成長を第一に考え、子供達にとって自由な雰囲気作りを大事にしております」
莉緒とそして他の園児達にとってどうでもいい話が続く。保護者達は頷きながら園長の言葉に耳を傾けているが、莉緒はとてもまだ自分が『園児』の一人だなどとは考えられなかったのだ。
「ねえ、どうしてそんなにおおきいの?」
不意にスカートの裾を引っ張られて莉緒は驚いた。首をその方向に曲げると、莉緒とさして背の変わらない可愛らしい母親が困った顔で視線を落とした。
「だめでしょ、園長先生のお話をきかないと」
母親の足下には「さき」と書かれた名札をつけた女の子が莉緒を見上げていた。赤いリボンで髪をツインテールにした可愛らしい女の子だ。
「だって、面白くないんだもん」
女の子は生意気そうにつんと口をへの字にするともう一度莉緒のスカートを引っ張った。
「ねぇねぇ、どうしてあなたみたいに大きな子が幼稚園にいるの?幼稚園って私と同じ年の子が行くところだってママに教えてもらったわよ」
随分口の達者な女の子のようだ。莉緒はどう答えたら良いのか分からずに女の子の顔と母親の顔を交互に見返した。
「ここからは園児のみなさん、きちんと聞いて下さいね」
その時助け船のような園長の声が響き、莉緒は壇上を見つめる。女の子も母親に言われて渋々それに従った。
「今日からみんなは、ひよこ幼稚園のおともだちになります。お母さんと離れて少し淋しいかもしれませんが、あたらしいおともだちが一杯できますから楽しみにして下さいね。また優しい保母さんが揃ってますから、お姉さん達のいうことを聞いて楽しい園生活を二年間送って下さい」
『二年間』の言葉に莉緒はどきりとして慌てて首を振る。冗談ではない、自分は今日一日、今日一日だけこの悪夢のような体験を我慢すればいいんだ。だって高校さえ卒業した自分が幼稚園になんて入れる筈がないんだから。
園長が壇上から降り、それを待っていたかのように再び桜の花びらが散る。少し場がざわめいたその時、また別の声が校庭に響いた。
「これから園内に入って園生活の説明を始めたいと思いますが、その前に少し皆さんにお伝えしたい事があります」
壇上に立った保母と思われる若い女性は莉緒の方を見つめている。とてつもなく嫌な予感が莉緒の頭によぎった。
「既にお気づきかと思われますが、本日ひよこ幼稚園には少し似つかわしくない園児が一人この中に混じっておられます」
保護者達が莉緒の方を一斉に向く。他の園児より頭一つ以上背の高い莉緒の事をやはり皆が気になっていたのだ。
「そ、そんな・・・あ、あの・・・」
滞りなく式が終わり、うまくいけばこのまま家に帰れるかもと思っていた莉緒は一転して足の震えが止まらない。
「実は特別な事情により、少々年長のお子様を本年の入園児童として認める事になっております。多少見た目の違和感などがあるかと思いますが、本園も把握していることですのでどうかご安心下さい」
保母のスピーチにより、莉緒に向けられていた視線が少し優しい物に変わる。だがそれは莉緒にとって決して心地よい物にはならなかった。
「風祭莉緒ちゃん、ちょっと前に出てきてくれるかな?」
「ええっ!?」
思わずそんな声が零れて莉緒は口を押さえる。和葉が頷いて手を引くが莉緒はもちろん尻込みするばかりだ。
「恥ずかしくないよ。みんなにごしょうかいするだけだからね」
「だ、だめ!たすけて!」
莉緒はうろたえた声でそう言うが、もちろん許される筈も無い。周りの父兄達は手を叩いて莉緒を励まし始めたからだ。
「ほら、式の進行の迷惑になるでしょ。こんなことしてるともっと目立っちゃうわよ」
和葉のその言葉に莉緒は諦めざるを得なかった。硬直した足を無理に動かし、人混みの中から皆の前に進む。
「まぁ、ほんとに大きいわね」
「小学校高学年くらいかしら」
「でも制服似合ってるじゃない」
冷やかすつもりでないそんな声も莉緒の耳には痛い。信じられない非現実感の中、莉緒はたくさんの園児達とその保護者の前に立たされた。
「ご紹介します。風祭莉緒ちゃん、十八つです」
父兄達がざわめく。莉緒は紅潮から一転、顔面蒼白となって逃げだそうとするが、その足はもはや自分のものでは無いようだった。
「莉緒ちゃんは訳あって、この年齢から幼稚園に入園する事になりました。見た目はちょっと大きいお姉さんですけど、みんな仲良くしてあげてね」
「はーい」という声が園児達から沸く。だが父兄達は怪訝な顔のままだった。それも当たり前だ、自分の幼い子供達が十八歳の少女?と幼稚園に通うというのだから。
「莉緒さんは本来なら高校生か、それも既に卒業している年齢ですが、生まれた時からある珍しい病気にかかっていて、今日まで学校に通うことができませんでした」
莉緒自身が聞いた事も無い話を壇上の女性がぺらぺらと説明する。
「莉緒ちゃんは治療の甲斐あり、今年その病気が完治して退院する事ができました。本来そういう場合は病院で勉強をしたり、そうでなくても特別な対応で年齢相応の学年に編入する事ができるのですが、莉緒ちゃんの場合そういう機会に恵まれず、また保護者様の希望もありまして、幼稚園からしっかりとした教育を受ける事になったのです」
和葉は神妙な顔でこくりと頷く。それを見た母親達から「若いのにしっかりしたお母さんね」といった賛美の声が聞こえる。
「そういうわけで、莉緒ちゃんは体だけは大きいですが、みなさんのお子様と同じ4歳児程度、いやそれ以下の経験しか積んでおりません。そのことをご理解頂き、どうか莉緒ちゃんがお子様達と一緒にこのひよこ幼稚園に通う事を認めて頂けますでしょうか」
「な、なにを言って!・・・・」
ようやく抗議しようとした莉緒の言葉は万雷の拍手によってかき消された。
「良かったわね莉緒」
和葉が白々しく莉緒を抱きかかえる。その様子を見て目にハンカチをあてる母親を見て、莉緒はもうどうする事も出来なかった。


「では園の生活を説明します。遅れましたが私は保母の佐鳥遥香と申します」
園舎に入ると、莉緒を含む園児達と保護者は二つのグループに分けられた。母親達は少し離れて心配そうに我が子を見ている。莉緒は不本意ながらも、和葉と離れてしまった不安をほんの少し抱えながら園児達の中に立っているしか無い。
「登園したら、まずおかばんをこのロッカーに入れるのよ」
遥香の説明を聞きながら、黄色い通園鞄を子供達が壁に並んだロッカーに入れ始める。莉緒も仕方なくそれに倣おうとした。
「だめよ莉緒ちゃん、そこじゃないでしょ」
不意にそう叱られ、莉緒は頭をひねった。
「ほら、名前が書いてあるでしょ。ここは、ももかちゃんのかばんの入れるところよ」
見ると確かにその場所には「ももか」という文字が桃のマークとともに書かれている。
「莉緒ちゃんのはここよ」
指し示された場所には確かに「りお」という文字の書かれたシールが貼られてあった。
『ちくしょう、和葉の奴ここまでするか!』
莉緒は心の中で毒づいた。どうやら莉緒の「入園準備」はかなり前から計画的に進められていたらしい。莉緒は乱暴にその中に通園鞄を押し込む。
「こらっ!莉緒ちゃんだめでしょ!」
不意に頭を小突かれて莉緒は驚いた。
「持ちものは大切に使わないといけないのよ。このシールだって折角和葉お姉ちゃんが用意してくれたんでしょ?」
和葉の名前まで出てきた事に莉緒は驚いた。自分とさほど年の違わない女の子に小突かれた事に腹は立ったが、そんな事に文句を言える状態では無かった。
「うん?」
その時莉緒はシールの横に描かれているマークに気がついた。ももかの名前の横に桃のイラストが描かれているように、莉緒の名前の隣にもなにかパンツのようなマークが描かれていたのだ。
「ああ、それね」
遥香が保護者に向かって説明する。
「もうご存じかと思いますが、登園ではお子様一人一人に専用のマークをつけてもらっています。まだ文字の読み書きも出来ないお子様もいらっしゃるので、その子に似合ったマークで自分の持ちものや場所を認識してもらおうという考えです」
遥香は再び莉緒に向き直る。
「ねっ莉緒ちゃん。まだ『りお』っていうひらがなが読めなくても仕方ないから、これからはこのマークで覚えていてね」
遥香がもう一度莉緒のシールに描かれたマークを指さす。ももかが桃のマークなら自分のそのマークにも意味があるんだろうか。だがパンツのような形をしたそのマークがなぜ自分のものにされたのかこの時点では莉緒には理解出来なかった。
「ご覧下さったように、莉緒ちゃんの生活能力はまだ皆様のお子様以下のレベルです。なので何点か莉緒ちゃんのためのルールを私どもでは設定しております」
頷いている父兄に向かって遥香は話出す。
「それは莉緒ちゃんを完全に他の園児と同様に扱う事です。みんなより年上の莉緒ちゃんにとってはこれはすこし酷なことかもしれませんが、莉緒ちゃんを園に迎える為のこれは絶対条件です。みんなより年上だからといって、区別や差別をすることなく、莉緒ちゃんには他の園児達と同じ園生活を送ってもらいます。
さきほど私が莉緒ちゃんを叱ったのもその方針に従ってです。また、生活だけでなく服装についてももちろん同様です」
遥香はくるりと体を半回転させると、赤と青の衣装が掛けられたハンガーラックに向かっていった。
「園の中では登園服、つまり制服の上着を脱いでこのスモックに着替えてもらいます。洋服の汚れを気にせず遊んでもらうためと、脱ぎ着の練習、そして着替えることで生活のリズムを教える為です。
じゃあみんなお着替えしようね」
遥香の声に「はーい」と皆が返事をする。
「脱いだお洋服はここに掛けてね。自分のお名前とマークを覚えたかな?」
園児達は一生懸命に自分の名前を探して辿々しく上着を脱ぐ。莉緒にとってそれはとても楽しい事ではなかったが、恥ずかしい幼稚園の制服を脱げるのは少しだけ嬉しかった。
だが莉緒はそんな考えが浅はかだったことにすぐに気付く
「はい、莉緒ちゃんは特別に手伝ってあげるね」
遥香が差し出したそのスモックは当然ピンク色の女の子用、それもハートとイチゴがらの可愛らしいスモックだったからだ。
「はい、バンザーイできるかなぁ?」
見られている手前、莉緒は遥香に言われるままに手を上に上げる。莉緒専用のスモックがかぶせられると、ある意味通園服よりも幼稚園児らしい姿に莉緒はされてしまったのだった。
「まぁ、とっても似合うわよ」
遥香がクスクスと笑う。ゆったりと仕上げられたスモックはまったく窮屈ではなく子供らしい体のラインを強調する。胸には制服と同じく「りお」と書かれた名札がつけられ、スカートはスモックの長い裾に隠されて制服の時よりも遙かに子供らしいミニ丈に見える。遥香の手でブラウスの襟をスモックの外に出されると、莉緒は他の園児達と同様にすっかりと遊び着姿の幼稚園児にされてしまった。
「では入学式はこれで終了となります。お母様お父様方にはご心配かと思いますが、夕方まで一度お席をお外し下さい」
遥香の指示により父兄は名残惜しそうに子供達に手を振りながら教室を去っていく。泣きそうな顔でそれを見ている子供達もいるが、多くの子供達は教室に用意されているおもちゃの方が気になるらしく親の方を振り向こうともしない。
「はーい、みんな。ママ達がいなくてもおりこうさんに出来るかなぁ?」
遥香の声に園児達は「はぁい」と声を上げる。莉緒は声を出すことも出来ず、ただ子供達の中に園児と同じ格好で置き去りにされた不安を一人抱えていた。
「大丈夫?おねぇちゃんがいなくなって不安だよね?」
遥香がそんな莉緒の気持ちを読み取るかのように声をかけたが、莉緒は「そんなことないよ」と強がるしかなかった。

入園初日の午前中はそのまま何事もなく過ぎていった。しかし何事も無かったのは表面上の事だけで、18歳にもなりながら突然幼稚園に入園させられた莉緒は恥ずかしいどころの騒ぎでは無かった。
遥香はことさら莉緒を演じ扱いし、おうたの声が出ていないといっては一人で歌を歌わせたり、恥ずかしがらなくてもいいと言っては、皆のまえで「げんこつ山のたぬきさん」をみぶりてぶりで演じさせたりした。
莉緒は何度も逃げだそうかと思ったがこの姿ではどうする事も出来ない。和葉と一緒ならともかく、たった一人で幼稚園児の格好で外に出る勇気などとてもなかった。
皆と一緒に味の薄い昼食を取り終わり、家に帰ったら和葉にどんな抗議をしてやるかと莉緒が考え始めたその時、事件は起こった。

「ねぇあなた。ちょっと生意気よ」
遊び時間中、何をすることもなく膨れ面で座っていた莉緒に向かって一人の女の子が声をかけてきた。
「一人だけ大人のふりしてるのかしら」
見上げるとそこには覚えのある顔があった。入学式の時にとなりにいた、さき(咲季)という生意気そうなツインテールの女の子だった。
「ほっとけよ」
18歳の自分が絵本や積み木で遊ぶ筈がないじゃないか。莉緒は手をぶらぶらさせて、咲季を追っ払おうとした。
「子供はあっちで積み木でもしてなさい」
だがその言葉を聞き、咲季の顔がたちまち真っ赤になった。この年の大人びた女の子は子供扱いされる事に多大なる屈辱を感じるのだろう。
「なによ!大人なのに幼稚園のくせに!」
子供は残酷だ。莉緒にとって何よりも辛い指摘を彼女は大声で言いはなった。
「な、なんだと!」
大人げなく反応してしまった莉緒も悪かった。たちまち数人の子供達が二人の間をとりまく。
「先生も言ったでしょ。あんたは私たちと同じ幼稚園なんだから、いっしょみたいにしないといけないでしょ」
「りおちゃん悪いんだぁ。りおちゃん大人なのに私たちと仲良くもできないの」
「きちんと幼稚園しないとだめなのに」
言葉は無茶苦茶だが、言っていることの意味は痛いほど分かった。皆は莉緒にもっと幼稚園児らしくしろと叱っているのだ。
「ちゃんとしないと先生にいいつけるわよ」
多くの子供達に責められ、莉緒は仕方なく積み木を手に取った。むろん子供達を力で蹴散らして自由になることくらいは可能だが、大きな騒ぎになって困るのは莉緒自身だった。ここは子供達に逆らわずに同化した振りをした方が得策だと彼は判断したのだ。
「あっ、いっしょに遊ぶ?」
積み木を持って莉緒の前に座ったのはこちらも先ほどの、ももか(桃香)という可愛らしい女の子だった。彼女は積み木を綺麗に積み上げて、莉緒の方を見てにこりと笑った。
(咲季とかいう子と違って、この子は子供らしくて可愛いな)
莉緒は少し機嫌を取り直し、小さな子と遊んでやるつもりで桃香に声をかけた。
「そうだね。一緒に遊ぼうか」
考え方を変えると恥ずかしさはどこかに行ってしまった。なるほど子供扱いされる事を拒否してしまうから恥ずかしいんだ。こんな大人の気持ちで子供と同化してしまえば恥ずかしさなんてどっかにいっちゃうのかもな。
だが莉緒がそんな風にポジティブに考えられているのはほんのひとときだった。
「あっ・・・・・・あれっ・・・・・・」
それは最初、ほんの少しの違和感だった。そう下腹部にちょっとだけ感じた微かな鈍痛
。だがその痛みは徐々に莉緒の下半身から、頭の中までを支配していった。
「どうしたの莉緒ちゃん?」
青ざめていく莉緒の表情を見て、桃香は心配そうに声をかける。
「ト、トイレ・・・・・・どこだったかな・・・・・・」
「莉緒ちゃん、おしっこなの?」
莉緒は小さく頷く。
「さっき先生がおしっこ行っておきなさいって言ったのに、いかないからそんな風になるのよ」
小憎らしい口をきいたのは咲季だった。しかし今の莉緒にはそんな余裕は無かった。桃香に指示された方に向かって莉緒は下腹部を押さえながら歩き出した。
(しかたないか・・・・・・でも急にどうして・・・・・・)
この姿では女児用のトイレを使うしかない。そう思って莉緒は朝からトイレを使うのを躊躇っていたのだ。しかし今やそんな状況では無かった。なぜだか知らないが突然わき起こった尿意はもう我慢の限界に達していたのだ。
「あっ、莉緒ちゃん!危ない!」
「えっ!?」
桃香の声が響いたのは遅かった、急いでいた莉緒は足下に転がっている積み木に足を取られ、すってんころりんと座り込んでしまったのだった。
「あらあら、あんよもまだの赤ちゃんがいるみたいね」
咲季のくすくすと笑う声を聞きながら、莉緒は信じられない感覚に頭をパニックにさせつつあった。そう、下半身に生暖かい濡れた感触が広がっていったのだ。
「あっ・・・・・・あっ・・・・・・あぅぅっ・・・・・・」
慌てて立ち上がった莉緒の太ももから大量のオシッコがこぼれ落ちる。もう莉緒がお漏らしをしてしまったのは誰の目にも明らかだった。
「うわぁ!りおちゃんおしっこもらしてるー!」
「りおちゃんおしっこたれだぁ!」
たちまち教室は騒然となった。莉緒のオシッコは意に反して止まることなくパンツの中にあふれ出て、太ももを伝わることももどかしく教室の床を濡らしていく。大人になってからの初めてのお漏らしに呆然としながら、莉緒はまるで自分の体験ではないような感覚でこぼれ落ちていく生暖かい水滴を見つめていた。
「なーんだ。まだトイレトレーニングも出来てなかったのね。私なんて二歳の時には一人でトイレに行ってたのよ」
咲季が勝ち誇ったようにつかつかと莉緒の前に歩み出た。
「莉緒ちゃん、今度はきちんとトイレに行かないとだめだよ」
一方の桃香はのんきそうな顔をして莉緒に語りかける。
「・・・・・・うっ・・・・・・うぅっ・・・・・・こ、こんなの・・・・・・うそ・・・・・・だぁっ・・・・・・」
だが今の莉緒にはどちらの少女の言葉も耳に入っていなかった。
18歳の自分が幼稚園の格好をさえられ、しかも遊んでいる最中にお漏らしをしてしまう。そんなおよそ考えられない恥辱を受け入れられるほど彼の神経は強く無かった。
「おもらしっ子ならオムツしておけばいいのに」
咲季がそう言って莉緒のスカートをまくり上げた。
「あー!○リキュアのパンツだぁっ!」
びちょびちょに濡れてしまった莉緒のお漏らしパンツを桃香が指さす。
「ふん。幼稚園にもなって○リキュアのパンツだなんて、あんたにはお似合いね。でもお漏らしの治っていないあんたには、○リキュアパンツでも背伸びしすぎじゃないの?」
咲季に濡れたパンツをまじまじと眺めながらそんな事を言われても、今の莉緒にはもう逆らう気力さえ残っていなかった。
「せんせーこっちだよ」
やがてやってきた遥香と園児達にこれ以上ないくらいの痴態をたっぷりとさらけ出しながら、莉緒は未だに自分の身に起こった事が信じられなかった。